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脱力の朝と給茶機についての雑感 [修理屋から見た厨房機材]

 お仕事の気合いが入らないのは今日が土曜日だからだけではない。
昨日,俺は給茶機の修理で日付が変わるまでドタバタしており,しかもその修繕は完了しておらず,大変グダグダな気分で寝床に就いたのだった。

 完了できなかった弁解をするつもりもないのだが,給茶機というのは厨房機材の範疇で捉えていいものなのかに就いてある時から俺は疑問を持つようになった。何というか,扱い方の流儀が異なっているように思え始めたのはいつ頃からだろうか。
 俺があんちゃんだった頃,ウィークリータイマーとかコンピューターボードとかを持たなかった頃の給茶機はもう少し見通しのいい機材だったはずなのだが今はそうではない。
 ここ十数年の給茶機は随分とスタイリッシュになり,高機能にもなった。何といっても20年くらい前にはお湯とお茶のサービスした出来なかったのと同じ外寸の筐体にウォータークーラーの機能まで詰め込んでいるのだから内部構造が錯綜しない方が不思議なくらいのもんだ。

 給茶機は厨房内に置かれるものではないから狭義に於いて厨房機材なのかというとそこからは外れているがホールに置かれることはあり,サービスカウンター用の機材などと同列に扱われることは珍しくないから厨房屋が扱うことは珍しくなく,広義に於いて厨房機材ではある。
 但し,人間お茶を飲む場所は別段食堂に限った話ではないから事務所やら諸々の公共スペースやらにも給茶機は置かれており,コーヒーメーカーや飲料水の自動販売機と同じカテゴリーでくくることも不自然ではない。
諸兄もどこかで見覚えはあるだろうと思う。
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画像は本文とは関係ありません。


 給茶機の製造元は大きくは三社,ホシザキ,富士電機冷機,東芝である。
このうち東芝は製造をグループ会社に移管したとの情報がある。いうまでもなく東芝は超大会社であり,給茶機みたいなマイナーな商品を今まで作り続けていたことの方が不思議ではある。日立がいまだにミートスライサーを作り続けていたり,かつては三菱重工がソフトクリームのフリーザーを作っていたりIHIが食器洗浄機を作っていたりしたのと同じく,大企業にとっては盲腸みたいな位置づけの商品なのだろう。
 そういう意味では富士電機がいまだに給茶機を作り続けているのもやや不思議なのだが、ここは三洋電機の自動販売機部門を買収した事例からもわかる通り,サービス機器がしかるべき比重を占めているので当分,それなりのリソースを割いて商品開発を続けそうに思う。

 こんな風に製造元が全て電機メーカーであれば図式はわかり易いのだが、ここにホシザキという会社が登場すると複雑な色合いを帯びて来る。
 改めて考えてみると,ホシザキという会社は大変微妙なポジションにいる。
旧来の厨房屋と言うにはその組織は巨大で,指導層は官僚的でさえある。ブランドイメージは物凄く浸透しており,30年も前ならいざ知らず今であればどんな営業マンだろうがホシザキの製品でありさえすれば一定のセールスを期待できるのではないだろうか。厨房屋業界でいえば疑問の余地なくガリバーである。
 しかし反面,電機メーカーから見た場合,ホシザキを同業者として認識するメーカーは恐らく一つもないだろう。山ほどある事業展開のうちのある一部で競合することのある会社,という認識が関の山ではないだろうか。場合によっては自社で製造したパーツなり製品のバイヤー,という程度かもしれない。

 現に,ホシザキが販売するプレハブ保冷庫で使われる冷凍機は三菱重工製品にペンギンマークのプリントを施したものだし,冷蔵機器に組み込まれるコンプレッサーはほぼ全て東芝製である。ホシザキはあくまで製品のメーカーであってパーツメーカーではない。このへんが総合電機メーカーとの全体像の差であるとも言える。

 恐らく現在,給茶機のシェアを調べてみたとすればトップに来るのは恐らくホシザキではないかと思う。給茶機には住設機器とか事務機,自販機がらみといった販売ルートはあり,そちらでは富士電機や東芝がそれなりの販路を確保しているとは思うがホシザキもいつまで経っても直販飛び込み営業一本槍の会社ではないわけで既にこの販路での橋頭堡は確保しており,いずれは独占的なシェアを占めそうな予想を俺はしている。

