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HOBARTのボックスタイプ洗浄機型式についてのある想像 [含蓄まがいの無用な知識]

今回は手短にいく。

数日前,ホバートの食器洗浄機についてちょっと書いた。
http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2011-10-08

現在,アメリカ製のボックスタイプ洗浄機はAM-15というモデルナンバーを有している。
37719600-260x260-0-0_Hobart+AM15+2.jpg

 ボックスタイプ洗浄機でありながらなんと,1.5kwの洗浄ポンプをぶん回すという物凄いスペックだ。これは通常他社製品が使っているポンプの2倍の出力であることを表している。値段だって当然というか例によってというか物凄く高いのだろう。
 ついでに言えば,このモデルチェンジでやっとホバートの食器洗浄機は三方開きのドアを採用した。厨房機材に限った話ではないが全体に,アメリカの工業製品というのはとっかかりに物凄く考え抜かれたコンストラクションで製品化するが,その後はなかなかその骨格部分を変えたがらない保守的な傾向がありそうに常々俺は考えている。
 俺の生息地は日本のはずれの田舎町で物凄く貧乏な土地だからこういう高価な機器を購入できるだけの金持ちバイヤーは絶滅してしまったかもしれず,まだ一度も現物を拝んだ事はない。

 現地法人のHPでは実に素っ気なく紹介されているが,ワールドワイドな視点でいえば今も昔もアメリカホバートのボックスタイプ洗浄機は常に一機種で,それが世界標準である。
http://www.hobart.co.jp/warewasher.html#2

 その前の機種であるAM-14は何台か売った事があるし,その頃は日本国もバブル経済真っ盛りだったのでわりかし売れた方だと思う。
hobart-am-14.gif

 更にその前はAM-12という機種である。
3730ghg_27.jpeg

 外見上はAM-12とAM-14は大変似ており,見分けがつきにくかったように覚えている。スペック上の明らかな違いはコントロールボックス内の実装で,制御系にプリント基板が入り込んでくるのがAM-12からなのだろうが,12はパソコンみたいにスロットの沢山ついたマザーボードに何枚かのドーターボードがささっているのに対してAM-14ではワンボードに集約化されている。ICの集積密度が上がったので簡略化できたという事なのだろう。俺がいじくり回していたのはAM-12とAM-14だけで,これ以前の機種は前に書いた通り現物を見た事がないのでアップした動画のAM-9とAM-12の間にどういうモデルチェンジの変遷があったのかは俺には分からない。

 モデルナンバーはAM-12,14,15という変遷を辿るわけだがどうしてAM-13という型式が存在しないのかが以前から時折,意識の片隅に引っかかっていた。
 それで最近ふと思いついたのだが,アメリカはキリスト教の国であり,13という数字は不吉なものとして扱われるので縁起をかついで一つ飛ばしたのではないだろうかとちょっとした仮定を抱くようになった。

 だから何なんだといわれればその通りで,大変くだらない話だが一つ疑問が氷解したような気がしてすこしばかりすっきりした気分だ。いずれ現地法人の方にでも聞いてみたい。
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達人の記憶を辿る [含蓄まがいの無用な知識]

 20数年前の事を書く。当時の俺は30歳そこそこで自分で言うのもなんだが今よりは結構馬力があったし無理押しも効いた。

 当時の俺の勤務先の所長が食器洗浄機の商談を決めた。収容数300名くらいの旅館にHOBART FTXを納める、そういう内容だ。
 ネックになるのは設置場所が地下になるという事で,分割搬入してから組立作業が発生する。
FTX.jpg

 俺の勤務先では初めての作業なので本社からは一人,協力会社の人間を手配してもらう事になった。元は輸入元でサービス業務の頭を務めていた人物との事だった。現地の社員である俺と2名作業で組み立てるという算段である。
 俺は結構気合いを入れて当日の現場に臨んだ。数日前から退勤後にはマニュアルのコピーを家で穴の開くほど睨みつけて組み付け構造を全部頭の中に叩き込むくらい気合いが入っていたのだ。田舎者でも勉強はしているのだぞ,というところをアピールしたいという気負いがあったのという事なのだろう。ま,若かりし頃だった,と。

 当日,俺はありったけの商売道具を車に押し込んで現場に入った。機体の形式は1-A-1という最小のもので3分割された1タンクだ。
 搬入業者に混じって機体を地下まで運び終えたあたりでいつ現れたのか現場スタッフの中に見慣れないじいちゃんが混じっているのを俺は訝しく思い、その人物が組み立て作業の頭である事を知って怪訝さは驚きに変わり,次に不安が湧いてきた。
 その爺ちゃんは何とも見栄えのしない風体で,しかもしかめっ面をして肘の辺りを擦っている。聞けばリウマチだったか神経痛だったかの持病があるという。
 加えて爺ちゃんは殆ど丸腰で,バスタオルにくるんだ何かを小脇に抱えているだけである。納入先の宿屋に宿泊する予定だったので中身はどうせ着替えだとか洗面道具なんだろうと俺は想像して腹が立ってきた。一体こいつはやる気があんのか!
 
 機体の仮連結を終えたところで搬入業者は引き上げ,現場には俺とさえない爺ちゃんの二人が残った。何か物凄く屈強そうな人物が現れるはずだと事前に思い込んでいた俺は爺ちゃんの風貌や脱力気味の挙動に不安を募らせ,これは俺が死にものぐるいで働かなければならんと自分に言い聞かせた。

 「さあて,それじゃあぼつぼつ始めるかい」爺ちゃんは小脇に抱えたバスタオルを拡げて洗面道具入れみたいな薄汚いポーチを取出し、それが組み立て工事に使う道具であるらしい事は分かった。
 しかしその中身を見て俺は仰天した。内訳は今でもはっきり覚えている。

1:10mmのボックスドライバー 2:10mmのコンビネーションレンチ 3:1/4のソケットレンチと10mmのソケット 4:PH2のドライバー(普通の+ドライバー) 5;サイズ不明の精密ドライバー一本 6:スリップジョイントプライヤー 7:250mmのモンキーレンチ

 たったこれだけだ。全長4mで3分割されたコンベアータイプの食器洗浄機をこれっぽっちの道具で組み立てられるわけなんかねえだろうが、何を考えているんだこいつは!と俺はまた腹を立てた。この爺ちゃんには結構なギャランティが発生しているのだ。

 しかしだ、いざ二人で組み立てに取りかかると俺は別の意味で仰天する事になった。
爺ちゃんの作業スピードは圧倒的に速かったのだ。FTXは連結箇所の殆どがM6のボルトとナットで構成されていてその数は膨大なものなのだが俺が一カ所やるうちに爺ちゃんは二カ所以上を軽々と片付けていく。『おまえの手が遅いんじゃないのか』という諸兄のご指摘はある程度正しいが、それを差し引いても爺ちゃんの手の早さは尋常ではなかったのだ。
 手を動かすのを忘れてその挙動を凝視する俺の事など一向に意に介する様子もなく爺ちゃんは黙々と組立を進めたのだが、眺めているうちに俺はある事に気づいた。
 
 爺ちゃんの作業はさっぱり早く見えないし,一生懸命やっているようにも見えない。であるにも拘らず工事の進み具合は当時の俺の日頃から考えてやっぱり断然早いのだ。それは例えていうと,一流の運動選手のフォームに通じている。理屈に叶った挙動しかしない,余計な挙動がない,次に何をやるかが数手先まで読めている。だから爺ちゃんの工事作業にはそもそもハプニングが発生しないし傍目から見ていて全然スリリングでない。とどのつまり彼は正真正銘の達人で、俺はと言えば田舎でお山の大将を気取っていただけの,馬力だけが取り柄のウスノロである事をこのとき思い知らされたのだった。

