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横河電子機器が食器洗浄機の事業譲渡 [修理屋から見た厨房機材]

 日本国の屋台骨みたいなスーパー大企業がひっそりと業務用の食品機材を製造しているケースは幾つかあって,それは企業全体からみれば盲腸みたいな位置づけでしかなく、バブル崩壊以降の約20年でこの国の製造業は坂道を転がるように国内事業を縮小させていく中でこれら盲腸をさっさと切り捨てていった。

 俺は以前の記事で大企業が手がけるところの、およそそのイメージとはそぐわない製品を三つ挙げたことがある。
(1)三菱重工のソフトクリームフリーザー
(2)IHIの食器洗浄機
(3)日立製作所のミートスライサー

 上に書いたうち,(1)は完全に手仕舞い,(2)は北沢産業に事業譲渡,(3)は現在でも事業を継続しているが年商10兆円を超える日立製作所の年商のうち一体どれくらいの比率を占めているのかを考えると、いつ事業を終了させてもおかしくはないのではないだろうか。

 というところでもう一つ,前回記事を書いた時に漏れていたものがあった。
今回取り上げる横河電子機器の食器洗浄機がそれだ。親会社と言っていいのかどうか知らないが横河電機は世界に冠たる計測器メーカーで,若い頃に電気の勉強に勤しんだ俺などからすると尋常でない神聖性を感じるわけで、働くようになってからビティーというブランド名で販売されてる食器洗浄機の製造元が横河電機のグループ会社であり,アカデミズムの体現者みたいな企業が食器洗浄機を製造していることを知った時には一体全体何が悲しくて業務用厨房機材みたいにヤクザな業界に脚を突っ込んでいるのかが不思議だった。

 大企業が多々展開する事業のうちのかなりマイナーな事業のうちの一つらしく,横河(というよりもビティーと言うブランド名での方が俺には馴染み深いのだが)の食器洗浄機が沢山売れて方々で見かけるようなことはなかった。
 同じ大企業が製造する食器洗浄機でいえば,IHIの洗浄機の方がまだ出回り数は多かったのではないだろうか。しかしバブルが弾けて外食産業の市場はヤクザまがいのコンプライアンスがまかり通るようになり,食器洗浄機という機材が本来的な責務から逸脱して単なる皿洗いパートの人件費節約マシーンとしてデタラメに乱売されまくった結果この分野での覇者となったのは毎度お馴染みのペンギンマークであった。

 後発であるガラの悪い企業、つまり業務用厨房器材の専業メーカーが安価な模造品を必死に量産して必死に売りまくり、シェアを伸ばして市場を席巻するのはこの記事で取り上げるような、役員が経団連のお偉方に収まるような由緒正しき大企業にとっては真面目に対抗策を練るのも馬鹿馬鹿しいような現象なのかもしれない。
 先にこの事業を北沢産業に譲渡して手を引いてしまったIHIにつづいて横河も食器洗浄機の事業を中西製作所に譲渡して手を引く事になった。

 妥当な分類の仕方ではないのかもしれないが、食品機械の性格付けをあえて乱暴に分けてみると機械メーカー的な製品と電器メーカー的な製品とがあるように日頃漠然と考えている。
 食器洗浄機についてこれを当てはめてみるとIHIは前者で横河電子機器は後者であるように俺は見ている。勿論、一つのメーカーの大から小までのラインナップに一貫してそういう性格付けがあるわけではないが全体的な傾向としてそういう印象を俺は持っている。

 横河電子機器(ビティー)の食器洗浄機は制御回路をプリント基板に集積化して実装した先駆者的な存在で、食器洗浄機については俺はIHIによって育てられた来歴なので当初、そういう設計思想には随分懐疑的というか否定的な見方をしていたのだが、実際にこのメーカーの修理を何度か手がけてみると案外電子部品実装の信頼度は高く、厨房メーカーの粗悪な小型洗浄機ではしょっちゅうある電装部品の不具合や制御基盤交換の交換事例が記憶にない。そこには母体である横河電機のクオリティが反映されているような気がするのは電気工学科出身者である俺の変な思い込みかもしれないが。

 それはさておき、譲渡された側の中西製作所がこの持ち駒を今後どのように活用するのかについて俺は少なからず興味がある。
 中西製作所は主に学校給食分野を得意とする、という事は洗浄機の主体はコンベアータイプの大型機であり、アンダーカウンターやボックスタイプなど小型機がバリエーションの大半をなす横河電子機器の製品を今後のプランニングの中にどのように織り込んでいくのかは個人的に興味深い。

 中西製作所の手がける商業店舗のうち大きなウェイトを持っているマクドナルドでの導入なんて事もあるのかもしれない。(従来的には三洋電機、現在はパナソニック製品が使われている)
 
 俺は既に中西製作所の協力会社としての登録を済ませて今後の修繕業務を行っていく事を以前の記事に書いたが、気がかりなのは事業譲渡前の横河電子機器の頃の販売チャンネルで既に収まっている既存ユーザーへの対応で、その中にはかの悪名高きワタミグループが含まれている。
 学校給食センターというお行儀のいい得意先が中心である中西製作所とワタミとでは企業のカルチャーが明らかに異なるのではないだろうか。俺の見え方としてはワタミのようなチンピラまがいの胡散臭い企業とうまくかみ合うのはタニコーとかマルゼンとかホシザキみたいな厨房屋ではなかろうかと思うのだが。

 実は俺の住んでいる田舎町にもワタミの展開する居酒屋店舗が何件かあり、そのうちの一件の新築現場施工を手伝った事がある。受注したのは俺の元の勤務先で、その店舗に納める食器洗浄機が横河電子機器製のものだった。ワタミ本部の指定による選定だったとのことで、俺の後任の営業所長は自社製品が選定されなかった残念さよりも他社製品なので今後の修理責任がなく売り上げがあるのでラッキーだ、みたいな事を話しており、それまで彼からこのブラック企業の悪評を散々聞かされていた俺は”おお、そりゃ良かったな”と同調していたのだが、その後の紆余曲折でこういう事業譲渡が行われるとなると今後、深夜の2時頃にワタミの店舗から俺の携帯電話あてに修理以来の電話がかかってくるようにでもなりはしないかと結構ダークな気分で俺はこのニュースを読むのだ。
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元社員

「電子機器」は横河グループ内の業務競合を解消するために、無理矢理再編合併したような、先の見えないものだった。厨房機器は存続会社の「日本電子機器」の商品だったが、昨日まで防衛庁と商売していた消滅会社のメンバーはそんなものをうまく売れるものでもない。辞めるか残るか勝手にしろの空気が流れる中、私はやめた。やめさせられたのかもしれない。今では電子機器は横河グループを追い出されている。
by 元社員 (2022-03-22 18:33) 

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