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ボックスタイプ食器洗浄機のドア修理 [修理屋から見た厨房機材]

 今日,ボックスタイプの食器洗浄機を選定する際に洗浄セクションのレイアウトがストレートであるかL字型であるかによって形式を指定することはもうない。
 俺の知る範囲でいうとどの製造元も現在ではボックスタイプの食器洗浄機は3方開きのドア形状ばかりなので作業ラインのレイアウトがどうであれ単一の機種で用が足りるからだ。

 製造元としてはストレートとコーナーとで二つの形式を製造するよりも生産時の効率は良くなるのでそれは商品のコストを下げる働きがあるのだろうし,使用する人にしてみれば突っ立っているフレームがなくなるので作業性は良い。今や2方向開きの無骨な食器洗浄機など用なしというのが趨勢だろう。

 しかし物事,光があれば影を生むもんだ。
単純に二本の樹脂レールの間を平たい板が上下するだけの二方向開きと違い,3方開きはドアローラーを多数使ってレールの間を滑走させるので色々な意味でデリケートな仕掛けだということを使用者は頭に入れておいた方がいい。
 ドアローラーやレール(樹脂製が多い)が破損してドアが引っかかって動かなくなり,使用不可という状況が3方開きでは起こり得るが旧来の2方向では起きない。開閉が渋くはなるが動かなくなることはない。

 3方開きのボックスタイプの食器洗浄機がドアレールやローラーの破損を起こした場合,下の画像のような風景が現れる。
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 某総合病院の職員食堂に俺が15年くらい前に納めた個体の修理風景である。作業時間にして2時間から3時間,費用にして大体5万強から6万の間くらいは覚悟しておいて頂きたい。
 実際、ドアを取り外すのは結構難儀な作業で一人で行う分には結構な馬力を要するし、楽をしたいと思って作業補助の人手を頼めばその分修繕費は跳ね上がる。

 IMGP0248.jpg

 ドアローラーを新旧並べてみる。右側が劣化したローラーである。ローラーの素材はデルリンであるが,長期の使用によって摩耗しているだけでなく,成形時に混ぜ込んだ可塑剤は抜け切っておりぽろぽろと簡単に欠ける。

 60℃以上のお湯が循環しており,それには今日アルカリ性の洗剤が含まれているという使用環境を考えるとこういったドアローラーにデルリンが向いていないのは明らかだが,だからと言って最適な素材がなかなか見つかりにくい現実もある。厨房機器メーカーなどというのはどこも大した見識はないので何でもいいから安上がりな素材をそこら辺から買い込んできて組み込んでいるのが実情だと俺は見ている。

 ドア周りの造作についてはEU圏の製品(主にドイツ製)ではこの手の障害に出くわした記憶がなく,いずれ機会があれば構造や材料などを調べてみたいと思っている。
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BLIXER 5のモーター分解整備作業(その2) [修理屋から見た厨房機材]

 前回記事のURL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2015-08-27

 過去に痛い目に合っているにも拘らず5万円に目が眩んでの実践編である。

 BLIXER5のモーターは3φ200V、1.5kwのインダクションモーターである。ロボクープのラインナップはお約束としてある容積以上の機種は回転数を2段階に切り替え可能な仕様となっている。
 今回の機種はこれに相当しており,2重コイルで2極と4極の切り替えだから合計6本のリード線が引き出されている。
 リード線自体には相やコイルの表記がない上に同色の被覆が幾つもあるので誤接続を避けるためにモーターを取り外す前に予めリード線がそれぞれどこに接続されているかのマーキングを施しておく必要がある。
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 ケースから取り外したモーター。欧州製品には良くある形状で,カップ状の2分割されたケーシングが前後からヨークを挟み込むようにしてボルトで連結されている。
 このボルトの締め具合が曲者で,緩ければステーターがヨークに通電時の磁力で貼付いてロックするしきつければ軸受けのあたりが強くなるのでこれまたロックする。以前大変苦労して何度もやり直したところだ。輸入元がモーターの分解整備を禁じているのもこの辺りの調整が大変面倒臭いからである。

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 ステーターを抜き出したところ。毎度ながらどんなモーターであれ,抜き取りの際にはヨークやコイルに傷を付けないようにと神経が張りつめる。
 エンド側のベアリングは特に劣化しているようには見えないが,モーター整備の際には前後併せて交換するのがお約束だ。
 画像では見づらいだろうがステーターの根元近くには外周に沿って溝が切られており,スナップリングがはめ込まれている。ケースを分解する際にはこれをはずす必要があるのだが,一般的にはモーターについていないこのスナップリングが取付けられている意味を正しく理解していないと組み立てた後に大変厄介なことになる。
 実は今回も組み立てに失敗して再修理,再調整となったがそれは後述する。

IMGP0302.jpg

 頭側のケースを裏側から見たところ。ベアリングを交換した後の画像で,錆びて真っ黒に変色した様子が分かってもらえると思う。
 シールの劣化によってモーターケース内に水分が入り込んでベアリングが錆びるのが騒音の原因で,カッターミキサーはほぼ全般に頭側(ということは取付けた上体では上側)の劣化のみが進む傾向があるわけだが、だからといって錆びたベアリングだけを交換という処置は取らないのはモーター整備の大原則だと俺は心得ている。

 モーターの分解もさることながら,今日のロボクープで面倒臭いのはそれ以前,ケースの分解である。
モーターカバーであるケースと底蓋はこんなに長いビスでとまっている。
IMGP0304.jpg

 はずすときは何も考えなくても良いが,組みつけの段になるとケース側の雌ねじにビスの先端が命中する迄にかなり何度も失敗を繰り返し,ストレスがたまる。
 そして画像では見えないが,このビスは頭の形状がトルクスである。要するに製造元はモーターケースを社外の者には分解して欲しくないのだ。今回のように大崩れしたらリプレースしてくれという意思表示だと俺は見た。

 実際,モーターを組んでケースに収め,容器やブレードをセットして試運転を行うとブレードが容器の底面に擦れる不具合があった。
 作業終了時点で午後11時を回っており,当直の職員にも迷惑がかかるので一旦撤収し,日を置いて再訪問して俺は自分の作業ミスの検証に取りかかった。
 
 原因は先に書いたステーターの根元あたりに取付けるスナップリングのずれにあり,何せモーター直近の深いところにあるので正しく溝にはまっているのかが大変分かりにくい。
 文字ではうまく説明できないが,ケースが二分割されているのでいい加減な組立をするとステーターの飛び出し量が狂い(今回でいうと短い)、ブレードや容器をセットしたときの位置関係が狂う。
 スナッップリングを正しく取付けるというのは、この,ステーターの飛び出し量を整えることを意味しているわけだ。

 当初の皮算用は狂って2ストップの修理となってしまったので、儲けも割引となったが確かにこれは5万くらい貰わないと合わないわいと一山越えた俺は達成感とも疲労感とも言えそうな心象の中で思った。
 病院の事務官は禁断の修理が何とかうまくいき、モーター交換費用のとの差額分15万円なりが浮いたのでご満悦のようだが、日頃もうちょっと俺に感謝しろよ!(この項終わり) 
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BLIXER 5のモーター分解整備作業(その1) [修理屋から見た厨房機材]

 これ迄何度か書いてきたように,カッターミキサーの選択肢はクイジナートかロボクープかの二者択一なわけだが、俺の見方としては現地修理が可能なサポート体制をとるロボクープに肩入れしている。

 但し,心臓部となるモーターの不具合については輸入元のFMIもスモールパーツでの供給は行っていない。あくまで完成品としてのモーターでの提供で,これは作業ミスによって(例えばコイルを傷つけて内部ショートを引き起こすなど)起こる障害を懸念しているためと思われる。輸入元だけの考えではなく,製造元も同じようで原文での資料を見てもモーター内部の分解図は存在していない。

 しかしロボクープのモーターは安くない。モーターの交換修理となるとあともう少しお金を足せば新品に手が届くくらいの修繕費となる。
 ロボクープのモーターベアリングがいかれて運転中に騒音が出るのは一般に6年以上経過してからのことが多い。ということはその時点で減価償却は済んでいるので大概の使用者は修理を諦めてリプレースへと向かう。修理に当たる厨房屋にも俺の知る限りカッターミキサーのモーター整備を自分で行う練達はいないので買い替える方向へと誘導していくのがほぼお約束の流れである。モーター交換となった場合には代替品を出して引き上げ,輸入元に送り返すのが厨房業者の一般的な対応ではないかと思う。

いつ頃からだったかは忘れたが,ロボクープにはある時期からカッターミキサーに加えて、粘度の低いミキシングに便利そうなブリクサーとラインナップが増えた。

URL:http://www.fmi.co.jp/products/blixer/index.html

 スムージーのようなものを作るには大変都合がいいのだそうだが俺は調理については素人以下の知識しかないのでそのご利益を正しく理解できていない。俺がここで拙い文章を書き連ねるよりもネット上の動画でも見られた方が遥かに理解しやすいだろう。


整備については仕切り直しというか,モーターの分解は絶対に行わないでくれというアナウンスがあったことは憶えている。白状すると数年前、俺は蛮勇を奮ってロボクープのモーターを分解したことがあり,元通りに組むのに大変難儀した。どうにかこうにか動きはしたが未だに作業手順があれで良かったのかどうか自信がなく、まだちゃんと動いているのだろうかと時折心配になる。
 
 今回手がけたのはBLIXER5というボウルの容積が5リットルのタイプで稼働歴がだいたい十年。実売価格はおそらく30万円弱といったところでモーターの価格は20万を少し切るくらいだから先に書いたようにもう少しお金を足せば新品に手が届く。
 
 俺の得意先には諦めの悪いところが多いような気がする。
このブログに時々取り上げる某国立病院もその一つで、10年ほど前に独立行政法人に移行してからは予算が大変厳しくなった。
 何と言ってもウチは血税で運営されている訳ですから可能な限り安価な解決方法で、と、事務官殿は仰せられた。要するに輸入元が御法度であるとアナウンスしているロボクープのモーターの分解整備にトライしてみてくれないかという訳だ。
 
 袋小路というか板挟みというか、毎度ながらきつい立場に俺は追い込まれる。
こういうときにメーカーなり輸入元であれば建前論の木で鼻をくくったような返事で押し通せるのだろうが、幸か不幸か俺は結構自由度の高い野良犬自営業者なのだから、良くも悪くも胸先三寸の出たとこ勝負が可能ではある、のだが・・・・

 やってみましょう、と決心がついて返事するまでには数日を要した。もしも組み立てに失敗したら潔く交換用のモーターを買ってくれという注文を飲んでもらった上での了解だ。
 この間、輸入元のFMIとは随分色々なやり取りをした。分解はしないでくれというのが公式見解だけあって当然、モーター自体の分解図はないので使用しているベアリングの規格も公開されていない。
 俺はサービス担当にねちねちと掛け合って大阪で一件、モーターや発電機の整備業者が手がけた例があることを聞き出して藁にもすがる思いでそこに問い合わせをし、ベアリングの仕様を教えてもらうついでに手間賃がどれくらいだったのかも教えてもらった。
 「そりゃあ5万かそこらくらい貰わないと合わないわ、あんな面倒くさいものは」というのがその親方の返事だった。
 
 モーターの脱着に伴って交換するシールは千円もしないスモールパーツである。ベアリングは取引のある機械材料屋で仕入れて3千円かそこら・・・・
 もしも上手くいったらこれは結構割りのいい仕事ではないの、と、俺はそろばんを弾いた。それで一丁やってやろうじゃねえかという決心もついた次第だ。とどのつまり、俺のような万年金欠業者のモチベーションを喚起させるの金であって、その力は偉大なものだとあらためて思うぜ、諸兄よ。

(以下、実践編に続く)
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横河電子機器が食器洗浄機の事業譲渡 [修理屋から見た厨房機材]

 日本国の屋台骨みたいなスーパー大企業がひっそりと業務用の食品機材を製造しているケースは幾つかあって,それは企業全体からみれば盲腸みたいな位置づけでしかなく、バブル崩壊以降の約20年でこの国の製造業は坂道を転がるように国内事業を縮小させていく中でこれら盲腸をさっさと切り捨てていった。

 俺は以前の記事で大企業が手がけるところの、およそそのイメージとはそぐわない製品を三つ挙げたことがある。
(1)三菱重工のソフトクリームフリーザー
(2)IHIの食器洗浄機
(3)日立製作所のミートスライサー

 上に書いたうち,(1)は完全に手仕舞い,(2)は北沢産業に事業譲渡,(3)は現在でも事業を継続しているが年商10兆円を超える日立製作所の年商のうち一体どれくらいの比率を占めているのかを考えると、いつ事業を終了させてもおかしくはないのではないだろうか。

