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食器洗浄機の誤った導入と運用のこと(2) [修理屋から見た厨房機材]

前回記事はこちら
http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2013-04-06-1

 食器洗浄機の普及は約20年くらい前,バブルが弾けた時期と重なっている。
厨房屋の総合カタログを見たことのある方はご存知と思うが大きな区分けで言えばこれは衛生機器の範疇であり,工程終了後に布巾で拭き取る作業を省けることが最大のポイントであってそのためには食器表面の温度が少なくとも70℃以上くらいのところで(この辺は俺の憶測だが)ないと余熱による食器の乾燥は見込めない。
 水切れを良くするためにリンス剤を使うのは一つだがこれは二次的な話で、食器自体の温度を上げることが先決であってすすぎ湯の温度が80℃以上という目安はこのためである。

 ある種の人達にとっては何を今さらという講釈かもしれない。しかしそれは20年以上も前の,食器洗浄機がまだ大量処理専用の捉え方をされていたり厳格な衛生観念の持ち主である使用者の元で扱ってきた人の意見ではないだろうか。
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画像は本文とは関係ありません


 食器洗浄機を設置する周辺環境は様々なので,製造元はそれに合わせて同じ処理能力での複数のバリエーションをもった製品展開をすることがある。ここでは事実上業界標準であるホシザキの製品を例にとって説明する。


 まずはJWE400-TUA3という機種:http://www.hoshizaki.co.jp/p/washing-m/jwe/underc/jwe-400tua3.html
 おつぎはJWE400-TUA:http://www.hoshizaki.co.jp/p/washing-m/jwe/underc/jwe-400tua.html
どちらも時間あたり40ラックの処理能力を謳っている。
 同一能力であってスペックの異なる二つの機種が存在することにはそれなりの意味があり、洗浄機本体への給湯温度によって導入時の機種選定が自動的に決まる。
 それらはいずれもすすぎ湯の温度80℃以上を保つために必要な熱量計算に基づいており,細かい計算過程をここでは省くが電源仕様が1Φ100Vであれば75℃以上,3φ200Vであれば50℃以上がその目安になる。
 
 稼働環境がセントラル形式の給湯設備の備わっていない,厨房内でのガス給湯器に依存する場合,前者であれば専用の給湯器で16号以上のもの,後者であれば他のカランや給湯接続のある機器類との兼ね合いもあるがとりあえず既存の給湯設備でも何とかなるかもしれない。
 上記二機種の仕様上の違いとはそういうことであって,3φ200V仕様で、消費電力が片や5.1Kwもう一方は1.27Kwというのは貯湯タンクに取付けられたヒーターの大きさの違いである。通常設備されている給湯器の出湯温度が50℃かそこらで、この配管を食器洗浄機に接続してすすぎ湯を80℃近辺で維持させようとするとこういう容量のヒーターを内蔵させなければならない,当然ながら電源仕様が3φ200Vである機種の方が高価だがそれはこういう理由に基づいている。

 ここで,この20年ほどの間にもっとも食器洗浄機が新規導入された購買層の稼働環境を考えてみると,それは小規模の飲食店であり,食器洗浄機に関係した周辺環境としては大体以下のような条件である。
1:商用電源は電灯線だけの契約であり,3φ200V電源はない。
2:給湯装置は壁掛けのガス給湯器で能力は16号。
3:排水配管の管種はVPが多く、場合によってはVU(肉厚の薄い,排水専用の塩ビパイプ)。

 上記3はさておき,1と2についていうと,こういう周辺環境下で食器洗浄機を導入する場合,すすぎ湯温度を目安となるよう保持するためには,
*動力電源を電力会社と契約し,内線工事を行った上で3φ200V仕様の機種を選定する
*洗浄機本体価格の安い1φ100V仕様の機種を選定するのであれば専用給湯器を増設する
 上記のいずれかとなる。湯気の処理を考えると排気フードの工事も伴うのはいうまでもないがここでは本題から外れるので言及しない。
 会社員だった頃の俺の経験では,内線工事を行い3φ200Vの機種選定とする。排気フードがつけられない場合は洗浄機の直近、出来れば直上に換気扇を取付ける,といった周辺工事を行うことが多かった。

 しかし会社勤めを辞めて開業し,自分が施工や納品を行っていない使用者のところへ脚を運ぶようになってみると動力電源はなく,専用の給湯機もない環境下で稼働している1φ100Vの小型食器洗浄機が大変多いことにびっくりした。
 稼働中の温度表示を見てみると洗浄タンクの温度は50度以下,すすぎ湯の温度は高くて60℃くらいというのがザラにある。工程終了時の食器乾燥云々どころの話ではない。要するに雑菌噴射装置である。
 こういう稼働環境は個人経営の飲食店に多く,洗浄機の製造元はホシザキであることが多い。喫食者である客はバックヤードのことなど何にもわかっていない連中だからこれまで取沙汰されたこともないのだろうが,こんな条件下で洗われた食器で物を食い,食べ歩き自慢の糞ブログや食べログて「おいちー」だとか『激ウマ』だとか『至福の時間を過ごしました』とか抜かしているのだから笑わせる。能天気もここに極まるというか腹痛を起こさないで済んでいることを天に感謝する方が先なんじゃねえのかw

 こういうたわけた状況の構図は大変嘆かわしいものだ。
まず第一に,購買者である飲食店のオーナーには洗浄湯温60℃以上,すすぎ湯温80℃以上という基準値が頭の中にない。こういう人種はそもそも、上記の目安に則って食器洗浄機が稼働している,ということはきちんとした設備設計がなされ、旧来から運営されていているような厨房(例えば旅館やホテル,宴会場)での勤務歴がないのでその予備知識や経験則がないので食器洗浄機といえばそれは初めて接する機材であり,食器の衛生管理のためのものという認識がなく、単なる横着マシンとしてしか捉えていない。要するに無知なのだ。