 改めて書くが,所謂旧来からの厨房屋のうち、給茶機を自社で製品開発しようという動きは現在のところ全くない。一部専業メーカーで給茶機と称して商品化された機材はあるが機能も価格も別物であり,同列に語れるものでは全くない隙間商品である。
 20年以上も前のように全てリレー制御で構成されるおおざっぱな機材であった頃ならまだしも,今日日のように込み入った内部構造だったり樹脂成形パーツが多用されるようになってくるととこれはもう厨房屋の出る幕ではない。言い方を変えれば電機メーカーの製品作りに何とか追随できる製造能力を持った唯一の厨房屋がホシザキである。

 諸兄は既にお分かりだろうが,開発能力とか製造能力に於いて電機メーカーは厨房屋の上位に位置するという見え方で俺はこのテキストを書いている。疑問の余地はないだろう。
 20年以上前の構図でいえば,東芝や富士電機の給茶機は明らかにホシザキ以上の品質だった。これはもう歴然たる差であって会社勤めをしていて営業も兼務していた頃の俺は第一に富士電機の製品を推していたがおよそ故障とは無縁で,売ったことを忘れるくらい修理依頼の来ない製品だった。

 しかしある時期から,給湯と冷水の機能を同一筐体に詰め込むようになったあたりからこの歴然たる差はかなり曖昧になってきたのではないか。ホシザキの能力が成長し,電機メーカーはこのニッチな商品についてさほど真剣に取り組まなくなってきたという,姿勢なり関わり方の変化がそこには見て取れるわけだが減価償却期間を過ぎて2,3年経過したあたりでリプレースを考慮してもいいくらいの派手なぶっ壊れかたをするケースに,どちらかというとホシザキの製品で遭遇するのがここ数年の俺の状況である。
 最適化を突き詰めると製品はこんな風になる。家電製品などではよくあるケースと聞いた。その意味ではホシザキという会社は電機メーカー並みの開発能力をこの製品については身につけたことになるのだろうか。これは半分賞賛,半分は皮肉である。

 修繕に当たっての俺のグダグダ具合についてはいずれ無様な記事を上げておきたいと思う。今日日,給茶機の修理というのはノーヒントで行うととんでもなくはまる。疲れた。
 
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コメント 4

007

大分以前のSマン時代、、、
電気の苦手な新人の小生は、かき氷自販機の複雑なシーケンスに比し、給茶機のアナログ的動作を対象的に感じてました、、、

給茶機は多機能化で自販機並に成った?のでしょうか、、、
H社は同族経営で系列S会社も幹部は身内で固めてましたから、、、
まあ、下の者は・使われる事・に違いは無いのですが、。
by 007 (2013-07-27 18:13) 

63H

ダイソンも修理屋には星崎みたいな対応でどん引きしました。
東芝の給湯器は今鳳商事に業務委託してますね。
by 63H (2013-07-28 12:27) 

HarryTuttle

007様,いつもコメントありがとうございます。
かき氷自販機!VISですね。修理には難儀することの多かった機種で私も結構手を焼きました。いつ頃かは不明ですが既にカタログ落ちしているようで,ホシザキ程度の開発能力ではああいった自販機は無理なのだと思います。 サービス機器や自販機に強い富士電機あたりが本腰を入れればもっと優れた製品は可能だったのではないでしょうか。
by HarryTuttle (2013-07-29 23:37) 

HarryTuttle

 63H様,いつもコメントありがとうございます。
ダイソンは私の守備範囲ではありませんが,掃除機のメーカーなのですね。
色々な意味で,メーカーというのは社外の同業者に対してクローズドな体質になりつつあるようにここしばらくの私は感じています。

 設計,開発を行う部署と現場サービスマンとの乖離も年々大きくなっていますね。どこのメーカーも独りよがりな製品作りが蔓延しているように見えますが。これまた自分の都合ばかりでわがまま放題の使用者が年々増え続ける中で割を食うのはいつも我々現場で修理に従事する人達で頭が痛いです。
by HarryTuttle (2013-07-31 13:12) 

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