 というところでもう一つ,前回記事を書いた時に漏れていたものがあった。
今回取り上げる横河電子機器の食器洗浄機がそれだ。親会社と言っていいのかどうか知らないが横河電機は世界に冠たる計測器メーカーで,若い頃に電気の勉強に勤しんだ俺などからすると尋常でない神聖性を感じるわけで、働くようになってからビティーというブランド名で販売されてる食器洗浄機の製造元が横河電機のグループ会社であり,アカデミズムの体現者みたいな企業が食器洗浄機を製造していることを知った時には一体全体何が悲しくて業務用厨房機材みたいにヤクザな業界に脚を突っ込んでいるのかが不思議だった。

 大企業が多々展開する事業のうちのかなりマイナーな事業のうちの一つらしく,横河(というよりもビティーと言うブランド名での方が俺には馴染み深いのだが)の食器洗浄機が沢山売れて方々で見かけるようなことはなかった。
 同じ大企業が製造する食器洗浄機でいえば,IHIの洗浄機の方がまだ出回り数は多かったのではないだろうか。しかしバブルが弾けて外食産業の市場はヤクザまがいのコンプライアンスがまかり通るようになり,食器洗浄機という機材が本来的な責務から逸脱して単なる皿洗いパートの人件費節約マシーンとしてデタラメに乱売されまくった結果この分野での覇者となったのは毎度お馴染みのペンギンマークであった。

 後発であるガラの悪い企業、つまり業務用厨房器材の専業メーカーが安価な模造品を必死に量産して必死に売りまくり、シェアを伸ばして市場を席巻するのはこの記事で取り上げるような、役員が経団連のお偉方に収まるような由緒正しき大企業にとっては真面目に対抗策を練るのも馬鹿馬鹿しいような現象なのかもしれない。
 先にこの事業を北沢産業に譲渡して手を引いてしまったIHIにつづいて横河も食器洗浄機の事業を中西製作所に譲渡して手を引く事になった。

 妥当な分類の仕方ではないのかもしれないが、食品機械の性格付けをあえて乱暴に分けてみると機械メーカー的な製品と電器メーカー的な製品とがあるように日頃漠然と考えている。
 食器洗浄機についてこれを当てはめてみるとIHIは前者で横河電子機器は後者であるように俺は見ている。勿論、一つのメーカーの大から小までのラインナップに一貫してそういう性格付けがあるわけではないが全体的な傾向としてそういう印象を俺は持っている。

 横河電子機器(ビティー)の食器洗浄機は制御回路をプリント基板に集積化して実装した先駆者的な存在で、食器洗浄機については俺はIHIによって育てられた来歴なので当初、そういう設計思想には随分懐疑的というか否定的な見方をしていたのだが、実際にこのメーカーの修理を何度か手がけてみると案外電子部品実装の信頼度は高く、厨房メーカーの粗悪な小型洗浄機ではしょっちゅうある電装部品の不具合や制御基盤交換の交換事例が記憶にない。そこには母体である横河電機のクオリティが反映されているような気がするのは電気工学科出身者である俺の変な思い込みかもしれないが。

 それはさておき、譲渡された側の中西製作所がこの持ち駒を今後どのように活用するのかについて俺は少なからず興味がある。
 中西製作所は主に学校給食分野を得意とする、という事は洗浄機の主体はコンベアータイプの大型機であり、アンダーカウンターやボックスタイプなど小型機がバリエーションの大半をなす横河電子機器の製品を今後のプランニングの中にどのように織り込んでいくのかは個人的に興味深い。

 中西製作所の手がける商業店舗のうち大きなウェイトを持っているマクドナルドでの導入なんて事もあるのかもしれない。(従来的には三洋電機、現在はパナソニック製品が使われている)
 
 俺は既に中西製作所の協力会社としての登録を済ませて今後の修繕業務を行っていく事を以前の記事に書いたが、気がかりなのは事業譲渡前の横河電子機器の頃の販売チャンネルで既に収まっている既存ユーザーへの対応で、その中にはかの悪名高きワタミグループが含まれている。
 学校給食センターというお行儀のいい得意先が中心である中西製作所とワタミとでは企業のカルチャーが明らかに異なるのではないだろうか。俺の見え方としてはワタミのようなチンピラまがいの胡散臭い企業とうまくかみ合うのはタニコーとかマルゼンとかホシザキみたいな厨房屋ではなかろうかと思うのだが。

 実は俺の住んでいる田舎町にもワタミの展開する居酒屋店舗が何件かあり、そのうちの一件の新築現場施工を手伝った事がある。受注したのは俺の元の勤務先で、その店舗に納める食器洗浄機が横河電子機器製のものだった。ワタミ本部の指定による選定だったとのことで、俺の後任の営業所長は自社製品が選定されなかった残念さよりも他社製品なので今後の修理責任がなく売り上げがあるのでラッキーだ、みたいな事を話しており、それまで彼からこのブラック企業の悪評を散々聞かされていた俺は”おお、そりゃ良かったな”と同調していたのだが、その後の紆余曲折でこういう事業譲渡が行われるとなると今後、深夜の2時頃にワタミの店舗から俺の携帯電話あてに修理以来の電話がかかってくるようにでもなりはしないかと結構ダークな気分で俺はこのニュースを読むのだ。
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ヒートトップレンジの修理は見送り [修理屋から見た厨房機材]

 恐らく燃焼器具を手がける機材メーカーであればほぼ共通するのではないかと思うが今から20数年前のバブル崩壊以来販売台数が激減したもののうちの一つにヒートトップレンジがあるのではなかろうか。

 このブログを読まれる方々の多くは既にご存知かとは思うがここであらためてちょっとした能書きをたれる。
ヒートトップレンジとはガスレンジとグリドルの中間的な性格づけの加熱機器であり,そのトップ形状は下の画像のようなものだ。
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画像は本文とは関係ありません

 丸形のごとくのようなものは脱着可能で,取り外すと直下にリング上のバーナーがある。トップ面は全面鋳物で,グリドルは一般に棒バーナーやシュバンクバーナーが組み込まれ、バーナーの直上から左右方向に表面温度が下がる分布を示すのに対してこちらはバーナー直上の円を最高点として放射状に表面温度が下がっていくところが大きな違いで,用途によってごとく(と仮にここで呼称しておく)を取り外せば直火での調理が可能というところがガスレンジの機能と重なる。
 バーナーの組み込まれていないトップ面は熱伝導によって比較的低温で熱平衡しており,そのゾーンに鍋を置いておくと保温用として使用できる。

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画像は本文とは関係ありません

 用途は当然ながら洋食用だが,そこから更に絞り込まれてフランス料理専用と考えるのが一般的だろう。一つのメニューで鍋を三つも四つも使うフランス料理に於いては絶大な効果を発揮するがその他の分野ではほぼ宝の持ち腐れではなかろうか。

 俺の住む田舎町ではここ10年くらいの間に本州資本のビジネスホテルチェーンがそこそこ現れてきており、こういう存在は牛丼やのチェーン店みたいな外食店舗と並んで地方経済の疲弊の象徴みたいなものだと俺は考えている。
 あるとき気付いたが、こういった格安のビジネスホテルが展開し始めるのと同時に起きるのは出先機関を持つ企業の撤退である。社員は出張の用事がある時だけノートパソコンを抱えてこういうビジネスホテルに滞在するわけだ。
 今から20数年前,俺の住む田舎町にもバブル景気の余波みたいな恩恵にあずかることの出来た時期があって市街地の中心近くに8階建てくらいのえらく立派なラブホテルが建設された。最上階にはでっかい硝子張りのベランダから市街地が一望できるペントハウス風の豪勢な一室まであるらしいことは往来から見える外見からも判断できた。
 ラブホテルなどというのは町外れの裏通りでひっそりと営まれているこぢんまりとした建物だというのがそれまでのこの田舎町での常識だったので、何というか,住人どもはそのロケーションやらそこら辺のホテルよりも堂々とした佇まいやらに度肝を抜かれたものだ。
 しかもそのホテルには半地下となっているフロアーに何とレストランがあるという。ホテルの利用者でなくても入っていいらしいというおまけの伝聞まであった。当然こういう感覚は田舎者のセンスではなく、風聞によると経営母体は東京で同名のラブホテルがチェーン展開されているらしく、余程金が余っていたのだろうが北のはずれの田舎町におよそ場違いな感じの,東京の感覚そのまんまの建造物をおっ建てたということらしかった。

 田舎町の景観とはどこかミスマッチな,無意味にゴージャスなそのラブホテルは近年閉館し,大阪資本のビジネスホテルチェーンに買収され、改修工事が行われた後業態を変えてビジネスホテルとして今回リニューアルオープンする運びとなった。

 依頼元はコメットカトウ、帳合はマルゼンというのが今回の構図だ。
使用者からの修理依頼を受けたのはマルゼンだが自社製品ではないので製造元であるコメットカトウに話を振り、それが俺のところに回ってきたという流れだ。

 最初、マルゼンからはガスレンジの修理という話だったが現調に伺ってみると正真正銘のヒートトップレンジで、実は田舎町でしか仕事をしてこなかった俺のような者からすればその重厚長大で堂々たる佇まいに妙に感激した。
 これは、個人で購入するものではない。建物の新築と同時に導入されて途中リプレースされる事もなく建物がある限りそこで稼働し続ける類いのものであって個人が,例えば食品スーパーのバックヤードやチェーン店の居酒屋に納められるものではない。
 その元ラブホ地下のレストランはテナントが運営していたらしく,オープンしてから幾らも経たないうちにオーナーは売り上げが芳しくないのと某シティホテルの総料理長としてオファーがあったのとでさっさと店をたたみ,機材はそのまんまにしてこの田舎町から去ってしまったのが約20年前とのことだ。 
 
 不良状況はオーブンが着火しないというもので、その原因はガスコントローラーの固着による。現物はオープントップレンジと連結されており、オーブンが二つある格好になるが残念ながら両方ともアウトだ。
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 ヘビーデューティレンジという商品名のついたこれら製品群は製造元であるコメットカトウにとっては正真正銘の看板商品であり,大袈裟にいえば威信がかかっている。格式のあるホテルや宴会場などではメインダイニングに納入する厨房屋がどこであれ,ストーブ類はコメットカトウのこのシリーズでなければならないという指定がつくこともザラだ。
 だからその造りはもう30年以上,何の変更もない。余程のことがない限り20年くらいは使われ続ける機材なのでストックパーツがもうありません,などということはない。それにしても個人でこういうストーブを購入するとは,前オーナー殿は余程この製品に思い入れがあったのだろうか。

 バブル景気を懐かしむ気分の抜けないこれはどうにかこの物体を修復したいと思い,見積書を提出したが経営母体は費用が高額なのでという理由で見送り,ボツになってガステーブルとしてトップバーナーだけを活用していくことにしたのだそうだ。代わりに届いたのはおもちゃのようなリンナイのコンベックだ。




 オーブンなしでは業務にならないから何か代替案を考えてほしいという現場からの要望に対する経営母体からの回答がAmazon.comでも売っているようなこれだ。
 新しい料理長殿は溜め息混じりに本当に何もわかっていないとぼやかれた。

 一般住宅にでもありそうなこんな代物がものの役に立つわけなどないと俺は思うが,だからといってヒートトップレンジの修復がそれほど意義のあるものなのかと冷静になって考えてみるとこれにも疑問がある。

 時代は色々と推移しており,現在ヒートトップレンジはどこの燃焼器具メーカーも特注扱いである。理由は燃焼時の炎が直接見えない構造であるため日本ガス機器検査協会の検定を通らないからとのことだ。
 ならば検定に通るように構造を見直して改良すれば良いではないかと思うがそういった開発を行う必然性にも乏しいのが現状だ。
 キッチンの熱源がほぼガス一辺倒だった時代は過ぎており,現在、ヒートトップレンジでの加熱とかなり近似したオペレーションはIH加熱の電磁調理機で可能だからだ。
 俺個人はどちらかというと電磁調理機の多用には少々疑問を持っているせいか、今回の修理の見送りには結構残念な思いがある。お洒落で高級感のあるラブホがあり,その地下には本格的なフレンチレストランがあり,と、俺の住む田舎町にも一瞬,そんな風景があったが時代はどんどん変わっていく。フレンチレストランのシンボルとも言えそうなヒートトップレンジも最早過去の遺物に過ぎず、恐らく我々はこの先その時の華やかな世界を取り戻すことがもうできない。俺はそれを少々淋しく思う。

コメットカトウのHP:http://www.cometkato.co.jp/

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プレパーレーション機器の導入は減少傾向 [修理屋から見た厨房機材]

 本日最後のメニューは某国立病院でのフードスライサーの修理である。
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 製品はエムラのECAという機種である。

 このブログの読者の諸兄大半は既にご存知と思うが切載機器の一種である。正面の円形状の部分には回転する薙ぎ刃,または短冊切りやおろしのためのカッティングプレートが収まる。
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 食材を送るためのコンベアーが回転刃と連動して搬送動作を行う。コンベアーは上下二組あり,投入した食材を挟み込むようにして回転刃の収まるケーシングに送る。

 機材の説明はこの辺にして,修繕の内容は上側のコンベアーベルトが動かないというものだ。
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 上側コンベアーベルトの伝達系の画像である。構成は右から左に向かってチェーンのかかった青いスプロケットはナイロン製でこれは何らかの理由でコンベアーがロックした場合など,伝達系を保護するために敢えて柔らかい材質で作っている。それから二組のユニバーサルジョイントを介してコンベアーベルト駆動軸とのカップリングとなる。