 だから食器洗浄機を自分の店に導入するとなるともう何でもいいからとにかく安くあげたい。
同一筐体で電源仕様が二種類あることの意味などはなっから理解できていないししようともしない。
そこへどっかのH社営業マンが飛び込み営業に現れる。ノルマに追われる彼は何が何でも契約を取りたい。
店主はせこいそろばん勘定でイニシャルコストを値切ろうとすることに余念がない。内線工事だの給湯器の増設だのなんてとんでもない話だ。現状の環境下で稼働させたって問題ないだろう?なあ,大丈夫だよな?と営業マンに持ちかける。
 営業マンに見識があれば,そこまでご予算が厳しいのであれば今回は見送り,予算を作り直した上で周辺工事を含めて将来導入することに致しましょう,その折には是非当社に,となるのだろうが何せ厨房屋などというのは不見識なチンピラの集まりだしましてやペンギンマークだ。
 店主がちょっとでも色気を見せればどこまでも食いついていく。選定がおかしくて運転状態が不首尾だったにしたってその営業マン自らが工具箱を下げて手直しにいくわけではない。全部サービスマンに押し付けて自分は遁走を決め込むことは簡単だから一台受注で来きそうだとなれば後は野となれ山となれ、そんな成り行きは容易に想像できるのである。

 俺が思うに,例えば保健所あたりは食器洗浄機の導入されている施設に於いてそれが正しく運用されているかどうかについて監督指導することを業務の中に組み入れるべきだ。
 しかしこれは目下のところ全く実現される見込みのない俺個人の願望に過ぎない。そもそも洗浄湯温60℃,すすぎ湯温80℃という目安自体日本のものではなく,米国NSFの規定で示された華氏温度をセ氏温度に換算して食器洗浄機の機材メーカーがこれに則って模造品を製作しているというものでしかない。よく調べてはいないが恐らく,日本国内で食品衛生関連の公的な条文中に食器洗浄機のお湯の温度管理はかくあらねばならないといったことを謳っている自治体はないような気がする。このブログで何度も俺は繰り返すが,役所の見方や捉え方などというのは常に時代遅れで上から目線である。
 何より情けないのは我々自身であって,衛生関連に限らず規範を自分たちで作れない,他者に作ってもらった規範に甘んじることで責任回避を図る傾向が俺を含めてこの国の国民性ではないかと常々考えている。

 話は飛躍し過ぎたが,雑菌噴射装置で洗った(『洗った』という言い回しが適当なのかについては甚だ疑問があるが)食器で飯を喰い,はしゃぎ回る族は今日もそこら中に,勿論ネット上にも溢れ返っている。そういう刷り込みで食べ歩き自慢のバカ共の書き込みを見ていると何かしら冷笑的なものが俺の中には湧いてくるのである。勿論俺は一人の客として,自分の知る限りそんな環境下で食器を洗っているような飲食店には絶対に行かないことにしている。何せ,身体が資本だからなw
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くるみ

確かに食洗機のある飲食店に於いてオーナーによる指導は無かったように思います。このカテゴリーの記事により大変勉強になりました。オーナーは食洗機を置いた事実に満足し安心し、だからその後で布巾で拭かせ、更に満足してるのですね!? お掃除も問いたら「本当は1週間に一度はした方がいいんだけどね」と。びっくりして個人的判断で毎日して帰りました。繁盛して忙しいのは解りますが、冷蔵庫も汚かったりしますね(+_+) 何せ時給なので時間内にすべてをやりおえる事を目指してました。老体?に鞭打って(笑)…暇なお店は冷蔵庫等はぴかぴかですが(^^; チェーン店はマニュアルが厳しいので その店では清潔でした。(私の知る限りで)
by くるみ (2013-04-23 14:04) 

HarryTuttle

くるみ様、いつもコメントありがとうございます。
私の記事がお役に立ったのであれば光栄ですが、そのオーナーさんもこういっては申し訳ありませんが知識のない人なのですね。

食器洗浄機の掃除は毎日です。必ず毎日行って頂きたい。
手洗いとは別の種類の手間がかかるだけの事であり、手間が全くなくなるわけではない事を使用者の方々には知っておいて頂きたいです。
繰り返しますが、食器洗浄機はお気楽横着マシンではありません。
by HarryTuttle (2013-04-23 15:01) 

ぴよんきち

手洗いの場合、キチンと殺菌した布巾をそれなりの数用意しないと、
ウエスで拭っているのと変わらなくなりますもんね。
小規模な施設で食器洗浄機を導入するメリットは
雑菌の温床になりがちな布巾を排除できることだと思います。

大規模施設になりますが、病院での早期導入も納得できます。

うちの家庭では、学生の頃、実験で親しんだ、あのペーパータオル
「キムタオル」を全面的に導入しています。
滅菌処理はしていないんですけど、ヘンに湿った布巾よりは
マシかと思いまして。
by ぴよんきち (2013-05-02 15:35) 

ernie_jp

食洗機も ちゃんと考えないと危ないものになるのですね




by ernie_jp (2013-08-27 02:34) 

HarryTuttle

ernie_jp様,コメント有り難うございます。
 食器洗浄機に限らず,販売する側の「ボタン一つで面倒臭いことを片付けてくれる便利グッズ」という売り方に問題があると私は思っています。
 利便性にはそれと同じだけのリスクが伴っているとこれまで私は繰り返し購買者に訴え続けてきましたが,「商売をやる気のない偏屈者」というふうにしか受け止められないことが大変多かったです。
by HarryTuttle (2013-08-27 10:25) 

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