 加えて爺ちゃんは先に書いたように貧相な装備であるにも拘らず,格段俺にあの道具を貸してくれなどという事もなくスイスイと工事を進めていく。俺が自分の道具箱から何か取出して『これ使いませんか?』と差し出しても「いいよいいよ大丈夫」といった調子だ。
 彼の持ち物でこなせなかった箇所と言えば,排水配管の接続径が日本の規格と異なるものだったので配管部材のVPをトーチで暖めてオーバーサイズさせておいてくれというただ一カ所でしかなかった。
 
 結局その時の俺は殆どテコみたいな働きしかしておらず,昼すぎから始めた組立作業は夕飯頃には終わっていてあとは電気や配管の接続作業を残すのみとなった。
 爺ちゃんは大岡越前の放送に間に合わせなきゃな,と手仕舞いにかかり、翌日の試運転調整を残している俺は同じ宿屋に泊まる事になった。
 部屋で爺ちゃんと一杯やりながら俺は彼が元々は旋盤やフライス盤といった工作機械の整備を生業にしていた事を知り、合点がいった。ああいった機器から見れば食品機械なんぞ確かにちょろいもんだ。そのようにしておれはこの爺ちゃんに畏敬の念を抱くに至り、以来この時の爺ちゃんは今に至るまで俺の目標であり続けているのである。

 翌日,接続工事の監督をしながら俺と爺ちゃんは試運転が始まるまで雑談に興じた。そのとき俺は高額のためにと爺ちゃんの持ち物である工具を拝見させて頂いた。
 別段,特別なものを使っているわけじゃないけど,と言いながら彼が渡してくれた袋の中にあったドライバーは赤い半透明のグリップで,スイスどうとかと刻印された,田舎町の住人である俺にはそれまで見た事もないメーカーのものだった。
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 それがPBというメーカーの製品である事に俺が気づくのはそれから20年近く後になってからの話である。
前回のエントリーで俺はドライバーを入れ替えた話を書いたが、それはそろそろ俺もこの時の爺ちゃんにあやかって何かと思いついたからというのが購入の動機というわけだ。但し,俺の腕前は未だに爺ちゃんに追いついていない。遠く及ばないままだ。
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冷凍冷蔵庫大改造の巻(2) [含蓄まがいの無用な知識]

 『大改造』などと大仰な,そんなもん幾らでも出来らあ,と鼻白む同業者の諸兄は勿論いらっしゃることと思うが一旦つけてしまったタイトルなので一つご勘弁を。

 準備として,どんなコンプレッサーを選定しようかと考えた。
俺個人の志向として,業務用冷蔵庫(冷凍庫を含む)は負荷変動が激しいので本当はローターリーとかスクロールという形式が本来的に好ましいと思えない。でかい,重い,うるさいで古臭くはあるがここはレシプロを選んでおきたい。
 レシプロコンプレッサーにしておきたかった理由はもう一つあって,相回転の極性を持たないので電源接続をどんな風にしても破損の心配がないことを挙げておきたい。
 対象個体で焼損したコンプレッサーはCF56とかいう印字のある縦置きロータリーで、当然ながら逆相防止リレーで保護されている。ラインポンプなどでは見かけるがメーカーによってモーターの回転方向が違っている場合がある。電気的には逆相回転だが機械的には正転している(松下がそうだ)ケースがある。
 同一パーツはもう手に入らないので代用品を使わざるを得ないのだが,ポンプと違って密閉式のコンプレッサーは回転方向が目視できない。
 調べてみたわけではないが電気的には逆相接続が正しいコンプレッサーというものがあったとして,正相接続で保護がかからずに機械的に逆転してしまうようなことがもしもあったとすればそのコンプレッサーは一瞬でパーになり、俺は請求書に書けないもう一つのコンプレッサーを買い込まなければならなくなる。避けたい事態だ。

 レシプロコンプレッサー,というところで選定は落ち着いたがどこから購入しようかと物色し始めるとメーカーごとの価格差に当惑する。
 大和に問い合わせても失敗した時の責任問題を気にして取り合ってもらえない。ホシザキや福島工業がこんな依頼に応じてくれないのは問い合わせをする前から分かりきっていることだ。
 三洋に問い合わせてみると,俺への仕切り価格は8万円弱だった。400Wのコンプレッサーがだ。何が根拠になっている値段なんだか知らんが無茶苦茶に高い。俺の経験則からいって輸入機械並みの価格設定だ。
 幸いなことに,俺の元の勤務先は自社製冷蔵庫に使う同一スペックのコンプレッサーを試算してくれた。製造元は松下で金額は三洋の1/3以下の仕切りなので選択肢としてはこれで決まりだろう。物理的に実装可能かどうかをロクに考えもせず値段につられて俺は簡単に発注した。

 出たとこ勝負の見切り発車は毎度のことだ。得意先からの催促もあって俺は現場に乗り込む。
改造前の機械室周辺の様子は以下の通り。
08030001.jpg
 汚く思うだろうがあちこち見た経験でいえばこれでもまだマシな方だ。衛生管理どうのだとかやかましいことを言って白衣を着ろだの手を洗えだのとこうるさい施設は増える一方だが,そのくせ脚立をかけて冷蔵庫上部の機械室を掃除しているなんていう施設を俺は一つも知らない。いつまで経っても埃だらけのまんまでほったらかしだ。

 焼損したコンプレッサーは先に書いたように小型の縦置きロータリーで、小型2コンの冷凍冷蔵庫やコールドテーブルなど,冷凍機ユニットをコンパクトにしたいときにはメーカーを問わずよく使われるものだ。
 但し,俺の見方では無理に小型化しすぎているようにどうしても思える。オイルの保有量が少なく,運転温度も高いのでオイルクーラーの配管を必要とするし液バックには神経質らしく低圧配管には必ずアキュムレーターをどこのメーカーもつけている。今までの事例でいえばオイル上がりによる故障が結構多かった形式だ。

 コンプレッサー自体は小さいが付属機能を沢山つけなければならないので実装はややこしく,現実的にはそれなりにスペースを必要とする。

 コンデンサーも冷媒の熱交換以外に別系統としてオイルクーラーを持つものになる。
08030002.jpg
 画像左手の細い配管2本がコンプレッサーのオイルクーラーで、コンデンサーブロックのうちフィンチューブ1ターン分をこれに割り当てている。今回使用する代替コンプレッサーにはオイルの配管がないのでここは使わなくなる。配管を多少省略できる分だけ実装の空間は取れるが,個体の外寸は大違いなのでそれでも心許ない。

 あれこれ考えても仕方がないので、やおら回収機と溶接機を持ち出し既存の配管をばらしにかかる。
取り外した破損品と代替品を二つ並べてみると明らかに大きさが違う。破損品は右である。
08030003-2.jpg

 この明らかに二周り以上もでかい代替品をどんな風にして納めようかというところでしばし長考する。(以下続く)
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冷凍冷蔵庫大改造の巻(1) [含蓄まがいの無用な知識]

 歳をとって場数を踏めば作業も手慣れてきて余裕でさばけるようになるものだと若い頃の俺は見ていたが実際にはまるっきり正反対で,会社員を辞めて修理屋を開業し,歳をとって身体にもあちこちガタが来るようになってくるにつれて舞い込んでくる仕事は天井知らずにその難易度を高めつつある。
 もういい加減、少しは楽をさせてもらいたいもんだと内心ぶつくさ言い続けながら仕事をしている。

 今回のテーマは某産婦人科病院給食室設置分の大和冷機製冷凍冷蔵庫で、1999年製の個体だ。
冷凍庫が冷えないとの修理依頼で,原因としてはコンプレッサーの焼損である。大事ですな。大和に確認を取ると使用冷媒R-22の当該コンプレッサーは流通在庫を含めてもうありませんとのことで俺は大いに参った。
 病院の事務方はこれまた大変手強い。想定しているリプレースの時期は再来年あたりでそれまでは何が何でも動くようにしてくれと仰る。俺はいつもの如く板挟みで大変困った。