 空転の理由は導入後約15年にもなろうかという個体なのでそろそろ青色のナイロンスプロケットに変形が出始めている模様でずれ止めのスペルが脱落し,この箇所で空転が発生している。
 スペルは5mm四方の面積で厚み3ミリ程度の鉄片であり,故障診断や補修作業よりもこの小さなパーツが機体内のどこに落ちているのかを探すことに時間の大半が費やされる。

 作業自体は特段難儀なわけではなく一時間程度で試運転までが終了するが,考えてみると新しい病院給食設備の設計に於いてはこの手のプレパーレーション機器(下処理機器)の比重が段々小さくなりつつある。
 この記事で取り上げたフードスライサーについては20年前くらい前までは300床以上の病院給食設備では導入されることは決して珍しくなかったし悪くても機材の価格が高価で予算的に厳しければ食材の送り動作を手動で行う合成調理機位は入っていたものだがカット野菜が普及するにつれて野菜の切載を院内で行う業務の量は激減した。
 その他にも米については無洗米が定着して洗米機のない施設が珍しくないし,魚については既におろされたものが真空パックされて入荷されたりするし,肉類についても筋や脂などの掃除されたブロックが普通に出回っている。二昔くらい前に比べると現在,病院や老人ホームの給食室から出る生ゴミの量は激減しているのではないか。まあ野菜についていえば,土のついたままの食材を病院という場所に持ち込むのは衛生上いかがなものかという見方は確かにあるのだろうが土とはそんなに不潔なものなのか,病院という場所は建物の全域にわたってそんなに衛生的な場所なのかと俺などは思う。

 ともあれ,結果として病院給食施設のゾーニングとして下処理セクションの占める比率は段々下がりつつある。しかしキッチンの面積自体が従来機比べて縮小傾向なのかというとそうではなくむしろ増える傾向にある。
 理由としては以前は下処理から配膳までが一つながりの空間であったのに対して0-157が騒がれるようになった時期からはキッチンの中を汚染区域と非汚染区域に切り分け,パーティションやパススルー機器で間仕切るレイアウトを保健所が推奨するようになったので新規の設計はどうしても面積を食うようになるし,選択メニューが普及したことによりストックしておく食材の種類が増えてストレージの面積が増えてくる傾向がある。冷凍食品やレトルトの半加工食材が増えてきたせいで150床程度の中規模医療施設でもウォークインタイプの保冷庫が設計に織り込まれるようになってきたといった変化がここ15年くらいの流れと俺は見ている。

 技能職である調理師にとって病院給食という分野で技巧を発揮できる場面として適当なのかという疑問は勿論あるのだが,一般論として刃物を持つことを認められた調理師に最初に与えられるのは野菜の皮をむいて切載することと聞いた。
 ピーラーやスライサー,カッター等々給食設備に於いてはこれらプレパレーション機器類はレストランや宴会場などの商業施設に比べれ多種多様に稼働しており機械頼みの下処理業務はホテルやレストランコックが給食業務の調理員に対する一種優越的な視線の根拠の一つにはなっていたと思う。
 勿論,切載や皮むきの業務が全て機械で行えるわけでもなく,給食業務の現場から包丁やまな板が消えてなくなることもあるわけはないとある時期までの俺は考えていたがここしばらくの推移を振り返ってみると案外それは実現しそうな気もしてきた。

 極論として,例えばファストフードの店舗にはこれらプレパレーションのセクションはない。下処理は全てセントラルキッチンで集約的に行われて配送されるので店舗には包丁もまな板もないわけだが、病院や老健施設の給食業務もそれに近い風景がそのうち現れてきそうな気がする。
 経営なり運営の効率化として下処理業務を切り捨て,複数施設へのサプライヤーである外部のCK(Central Kitchen)に外注委託するのはしかし、下処理から加熱処理という本来ならば一つながりである業務を分断してそれぞれを単なる作業員へと貶める流れでもあるように思えて少々淋しいというのが俺の見え方だ。
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RONDOのリバースシートに感心する [修理屋から見た厨房機材]

TPPが発効すれば俺の住んでいる田舎などはかなり酷い様相になるのだろうが,今のところ生産農家は補助金を頂いてホクホク状態らしい噂を良く聞く。

 農家の中には補助金付けの農協頼みから脱却すべく,加工品の製造販売などに進出して経営の独立性を模索する動きは以前からあるがここ10年くらいの間に随分活発になってきた。
 一昨年の暮れ頃,そういう生産農家での仕事が棚ぼた風に舞い込み,俺はちょっとした小金を手にした。

記事名:この労務経費は安くないぜ・・・と言いたいが
記事URL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2012-12-19

 リバースシートの試運転調整と取り扱い説明という事で,東京の大久保商会という輸入商社から俺の携帯電話宛に依頼が舞い込んできたのだ。

大久保商会URL:http://ohkubo-shokai.com/

 田舎住まいのしがない修理屋である俺のような者の事を一体どこでどうやって知ったのかは今でも良くわからないままだが,とにかく金になるんだったら何だってやったるぜ!と,目先の金に釣られて俺は見た事も触った事もないリバースシートの仕事に出かけたのが一年半程前の事だ。
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 RONDOのリバースシートと鎌田機械あたりの国内製品との外見上の歴然とした違いはローラーの収まってるボックスあたりにあるグリッド状の物体の有無で,これは巻き込まれ事故防止のリミットスイッチに連動している。手が巻き込まれるとグリッドが跳ね上がり,モーターは停止する。
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順序が前後するが,画像はコンベアーを組み上げた後の状態で,保護停止用のグリッドが跳ね上がっている。コンベアーの分解は当然だが,かき取り用のスクレーパーの取り外しもこのグリッドは跳ね上げないと行い得ない構造なのでリミットスイッチの破損がない限り電源を切り忘れて誤操作を行なってコンベアーが動き出し,巻き込み事故が起きる事はない。
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 コンベアーを分解してベルトを取り外したところ。作業は最初片側について俺が行い,組み付けが終わった後に使用者の方にもう片側を行ってもらう体裁を取った。
 
 通常,リバースシートのコンベアーを分解してベルトを取り外すのは使用者の行う事ではなく,修理屋が現れてチャージが発生する場面であるがRONDOはそうではない。必要な工具は以下の3点だけだ。
*5mmのヘキサゴンレンチ
*10mmのめがねレンチ(できればこれに加えて同サイズのボックスドライバー)
*マイナスドライバー,ブレードの幅は8mm位だとガタがない。
 たったのこれだけで,しかも緩める箇所は10箇所に満たず、コンベアー2組を分解する工程としては驚異的に少ない。
コンベアーのテンションボルトはナットも含めてステンレス製であり,しかも感覚的には高い精度が出ているのでナットが手でスルスル回り,道具は必要ない。従って,駆動製の整備のためにはこのブログで度々取り上げるこれがあれば全部の作業が出来る。
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 画像には部分的にしか写っていないが,RONDOのリバースシートを使用した事のある方から異口同音に出てくる賞賛の一つにシーティング厚みの精度の高さと調整のしやすさだ。
 厚み調整レバーと同軸に取付けられるギヤの工作精度がこれを決定づけるわけだが,これが驚く程高く,手で触っている限りではバックラッシュが殆ど全くと言っていい程ない。殆ど時計とか工作機械並みの精密さだ。
 他に,国産メーカーとの大きな違いというと駆動系ギヤの材質は全てナイロンであることか。運転時の静音性は勿論あるのだろうが,異物の噛み込みが発生した場合,伝達軸系に歪みが発生する事態の保護として敢えて柔らかい材質を選んでると俺は見た。
 モーターからの伝達はチェーンではなく,一体これで大丈夫なのかと不安になるほど細いタイミングベルトで行われているがメカニカルな保護装置を兼ねていると考えると納得がいく。

 成形パーツや樹脂パーツの多用,ダイカストフレームなどの構成は量産前提の仕様であり,日頃見慣れたいかにも鍛冶屋さんが製造してます風の国内製品とは別次元の印象で全体に何というか,実に洗練されたリバースシートだ。世界最高の称号はやはりダテじゃないな,というのがいじくり回してみての感想である。
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改めて責任区分について考えたい(2) [修理屋から見た厨房機材]

前回記事名:改めて責任区分について考えたい(1) 
http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2014-04-29

某総合病院で運用中の蒸気熱源の食器消毒保管庫は昇温特性が悪化し、なかなか問題が解決せずに調子の悪い状態が長期化していた。長期化の原因は問題の根本的な所在が上流側にあり、ボイラーからのサプライ配管途中にある減圧弁の不調によって送汽圧力が低下していたことによるのだがこれが判明するまでの時間が長期化したのがその核心である。
 
 前回記事で掲載した画像を再度示す。
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 画像の左上には圧力ゲージが映っているがこれは俺が責任区分を明確化させるためにこの問題が持ち上がってからあるとき取り付けたものだ。

 先に書いたように、機器類の不具合というのはほぼ機材自体の故障と半ば決めつけられるようにして解決の方向性が定められ、上流側の問題についてはある種、無謬である事が現場の慣例というか不文律のようになっている現状がある。これは俺一人だけの事ではないと思う。
 電源電圧とかガスの供給圧とか給水圧力が疑われる事は殆ど全くない。蒸気の圧力もまた同様である。このケースでも同様であり、取りかかった当初はスチームトラップを分解してみたり交換してみたり、温調機や電磁弁を分解してみたり交換してみたりそれはそれは色々な事を試みてみたが問題は一向に改善されず、パーツや材料などで俺の持ち出しはどんどん増えて行くばかりで頭が痛かった。

 (もしかしたらこれは蒸気の圧力が低いせいではないのか?)という疑問は機材である保管庫の内部についてほぼ手を打ち尽くしたあたりで芽生えた疑問だが、この事を病院の施設管理に相談し、事実の解明に協力してもらえるようになるためには物凄く長い時間と膨大な言葉を要する。
 ボイラー技士は勿論、れっきとした保全技師でありしかるべき矜持の持ち主であるが、ボイラーによらず設備の選任技師から見れば出入り業者、ましてや俺のような厨房屋などはいかがわしいチンピラみたいな人種に見えるようなのだ。例外は高圧受電設備の保安業務に携わる電気保安協会や電気主任技術者の有資格者であり、ボイラー技士の業務範囲外の分野なことと資格の取得自体がかなりの難関である事から一定のリスペクトを受けるが俺のような者はそうではない。

 このケースでは,蒸気の供給圧が低いから昇温が遅いのではないかなどという俺の台詞は選任技師にとってはなんとも挑戦的なものに受け止められたようで、長年出入りさせて頂いているこの病院だが俺とボイラー技士長との間にはいささか険悪な雰囲気が生まれた。

 この病院の調理室内で蒸気を熱源とする機材には食器消毒保管庫以外には食器洗浄機(ブースターを含む)とライスボイラーやスープケトルといった加熱調理機器がある。厨房への送汽はボイラー室の低圧ヘッダー出口で一律に終端が0,2MPaとなるように減圧弁の調整がされている。
 送汽圧力に問題があるのであれば他の機材にも影響が出ていていいはずなのにそういう修繕の依頼は現場からは来ていないのだからやはり食器消毒保管庫自体に問題があるのだというのが病院側の見解である。事実,ライスボイラーの配管途中に取付けられている圧力ゲージは0.2MPaを指示しており,全く問題ないではないかと仰る。

 何といっても相手は蒸気のプロな訳で俺にとっては苦しい展開だ。
更に追撃が来る。
カタログスペックを調べ直してみると,問題の食器消毒保管庫は常用圧力の下限が0,15MPaとなっている。
既に送汽の圧力は下限値よりも高いではないか,というものだ。
 俺は更に苦しくなる。
色々思案して思いあたったのはサプライの配管方法にまずい部分があるのではないかという点だった。
画像には現れているが,この病院の蒸気配管はサプライ,リターンいずれもオーバーヘッドで行われており,ボイラー室の環水槽直近でリフトフィッティングを一括して行う事でドレーンを回収している。
 三台並んだ食器消毒保管庫への蒸気配管は柱型の直近から降りてきた32Aのサプライ配管を途中分岐させ,それぞれに保管庫への接続箇所で配管呼び径をサイズダウンさせている。

 俺の側からの主張は殆ど屁理屈というか、暴論に近いものに受け止められていたのではないか。
(テキストをまとめる能力が俺にはない。以下続く)
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改めて責任区分について考えたい(1) [修理屋から見た厨房機材]

