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プレパーレーション機器の導入は減少傾向 [修理屋から見た厨房機材]

 本日最後のメニューは某国立病院でのフードスライサーの修理である。
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 製品はエムラのECAという機種である。

 このブログの読者の諸兄大半は既にご存知と思うが切載機器の一種である。正面の円形状の部分には回転する薙ぎ刃,または短冊切りやおろしのためのカッティングプレートが収まる。
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 食材を送るためのコンベアーが回転刃と連動して搬送動作を行う。コンベアーは上下二組あり,投入した食材を挟み込むようにして回転刃の収まるケーシングに送る。

 機材の説明はこの辺にして,修繕の内容は上側のコンベアーベルトが動かないというものだ。
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 上側コンベアーベルトの伝達系の画像である。構成は右から左に向かってチェーンのかかった青いスプロケットはナイロン製でこれは何らかの理由でコンベアーがロックした場合など,伝達系を保護するために敢えて柔らかい材質で作っている。それから二組のユニバーサルジョイントを介してコンベアーベルト駆動軸とのカップリングとなる。

 空転の理由は導入後約15年にもなろうかという個体なのでそろそろ青色のナイロンスプロケットに変形が出始めている模様でずれ止めのスペルが脱落し,この箇所で空転が発生している。
 スペルは5mm四方の面積で厚み3ミリ程度の鉄片であり,故障診断や補修作業よりもこの小さなパーツが機体内のどこに落ちているのかを探すことに時間の大半が費やされる。

 作業自体は特段難儀なわけではなく一時間程度で試運転までが終了するが,考えてみると新しい病院給食設備の設計に於いてはこの手のプレパーレーション機器(下処理機器)の比重が段々小さくなりつつある。
 この記事で取り上げたフードスライサーについては20年前くらい前までは300床以上の病院給食設備では導入されることは決して珍しくなかったし悪くても機材の価格が高価で予算的に厳しければ食材の送り動作を手動で行う合成調理機位は入っていたものだがカット野菜が普及するにつれて野菜の切載を院内で行う業務の量は激減した。
 その他にも米については無洗米が定着して洗米機のない施設が珍しくないし,魚については既におろされたものが真空パックされて入荷されたりするし,肉類についても筋や脂などの掃除されたブロックが普通に出回っている。二昔くらい前に比べると現在,病院や老人ホームの給食室から出る生ゴミの量は激減しているのではないか。まあ野菜についていえば,土のついたままの食材を病院という場所に持ち込むのは衛生上いかがなものかという見方は確かにあるのだろうが土とはそんなに不潔なものなのか,病院という場所は建物の全域にわたってそんなに衛生的な場所なのかと俺などは思う。

 ともあれ,結果として病院給食施設のゾーニングとして下処理セクションの占める比率は段々下がりつつある。しかしキッチンの面積自体が従来機比べて縮小傾向なのかというとそうではなくむしろ増える傾向にある。
 理由としては以前は下処理から配膳までが一つながりの空間であったのに対して0-157が騒がれるようになった時期からはキッチンの中を汚染区域と非汚染区域に切り分け,パーティションやパススルー機器で間仕切るレイアウトを保健所が推奨するようになったので新規の設計はどうしても面積を食うようになるし,選択メニューが普及したことによりストックしておく食材の種類が増えてストレージの面積が増えてくる傾向がある。冷凍食品やレトルトの半加工食材が増えてきたせいで150床程度の中規模医療施設でもウォークインタイプの保冷庫が設計に織り込まれるようになってきたといった変化がここ15年くらいの流れと俺は見ている。

 技能職である調理師にとって病院給食という分野で技巧を発揮できる場面として適当なのかという疑問は勿論あるのだが,一般論として刃物を持つことを認められた調理師に最初に与えられるのは野菜の皮をむいて切載することと聞いた。
 ピーラーやスライサー,カッター等々給食設備に於いてはこれらプレパレーション機器類はレストランや宴会場などの商業施設に比べれ多種多様に稼働しており機械頼みの下処理業務はホテルやレストランコックが給食業務の調理員に対する一種優越的な視線の根拠の一つにはなっていたと思う。
 勿論,切載や皮むきの業務が全て機械で行えるわけでもなく,給食業務の現場から包丁やまな板が消えてなくなることもあるわけはないとある時期までの俺は考えていたがここしばらくの推移を振り返ってみると案外それは実現しそうな気もしてきた。