 思案に思案を重ねた挙げ句,俺の思いついたのは現行新冷媒のR-404A用のコンプレッサーに乗せ変えて改造してしまうというものだ。
 こんな改造プランの相談には製造元である大和冷機工業は勿論乗ってくれるわけがない。案の定,(そりゃそうだ)12年も使ったのだからリプレースを考えてくれたっていいでしょう,仕切りは安くしますから何とか宜しく御願いします,と営業トークが始まる。何せ製造元なので当然だが,大和の社内でそんな改造の実例は一つもないという。現行のR-404A用コンプレッサーのこの件での頒布も責任が持てないのでNGとのことでこれは全くもって致し方ない。

 しかし俺の性分はというと,人からダメだとか無理だとか言われれば言われるほどやってみたくなるのだ。メーカーの協力が得られないのなら自分で八方駆けずり回って何とかしてやろうでねえの。無理筋の修理だから何か恩着せがましい講釈をたれて修理代に色を付けてもらって一儲け,なんていう思惑だってあるのだ。

 そんなわけで次回より作業記録開陳の予定。俺自身は勿論,同業者諸兄にとってもクソの役にも立たないゲテモノ修理の始まりだ。
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松下電工製デリカートのインチキ修理記録を公開 2 [含蓄まがいの無用な知識]

 本日,俺は珍しいことに結構乗っているので早速昨日の続きを書く。こんなことを大っぴらにしたら電工に怒鳴り込まれるのかもしれないがちゃんと動きさえすりゃあいいんだよ,要するに。来るなら来い,だ。

 前日のテキスト  http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2011-07-31

デリカートとはこれ
0709-11a.jpg
画像は本文とは関係ありません

 病院から松下には温蔵パネル一枚が発注された。
これに先立って,断線したヒーターに関して表向き病院から松下に対して行われた問い合わせの書面は実は俺が代筆したものだ。
 松下からの回答がヒーター一本単位での供出はできないというのは前に書いた通りだが,温蔵パネルの交換作業に当たっては充分な専門知識のある職員がいらっしゃるようなので今回は特別にパーツのみの販売とさせて頂きますとのことで、まさか一枚の温蔵パネルアッセンブリーがバラバラに解体されて三カ所に使われるとは予想していないらしい。事務方はざまあ見やがれと大笑いし、俺は俺で『充分な専門知識のある職員』が実は外注のインチキ修理屋であることに気づいていないらしいので笑った。

 温蔵パネルは都度都度製作するものらしく,修理用の補用パーツとして在庫されているものではないらしい。今回は製作期間が約半月かかったという。
 
 ここから本題。
電工は散々勿体をつけたが実体は大したものではない。一枚のパネルに三本のアルミ箔ヒーターが貼付けられている。アルミ箔を引っ剥がすと現れてくるのはごくありきたりなシリコン被覆のコードヒーターに過ぎない。見よ!
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左側に見えるえび茶色をした紐状のものが断線箇所である。これを引っ剥がして温蔵パネルからはぎ取ったアルミ箔ヒーターを貼り直す。一回剥がしたアルミ箔部分は再使用できないので,面倒臭いが活用するのはコードヒーター部分のみとして割り切り,元々這い回っていたヒーターの跡をなぞるようにして仮付けしていく。
07280002.JPG

自己満足風に作業上の注意点を列記する。
(1)コードヒーターをヘアピン状にターンさせる部分では過度の曲率を与えないこと。屈曲部分は芯線であるニクロム線にひずみがでているので発熱量が多く,焼損による断線がで易い。
(2)現場で手仕事で行う作業なのでヒーターの直線部分が多少よじれるのは仕方がない。但し,隣接する直線部分同士は絶対に接触させないこと。接触部分は放熱の効率が落ちるので被覆が焦げて断線したり充電された露出箇所がパネルに触れて漏電するなどの懸念がある。
(3)ニクロム線に与える機械的なひずみは最小限に留める意味で,コードヒーターは絶対に捻らないようにして貼付けていく。
 前のテキストで,俺の元の勤務先の工場で言っていたリスクとはこれらのことである。作業直前にもとの勤務先の製造管理に確認してみたがいずれもその通りだとのことだった。
補足的に
(4)シリコン被覆は弾性が高いので引き回しの暴れ対策としてターンさせる部分は短くちぎったアルミテープで各箇所を押さえて仮固定。
(5)使用するアルミテープは紙ベースのものは使わないこと。(これは当然)

 仮押さえを終えたのが二つめの画像で,あとはコードヒーターの浮き上がり防止のために隙間なくビッチリとアルミテープを貼っていいとこ取りの合体温蔵パネルが一丁上がりだ。
 実は最初の作業は先月初めに行っており,運転電流,絶縁抵抗値いずれも文句なしの仕上がりだ。今回は購入した温蔵パネルからはぎ取った二本めのヒーターを用いて行われた。こんなインチキ修理を大っぴらに公表しているのがバレたらSo-netに松下電工からクレームがつくのではなかろうかというのが目下俺の懸念事項である。

 しまらないオチを一つ書いておく。
 この作業には全部で大体四時間弱の作業時間を要する。夕食配膳終了後の大体午後六時半過ぎからスタートして終了は10時を過ぎる作業なんである。
 所要時間は,実際にやってみるまで正確な予測が立たなかった。こんな出たとこ勝負みたいなお仕事に俺は事前の予想金額が一カ所について大体一万五千円くらいでしょうかね,とかヤマ勘でてきとうな答え方をしてしまい,病院の事務方はそれで予算取りをしたらしいのだが実際手がけてみるとこの金額はちょっと安すぎたのではなかろうか。現場を撤収して帰宅したらもう夜中の十一時なのだ、もっと高いことを言っておけば良かった,何せ病院はまともに行けば温蔵パネル三枚でパーツ代だけでも21万円になるところを7万円で済ませて差し引き勘定14万も金を浮かせているのだ。俺のギャラにもうちょっと色を付けてくれてもバチは当たらないのじゃなかろうか。手前味噌だがそれくらいのお仕事はできているのじゃなかろうかと俺は激しく後悔するのだが役所相手に一度出来上がった前例はおいそれと覆らない。修理そのものよりも俺の今後のギャラアップ交渉相手であるところの事務方の方が遥かに手強い。
(この項終わり)
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松下電工製デリカートのインチキ修理記録を公開 [含蓄まがいの無用な知識]

 前回のテキストにあった松下電工製の温冷配膳車デリカートの修理記録を残しておきます。
 
 今はもうなくなってしまったが,病院給食には特別管理加算というのがあって,午後6時半以降に温度65℃以上で配食を行っている場合は診療報酬対象となっていた。
 配食形態には三つあり,(1)保温食器を使用する(2)病棟に食堂を設け各病棟ごとに二次加熱調理を行う(3)保温保冷機能を持つ配膳車を使用する,というものだ。
 導入された形態は俺の携わった限りでは全て(1)か(3)のいずれかで、民間病院で職員が給食業務を行っているようなところではイニシャルコストを抑える意味で(1)が多かった。

 今回の修理対象はこれ
0709-11a.jpg

 依頼内容は三つある温蔵室のうちの一つが昇温の立ち上がりが良くないので調べて頂きたいとのことだった。
 前に書いたように俺は製造元の松下電工からは閉め出しを喰っているインチキ業者なので解決能力がない旨を伝えて依頼を断ったが先方病院の事務方は松下の修理代が高いので何とか頼むと食い下がる。