 下の画像は某総合病院の食器洗浄セクションで、食器消毒保管庫が3台並んでいるところだ。

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 上部を写しているのはこの食器消毒保管庫の熱源が蒸気である事を示したいからだ。
 この保管庫は約20年前に俺がまだ勤め人だった頃納入させて頂いたものだ。驚くべき事に当時,その病院では食器の消毒を煮沸消毒槽で行っていた。既に取り壊されたその建家は昭和30年代に建てられたもので,当時は給食の食器類は煮沸消毒が標準だったわけだが何せ煮沸消毒槽で熱源が蒸気という事は単に一槽シンクに吹き込み用の蒸気配管とサプライのバルブがついてるだけの単純極まりない構造なのでどこもぶっ壊れるところなどなく,修繕と言えば摩耗したバルブとか水漏れのする排水共栓を交換する事の二つしかないのだから誰でも出来るし幾らでも修繕ができる。

 今日日の感覚でいえば火傷の恐れがあるので煮沸消毒槽など選定される事は殆ど全くと言って良い程ない。件の病院では運用後20数年してさすがに世の中色々便利なものが出てきたのでもっと安全な熱風消毒に切り替えようという判断がなされたのが20数年前だった。
 食器消毒保管庫の熱源はガス,電気,蒸気とあるが現在,販売されているものの半分以上は電気を熱源としている。ガスだと燃焼排気の処理のための付帯設備が必要なため導入コストの総額が高くつくし,蒸気だとそもそも蒸気ボイラーが備わっていないと使えないからだ。
 その病院は当時,350床くらいの大きな病院で,築年数が古い上に竣工以来色々な機器類を追加導入したせいでそもそも受電室のトランス自体が容量的に苦しく,1バンク増やすのも現実味がないので蒸気加熱式の食器消毒保管庫という選定に落ち着いた。

 それで今から15年くらい前にその病院は移転新築したのだが,旧病院で使っていた蒸気熱源の食器消毒保管庫はまだ減価償却が済んでいなかったのと移転先の新病院でも蒸気熱源が用意されているため移設して継続運用する事になった。冒頭の画像はその後,現状を表している。

 移設後しばらくは特に何の問題もなく運用されていたのだが、この保管庫はあるときから庫内温度の立ち上がりが良くないという不具合が出始めた。
 ガスや電気と違い,蒸気熱源は病院施設に於いて必ずしも24時間安定供給されるものではない。オペの際の手術器具の殺菌には現在,単独でオートクレーブを持つのが常態化しているし,エアコンや温水暖房の高性能化や低価格化で蒸気暖房も減少する一方だから蒸気ボイラーなどというややこしくて物騒なものは段々日陰に追いやられているのがここ30年くらいの空調機械設備事情ではないだろうか。
 対して,食器洗浄の業務が終了するのは一般に,遅くて午後8時である。昇温の立ち上がりが悪化すると消毒が完了しないで翌朝まで庫内のブロワーが回りっ放しでいる不具合を生む。

 少し脱線するがここで食器消毒保管庫の動作を追ってみる。
一般に保健所が指導する食器消毒保管庫の運転条件は温度は80℃以上,時間は30分以上がその目安である。ここで注意すべきは時間であり,30分というのは運転時間全体ではなく,80℃以上の状態を最低限30分以上維持せよという意味である事に注意されたい。室温の状態から起動させて庫内温度が80℃に達するまでの運転時間は含まれていないと補足しておく。
 これを受けて製造元の仕様としては起動させてから設定温度に達し,温調機が動作したその時からタイマーのカウントを開始するという制御を行うようにしてある。

 という事は,この病院の場合,起動させてから一時間以内に庫内温度に達しない場合は午後9時になるとボイラーからの送汽が止まるのでタイマーによるカウントが始まらないまま翌朝まで庫内温度が生温いままでブロワーが一晩中回り続ける運転状態となる。

 蒸気式の食器消毒保管庫に限らず、機器の不具合は全てと言っていい程、その機器自体の障害として修繕の依頼がくる。
 ややこしい書き方とは思うがこういう事だ。
機器類というのは全て,給水の圧力とか温度とか,給電の電圧とか,要するに上流の条件を全部満たしていなければ所定の機能や性能はギャランティされない。
 だから機器の不具合が起きている時,まず最初に行われるべきは不良発生箇所の特定であり,それは責任分解店のどちら側にあるのかを特定する事だ。稼働のための周辺条件が満たされていないのか,それとも機器自体に故障が起きているのか,と言い換える事は出来る。
 経験則から言えば,発生する不具合の殆どは機器(負荷)自体の故障によるが周辺環境が原因である場合も皆無ではない。(長くなりそうなのでこの項続く)
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何のための自動化か [修理屋から見た厨房機材]

 今から20数年程前,日経レストランという雑誌に当時の北沢産業の山田社長のインタビュー記事が掲載され,
そのタイトルは「日本の厨房機器は世界では通用しない」という中々ショッキングなものだった。当時はまだまだバブル景気の恩恵があり,技術立国日本が世界中を席巻していた(かに見える)時期で,俺のような業界の末端で菜っ葉服を着て労務に従事している者にとっては何の事なんだか見当がつかなかった。

 自動車も,電気製品も、日本製は世界中を制覇した優れものであり,業務用の厨房機材だって同じではないのかと確たる根拠もなく漠然と思い込んでいたわけだ。
 しかし仕事の上で徐々に輸入機械と接するようになってから俺の認識は変わり始めた。山田社長の人物評はさておき,その見識は正しかったと今は思う。

 ある時期からの厨房というのは既に専門知識を要する独立した機械設備であって,一般的な工事区分でいうところの衛生設備という捉え方からは既に収まりきらないと俺は考えている。
 設備の進化,という風にここ30年くらいの変わりようを振り返ってみた場合,大きく言えばそれは自動化の歴史と見える。食器洗浄機は既に特別な機材ではないし,ボイラータンクを内蔵したややこしいコーヒーマシンもあちこちで目にする。手作業や職人の勘と経験を数値化する,自動化する,そういう流れがまだ続いている。

 俺自身は調理師ではないが,その現場に関わる者としてこの30年くらいを思い返してみると確実に労務は簡素化され,短時間化されている。従事者の専門性は否定され続ける歴史と言えるかもしれない。
 機材が自動化される事で業務が省力化され,専門性は要求されなくなる。その革新は常に海外からもたらされてきた。輸入機械がまず紹介され,一部の金満ユーザーが人柱となってその使用感を伝え,国内の厨房機材メーカーは輸入機械を一台買い込んで分解し,コピーモデルを作り,自社開発とか何とかてきとうな事を謳い文句に売り捌く。
 炊飯器のような機材を除けば日本製の厨房機材は常に海外製の後塵を拝し続けており,この先追いつく見込みは全くない。以前からそうだったしこれからはますますそうなる。それが顕著になったのは俺の場合,スチームコンベクションオーブンを通して実感した。
 ラショナル現行品の一つ前のモデル,SCCで導入された自動調理機能(Self Cooking Center)は当時,業界を驚倒させた。タッチスクリーンのグラフィカルな操作パネルは長い経歴を持つ調理師をして「まるでマンガみたいだ」としらけさせた。調理師学校の講師を務める某シェフは雑談の最中にジョグダイヤルを回してタッチスクリーンに触れる仕草をしながら「Cooking(調理) じゃなくてOperation(操作)だよね」と苦笑いしていたのを良く覚えている。

 インターフェイスパネルのマンガ化は更に進み,今ではスケール除去のための洗浄作業さえセミオート化している。自動化はまだまだ進むのだ。
関連記事:スチームコンベクションの講習を終えて
記事URL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2011-11-25



 前回記事で書きそびれた事をここで補足しておきたい。
講習初日の夜,各地から集まってきたサービスマンの懇親会というか,まあ宴会があった。そこには講師を務めたドイツ本国からのテクニカルアドバイザー(日本人だが)も参加しており,俺は彼としばらく話し込む機会を得たのでかねがね考えていた疑問を投げかけてみた。それは大意として以下のようなものだ。

 欧州製の食品機材はコンピューター化の進み方が著しく,自分のような古い修理屋をしばしば当惑させる。 その方向性とは自動化と多機能化,加えて文字表示を排してアイコンによる記号化を進めるものであるように見える。
 この傾向は1990年以降特に著しいように思えるのだがそこにはやはり冷戦の終結という時代背景があるように思う。
 思うに,調理という業務は今も昔も,どこの国や地域にあっても職種としては底辺層の労働であり,例えば移民の就労場所の典型である。冷戦終結後はそれまでの中東やアフリカ以外から東欧からの移民も流入してきたせいで言語による情報伝達に齟齬を来す場面がますます増えた。それで言葉の通じない調理師がより直感的に業務をこなす事を企図して機材のインターフェイスはよりグラフィカルなものに変わってきているのではなかろうか。

 彼は全くその通りだと答えた。
 ヨーロッパという土地は元々言語によって国境が区切られてきた歴史があるので地続きで他の国に移動する場合,言葉による不便が起こらないよう調理に限らず色々な表示が文字ではなく絵で、という進み方をしている。ラショナルのオーブンはある時期までは表示パネルの多言語化に随分力を入れて来たがそれにも限度はあり,ハードウェアの低価格化が進んできたのであるときからアイコンによる表示に踏み切った。との説明だった。
 言語による障壁を解消するために進められる自動化や多機能化は同時に未熟な低賃金労働者にある一定以下にはならない調理の結果をもたらすためにも活用されるわけで,結果として我々の身近では所謂ブラック企業と呼ばれる外食産業に於いては調理イコールダイヤルを回してタッチキーに触る事のようになりつつある,というか一部では既にそうなっている。
 全くの素人が働き始めて一週間かそこらで一端のメニューをこなせるようになる外食店舗は物凄く増えた。そういう就労場所での調理師は既にCraftman(職人)ではなくWorker(労務者)と見るべきだろう。知識も経験も要らず,ただ単にマニュアルに書かれた操作方法を丸暗記して繰り返すだけの仕事であり、付加価値も何もあったものではない。

 料理が『作品』であるような調理師は元々そう多いわけではない。それは本当にごく限られた一握り以下の人達の世界である。商業店舗に於いてはそれは『商品』となるわけだが、こうした機器類の自動化によって調理業務従事者の低賃金化が押し進められてくると最早『製品』と呼ぶのが似つかわしいように思う。誰がやろうがおんなじ結果が出るのだから。

 勿論そんな職場が人間的でなどあるわけはなく,時給幾らでこき使われるWorker(労務者)達がどこかの段階で怒りを爆発させるのも人間性の発露としてわからなくはない。
 すき家のバイト達が示し合わせて集団で退社して一時閉店の店舗が続出したり,ワタミが60店舗位を閉店させたりという流れは同じ底辺層で棲息する俺のような者にとっては一種,溜飲の下がる出来事だが経営者というのは大概したたかな生き物だ。いずれは海を越えて大量の移民を日本国政府は受け入れ,飲食業のバックヤードは外国人だらけ,ホールサービスも音声認識可能なオーダーエントリーシステムの端末を外国人スタッフが差し出して「コレニ,チュウモン,オネガイシマス」と丸暗記した片言の日本語で客に話しかける状況がそのうち常態化していきそうに思っている。それとも券売機によるオーダーとセルフサービスのほうが手っ取り早いかw
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板厚2mmで製作するシンク [修理屋から見た厨房機材]

 シンクの排水共栓や排水トラップを交換する修理は10年前の開業以来減る一方だ。
こういう,設備屋だったら誰でもできるような仕事は俺のところにはなかなか回ってこない。他の同業者があらかた攫ってしまうからだ。

 それだけに,今日のようにシンクの排水トラップを交換する修繕に当たると結構嬉しい気分になる。こういう,なーんにも考えなくても勝手に身体が動いて終わるような作業は気楽でいい。どうもここ数ヶ月、俺が遭遇する修繕は切羽詰まっていたり難解だったりし過ぎる。俺の知能程度の限界を測られているようだ。
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画像は本文とは関係ありません


 シンクの排水トラップを交換する理由はその殆ど全てが取付け箇所からの水漏れである。皆の衆の家庭で使われているものもそうだが縁のつば状の部分は銀色をしており,一見,金属製に見えるがこれはコーティングであって材質そのものはポリエチレン(違うかもしれないが何しろ樹脂製だ)であるから熱には弱く,柔らかいので変形が起きやすい。つば状の部分がめくれ上がるように変形することで当たり面がなくなり,幾ら締め込んでも水漏れが起きる。

 トラップ自体の耐久性を求めると当然,金属製となるのだが鋳物,ステンレス,いずれも高価であり今日日は特注品として製作時に指定しない限り,組み込まれてくるトラップは樹脂製である。
 きちんとした接続工事が行われている前提で樹脂製トラップが変形する主な原因としては,
(1)シンクボウルに水をためて使う場面が多い
(2)熱湯を大量に流す場面が多い
(3)シンクボウルの板厚が薄い
以上3点がほぼ全てと言っていい。

