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板厚2mmで製作するシンク [修理屋から見た厨房機材]

 シンクの排水共栓や排水トラップを交換する修理は10年前の開業以来減る一方だ。
こういう,設備屋だったら誰でもできるような仕事は俺のところにはなかなか回ってこない。他の同業者があらかた攫ってしまうからだ。

 それだけに,今日のようにシンクの排水トラップを交換する修繕に当たると結構嬉しい気分になる。こういう,なーんにも考えなくても勝手に身体が動いて終わるような作業は気楽でいい。どうもここ数ヶ月、俺が遭遇する修繕は切羽詰まっていたり難解だったりし過ぎる。俺の知能程度の限界を測られているようだ。
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画像は本文とは関係ありません


 シンクの排水トラップを交換する理由はその殆ど全てが取付け箇所からの水漏れである。皆の衆の家庭で使われているものもそうだが縁のつば状の部分は銀色をしており,一見,金属製に見えるがこれはコーティングであって材質そのものはポリエチレン(違うかもしれないが何しろ樹脂製だ)であるから熱には弱く,柔らかいので変形が起きやすい。つば状の部分がめくれ上がるように変形することで当たり面がなくなり,幾ら締め込んでも水漏れが起きる。

 トラップ自体の耐久性を求めると当然,金属製となるのだが鋳物,ステンレス,いずれも高価であり今日日は特注品として製作時に指定しない限り,組み込まれてくるトラップは樹脂製である。
 きちんとした接続工事が行われている前提で樹脂製トラップが変形する主な原因としては,
(1)シンクボウルに水をためて使う場面が多い
(2)熱湯を大量に流す場面が多い
(3)シンクボウルの板厚が薄い
以上3点がほぼ全てと言っていい。

(1)から(3)までを列記してみたが本当のところは(3)の板厚次第で不具合の現れ方は随分変わる。
ここで板厚ごとに比較してみると,
 まずは家庭用の流し台に使われているプレスシンク,俺の職分ではないが板厚はおよそ0,8mmが多いと聞いた。あの複雑多様な凸凹はプレス型によって成形されるものだ。シンクボウルの深さは大体180mm位だろうか。0,8mmの板をプレスして成形できるほぼ限界値がそれであり,当然ながらプレスされた箇所は引き延ばされるので板厚は薄く,200mm近辺にまでなると板材が裂けたりちぎれたりして製造上の歩留まりが悪化するので現状の深さが限度なのだと聞いたことがある。
 当選ながら,家庭用の流し台を裏から押したり叩いたりしてみれば歴然だがペコペコと薄っぺらい。煮立ったお湯をちょっと大きな鍋に一杯流してみると歴然だが『ボコン』と音がするはずで、これは板材が熱膨張を起こして膨らんだことを現している。

 業務用のシンクは標準的な板厚は1.0mmである。グレード分けされている場合は上級モデルだと1.2mmにスペックが上がる。メーカーの実名をここで挙げると例外的にフジマックのシンクは板厚の標準的なスペックが1.2mmで他社製品の上級グレード相当だ。このへんからは板厚があり過ぎてプレスが利かず,板材から切り出しては折り曲げ、小口を突き合わせて溶接する製法に変わる。

 画像に示したような樹脂製の排水トラップには特に家庭用とか業務用の区別はなく,どちらも同じようなものを組み込んでいるので、業務用の方がシンクボウルに水を溜めて使ったり熱湯をバンバン流したりする分、変形や破損は断然多い。

 ところでシンクボウルの板厚を1.2mm以上で製作するとどうなるかについて追記しておきたい。どのメーカーのカタログにも掲載されていない特注製作品のことで,納入される場所もごく限られる。
 俺個人の考えとしては,個人の営業店舗やスーパーのバックヤードのような場所以外では,シンクに限らず厨房板金のトップ板厚は1.2mmが好ましい。たったの0.2mm,と侮るなかれ,実際に出来上がったものを比較してみると歴然だが,例えばワークテーブルのトップが1.0mmだと下地材なしではぼこぼこに凹んで頼りない。業界の悪しき通例として下地材にはベニア板やチップボードを使ったりしてたことが多く,衛生のことを保健所が喧しく指導するようになった昨今こういう仕様は好ましくない。下地材なしである程度の剛性を確保しようとすればどうしても1.2mmは必要で,これはシンクボウルの剛性についても同様だ。
 正確に発生件数や頻度や確率をカウントしたわけではないが,冒頭書いたようなトラップ交換の発生頻度は薄い板厚のシンクで起こりやすそうに覚えている。(家庭用は除く)