 しゃあないなあ、とか何とかぶつくさ言いながら問題の個体を調べてみると断線したヒーターがあることが判明した。デリカートの温蔵パネルは以下の通りの構成である。

1:電源は3φ200Vで、三室ある温蔵庫の各室のパネル合計3枚が三相負荷を形成している。 2:温蔵パネル一枚はコードヒーター三本がパラレルで結線されている。 3:温蔵パネル一枚は自動復帰式のバイメタルサーモで過昇御保護されている。 4:各パネルを構成するヒーター三本のうち一本には温度ヒューズが挿入されていて残り2本は開閉器二次側に直結されている。 4の補足:温度ヒューズはアルミテープによりパネルに貼付けられており,露出していない。
 
 三本並列接続されているヒーターのうちの一本が断線しているので発熱量が約60%に低下しておりその分立ち上がりに時間がかかっているのが事象である。
 今回の状況でのポイントは製造元の松下電工がどういう単位でパーツを供出してくれるのかというところにある。断線箇所に相当するヒーター一本(一枚)だけなのか、それとも温蔵パネル一枚単位なのか。パーツ価格は天と地ほども違うのはやる前から分かりきっているのだが。

 不良業者の俺が松下に門前払いを喰わされるのは明白なので,病院の技官が下調べをした上での問い合わせということにしてもらったところ,予想通り松下からの対応はヒーター一本単位での供出はできません。温蔵パネル一枚が最小単位ですとの回答だった。パーツ単価はおよそ七万円かそこららしい。
 
 某病院はベッド数が400を超える結構大規模な施設で,勿論温冷配膳車は何台も運用している。温蔵パネル一枚の交換費用は作業可能な時間帯が夜に限定されていることも相まって恐らく十万円近くになり得る。配膳車の合計台数から数えると使用されている温蔵パネルは数十枚に及ぶ。この先,立ち上がりの不良箇所が一カ所発生するたんびにそんな金額を請求されるのか、とてもじゃないがやってられない,と,事務方は脳天からキノコ雲を上げた。

 そんなわけで、故障診断だけを済ませ点検料何千円かを請求してとっととずらかるつもりでいたこの俺は何とかもっと安い解決策を見つけてくれと事務方に泣きつかれた次第。
 前にも書いたように現場レベルでは頭に来ることの多い得意先だが俺は潤沢に顧客を抱えている身の上ではないしこれまで20数年お世話になり続けてきた得意先でもあるので無下に断るわけにも行かず,宛もないのに安請け合いした。
 俺の元の勤務先も温冷配膳車は製造しているので,工場に問い合わせてみたがやはりパネル単位での頒布しかできないと言う。OBであるのをいいことにこれまで散々無理難題を聞き入れてもらってきたが物事には限度があるらしい。配膳車の製造元はどこもヒーターは専業メーカーに特注していて製造計画に合わせてロット単位での発注になるので端数を出せないとのことだ。
 ついでに言えば仮にヒーター一本だけの交換作業を行った場合,作業者によっては後々ショートや漏電などの障害が起こり得るリスクがあるため供出はパネル単位にならざるを得ないとのことで俺は(俺を誰だと思ってるか!)と内心唸りながら仕方なく引いた。

 あらためて某病院の温冷配膳車全数を調べてみると,他にヒーターの断線している個体が2台あった。配膳車の台数にして三台,合計三本のヒーターが断線していることが判明した。(調べる時間も結構喰ったんだがな)

 そこで俺の,この出来の悪い頭にもちょっとしたプランが閃いた。
先に書いたように,一枚の温蔵パネルには3本のヒーターが貼付けられている。
七万円なりの温蔵パネルは頭に来るが一枚だけ買い、貼付けられている三本のヒーターをはぎ取ってそれぞれ一カ所断線箇所のある三台分の配膳車の修理にあてがってはどうか。病院は支出するパーツ代を1/3に抑えられるし俺は三台分の修理でまとまった修理代を稼げる。これはいいわいと俺はほくそ笑んで腹の中で松下にアッカンベーをしてやったのだ,皆様。

 はたして俺のこの,せこい作戦は事務方に諸手を上げて迎えられた。後は実行あるのみ,だ。
テキストが長くなりすぎそうなので本日はここまで。(以下続く)
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函館名物ジャンボラーメンを巡って [含蓄まがいの無用な知識]

 ○○重工から依頼のあった函館でのお仕事は昨日夕方前に無事終了。
今回の納入先には販売店であるところの某社(ここは俺の以前の勤務先でもある)函館営業所長様がわざわざ見えられた。勤務していた営業所は異なるが入社はほぼ同時期で俺としては同僚みたいな親近感もあった方でこの業界にしては珍しく大変立派な人格者でもある所長様とは十数年ぶりの再会というわけで感慨も一入といったところ。俺のおめでたい頭からは移動の苦労がどこかにすっ飛んで消えた。

 その日暮らしで野良犬稼業の俺とは大違いで所長様はある種の風格をたたえるまでになっており,元々の人徳と時間の経過をかけ算すると同じところからよーいどんでスタートしても人間,こうも差がつくものかと俺は自分を情けなく思った。

 お仕事を終えて函館市内に戻り,帰りの汽車までかなり時間があるので少々早めの(俺にしては,だが)晩飯を済まそうと思って駅周辺をうろついた。前回のエントリーで書いたように中年過ぎのオヤジがポンプの詰まったザックを背負い重たい工具鞄をぶら下げて歩き回るのは結構くたびれる。
 駅の近く,観光名所である朝市の並びにオーテというビジネスホテルがあり,入り口近くにジャンボラーメンなる看板が出ていた。
 2階にあるその店舗に入るといかにも昭和っぽい内装で洋食屋然とした造りだったので少々意外だったのと同時に妙に懐かしいような嬉しいような気分がにじみ出てきた。考えてみるとこういう店舗は本当に少なくなった。

 菜っ葉服はデロデロに汚れている上にわけの分からんでかい荷物を二つも抱え込んでいるので気味悪がられて追っ払われるかと思ったがお店の主とおぼしき方は結構気さくに『おう,どこでも好きなところに座れや』と感じが良い。たまたまホテルの夕食の時間が過ぎてホールには誰もおらず,落ち着いた頃だったせいかも知れない。
 図々しくカウンターに陣取ってメニューブックを眺めると失礼ながら結構ご高齢とお見受けした主がカウンター越しに俺の菜っ葉服の胸元あたりを凝視していた。
 看板に謳われていたジャンボラーメンをオーダーすると主は『疲れた顔してるなあ,おい』と嗤って一旦キッチンに引っ込んだ。出てきた名物はこうだ。 


 これまで何度も繰り返し書いてきたように俺は特段食べ歩き自慢でもなんでもないが,これがラーメン屋のラーメンでない事はすぐに分かった。正しい捉え方としては麺の入った味噌仕立てのブイヤベースだ。キッチンから出てきた主にそう言うと彼はニヤッと笑った。
 「俺ぁ洋食屋だからよ。よくわかるな,あんた」
 「俺も厨房屋っすからね」
「○○の人か?」俺の元の勤務先を主は言い当てた。そのとき来ていた菜っ葉服が元の勤務先のものだったせいだろう。少し前に俺の胸元を見ていたのはそういう事だったのか。