(1)から(3)までを列記してみたが本当のところは(3)の板厚次第で不具合の現れ方は随分変わる。
ここで板厚ごとに比較してみると,
 まずは家庭用の流し台に使われているプレスシンク,俺の職分ではないが板厚はおよそ0,8mmが多いと聞いた。あの複雑多様な凸凹はプレス型によって成形されるものだ。シンクボウルの深さは大体180mm位だろうか。0,8mmの板をプレスして成形できるほぼ限界値がそれであり,当然ながらプレスされた箇所は引き延ばされるので板厚は薄く,200mm近辺にまでなると板材が裂けたりちぎれたりして製造上の歩留まりが悪化するので現状の深さが限度なのだと聞いたことがある。
 当選ながら,家庭用の流し台を裏から押したり叩いたりしてみれば歴然だがペコペコと薄っぺらい。煮立ったお湯をちょっと大きな鍋に一杯流してみると歴然だが『ボコン』と音がするはずで、これは板材が熱膨張を起こして膨らんだことを現している。

 業務用のシンクは標準的な板厚は1.0mmである。グレード分けされている場合は上級モデルだと1.2mmにスペックが上がる。メーカーの実名をここで挙げると例外的にフジマックのシンクは板厚の標準的なスペックが1.2mmで他社製品の上級グレード相当だ。このへんからは板厚があり過ぎてプレスが利かず,板材から切り出しては折り曲げ、小口を突き合わせて溶接する製法に変わる。

 画像に示したような樹脂製の排水トラップには特に家庭用とか業務用の区別はなく,どちらも同じようなものを組み込んでいるので、業務用の方がシンクボウルに水を溜めて使ったり熱湯をバンバン流したりする分、変形や破損は断然多い。

 ところでシンクボウルの板厚を1.2mm以上で製作するとどうなるかについて追記しておきたい。どのメーカーのカタログにも掲載されていない特注製作品のことで,納入される場所もごく限られる。
 俺個人の考えとしては,個人の営業店舗やスーパーのバックヤードのような場所以外では,シンクに限らず厨房板金のトップ板厚は1.2mmが好ましい。たったの0.2mm,と侮るなかれ,実際に出来上がったものを比較してみると歴然だが,例えばワークテーブルのトップが1.0mmだと下地材なしではぼこぼこに凹んで頼りない。業界の悪しき通例として下地材にはベニア板やチップボードを使ったりしてたことが多く,衛生のことを保健所が喧しく指導するようになった昨今こういう仕様は好ましくない。下地材なしである程度の剛性を確保しようとすればどうしても1.2mmは必要で,これはシンクボウルの剛性についても同様だ。
 正確に発生件数や頻度や確率をカウントしたわけではないが,冒頭書いたようなトラップ交換の発生頻度は薄い板厚のシンクで起こりやすそうに覚えている。(家庭用は除く)

 これが更に1ランク上がって板厚が1.5mmとなると、俺の経験した現場では景気が良かった頃のプリンスホテルチェーンで平準化されていたスペックだ。施工現場によっては搬入してレベルを出し終わり,接続工事が済むと溶接工を現場に動員して機材同士の合わせ目を溶接して研磨し,外見上は一繋がりにしてしまう。
 そのようにして収まったステンレス什器は当然ながら最早単体では室外への搬出はおろか取り外しが出来ず,ぶった切って解体する以外には撤去のしようがなくなる。継ぎ目にゴミがたまるのを嫌って行う施工なわけだが一旦収まったらその建物と同等の耐久性が求められるような現場の場合はこのような仕様となる。
 
 厨房板金として通常使用する最も厚い板厚は2.0mmではないかと思う。
これくらいになるともう,プラント設備のタンク並みの仕様だ。ホテルオークラあたりに納入された板金類がこの仕様だったと聞いている。当然ながら搬入後の溶接はお約束で建物が老朽化して取り壊されるまでリプレースなどありっこない。
 実は俺も会社員だった頃,某国立病院の統廃合プロジェクトを担当した際に新設品として材質はSUS304(18-8)板厚は2.0mmでの製作を提案し,医務局の決裁を頂いて納めたことがある。おまけに先方からは通常あるようなパイプ脚ではなく,すのこへの収納物が隠蔽できるようにキャビネットシンクとして製作してほしいというとんでもない注文がついた。やっぱり国というのは金があるもんだと俺は仰天したものだ。

 納入価はもう思い出せないが,通常カタログに載っている同サイズのシンクの4倍くらいはいったと思う。板厚があって剛性の高い板金製品はよく鎧に喩えられるが,通常の業務用板金の二倍も厚みがある上にキャビネットタイプ(外装板はさすがに1.2mmにしてもらったがそれにしたって破格のスペックだ)となると鎧だってもう少し華奢ではないかと思える。
 搬入の際には通常二人で運ぶようなサイズのシンクが4人掛かりでないとしんどくて仕方がないくらい重い。竣工後,ある調理員は使い回しの移設品である某メーカーの標準的な仕様のシンクをグニャグニャして頼りないと形容した。板厚1.0mmの、ごく一般的な業務用の流し台だ。

 板厚2.0mmのシンクとはどういうものかというと,例えば5升炊きの炊飯器の内釜をガンガン放り込んでも凹まないのは勿論のこと,沸騰したお湯を20リッターくらい一気にぶちまけてもウンともスンともいわない。シンクボウルに歪みが出ないので樹脂製の排水トラップも変形はまず起こらない。よって,俺の修理の機会もなくなってしまう。売れる時には有り難いがその後のビジネスはない。オーバースペックとはそういうものなのだがいいんだか悪いんだか。
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ドライキッチンと燃焼器具との相性 [修理屋から見た厨房機材]

 某病院の給食室に設置された食器洗浄機は俺が会社員だった頃に納入させて頂いたIHI JMD-4Cで、丁度稼働歴が二十年となった。

 一年365日,三食欠かさずの病院給食用途で稼働し続けて20年、途中何度かマイナートラブルがあったとは言え,中々立派な戦績ではないか、と自画自賛してみたくなる。
 稼働歴20年の根拠として思いあたるのは設置場所がドライキッチンだから,というのは結構有力だと思う。4Cは制御用にプリント基板が本体に収まり,すすぎ湯の熱源はガス(はじめは4Cで後に13A)であるが,着火用のイグニッション動作と点火保持用に一つと,操作用とでガスブースターに二つの基盤が収まっている。
 いうまでもなく湿気はプリント基板にとっての天敵だからして,稼働条件としてドライキッチンは有利だ。他の強電系のパーツ諸々についても同様で,総じてドライキッチンは電気系のパーツにとっては有利である。
 但し燃焼機器にとってはどうかと言うと必ずしも好ましくないのではないか。

 某病院からの修理依頼は電源投入後,すすぎ湯のガスブースターの点火動作がされずにすぐに失火の警報が出るというものだった。
 現場に入ってガスブースターのケーシングを外してみると中々激しい状態だった。
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 ものの見事に煤だらけである。排気筒近くのタイル張りの壁にも煤けた跡がある。また,ガスブースターの表示灯はAC100Vで点灯する仕様だが電源投入と同時にうすぼんやりと光り,明らかに挙動としてしておかしい。

 外装板を取り外してみると理由が判明した。
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端子台に付着し,堆積した埃に不完全燃焼時に発生した埃が乗り,真っ黒になっている。諸兄ご存知の通り炭素には導電性があるのでμAオーダーのフレーム電流が正規の回路を経由せず,迷走するのでこのような誤動作が発生したというわけだ。

 バーナーを取り外してみるとこれもひどい状態で混合管の中にまでびっしりと綿埃が入り込んでいるので掃除は中々手がかかる。スパークロッドとフレームロッドはいずれも絶縁碍子まで煤だらけで俺は自分の所見に確信を持った。
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 修繕についてはここまでとして,どうもドライキッチンというのは誤解されていはしないか?
ドライだから床の水まき清掃をしなくていいという事にはならないという理解はどこまで周知されているのかという疑問を常々俺は抱いている。
 何を隠そうこの俺自身がそのような誤解をしたまま過去に於いては設備設計なり施工管理をしており、結果としてここにあげるような障害を生み出す周辺環境を提案していたのだから全くもって恥じ入るばかりと言うか自業自得と言うか,とにかくみっともない話だ。

 当然ながら燃焼器具は発熱のために空気を要する。そして大気は必ず埃を浮遊させている。
ドライキッチンという調理環境がまだなく,厨房という場所はゴム長靴をはいて歩き回り,清掃は必ず床に水を撒くものだというのが通念だった頃は埃の浮遊が押さえられていたためここで取り上げるような不完全燃焼によるトラブルはドライに比べて少なかった。代わりに湿気による錆などの劣化はドライよりも著しかったが。

 燃焼器具の多くはそういう時代背景のもとに作られているのであって,埃が多く浮遊しているような周辺環境を想定していない。石油ストーブなどの暖房機器は既に当然のように燃焼系統に埃が混入する事で発生する不完全燃焼を防ぐ意味で吸気箇所にフィルターが取付けられているが厨房機材の燃焼器具でそのような配慮はされていないのが現状だ。

 そうしてみると、少なくとも現状ではドライキッチンでの熱源は電気が無難ではある。というかドライキッチンだから衛生作業時に水を撒かなくても良い,掃き掃除だけで良いという考えがまかり通っているのだとすればそれは早急に改められなくてはならないだろう。煤だらけで真っ黒になった燃焼器具の整備費用は安くはないのだぞ。
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2013年夏の終わりに [修理屋から見た厨房機材]

 本記事は8月の終わり頃に書きかけたのだが,あれこれと忙しく書きかけのまま放置されていたものに加筆したものである。暮れも押し迫った今になって夏の終わりもないもんだがひとまず書き残しておく。

 勿論毎年夏はあり,その始まりも終わりもあるわけだが俺の生息地ではそろそろ半袖では心許ない時期に入りつつあり,特に今年思いあたることがあったので一つ書き留めておくことにした。

 冷蔵機器の修繕を生業とする者にとって夏はかき入れ時である。外気温に伴って室温も上がるので真夏日などは特に凝縮不良による障害が多発する傾向がある。
 凝縮不良が発生する原因は、冷蔵機器の導入直後である場合に於いては周辺環境を無視した無茶なセッティングであり,対処法としては修理以前の問題となる。それは納入業者の無知が招いた問題であって俺のような修理業者の知るところではない。
 一定期間以上の運転歴に於いて発生する凝縮不良の場合,多くは使用者側の杜撰な運用管理に問題があり、特に夏季の真夏日に於いて発生するのは殆どの場合コンデンサーの掃除をろくすっぽしないまま放置していた結果だ。怠慢な使用者の中にはコンデンサーフィルターの掃除さえもせず放ったらかしにし,障害が出てから慌てて修理屋に電話をかけてきて矢の催促をする。それで修理屋は現場に向かうわけだがフィルターの清掃で済む話だから作業などはものの10分程度で済んでしまう。それで出張経費を請求するとただ来ただけで殆ど何もしていないのに金を取る気かとか何とか抜かしていきり立つ大馬鹿者が多い。

 30年近く前に遡ると冷蔵庫の製造元にも問題があった。
使用していればだんだんコンデンサーは汚れてそのうち凝縮不良が起きることくらいわかり切っているにも関わらずコンデンサーフィルターを標準でつけずに別売部品とし続けていたからだ。せいぜい数百円のものなのだからタダでつけてくれても良さそうなものだ。
 得意先も得意先で,僅か数百円のフィルターでさえそれが別売だとなると販売元がまるで強欲な便乗商法であるかのような詰り方をする奴が少なくなかった。冷蔵庫の購入後,2年かそこらでコンデンサーの詰まりによる凝縮不良が起きるたところに呼び出されたサービスマンは全く気の毒というしかなく,一時間以上もかかるコンデンサー清掃の作業が終わってからバイヤーが代金のことでゴネまくり,作業費は請求できずに会社に戻れば無用のサービスということで上役には怒られで踏んだり蹴ったりという一幕はあった。

 製品に標準でコンデンサーフィルターが付属し,その定期的な清掃が使用者の責任として敷衍し、定着したたのはようやく20年くらい前だ。現在では余程横着な使用者でない限りコンデンサーフィルターが詰まって凝縮不良という場面は多くない。
 しかしフィルターは所詮網であり,網の目よりも細かいゴミはフィルターをすり抜けてコンデンサーに堆積し,どこかの時点で凝縮不良を引き起こすので修理屋が登場してコンデンサーの清掃をしなくても良くなったわけではない。この件についてのオンコール件数が減ったというだけであってこれがなくなることはない。

 使用者側の意識の変わり方は以上のようなものだが保全する側はと言うと,長らく頭の切り替えが出来ずにいた。
 諸兄にとっては意外かもしれないが,冷機器メーカー以外,厨房屋は冷機器の修理については貫徹できる会社がない。溶接機を持ち出してガス漏れやコンプレッサー交換の作業が出来るのは個人レベルのごく限られたケースであって、通常一般、厨房屋のサービスマンが出来る冷蔵庫の修理というのはせいぜいファンモーターの交換くらいであって、コンデンサーの清掃作業はようやくここ数年,自分たちで出来るようになり始めたというのが俺からの見え方だ。

 技術職の端くれとして言わせてもらえば,コンデンサーの洗浄や清掃などは修理のうちに入らない。そもそも,コンデンサーの凝縮状態が正常であるか否かは出口配管を触れば判別可能であって格段機材や判断基準を鍛えるためのトレーニングが必要なわけではないし、清掃作業自体もそれは単なる労務であって特段技能が要求されるわけではない。せいぜい脂汚れなどがひどく,薬品洗浄する際に電気部品に水がかかって漏電や短絡が起きないように注意深く養生する程度のことしかない。