 極論として,例えばファストフードの店舗にはこれらプレパレーションのセクションはない。下処理は全てセントラルキッチンで集約的に行われて配送されるので店舗には包丁もまな板もないわけだが、病院や老健施設の給食業務もそれに近い風景がそのうち現れてきそうな気がする。
 経営なり運営の効率化として下処理業務を切り捨て,複数施設へのサプライヤーである外部のCK(Central Kitchen)に外注委託するのはしかし、下処理から加熱処理という本来ならば一つながりである業務を分断してそれぞれを単なる作業員へと貶める流れでもあるように思えて少々淋しいというのが俺の見え方だ。
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コメント 7

007

以前「寿司ロボ」のコンベア速度調整をしたことを思い出しました、、、
代理店から割に簡単だと聞いてやってみました、、、数個の青いナイロン製スプロケットは静音の為と思ってましたが、駆動系保護が目的だったのですね、、、

ついでにシャリを試食しましたが、どーもイマイチ硬さが不足してる感じでした、。
by 007 (2014-05-30 04:11) 

くるみ

『土』とゆうより その中には食中毒の原因のボツリヌス菌等が住んでます。花壇用に滅菌した土が売ってる位です。でも小さい頃は土や虫が付いた野菜等 平気で食べてた記憶が…。技術の進歩と共に 滅菌、殺菌にも神経質になりそのリスクとして免疫力が弱い子供が増えているとか(>_<)。 包丁の無いキッチンが増えて行くのは 寂しい思いです(;_;) 未来は調理師は歴史上の存在になりそうですね(^^;。工場のオートメーションでも 最後の仕上げは人の手が不可欠と聞くと ちょっとほっとします(^-^ゞ。
by くるみ (2014-05-30 17:02) 

シアトル

食中毒は確実に防がなければならないですし、
病院はただでさえ弱っている患者さん達ばかりですから・・

とは言っても、近年は衛生にこだわりすぎなのではと思います
区画を区切り、パススルー機器を導入するのは良いと思いますが
何よりも調理員の意識レベルが左右するのではないでしょうか?
あまりにも部屋を区切ると作業性が悪くなり、朝から晩まで調理に追われる病院だと
どうしても、横着したくなるものでは・・

まあ、どこぞの飲食店みたく厨房内が害虫だらけよりはマシでしょうが・・
by シアトル (2014-06-01 11:59) 

HarryTuttle

007様,いつもコメント有り難うございます。
鈴茂の寿司ロボだと複数個使われていたように私も覚えていますが,コンベアーベルトを脱着するために手で触る箇所ではなかったかと。
 対面販売で使われる用途もあったようですから仰る通り静音対策というのは大いにうなずけます。

 トランスミッションなどの場合はモーター出力軸に釣りつけられるギヤのみ砲金製でそれ以降の伝達系は炭素鋼という構成はアメリカHOBARTの製品によく見られますね。
by HarryTuttle (2014-06-02 09:33) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメント有り難うございます。
極論すれば,院内調理は行わないという未来図もなくはないのです。
米飯は外注品を保温箱に入れて配送してもらい,副食はレトルトパックを再加熱するだけ。施設内で行うのは配膳と下膳だけというの結構現実味があるのです。
by HarryTuttle (2014-06-03 08:58) 

HarryTuttle

シアトル様,はじめまして。コメント有り難うございます。
区画を区切る衛生管理というのは,例えば生産工場規模で一日中そのセクションで働くような業務形態に於いては有効性があると思いますが病院や施設などの給食設備レベルでは交差汚染の根絶は無理だと私は考えています。

 30年前のようにゴム長靴に合羽を着ての調理作業でいいとは思いませんが現状,病院給食の衛生管理の考え方には随分ピントがずれていたり現実味のないことがあるように私は見ています。
by HarryTuttle (2014-06-03 09:09) 

MAX

ブログを楽しんで拝見させて頂いてます。
肉や魚、野菜でも調理直前にブロックからスライスした方が格段に美味しいですね!
でも合理化の波で、学校や病院給食まで外注になってしまったのは食べる側からは不味く、残念です。
給食業者は工場で大量生産して配送するので、前日から調理にかかり不味いのは当たり前です。
病人は食べる楽しみしか無いのに、この楽しみを奪われたら生きる希望も無くなる。
大阪では学校給食が業者弁当に変更され、お代わりが出来ないと不満が出てました。
汁物も減り、出来あいのパックや缶詰、ヨーグルト等のパターンの繰り返しが続くのも問題です。
MAX
by MAX (2014-07-14 05:55) 

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