 以前勤務していたが7年前に退社して自分で修理屋を始めた,と話すと主は若い頃の勤務先で機材の納入元があんたのとこだったんだよな,と種明かしをしてくれた。
 どっから来たんだ,あんた、と尋ねられて答えると主は,「おう、知り合いがいるなあ。○○さんとか××さんとか」といった固有名詞をすらすらと並べた。俺の地元では結構以前に司厨士協会の支部長だったり幹事長だったりしたお歴々で、中には俺が随分お世話になったお客さんもいた。世の中は結構狭い。
 主は以前、司厨士協会函館支部の幹事長だった。ご高齢なのでだいぶ以前に退き,現在は顧問を務めていらっしゃるのだそうだ。道理で顔が広いはずだ。
 汽車の発車時刻にまではまだだいぶ時間があった。「おう、そうかそうか、まあゆっくりしていけや」とか何とかいわれて食後のコーヒーまで出されて初対面の客がこんなに図々しい真似をしていいものかと思いながら雑談に興じた。
 話題は当然ながら業界の裏話ばっかりでやけに盛り上がる。
件のジャンボラーメンは単なるヒットメニューであるばかりでなく,小野正吉氏や村上信夫氏も函館に来るとこのお店に立ち寄っては喰っていったのだそうだ。もっと正しくいうと,主は東京で働いていた頃からその辺筋との人的交流がおありだったらしい。出稼ぎに来た函館で,たまたま夕食のために入った店でそんな話が聞けるとは思わなかったので俺はついつい時間を忘れて主の話に聞き入った。 
 とどのつまり,主の業界に於ける立ち位置はこういう事が土台であるらしい。「俺ぁ日活(ホテル)の出でなあ、馬場さんの下でやってたんだ」

 野暮な説明はしない。ジャンボラーメンはそういう背景の方が考案されたメニューな訳だ。しかしまあ凄い経歴だわいと俺は舌を巻いた。
 「バンブラン・ソースとか言ったってよ,分かる奴もいねえしな」主はカラカラと笑い飛ばした。

 渋い,この主は渋すぎる。
『戻ったら○○さんに宜しく言っといてくれや』と、快く送り出して頂いたのだが本拠地に本日戻ってきた俺はいずれ何か理由を見つけてまた函館まで来たい気分になっている。
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某社製氷機をインチキ修理で蘇生させる [含蓄まがいの無用な知識]

 インチキ修理の事を書いておく。
俺の出入りする某国立病院はここ数年予算取りが厳しい。ニセ行政改革によって独立行政法人という運営形態にはなったが単なる看板の架け替えに過ぎない。現場の職員の方々だけが割を食って辛い目に遭い,上層部の官僚たちには大甘の構造だ。

 それはそれとして、病棟の製氷機がいかれた。稼働年数は20年にも達しようかという古老である。納入元のペンギンマークの会社は一も二もなく冷媒がもうないからとか、色々理由を付けてリプレースを勧めるために矢の催促で営業をかけまくるのだそうだ(それは商売として当然ではあるけど)。
 ニセ行革以前の国立病院ならばすんなり通る話だったように思うが現状はなかなか厳しいものがある。事務官サイドとしては何としても延命させたい,そしてこういう無理難題はメーカーではなくて俺のような野良犬に持ち込まれてくる事になる。

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 症状としては運転途中に勝手に止まってしまうというもので,俺はそれをマイコン基盤のプログラムエラーと見て取った。(後に一つ見落としがあった事を知る)冷媒管の系統はコンプレッサーの運転電流を拾い出した限りではまだ何とか持ちそうなのでどうにかなるかもしれないと事務官に大風呂敷を広げた。

 問題はパーツの調達で,製造元の某社が素直にスペアパーツを販売してくれるとは思えない。修理先が判明すれば尚更である事は歴然だ。
 作業場に戻って廃却予定のジャンクを漁り,同社製品の廃却予定水冷式の機体から似たような基盤を抜き取った。引き上げ前までは普通に動いていたのだがそのまま実装できるかどうかに問題がある。病院の事務官と相談してみると今年は予算がキツいので俺流で行けるところまで行ってみてくれとのゴーサインが出た。俺にとってはギャンブルの始まりw

 病棟で故障機から基盤を抜き出してしげしげと見比べてみると,ベースである基盤自体は一緒だが実装状態の細部に幾つか違いがある事が判明した。
1:故障機は空冷式のため外気温異常を感知するためのサーミスタがオンボードで基盤から伸びている。(凄い造りだ)
2:ジャンパーピンの設定が異なる。DIPスイッチではなくジャンパーピンであるところはなるべく一枚の基盤の汎用性をなくしてパーツ販売の量を増やしたいという考えだろうか。
3:同じくオンボードのチップ抵抗の仕様箇所,及び抵抗値が異なる。

作業としては
1は元の基盤より外して移し替え
2は元の状態に似せて既存ジャンパーの切断と新規ジャンパー線の取り付けでおわり
3はさすがに同じ値のチッップ抵抗は持ち合わせがないので一旦作業場に取って返し,ゴミ箱の中から通常のカーボン抵抗を漁った。さすがにチップ抵抗に比べるとでかくてそのまま基盤上には取り付けられないのと同じ値の物がないのでシリーズにして大体同値となるような組み合わせを捻り出してややアクロバチックな実装となった。こういうところがギャンブルなのだと改めて実感する。

 現場に取って返して試運転を行うとそれまでがウソのようにすんなりと運転し始めた。その後が気になるので請求は一旦保留とし,半月くらい様子を見てくれと言い残して俺は失せた。
 一週間ほど経ってから,一度誤動作があって途中で運転が止まったという連絡が事務官からあった。請求を保留にしておいて良かったと思いながらあちこち調べると貯氷検知のスイッチがおかしい。オン状態であるにも拘らずDCRを測ると30Ωくらいの抵抗値を持っている。製氷機は四半世紀にもわたっていじり続けてきたが初めて接する出来事だ。
 スイッチは基盤に接続されているので何か演算上に問題が出ている可能性はある。手持ちの中古良品に取り替えると誤動作が止んだ。

 そんなわけで俺のインチキ修理は功を奏し,ひとまず問題はクリアした。何か魔法使いのように見られて得意先に有り難がられる気分は悪くないが金にはならない。何せ実稼働23年なのだ。誰が更新を薦めたっておかしくない。俺が某社の目を盗んで病院を説き伏せてサンヨーなり大和冷機なりの製品に入れ替えても勿論誰に文句を言われる事もないのだ。それを一体,何が悲しくてこんなややこしい作業をしているのか。
 世の中変わるものだと改めて思うのは、国立の医療機関が俺のような裏街道の修理屋を抱え込んでこのような裏技がかった修理を行う点だろうか。必ずしも税金の全てが安易に無駄遣いされているわけではない。少なくとも現場レベルでは無駄遣いを抑制する努力はなされている事は知っておいて頂いても良いのではないか。
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固体素子の勉強をし直し [含蓄まがいの無用な知識]

 日頃はガス抜きだか罵倒のような事ばかり書き続けているのだが、他人のことをあれこれあげつらい悪し様に喚き散らしたからと言って俺自身のポイントが上がるわけでもない。誰かのことをああだこうだ言う以上、俺だって多少は自己研鑽めいた時間を設けてはいるのだ。

 以前、20年近く前だと厨房屋のサービスと言えば流し台の水漏れとガスコンロの燃焼調整が出来れば一端の顔ををしていられた。見よう見まねで覚えられることだけで責務をカバーできていたとも言える。楽な時代だった。
 当時から予想できていたことだったが扱う対象はその後だんだん複雑化していく。燃焼器具には電気的な制御が絡んでいくし冷凍機の知識も要求されるようになる、など。

 メーカー勤務のサービスマンに徹するのならば、根本的な勉強などは特にしなくても自社製品の対症療法だけをマニュアル通りに丸暗記して切り抜け、一定時間以上稼動した製品については更新を促すような姿勢もありだとは思う。但しこういう人は技能者としてのつぶしはきかないから機器がモデルチェンジしたり自分が退社して転職したりすればその時点でおしまいだ。こういう人には資産としての知識はない。

 便利屋的に何でもいじれるようになることを志向する、或いはどんな不具合にでも対応できるようになるとか周辺環境との関係を割り出せるようになるとか劣化の進み方を予測できるようになるとかいった水準に達するまでには場数を踏んでいるだけではダメだと俺は今までの経験から随分思い知らされてきた。
 そういう意味では、働くようになる以前、何かしら理系の勉強をしてきた人にはスタート時点でのアドバンテージはある。自慢するわけではないがあんちゃんの頃に製氷機の配線図を指し示してあれこれ動作不具合の説明をしていたら同業者には随分驚きの目で見られたことはあった。ある意味、この業界は未だにその程度の技量が売り物になり得る水準に過ぎないとも言える。