 この程度の労務ではあるが、俺の周辺では昨年あたりからやっと,厨房屋であれば誰でも手がける仕事となったように見える。
 厨房屋というのは,俺自身が身を置いていながらこんな言い方で何だが貪婪な人種が多い。会社自体にそういう体質がある。一回手にしたものは何が何でも手放そうとしない傾向はある。
 冷凍機器のコンデンサー清掃という業務は今年,俺は一件も手がける事がなかった。という事はこれらは現在,厨房メーカーのサービスマンなら誰でも違和感なく,外注業者に依頼する事のない,自分たちで解決可能な作業となった事を表している。転じてそれは俺の収入源のうちが失われた事をも表しているわけで,貧乏自営業者である俺はこれを補填する収入源を求めてあちこちをうろつき回る事になる。

 これ以上の事は何か書いても収入源を失ったいかがわしい自営業者の負け惜しみとしか受け止められそうになく,俺としても不本意なのでここで終わり。まあ何かしら飯の種は転がっているだろう。
  


 
フィエスタ

フィエスタ

  • アーティスト: チャーリー・パーカー,ウォルター・ビショップJr.,ベニー・ハリス,テディ・コティック,ロイ・ヘインズ,ホセ・マンガル,マックス・ローチ,ラルフ・ミランダ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2012/06/13
  • メディア: CD



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脱力の朝と給茶機についての雑感 [修理屋から見た厨房機材]

 お仕事の気合いが入らないのは今日が土曜日だからだけではない。
昨日,俺は給茶機の修理で日付が変わるまでドタバタしており,しかもその修繕は完了しておらず,大変グダグダな気分で寝床に就いたのだった。

 完了できなかった弁解をするつもりもないのだが,給茶機というのは厨房機材の範疇で捉えていいものなのかに就いてある時から俺は疑問を持つようになった。何というか,扱い方の流儀が異なっているように思え始めたのはいつ頃からだろうか。
 俺があんちゃんだった頃,ウィークリータイマーとかコンピューターボードとかを持たなかった頃の給茶機はもう少し見通しのいい機材だったはずなのだが今はそうではない。
 ここ十数年の給茶機は随分とスタイリッシュになり,高機能にもなった。何といっても20年くらい前にはお湯とお茶のサービスした出来なかったのと同じ外寸の筐体にウォータークーラーの機能まで詰め込んでいるのだから内部構造が錯綜しない方が不思議なくらいのもんだ。

 給茶機は厨房内に置かれるものではないから狭義に於いて厨房機材なのかというとそこからは外れているがホールに置かれることはあり,サービスカウンター用の機材などと同列に扱われることは珍しくないから厨房屋が扱うことは珍しくなく,広義に於いて厨房機材ではある。
 但し,人間お茶を飲む場所は別段食堂に限った話ではないから事務所やら諸々の公共スペースやらにも給茶機は置かれており,コーヒーメーカーや飲料水の自動販売機と同じカテゴリーでくくることも不自然ではない。
諸兄もどこかで見覚えはあるだろうと思う。
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画像は本文とは関係ありません。


 給茶機の製造元は大きくは三社,ホシザキ,富士電機冷機,東芝である。
このうち東芝は製造をグループ会社に移管したとの情報がある。いうまでもなく東芝は超大会社であり,給茶機みたいなマイナーな商品を今まで作り続けていたことの方が不思議ではある。日立がいまだにミートスライサーを作り続けていたり,かつては三菱重工がソフトクリームのフリーザーを作っていたりIHIが食器洗浄機を作っていたりしたのと同じく,大企業にとっては盲腸みたいな位置づけの商品なのだろう。
 そういう意味では富士電機がいまだに給茶機を作り続けているのもやや不思議なのだが、ここは三洋電機の自動販売機部門を買収した事例からもわかる通り,サービス機器がしかるべき比重を占めているので当分,それなりのリソースを割いて商品開発を続けそうに思う。

 こんな風に製造元が全て電機メーカーであれば図式はわかり易いのだが、ここにホシザキという会社が登場すると複雑な色合いを帯びて来る。
 改めて考えてみると,ホシザキという会社は大変微妙なポジションにいる。
旧来の厨房屋と言うにはその組織は巨大で,指導層は官僚的でさえある。ブランドイメージは物凄く浸透しており,30年も前ならいざ知らず今であればどんな営業マンだろうがホシザキの製品でありさえすれば一定のセールスを期待できるのではないだろうか。厨房屋業界でいえば疑問の余地なくガリバーである。
 しかし反面,電機メーカーから見た場合,ホシザキを同業者として認識するメーカーは恐らく一つもないだろう。山ほどある事業展開のうちのある一部で競合することのある会社,という認識が関の山ではないだろうか。場合によっては自社で製造したパーツなり製品のバイヤー,という程度かもしれない。

 現に,ホシザキが販売するプレハブ保冷庫で使われる冷凍機は三菱重工製品にペンギンマークのプリントを施したものだし,冷蔵機器に組み込まれるコンプレッサーはほぼ全て東芝製である。ホシザキはあくまで製品のメーカーであってパーツメーカーではない。このへんが総合電機メーカーとの全体像の差であるとも言える。

 恐らく現在,給茶機のシェアを調べてみたとすればトップに来るのは恐らくホシザキではないかと思う。給茶機には住設機器とか事務機,自販機がらみといった販売ルートはあり,そちらでは富士電機や東芝がそれなりの販路を確保しているとは思うがホシザキもいつまで経っても直販飛び込み営業一本槍の会社ではないわけで既にこの販路での橋頭堡は確保しており,いずれは独占的なシェアを占めそうな予想を俺はしている。

 改めて書くが,所謂旧来からの厨房屋のうち、給茶機を自社で製品開発しようという動きは現在のところ全くない。一部専業メーカーで給茶機と称して商品化された機材はあるが機能も価格も別物であり,同列に語れるものでは全くない隙間商品である。
 20年以上も前のように全てリレー制御で構成されるおおざっぱな機材であった頃ならまだしも,今日日のように込み入った内部構造だったり樹脂成形パーツが多用されるようになってくるととこれはもう厨房屋の出る幕ではない。言い方を変えれば電機メーカーの製品作りに何とか追随できる製造能力を持った唯一の厨房屋がホシザキである。

 諸兄は既にお分かりだろうが,開発能力とか製造能力に於いて電機メーカーは厨房屋の上位に位置するという見え方で俺はこのテキストを書いている。疑問の余地はないだろう。
 20年以上前の構図でいえば,東芝や富士電機の給茶機は明らかにホシザキ以上の品質だった。これはもう歴然たる差であって会社勤めをしていて営業も兼務していた頃の俺は第一に富士電機の製品を推していたがおよそ故障とは無縁で,売ったことを忘れるくらい修理依頼の来ない製品だった。

 しかしある時期から,給湯と冷水の機能を同一筐体に詰め込むようになったあたりからこの歴然たる差はかなり曖昧になってきたのではないか。ホシザキの能力が成長し,電機メーカーはこのニッチな商品についてさほど真剣に取り組まなくなってきたという,姿勢なり関わり方の変化がそこには見て取れるわけだが減価償却期間を過ぎて2,3年経過したあたりでリプレースを考慮してもいいくらいの派手なぶっ壊れかたをするケースに,どちらかというとホシザキの製品で遭遇するのがここ数年の俺の状況である。
 最適化を突き詰めると製品はこんな風になる。家電製品などではよくあるケースと聞いた。その意味ではホシザキという会社は電機メーカー並みの開発能力をこの製品については身につけたことになるのだろうか。これは半分賞賛,半分は皮肉である。

 修繕に当たっての俺のグダグダ具合についてはいずれ無様な記事を上げておきたいと思う。今日日,給茶機の修理というのはノーヒントで行うととんでもなくはまる。疲れた。
 
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食器洗浄機の誤った導入と運用のこと(2) [修理屋から見た厨房機材]

前回記事はこちら
http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2013-04-06-1

 食器洗浄機の普及は約20年くらい前,バブルが弾けた時期と重なっている。
厨房屋の総合カタログを見たことのある方はご存知と思うが大きな区分けで言えばこれは衛生機器の範疇であり,工程終了後に布巾で拭き取る作業を省けることが最大のポイントであってそのためには食器表面の温度が少なくとも70℃以上くらいのところで(この辺は俺の憶測だが)ないと余熱による食器の乾燥は見込めない。
 水切れを良くするためにリンス剤を使うのは一つだがこれは二次的な話で、食器自体の温度を上げることが先決であってすすぎ湯の温度が80℃以上という目安はこのためである。

 ある種の人達にとっては何を今さらという講釈かもしれない。しかしそれは20年以上も前の,食器洗浄機がまだ大量処理専用の捉え方をされていたり厳格な衛生観念の持ち主である使用者の元で扱ってきた人の意見ではないだろうか。
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画像は本文とは関係ありません


 食器洗浄機を設置する周辺環境は様々なので,製造元はそれに合わせて同じ処理能力での複数のバリエーションをもった製品展開をすることがある。ここでは事実上業界標準であるホシザキの製品を例にとって説明する。


 まずはJWE400-TUA3という機種:http://www.hoshizaki.co.jp/p/washing-m/jwe/underc/jwe-400tua3.html
 おつぎはJWE400-TUA:http://www.hoshizaki.co.jp/p/washing-m/jwe/underc/jwe-400tua.html
どちらも時間あたり40ラックの処理能力を謳っている。
 同一能力であってスペックの異なる二つの機種が存在することにはそれなりの意味があり、洗浄機本体への給湯温度によって導入時の機種選定が自動的に決まる。
 それらはいずれもすすぎ湯の温度80℃以上を保つために必要な熱量計算に基づいており,細かい計算過程をここでは省くが電源仕様が1Φ100Vであれば75℃以上,3φ200Vであれば50℃以上がその目安になる。
 
 稼働環境がセントラル形式の給湯設備の備わっていない,厨房内でのガス給湯器に依存する場合,前者であれば専用の給湯器で16号以上のもの,後者であれば他のカランや給湯接続のある機器類との兼ね合いもあるがとりあえず既存の給湯設備でも何とかなるかもしれない。
 上記二機種の仕様上の違いとはそういうことであって,3φ200V仕様で、消費電力が片や5.1Kwもう一方は1.27Kwというのは貯湯タンクに取付けられたヒーターの大きさの違いである。通常設備されている給湯器の出湯温度が50℃かそこらで、この配管を食器洗浄機に接続してすすぎ湯を80℃近辺で維持させようとするとこういう容量のヒーターを内蔵させなければならない,当然ながら電源仕様が3φ200Vである機種の方が高価だがそれはこういう理由に基づいている。

 ここで,この20年ほどの間にもっとも食器洗浄機が新規導入された購買層の稼働環境を考えてみると,それは小規模の飲食店であり,食器洗浄機に関係した周辺環境としては大体以下のような条件である。
1:商用電源は電灯線だけの契約であり,3φ200V電源はない。
2:給湯装置は壁掛けのガス給湯器で能力は16号。
3:排水配管の管種はVPが多く、場合によってはVU(肉厚の薄い,排水専用の塩ビパイプ)。

 上記3はさておき,1と2についていうと,こういう周辺環境下で食器洗浄機を導入する場合,すすぎ湯温度を目安となるよう保持するためには,
*動力電源を電力会社と契約し,内線工事を行った上で3φ200V仕様の機種を選定する
*洗浄機本体価格の安い1φ100V仕様の機種を選定するのであれば専用給湯器を増設する
 上記のいずれかとなる。湯気の処理を考えると排気フードの工事も伴うのはいうまでもないがここでは本題から外れるので言及しない。
 会社員だった頃の俺の経験では,内線工事を行い3φ200Vの機種選定とする。排気フードがつけられない場合は洗浄機の直近、出来れば直上に換気扇を取付ける,といった周辺工事を行うことが多かった。

 しかし会社勤めを辞めて開業し,自分が施工や納品を行っていない使用者のところへ脚を運ぶようになってみると動力電源はなく,専用の給湯機もない環境下で稼働している1φ100Vの小型食器洗浄機が大変多いことにびっくりした。
 稼働中の温度表示を見てみると洗浄タンクの温度は50度以下,すすぎ湯の温度は高くて60℃くらいというのがザラにある。工程終了時の食器乾燥云々どころの話ではない。要するに雑菌噴射装置である。
 こういう稼働環境は個人経営の飲食店に多く,洗浄機の製造元はホシザキであることが多い。喫食者である客はバックヤードのことなど何にもわかっていない連中だからこれまで取沙汰されたこともないのだろうが,こんな条件下で洗われた食器で物を食い,食べ歩き自慢の糞ブログや食べログて「おいちー」だとか『激ウマ』だとか『至福の時間を過ごしました』とか抜かしているのだから笑わせる。能天気もここに極まるというか腹痛を起こさないで済んでいることを天に感謝する方が先なんじゃねえのかw