 これが更に1ランク上がって板厚が1.5mmとなると、俺の経験した現場では景気が良かった頃のプリンスホテルチェーンで平準化されていたスペックだ。施工現場によっては搬入してレベルを出し終わり,接続工事が済むと溶接工を現場に動員して機材同士の合わせ目を溶接して研磨し,外見上は一繋がりにしてしまう。
 そのようにして収まったステンレス什器は当然ながら最早単体では室外への搬出はおろか取り外しが出来ず,ぶった切って解体する以外には撤去のしようがなくなる。継ぎ目にゴミがたまるのを嫌って行う施工なわけだが一旦収まったらその建物と同等の耐久性が求められるような現場の場合はこのような仕様となる。
 
 厨房板金として通常使用する最も厚い板厚は2.0mmではないかと思う。
これくらいになるともう,プラント設備のタンク並みの仕様だ。ホテルオークラあたりに納入された板金類がこの仕様だったと聞いている。当然ながら搬入後の溶接はお約束で建物が老朽化して取り壊されるまでリプレースなどありっこない。
 実は俺も会社員だった頃,某国立病院の統廃合プロジェクトを担当した際に新設品として材質はSUS304(18-8)板厚は2.0mmでの製作を提案し,医務局の決裁を頂いて納めたことがある。おまけに先方からは通常あるようなパイプ脚ではなく,すのこへの収納物が隠蔽できるようにキャビネットシンクとして製作してほしいというとんでもない注文がついた。やっぱり国というのは金があるもんだと俺は仰天したものだ。

 納入価はもう思い出せないが,通常カタログに載っている同サイズのシンクの4倍くらいはいったと思う。板厚があって剛性の高い板金製品はよく鎧に喩えられるが,通常の業務用板金の二倍も厚みがある上にキャビネットタイプ(外装板はさすがに1.2mmにしてもらったがそれにしたって破格のスペックだ)となると鎧だってもう少し華奢ではないかと思える。
 搬入の際には通常二人で運ぶようなサイズのシンクが4人掛かりでないとしんどくて仕方がないくらい重い。竣工後,ある調理員は使い回しの移設品である某メーカーの標準的な仕様のシンクをグニャグニャして頼りないと形容した。板厚1.0mmの、ごく一般的な業務用の流し台だ。

 板厚2.0mmのシンクとはどういうものかというと,例えば5升炊きの炊飯器の内釜をガンガン放り込んでも凹まないのは勿論のこと,沸騰したお湯を20リッターくらい一気にぶちまけてもウンともスンともいわない。シンクボウルに歪みが出ないので樹脂製の排水トラップも変形はまず起こらない。よって,俺の修理の機会もなくなってしまう。売れる時には有り難いがその後のビジネスはない。オーバースペックとはそういうものなのだがいいんだか悪いんだか。
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コメント 2

007

排水トラップは部品として入手出来ないし、電気に特化していたので、交換修理はフジマックさんに依頼していました、、、

調理員は躊躇なく熱湯をそのまま直に廃棄するので、水を流しながら出来ないかな、雑な扱いだな?即ダメになるなと思って見てました、、、{自分の店ならやらないだろう?、いや独立出来ないからこそこの程度か?}、、、
意見すればニラマレルので無益な事を控えてましたが、、、
床掃除で平気でコンセントにホースで水を掛けたヤツには「ばかやろう!」と一喝しましたがとぼけてましたね、、、
by 007 (2014-03-18 05:30) 

くるみ

このブログにお邪魔して記事やコメント欄を拝見させて頂き、様々な事が勉強になりました(>_<)。 それ以前の数年前はお恥ずかしながら勝手な思い込みで 汚れが取れたり消毒になると、敢えて茹で汁をシンクに思い切り流してましたm(__)m (自宅でですが)。ポコッと言う音は苦痛の叫びだったのですね(^^; 尤も今では茹で汁もお料理に必要な事も多いので必然的に そんなバカな事はしなくなりましたがf(^^;。 mm単位でそんなに違うんですね!?定規片手にビックリしてました。素人の訪問で、済みませんm(__)m。 回数は減りますがせめて本体より交換部品が高価なら良かったですね? レコードの針のように。
by くるみ (2014-03-18 10:28) 

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