 しかし機器類は日々新しくなっていくわけで、たかがリレーシーケンスの配線図を読み解ける程度の技量でそういつまでもでかい顔が出来るはずはない。固体素子が色々と入ってきて解析はだんだんややこしくなってくる。今頃になって学生の頃の教科書を引っ張り出してきてあれやこれや勉強し直すことになる。

 電気系の、それも制御系統の修理は苦手だという人に理由を尋ねると「見えないから」という答えが返ってくることが多い。確かに、人類史上電線の中を流れる電子そのものを肉眼で見たという人は一人もいない。ただ、リレーの動作音を追っていくと機械全体の動作の流れが何となくイメージできるというあたりにまではこぎ着けることが出来る。
 固体素子には電磁リレーにはあった動作音というものさえないので更にややこしくなる。電磁力が接点を吸引するところを視覚的に確認できるような方法が固体素子にはない。強いて言えばインバーターが高調波のノイズを発するのをうっすらと聞き取るくらいだろうか。
 
 何事も基礎が大事、というわけで固体素子の勉強を1からやり直すことにした。学生の頃以来なので20数年ぶりの復習である。働きはじめの頃は無用の知識だと思っており、今になっておさらいをすることになるとは当時思いも寄らなかった。学生当時の教科書を開くと難解さに辟易した。改めて思うが、教科書というのは物凄く重要なことをたった一行でさらっと済ませているものであって余程洞察力を研ぎ澄ませている人でないと要旨を読み落とす懸念がある。少なくとも俺程度の脳みその持ち主にとっては読み進むのが少々辛い。

 というわけで恥を忍んで入門書兼実務書を買い込んで精読するのがここ数日である。 
 
選び方・使い方 パワーエレクトロニクス機器

選び方・使い方 パワーエレクトロニクス機器

  • 作者: 山崎 靖夫
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本



 入門書とは言っても物理で言えば電子物性の初歩、数学で言えば定積分の計算くらいは頭に入っていないと理解は苦しい。この手の実務書は数が少ないので探し出すのが結構大変だし、あっても製造業(パーツメーカー)とかエキスパートクラスの保安技師を対象に書かれているものが多いので俺程度の理解能力の持ち主にぴったり来る書籍となると更に限定される。
 厨房屋は直流機器を扱う場面が今のところはないし、おおかたは商用電源で動かすものばかりなので無停電電源装置や直流電源装置(鉛蓄電池を含む)とかチョッパのあたりはパスするにしても結構読みどころがある。
 
 数学の演習書や物理の教科書と行ったり来たりしながらの悪戦苦闘を続けているうちにいつの間にか窓の外は暗くなっている。今日は一日、ロクに仕事もしないまま終わってしまった。おお!
 

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マイナスねじに手こずる [含蓄まがいの無用な知識]

 一口に自営業者と言っても色々ある。下請け仕事中心の、いわば社会保険や厚生年金に加入していない宮仕えみたいな人たちもいれば直接取引中心の一匹狼稼業もいる。
 私自身は後者を標榜している。そもそも開業のきっかけは他人にあれこれ指図されるのが嫌いだったからだ。

 野良犬稼業を開業して3年経った。言葉の文というか、一匹狼などというカッコイイものではまだ全くないので野良犬である。自分のえさは自分で稼ぐ。

 目下、おいしいえさは輸入機械をいじることだ。同業者の多くは横文字の表記に対して生理的に拒絶反応を起こすのが多い。私にとっては好都合だが機能や構造は似たり寄ったりなのに表記が英語だとどうしてイヤなのかはよくわからない。私は特に学のある人間ではないけど機械の表記が何を現しているのか位は何となく読み取れるけどね。きっとそれだけこの業界の修理屋にはたいしたことのない奴が多いということなのだろう。義務教育から始まる英語授業が以下に役立たずなものなのかを物語ってはいまいか。

 というわけで、輸入機械の障害については遠距離からの出張修理に依存しなければならなかったところを何とかかんとか現地で始末できる修理屋が現地にいるらしいという点が現在のところ小生のこの田舎町における存在価値のように勝手に思いこんでいるのだが、大別してヨーロッパ製とアメリカせいでは勝手が少々異なる。

 概して作業性からいうとアメリカ製は困りものだ。その最大の理由は何と言うこともなく、ねじである。
国産製品やヨーロッパ製品はミリねじで組み立てられているがアメリカ製は当然ながらインチねじが用いられる。たったそれだけと思う方はおられるだろうが、ねじ回し職人にとっては”たったそれだけ”が大違いなのだ。まず第一にインチサイズのスパナやレンチをひとそろい用意しておかなければならないので道具が煩雑になる。ある時製菓工場でミキサーの整備をするときに連れて行ったてこのオヤジ(注:「てこ」とは作業補助を指す北海道の方言と思ってください)は作業中にインチサイズとミリサイズのソケットレンチのコマをごちゃ混ぜに片づけて私に怒声をあげさせた。

 大体、インチねじなどというのはその辺の金物屋やホームセンターで売っているものではないので頭を潰したり紛失したり出来ないのが気苦労の種だ。外したボルトを排水側溝に落っことして30分くらい探し回ったことがある。バカにならない作業ロスであってミリねじならばあり得ない話だ。
 おまけに米国の工場労働者というのはおしなべて腕力が余程あるらしく、締め付けトルクが尋常ではない。黄色い東洋人である私などは頭を潰す覚悟で回さないと緩まないねじが多く、毎度冷や冷やものだ。更に言えばメッキされていない所謂生鉄(なまてつ)が多い。機器の多くは船便で運ばれてくるためか初期のうちからビスやボルトが錆びているケースも多く見受けられれる。これも困りものだ。

 そんなわけで米国製の機器類を修繕するときには作業費は少々割高に頂くことにしている。このくらいの割り増しでは罰は当たるまいと勝手に思いこんでいる。

 そして最後に、マイナスねじ。日本国に於いてはとうの昔に用いられなくなったこの形状が未だに米国製では大手を振ってまかり通っている。
 何が不便かというと、の先端にビスをつけた状態でドライバーを水平以下に構えることが出来ない。ビスを外すとドライバーにはくっつかずに床にぽろぽろと落ちる。この不便さはやった者でないとわかって頂けないかも知れないがとにかく苛立つ。プラスねじで出来上がった機械に比べると作業時間には明らかに2割以上余計にかかるし作業のストレスも多い。なにか腕が落ちたかのような錯覚に私はしばしば陥るのである。

 ここで殊勝な気持ちの持ち主であれば、自分の腕前はたいしたことがないのだから請求書の金額は控えめにしておこうかと思うのかも知れないが私はそうではない。余計なストレスはやはり請求書の金額に反映させないと自分が報われないではないかと考える口である。思考がこういう方向に傾く理由は瀬戸際自営業の緊張感から来るものなのかも知れない。


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スパナとsnap on tools [含蓄まがいの無用な知識]

 職人の腕を判断する的確な方法は、その職人の商売道具を見てみることである。
食品機械の修理屋を20数年やってきて改めてそう思う。これは深遠なる話題であって今回の主旨ではない。それほど高尚な話題を書き通す能力もないし。

 食品機械の修理などというのは言ってみればお座敷芸者のようなもので、お呼びがかかって金の当てがつけばホイホイ出かけていく類だからいろんな客と会う。当然、中には機械に明るい人もいたりはする。

 ユーザーが機械に明るいというのは良いことだ。これは絶対的に良い。但し中には訳知り顔というかハンチクな知識を振り回して人をコケにしたがるような輩も当然いる。
 若い頃には使っているスパナを眺めて「それはホームセンターに売ってるセットで500円くらいのやつかい?」などと抜かす奴がいた。バカ言っちゃいけない。あんなもので商売人の仕事が成立するわけがないではないか。あんたの使っている包丁こそホームセンターで売っている200円くらいのやつなんじゃねえのかと言い返したくなったもんだ。