 こういうたわけた状況の構図は大変嘆かわしいものだ。
まず第一に,購買者である飲食店のオーナーには洗浄湯温60℃以上,すすぎ湯温80℃以上という基準値が頭の中にない。こういう人種はそもそも、上記の目安に則って食器洗浄機が稼働している,ということはきちんとした設備設計がなされ、旧来から運営されていているような厨房(例えば旅館やホテル,宴会場)での勤務歴がないのでその予備知識や経験則がないので食器洗浄機といえばそれは初めて接する機材であり,食器の衛生管理のためのものという認識がなく、単なる横着マシンとしてしか捉えていない。要するに無知なのだ。

 だから食器洗浄機を自分の店に導入するとなるともう何でもいいからとにかく安くあげたい。
同一筐体で電源仕様が二種類あることの意味などはなっから理解できていないししようともしない。
そこへどっかのH社営業マンが飛び込み営業に現れる。ノルマに追われる彼は何が何でも契約を取りたい。
店主はせこいそろばん勘定でイニシャルコストを値切ろうとすることに余念がない。内線工事だの給湯器の増設だのなんてとんでもない話だ。現状の環境下で稼働させたって問題ないだろう?なあ,大丈夫だよな?と営業マンに持ちかける。
 営業マンに見識があれば,そこまでご予算が厳しいのであれば今回は見送り,予算を作り直した上で周辺工事を含めて将来導入することに致しましょう,その折には是非当社に,となるのだろうが何せ厨房屋などというのは不見識なチンピラの集まりだしましてやペンギンマークだ。
 店主がちょっとでも色気を見せればどこまでも食いついていく。選定がおかしくて運転状態が不首尾だったにしたってその営業マン自らが工具箱を下げて手直しにいくわけではない。全部サービスマンに押し付けて自分は遁走を決め込むことは簡単だから一台受注で来きそうだとなれば後は野となれ山となれ、そんな成り行きは容易に想像できるのである。

 俺が思うに,例えば保健所あたりは食器洗浄機の導入されている施設に於いてそれが正しく運用されているかどうかについて監督指導することを業務の中に組み入れるべきだ。
 しかしこれは目下のところ全く実現される見込みのない俺個人の願望に過ぎない。そもそも洗浄湯温60℃,すすぎ湯温80℃という目安自体日本のものではなく,米国NSFの規定で示された華氏温度をセ氏温度に換算して食器洗浄機の機材メーカーがこれに則って模造品を製作しているというものでしかない。よく調べてはいないが恐らく,日本国内で食品衛生関連の公的な条文中に食器洗浄機のお湯の温度管理はかくあらねばならないといったことを謳っている自治体はないような気がする。このブログで何度も俺は繰り返すが,役所の見方や捉え方などというのは常に時代遅れで上から目線である。
 何より情けないのは我々自身であって,衛生関連に限らず規範を自分たちで作れない,他者に作ってもらった規範に甘んじることで責任回避を図る傾向が俺を含めてこの国の国民性ではないかと常々考えている。

 話は飛躍し過ぎたが,雑菌噴射装置で洗った(『洗った』という言い回しが適当なのかについては甚だ疑問があるが)食器で飯を喰い,はしゃぎ回る族は今日もそこら中に,勿論ネット上にも溢れ返っている。そういう刷り込みで食べ歩き自慢のバカ共の書き込みを見ていると何かしら冷笑的なものが俺の中には湧いてくるのである。勿論俺は一人の客として,自分の知る限りそんな環境下で食器を洗っているような飲食店には絶対に行かないことにしている。何せ,身体が資本だからなw
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食器洗浄機の誤った導入と運用のこと(1) [修理屋から見た厨房機材]

 食器洗浄機という機材は今やすっかり定着した感がある。小規模設備がオープンする際に当たり前のように導入されるのは二昔くらい前であれば想像しずらかった話だ。
 厨房屋のサービスマンにとっても食器洗浄機の修理は洗剤の納入業者に押し付けるのが当たり前の時期があったが要するに食わず嫌いということで,手慣れたこと,丸暗記の繰り返しだけで済みそうなことだけを仕事にし,イレギュラーなことは他者に押し付けておいて売り上げだけは欲しいという虫のいい体質は今も変わらない。現在のような普及度合いにまでなってくるとさすがに洗剤業者に修理丸投げというわけにはいかずに自分達で修繕しなくてはならない。

 ここまで食器洗浄機が普及したのはひとえにホシザキの営業力であって,彼らの努力なしには食器洗浄機は金持ちバイヤーの特権的な機材のままであったことは間違いない。
 食器洗浄機の形式は大から小まで色々あるわけだが二十年前以上と比べて著しく普及が進んだのはやはりアンダーカウンタータイプという、最も小型の形式だ。大型のコンベアータイプは鼻っから手洗いが無理なくらい大量の食器を洗う現場に導入されていたので導入の歴史はもっと古く,こういうところはコンピューターの世界に通じるように思う。
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 上の画像は本文とは直接関係ないが,ここ20年くらいの間に最も普及した形式の食器洗浄機だ。導入したバイヤーは個人営業の飲食店というケースが最も多い。そして,ホシザキが最も多く販売した契約先と重なる購買層だ。
 
 しかし実際の導入プランや運用状況については本末転倒な雑菌噴射装置となっているケースが少なくないのが現状で,俺のような生業の人間はそういう状況を目にした飲食店を客として利用することはない。俺は特段潔癖な人物ではないが,幾らなんでもこんな運用環境で洗われている食器で商売をやっているような店は客としてはまっぴら御免という状況はやはりあるのだ。

 俺がこれから書こうとしていることは必ずしも特定の企業に向けた非難ではない。
結論から言うと,食器洗浄機の誤った選定と運用によって著しく非衛生的な食器の管理がなされている飲食店が少なからずあり,俺の経験則からいってそれはホシザキの製品のバイヤーに多い。雑菌まみれの食器を商売に使って客に提供している飲食店は諸兄らが思っている以上に多い。本来あるべきでない選定や運用状況が手洗い以下に小汚い食器を使い回している飲食店がマスコミやネットでバックヤードの事情など何もわかっていない素人の食べ歩き記事で取り上げられ,もてはやされている現状に俺は幾らかの危機感を持っているのだ。

 雑菌まみれの小汚い食器が商業店舗で何の疑問も持たれることなく使い続けられているその原因が,購入者であり使用者でもある側によるものなのか,それとも納入した厨房業者の側にあるのかはケースバイケースであって一概に言い切ることは出来ない。
 間違いなくいえるのはこういう導入や運用例においては販売する側と購入する側のどちらか一方,乃至は双方のケチ臭い金銭感覚と理屈に対する無知さ加減が働いているということだ。

 食器洗浄機は本来,食器の衛生管理のために開発された機材である。こんな至極当然のことさえないがしろにされているのが実体だ。
 ひけらかしをする意図はないが,基本的な運転状態を箇条書きにしてみる。
*強アルカリ性の洗剤を使う。素手で触ると皮膚が溶けるほど強力なものだ。
*洗浄タンクのお湯は60℃以下とならないこと。第一に脂肪分の溶解温度,第二に雑菌の死滅する温度帯としてこの温度が指標になる。
*すすぎ湯の温度は80℃以下とならないこと。熱による殺菌と同時に余熱による食器の乾燥をも見込むとこれくらいの温度が指標となる。

 これが業務用の食器洗浄機を運転させる際の絶対基準であって,俺が何度か用いた雑菌噴射装置とはこれらの温度条件が満たされていない運用状況を指している。(この項続く)
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ホシザキ製ガス式スチコンの衝撃 [修理屋から見た厨房機材]

 ついに来たか,という印象だな。ホシザキという会社は本当にタフだと思う。

 業務用厨房機材の業界に於けるホシザキの位置づけはパソコン業界でいうとマイクロソフトに似ていると以前から俺は考えていた。
 みんなの嫌われ者だが誰もが服従する。ドラえもんの登場キャラでいえばジャイアンみたいな存在だ。

 原発の事故以来,電力事情については色々言われる中で俺が考えていたのは燃焼器具のありようが見直されて復権を果たすのではないかということだった。俺自身は調理の熱源は何だかんだ言って結局は燃焼器具が中心だろうというスタンスの持ち主だ。
 そんな中でやはり各地のガス会社は『涼廚』(「りょうちゅう」と読むのだ。変なネーミングだぜ)というキャンペーンを張って高い燃焼効率とか輻射熱の低減に取り組む各機材メーカーを宣伝している。
 東京ガスの配布する冊子にでかでかとホシザキの新製品が掲載されているのを目にするとこの業界は大きな転換点にさしかかっているのではないかとクソ真面目に思う今日この頃。元々は製氷機のメーカーに過ぎなかったホシザキはだんだん守備範囲を拡げて冷機器全般を征し,今や衛生機器や電熱器機にまで領土を拡大した。そして今度は燃焼器具という厨房機材の中では大きな柱を成す分野にその手を伸ばし始めたというわけ。

 ボックスタイプの食器洗浄機に組み込まれているブースターの熱源がガスである,という事例を除いてホシザキが燃焼器具を正面きってPRするのは初めてではないだろうか。

URL:http://www.hoshizaki.co.jp/p/new/cookeverio/topic.html

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 ガス式のスチームコンベクションオーブン(以下スチコンと略す)である。燃焼器具の分野をいつまでも指をくわえて見ているはずはないと俺は以前から見ていたがやっぱりやってきた。
 燃焼器具への本格参入がガステーブルやフライヤーではなくスチコンだというところに脅威を感じない同業メーカーはとっとと会社を畳んだ方が良い。

 十数年前に単品販売から総合厨房の設計施工に乗り出し,燃焼器具を購入する超大口バイヤーであった会社が今度は『こんなものは幾らでも内作出来るんだぜ』と迫ってきているのである。スチコンは作れるがガステーブルは作れないなんていうことは絶対にない。
 それどころかスチコンで先行する国内各メーカーのうち,この製品と同等のものを作れる会社は一体どのくらいあるのかと思う。
 2/3サイズのホテルパン仕様の大半は電気加熱ではなかっただろうか。この筐体サイズにガスバーナーを組み込むのは実装技術としてかなり大変なはずだ。

 俺の予想だがこの製品は売れる。間違いなく売れる。バブル崩壊後の長い不況の中で皿洗いのおばさんの人件費削減マシ−ンとして離島や山奥のスナックにまで食器洗浄機を売りまくって業績を伸ばしたように今度はホシザキは調理師の横着マシーンとしてこの製品をどんどん普及させていくだろう。
 熱源がガスだから内線工事はまず必要ないだろう。しかも小型で安い。想定できる購買層は既存の小規模店舗である。飲食店に限らず店内調理を行うコンビニもターゲットに含まれているに違いない。小規模の商業店舗は今のところ大きな施設ほどにはスチコンが普及していない上にその分野こそは元々ホシザキが最も得意とする市場だ。

 総合厨房を手がける従来からの厨房屋のうち,冷蔵機器を自前で開発し,社内に冷媒管系統の修理業務をこなせるスキルを持った社員を抱えるところは殆ど全くいっていいほどない。ホシザキという会社はその逆のプロセスを辿りながら今日の規模まで肥大し続けてきたわけだがこうして自社製品が広範囲にわたってくると全ての修繕を一人のサービスマンがこなせるのかという課題が出てくる。これに対してはサービスマンの分業化という変化で対応してくるだろう。現状に於いても全ての厨房屋が束になってかかってもかなわないほどの人員数を擁しているのだから充分実現可能な運営体勢だ。

 燃焼器具への参入に対して板金屋からスタートして現在に至った同業他社が抵抗感を持つことは充分予想できるし,それは自社で手がけるプランニングに於いてはホシザキの製品を出来るだけ排除するという反動として現れることもあるだろうがホシザキはもはやバブル時期以前の単なる製氷機と冷蔵庫の会社ではない。その頃だって既に業務用の厨房機材業界の中では飛び抜けた規模だったが今やその比ではない。厨房屋の二つや三つ取引関係が断絶したからといって痛くも痒くもないだろう。

 ホシザキの側からすると恐らくもはや同業他社との競合云々などというのは眼中にない。彼らのテーマはガスレンジと焼き物機で回っている個人店舗のオーナーをどうやって説き伏せて契約書にはんこを押させるかしかない。
 恐らく今後,スチコンについてホシザキの販促活動は食器洗浄機での成功例をなぞる形になるだろう。
現状の2/3サイズの小型機を個人店舗やコンビニ,居酒屋チェーンといった比較的少量の調理であるバイヤーに浸透させた後,フルサイズのホテルパンを使う大型機を新機種として製品バリエーションに加えて過去20年納められ続けた他社製品のリプレースを次々とものにして行くだろう。俺はかなりの確信を持っているが,ホシザキは現在,食器洗浄機の分野で占めているのと同じかそれ以上の足場を今度はスチコンの分野で得ることになる。そこまでいけばガステーブルやフライヤーといったより汎用性の高い原始的な加熱機器の市場獲得など赤子の手を捻るようなものだ。保守を要する厨房機材は全てペンギンマークである厨房がそこら中に存在するようになるのはそんなに先の話ではない。