 反対に「それはsnap onのスパナ?」と尋ねてくる人もいた。質問の真意は測りかねるが結論から言えば厨房機材や食品機械を扱う仕事に従事していてsnap onの工具を持ち歩いている人にはまだ会ったことがない。当然、私自身も使っていない。

 今更書くまでもないがsnap onは自動車工具のメーカーである。私のような立場の者から見てその独自性や優秀さを理解できるのは、例えばフィルタークリーナーを脱着するための専用工具みたいな、自動車の整備以外には用途のない製品を見たときであって、汎用的に使用するスパナだのドライバーだのについて言えば、持ち主から拝借して使ってみて確かに出来がいいとは思ったが日頃使用する手持ち工具の10倍近い出費をしてまでそれらに対する購入意欲は湧いてこなかった。

 自動車整備工に言わせれば、snap onは材質や加工法がよいのでスパナの口が開きにくく(変形が少ない)、ナットの当たり面に滑り止めがついているので使いよいとのことだった。
 言われてみれば確かにそうだし、メッキの厚みも私が日頃使用している国内メーカー製とは大違いだ。水や塩分、薬品などにも強そうだから使用上のメリットは確かにある。
 しかしそれでも私はこのメーカーの手持ち工具を購入することはない。第一にこんな貧乏稼業なので購買力がないからだが笑いが止まらないくらい大もうけ出来たとしても(あり得ない!)snap on のユーザーになることはない。

 理由は簡単で、前述したようにお座敷芸者的な稼業だからである。道具箱を車に放り込んで移動する時間は想像以上に長い。田舎住まいの厨房屋にとっては作業時間よりも移動時間のほうが長いくらいだ。朝から晩までねじを回し続けているわけではない。工場を構えて整備品を受け入れるような運営形態ならば高価で高品質な工具もありだと思う。それは紛失する心配がないからだ。
 新築の建設現場などは道具の掻っ払いが横行しているのが現状だし、修理先で取れないような場所(壁の隙間や水の溜まったピット下など)に手を滑らせて落っことしてしまうことがままあるからだ。錆とか変形以前にそういう事態のほうが発生確率は遙かに高い。
 プロにとって道具とは必要条件を満たしていることと安価なことが大事なんである。際限なく十分条件を追いかけ回したがるのはアマチュアであってそのアプローチは決してプロのものではない。
 自動車整備工にとっての必要条件と厨房屋にとってのそれは同一ではないということなのだ。

 最後に一つ、詮無い本音を書いておこう。この稼業は、高価な工具をバンバン買えるほど儲からないのだ。これは悲しい真実である。 


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お盆明け [含蓄まがいの無用な知識]

 予想通りであり例年通りでもある。
本日、夏休み明けの第一日目午前中は修理依頼の電話対応で埋まった。
頭の中で組んだスケジュールは三日先までいっぱいである。
当然ながら、何時に訪問できるかなどを約束できる状況にはない。

 世間の皆さん!
故障は不定期に発生して、その発生数も予測はつきません。
対して世間で走り回る修理屋の頭数は限られているのです。
加えて全人類皆々、一人の例外もなく一日は24時間しか与えられておりません。
あまり身勝手な修理の要請は少々ご遠慮願いたい!

とまあ、こんな偉そうな啖呵が切れるのも今だけ。
来月になってお仕事が落ち着くと物乞い生活に逆戻り。「なんかないっすかー」と、
揉み手をしながら以前の修理先を回って歩くことになるんだよなあ・・・


食中毒事故と冷蔵庫 [含蓄まがいの無用な知識]

 真夏である。暑い。そして真夏は食中毒事故の季節でもある。
ブログの主旨に則り、ここでは外食産業での食中毒事故について書いておきたい。

 飲食店での食中毒事故は怖い。これが表沙汰にならないということはまず殆ど絶対と言っていいくらいない。
 保健所の指導するところにより1週間の営業停止。それから新聞報道。
喫食者、営業店の双方に注意を喚起する目的があるので、事故は必ず報道される。
営業停止による機会損失もさることながら、悪評によるイメージダウンは結構尾を引く。

 経験上、事故原因は腐敗蛋白に因るところがこれまでは多かった。食材で言えば、魚介類、卵、精肉類の順である。
 貝毒は日常的に注意を払う事象なので意外と発生要因としては少ない方だったと思う。むしろ魚肉がこの時期の食中毒事故の要因としては多い。トップはマグロである。肉類で言えば鶏、豚、牛の順。牛肉は普段の調理でもそうだがさすがに腐敗には強い。

 料理のカテゴリーで区別するのは心苦しいが、経験上の遭遇確率なので致し方ないが敢えて書く。
 発生頻度で言えば和、洋、中の順か。中華メニューは殆ど全てと言っていいくらい完全に火を通して調理されるので余程のことがない限り食中毒事故にまでは至らない。
 和食メニューが要注意である。夏の生魚は慎重に管理されなければならない。規模の大きい飲食店ほど注意を要する。調理助手にアルバイトやパートを使っている場合、事故発生の危険度は上がる傾向がある。
 プロの板前は生魚を触った瞬間、その感触で腐敗を察知する能力を備えている。これには私の知る限り、一人の例外もない。
 事故が発生した事例では、調理助手が口頭指示を受けて生魚を冷蔵庫から取り出しておいたケースが危ないのだ。
 常温場所に長時間おくことも危険だが、冷蔵庫の中に置いていたからといって鮮度がいつまでも保たれる訳は当然ない。
 問題なのは、業務用の冷蔵庫には食材のロスを発生させるデッドスペースが生まれがちな点にある。デッドスペースが発生する原因を更に掘り下げれば、業務用冷蔵庫のスペックに問題があり、具体的には奥行き寸法の不合理さに行き着く。

 一般に、業務用冷蔵庫の奥行き寸法は外寸が約85センチである。ある時期からは65センチの製品も出回り、普及してはいるが全体比率から言えばまだ85センチが圧倒的に多い。
 85センチが規格めいたサイズとして定着した理由は不明だが、一般にドアの開口幅を90センチと考えた場合、搬入、搬出可能な最大限の寸法であることが一つの根拠と考えることはできる。
 算数として考えた場合、冷蔵庫の外寸から箱の厚みとドアの厚みを加えたものを減じると75センチであり、これが冷蔵庫の有効内寸である。
 だが、日本人一般の体格から言えば、リーチが75センチ以下の人など大勢いる、ということは、奥に押し込まれたままなかなか取り出されないでいる食材が生まれる頻度が上がるということでもある。取り出されないまま長時間おかれた食材がつまりロスである。
飲食店での食中毒事故は、これら複数の要因が合致して発生するケースが何度かあった。整理しよう。
(1)食材の鮮度に対する勘の備わっていないスタッフが冷蔵庫に入った食材に触れる場面がある。
(2)冷蔵庫に、ロスを生みそうなデッドスペースがある。
(3)調理師が調理の直前に食材の鮮度確認を見落とす。

 キッチンレイアウトのプランを立てる立場としてできることとして、私はなるべく奥行き寸法の短いものである65センチ企画をお勧めしている。容積と価格の割り算で行けば高くはつくが、食材管理の容易さにはだいぶ差が出るからだ。85センチというスペックは日本人の体格には合わないように思うのだ。
 しかし残念ながら、こういった提案がプランとして受け入れられないケースは多い。
 

 


冷えない冷蔵庫(1) [含蓄まがいの無用な知識]

 昨日に続いて本日も暑い。こういう日には冷蔵庫の修理が多いことになっている。
つまらないぼやきだが、冷蔵庫の修繕というのはまあ疲れる。業務用の冷蔵庫がどういう形をしているかご存じだろうか?

 冷凍機は上についている。箱の上に乗る格好である。故障が起きると修理屋はこの上に乗って作業することになる。冷媒が漏れたり、コンプレッサーを交換するときなどは大体2時間強の作業時間となる。
 当然ながら、キッチンという場所は暑い。天井近くの室温はなお暑い。そんなところで2時間強、しゃがんで作業しなければならないのだ。

 実測したわけではないが、以前、あるホテルのキッチンで真夏にコンプレッサーの交換を行ったときのこと、そこは空調の出来が悪くてひどく暑かった。40℃以上は確実にあったと思う。50℃近かったかもしれない。とにかくそれくらい暑かったのだった。しかもそういう場所でガス溶接である。滝のように流れる汗、とはああいうことをいうのだろう。衣類は上も下もぐちょぐちょに濡れた。
 作業を終えて道具を片づけ、車に戻った私は運転席のシートに座るなり意識が飛んだ。数分間、気絶していたのだった。

 もし、このブログを読まれている中に、調理をお仕事にしておられる方がいるとすれば注意して頂きたいことがある。
 あなた達のキッチンにも冷蔵庫はあるだろう。勿論問題なく冷えているのが大多数だろう。しかしである、購入前に冷蔵庫のカタログを精読されたことはあるだろうか?
 冷蔵庫には、適正温度範囲というものがある。結論から言えば、冷蔵庫(冷凍庫も含む)というのは周囲温度が5℃から30℃の範囲内において所定の性能を保証されるものなのである。言い換えると、この温度範囲を外れた環境下では不良原因についてのグレーゾーンが発生することになる。
 実際問題として、ピーク時において室温が30℃以下であるようなキッチンなどありはしない。では何故その環境下で冷蔵庫がふつうに冷えているかと言えば、製品設計時の冗長分、マージンが効いているのと製品個体差上の運がいいからだけでしかない。本来ならばあまり冷えないとか、電気をやたら食うとかの状態があっても100%製造者の責任とは言い切れないグレーゾーンが発生する。(つづく)


ナイフについてプロは語る [含蓄まがいの無用な知識]

 ありきたりだとは思うが、ナイフのことを少し書く。ここでいうナイフは料理包丁です。

 ヘンケルというメーカーがある。
洋食畑のコックさんにとってはお約束のブランドのようだ。歌にあった「月の法善寺横町」ではないが、コックさんはみんな、自分のナイフケースというものを所有している。
 私はもう20年以上、料理人さんのお仕事を間近に見続けてきた。私のような修理屋にとってドライバーやレンチなどの道具類は、本人の口述がどれだけ巧みだろうとその人の仕事の守備範囲とレベルを如実に物語る。
 余り面識のない同業者の能力レベルを推測するとき、私はその人の道具箱を眺めることにしている。厨房機器の修理屋は守備範囲の広さが結構求められるが、掘り下げ方は余り深くはないところが特徴だ。ついでに言えばオールマイティのスーパーマンは存在しない。必ず何か、不得手な守備範囲があるのだ。それは、電気系であったり、機構系であったり、配管系であったり、それらが更に細分化された、まあ色々なのだが何をいじる系統の所持工具が充実していて、どの方面でどんなメーカーのどんなグレードのものを使っているのか、どの程度使い込まれていてどれくらい丁寧に手入れされているのかを見れば大体その修理屋の腕はわかる。
 とはいえ、例えばドライバーやレンチ類が全てSnap on で全て新品ピッカピカな人というのはちょっと怪しい。単なる道具オタクの気配もある。はっきり言ってこれらは私のような生業の人間にとっては猫に小判である。幾ら修理に追われて忙しいときがあるとは言ってもフィールドで車を転がし、移動時間が業務時間のかなりのウェイトを占めるこの商売が自動車整備工並みに一日中と言っていいほど長時間スパナやレンチを握っていることはないのだ。

 前置きが長くなりすぎたのでそろそろ本題。
コックさんのナイフケースを遠巻きに眺めていると、ドラマじみたある風景がイメージできる。それは例えばこんな感じだ。

 紹介状を持ったコックが新しい職場に到着して、料理長のデスクがある事務室を訪れる。紹介状を書いてくれたのは以前料理長と同じ職場で働いていた弟分の後輩である。神妙な面持ちで面座する若いコックを前に料理長は紹介状に目を通す。
 双方無言のまましばし時間が経ち、料理長はおもむろに一言、
「ちょっと、道具を見せてもらおうか」
 コックは携えてきたナイフケースを手に取ると、蓋を開けて丁重に料理長に差し出す。中には冷たく光るナイフが整然と並んでいる。
 言葉のやりとりはない。料理長は並んだナイフをしげしげと眺めてそのうちの一本を取り上げて手に取る。柄を指でさすり、刃に軽く触れ、目の高さまで差し上げると照明にかざして刃の付き具合や刃こぼれを確かめる。
 事務室の空気が少し硬直する。紹介状を持たされたコックはそのとき、過去の集積を判定されているのである。どんな道具を、どういう風に扱い続けてきたのか、それを用いてどんな仕事をし続けてきたのかが冷徹に推し量られる時間である。
 料理長はナイフをケースに戻す。弟分がこの若いコックをどういう風に育ててきたのか、いろいろな憶測を巡らせながら。
 若いコックがいそいそとナイフケースをしまい込む。そして料理長は一言、「前菜を担当してくれ。出勤は明日から。」
 「はいっ、よろしくお願いいたします!」ここで空気が少し和む。
「まあ、頑張れや」

 とまあ、こんな感じ。
ここでヘンケルである。ホームページはここ
http://www.j-a-henckels.com/country/ww/language/en/home

こういう場面で使い込まれたヘンケルのナイフというのは何とも絵になるなあ、と、
勝手に想像をふくらませていたのである。

 私にはかねてからお世話になっているある料理人さんがいて、調理の知識やコックさんの挙動についてずいぶん色々勉強させて頂いた。
 それであるとき、雑談の最中ナイフに話題が及んだときのこと、私はかのヘンケルについて、何かその料理人さんから含蓄を聞き出したいと思って水を向けたのだが、意外にも結構懐疑的な見解が帰ってきて実は少々とまどった。
 例えば、鋼の質の良さについては欧州のコックはナイフの切れ味に結構無頓着で、
日本人のコックほどにはまめに手入れをしないため、力任せに叩き切るようなこともありがちなので、一回研いだ後の切れ味をできるだけ長時間持続させるため、必然的に材質や鍛造法が追求されていったのではないだろうか、と。
 それで、件の料理人様はヘンケルの品質を認めながらも全面的な賞賛は控えた。その最大の理由はというと、曰く、「それらは欧米人の体格、腕力の標準を想定して造られている。つまり、日本人にとっては重いというケースがあり得る。慣れの問題として解消され得もするが、スペックの凄さと使いやすさは必ずしも両立しないと考えるのが妥当であって、一つのブランドに凝り固まる必要はない」ということだった。

 私はそのお話を伺って、おーこれがプロの見識なんだなあとひどく感心したのでした。何事によらず、必要にして十分を満たしていればよしとするのがプロなのだ。必要以上を求めたがるのはアマチュアの属性か・・・
 道具の質にこだわるのは勿論プロとして大事だが、プロもある一線を越えると道具に関係なくある一定以上の水準を確実にマークする。道具のハンディはあるところまでならば腕でカバーし得る。腕をおろそかにした道具論議など無意味である、とそのお方はおっしゃった。自信の表れだろう。プロの矜持とそういうものなのだとつくづく感じ入った次第。

 とは言ってもその方がキッチンのどこかにおいてあるナイフケースにはしっかりとあのマークのナイフが鋭く光って伝家の宝刀風に収まってはいるのですが・・

 


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