 ブレーキをかける要因は既に同業他社の製品開発能力や販売力にはない。あるとすれば国内的には使用者の購買意欲がどうやっても喚起できないくらい全体的な景気の沈滞が長く続くか、もっとグローバルな視点で言えば海外製品が価格や何らかの規制撤廃によって国内市場に参入し,スチコンに限らず国内の厨房機材製造元全てに対抗してくるかくらいだろう。
 業務用の厨房というのは,機能を持つ機材は全てペンギンマークで,その保守業務はホシザキのサービスマンによって独占的に管理されなければならないと彼らは言っているのである。
 業界全体の趨勢はホシザキ一社だけが勝ちまくって他は総崩れの構図がこれでいよいよはっきりしてきた気がする。
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だんだん似てくる [修理屋から見た厨房機材]

 某食品スーパーのバックヤードにてガスフライヤーの修理を行ったのが数日前。
意外にも製造元はフジマックである。ホテルやレストランでは一定の地位を保っているフジマックだが流通業界のバックヤード分野ではメジャーとは言えない。

 このスーパーは以前,経営母体が現在の某社となる前はサンウェーブ系列のSWキッチンテクノが修繕の業務を請け負っていたはずで,その頃は俺も何度か仕事に来たことがある。
 今回はフジマックからの依頼な訳だが,バックヤードを見渡してみるとスチームコンベクションなどはフジの製品が納められており,総体に色々なメーカーが混在している印象だった。

 フライヤーの障害はハイリミットサーモの不具合でパイロットバーナーが点火保持しないというもので、作業としてはさほど難易度の高いものではないところが妙に嬉しい。
 昨年あたりだったと思うがガスフライヤーはしばらくぶりにモデルチェンジを行い,見た目の印象はだいぶ変わった。

製造元URL:http://www.fujimak.co.jp/contents/hp0179/list.php?CNo=179&ProCon=33
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画像は本文とは関係ありません。


 破損したハイリミットサーモについては書いておきたいことがあるがそれは後日に譲るとして,これまでずっとキャビネット形式の外装だったフジマックのフライヤーはパイプ脚のスカスカした外見になった。
 バーナーや中間パイプはこれまで数度のモデルチェンジの過程でずっと変わらずに同じ形状や構造が継続されていたが現行品からは一新されている。新形状によって熱効率が上がり,燃料消費が従来比で5%節約できるようになったという。
 初期のフジマックのフライヤーはガス関係のヤクモノにロバートショウの高価なパーツを惜しげもなく採用しており,恐らく同業者中では最も金のかかった豪勢な造作だったと思う。油槽を含めた筐体の造りといいガスコントローラーの品質といい輸入品と比較しても遜色はなかったのではないか。現に,未だに当時の個体が結構な割合で生き残っており30年くらい前の個体の修理依頼がいまだにある。しかもそのパーツの殆どは汎用品なので修繕には何の問題もない。そんな選品作りではあったが会社の性格上,フライヤー単体を大々的にプロモートすることがなかったので単一機器としてはリーディングカンパニーとなるには至らなかった。

 翻って現行品を修理するにあたり,内部を仔細に眺めてみると単体メーカーの製品を意識した選品作りになってきた感はある。
 初期の製品にあったいい意味でのやり過ぎ感はもうない。大体10年くらいの製品寿命を想定して最適化をきっちり詰めたのだな、と俺には見えた。
 筐体に頭を突っ込んで作業しているうちに俺は何だか妙な気分になった。初めて触る機種なのに何故か初めてのような気がしなかったからだ。以前どこかでこういう機体をいじくり回した記憶がある。
 それを思い出すのは結構簡単だった。操作系の構成といい,ガス配管のパイピングといい以前何度か修理したことのあるサミーのガスフライヤーと現在のフジマックの製品は大変似ていることに気づいた。

(株)サミーのHP:http://www.samy.jp/

 サミーのガスフライヤーは俺が世間様にデビューした頃からその外観が殆ど変わっていない。細部は時代の流れにそって色々変更なり改良が加えられているのだろうが見た目の印象は不思議なくらい変化がない。恐らくガス検の認証を得るためにハイリミットサーモが追加されたくらいではなかろうか。
 それはリリース当初の設計が四半世紀を超えて風化することなく現役として通用しているということであってこれはこれで凄い話だ。

 一時期はガスフライヤーが看板であった北沢の製品は十数年前のモデルチェンジに於いてすっかり面子丸つぶれのダメな製品になった。これは俺が北沢と好ましからざる関係にあるために感情混じりで書いていることではない。純粋に機械いじりを生業とする人間としての所見である。Dタイプ以降の製品はもう目を覆うばかりのひどさで,サーモ交換を行う時などは後からガス漏れが起こらないようにと祈るしかないくらい整備性に劣る。

 北沢の話などはどうでも良いが、現状各社のガスフライヤーを鳥瞰してみると結局,リファレンスというかスタンダードというかそういう構造はサミーの製品だったのかと俺は位置づけるようになってきた。 
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パスタボイラーと原子力発電所を無理矢理こじつける陰謀論 [修理屋から見た厨房機材]

 今更原発ネタもないとは思うのだが,今日は昼飯をパスタと決め込んだのでつい思い出したことを書いておく。

パスタボイラーという機材がある。原型はゆで麺器で,乾麺を茹でることに特化した形状をしている。
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かごの形状も乾麺に特化していると言って良く,大体どこのメーカーの製品も長方形である。凝ったメーカーだとかごの断面がかまぼこ状だったりもする。茹で時間中の乾麺の挙動や茹で上がった後の取出し時の使い勝手はその方が良いようだ。
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 選定のポイントは湯槽の底に沈めておくバッフル板で、一般的なてぼ篭を入れて茹でるゆで麺器だと湯槽内で
対流を起こすための穴は丸い穴が開けられており、パスタボイラーも同じような形状で通しているが、気の効いたメーカーは食材と対流の形状を合わせるようにスリット状の穴を開けている。茹で時間を計測したことはないが,体感的には後者の方が若干早い。
 過去に納めた経験上では,それまで寸胴鍋で茹でていた使用者の方は誰もが時間が湯で時間が早過ぎて感覚が狂うとのことだった。オーダーの立て込む専門店向けの機材というのが俺なりの位置づけだ。

 パスタボイラーは厨房機材のメーカー各社で、バブル時期のさなかに次々と横並びで製品化された。俗に言うイタ飯ブームの産物だ。原型はゆで麺器なのだから特に独自性のある機能や構造があるわけでもない。強いて言えば塩を入れて茹でたりするので湯槽の材質が,例えばSUS306とか312といった,通常厨房屋が使用する材料よりも耐食性の高い材料を使用するくらいだから製品化自体はさほど難しいものでもない。
 
 それまでスパゲティと呼ばれていた食い物がパスタと言い換えられるようになり,あらかじめ一回茹でて油を絡めたものをオーダーごとに取出して炒めていたところを炒めなくなってオーダーが入ったら乾麺を茹で始め、茹でたパスタにオイルやソースを絡めてサーブする,という飲食店の変化がはっきりしたのは1980年代中頃と覚えている。
 俺は感覚的な話しか出来ないが,30年前と比べると,パスタの専門店というのはその頃を境として確実に増えたし,消費量もかなりはっきり増えているのではないだろうか。それまでは国内製粉メーカーの製品くらいしか見かけなかったのにイタリア製の乾麺が珍しくなくなったのもこの頃からだ。

 ここで話は大きく飛躍する。
  1986年,チェルノブイリで原子力発電所の事故があったのを覚えておられる諸兄は少なくないと思う。放射能汚染はヨーロッパ全土に広まり,当然農作物は甚大な被害を受けた。
 うろ覚えだが南ヨーロッパの小麦もその例外ではなかった。
それで,汚染された小麦はどのように処理されたのだろうか?どこかに集積されて廃棄されたのだろうか?

 同じ頃,極東の島国ではイタ飯ブームが起こり,パスタの消費量はうなぎ上り,パスタ専門店がどんどん開店し,厨房屋は新市場だとばかりにこぞってパスタボイラーを作り出す。ブイトーニなんて日常的に接するメーカー名となり・・・・・その関係性は俺にはわからないがもしかしたらその頃から俺たちの食い続けているのは・・・・・

 しょうもない妄想と片付けられても仕方のない突飛な与太話ではあるが、日常,他人にこの話をするといつも決まって最後の段に辿り着く前に話の腰を折られて別の話題になってしまうので頭の中にあったことを区切りの良いところまで書き留めておきたかったのさ。ただそれだけのことだがどうも日常の俺は他人との会話にフラストレーションを覚える傾向があるので『書く』という行為は結構性に合っているのかもしれないと改めて思う。
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業務用冷蔵庫を業界の外側から見る [修理屋から見た厨房機材]

某総合病院のオペ室に組み込まれた冷凍庫の修理を先日やっと手がけることが出来た。

関連記事:オペ室の仕事は日延べ  URL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2012-11-08
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 数度にわたるスケジュールの調整を経てやっと昨日、初めて資料を持参の上で乗り込み,仮処置を済ませて運転できる状態にまではこぎ着けた。
 その症状は冷凍機が運転されないもので、原因はコンプレッサー及びコンデンサーファンモーターをon/offさせるためのパワーリレー接点が焼損しており通電されないものだ。
 冷凍機は単相負荷であり,リレー接点は片切りで動作する。そのリレーは3回路の仕様で,うち2回路が使用されておりこのうちの1回路が冷凍機on/off用に使われているものだ。
 リレーコイル自体はまだ生きていたので冷凍機開閉用の配線を空いている一回路分の端子に繋ぎ変えてみたところ冷凍機は普通に起動したので俺はひとまず安堵した。
 このまま運転を続けても構わないが筋としてはリレーの交換を行って修理は完了となる。
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 こうして文字にしてみると俺の行った処置など実に呆気ない。
たかだかリレー一個を交換するために何故こうも話は長引き,もたつくのか。
前の記事で書いた事情の他,問題点としては医療機器メーカーの情報公開の厳重さがある。CTだのMRIをいじくり回そうなどという高尚な話ではない。そもそも俺にはそんな機器のことなどこれっぽっちも知識がない。たかだか冷凍庫だ。しかしこういう,ワイヤリングの技術で障害を回避するとなるとやはり配線図は欲しい。実態を一本一本辿って自分で配線図を書き起こすことは出来なくもないが全く効率的でないのでそれは避けたいのだが機体に配線図は添付されておらず,製造元にその資料請求をすると物凄く敷居が高い反応が返ってくるのである。

 その対応の悪さなり理不尽さについて俺は大いに不満があるがここでは詳しく触れないでおく。
本記事で強調しておきたいことは、この手術室用の冷凍庫のマシンスペックについてである。
 7年前に初めて修理を手がけたとき,俺は医療用の冷凍庫とはさぞかし精密な温調機能を持つややこしいブツなのだろうと予想していたがいざ実物に接してみると,これは全くの真逆で単純明快にして原始的な制御形態で動いていることを知った。
 一機種を見ただけで総論めいたことを言うべきではないが冷凍庫にせよ保温庫にせよ,直流回路とかプリント基板、半導体というものは一切使われていない。電気回路は全て強電回路、有接点のリレーシーケンスで組まれている。
 温調精度は荒く,省電力とは無縁の荒っぽい制御形態だが美点は確かにある。
それは他の機器類に関してもこれまで何度か書いてきた通り,こういう原始的な構成の機器はアクシデントに強い。メーカーの補修パーツを出庫してもらわなくとも町の電材屋や住設資材屋で調達できるパーツが結構あり,配線図が手元にありさえすれば電線の切れっ端一本でジャンパーを入れて動作確認なり応急用の強制運転が可能だ。特にメーカーの講習を受けなくとも教科書的な一般論だけで全てを見通せる,ここが重要だ。

翻って今日日の業務用冷蔵庫はというと、俺の見え方としてはだんだん家電製品ふうの作りになってきた。電装系はブラックボックスかがドンドン進みもはや配線図さえ手元にあれば何とかなるというものではない。不具合は意味不明のエラーコードで表示され,メーカーのサービスでないと迂闊に手が出せない。パーツの代用は効かず,修理代金はメーカーに生殺与奪の権を握られっ放しという構図は家電製品そのものだ。
 回転数可変速のインバーターコンプレッサーだとか庫内ファンモーターだとかいった仕掛けが本当に業務用として必須のものなのかが俺には大変疑問なのだが、だからといって見通しのいいマシンスペックであることが選定条件であるというバイヤーにも会ったことはない。ユーザーニーズというのはとどのつまりイニシャルコストが安くつくことであってそれ以外のことはどうでもいいというのが実情なのだろうが,そんな島国での小競り合いはいずれ例えば中国製の業務用冷蔵庫が上陸してくるようになったらまとめて吹き飛ばされてしまうのではないのか。家電製品がそうであるように,だ。
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