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マイナスねじに手こずる [含蓄まがいの無用な知識]

 一口に自営業者と言っても色々ある。下請け仕事中心の、いわば社会保険や厚生年金に加入していない宮仕えみたいな人たちもいれば直接取引中心の一匹狼稼業もいる。
 私自身は後者を標榜している。そもそも開業のきっかけは他人にあれこれ指図されるのが嫌いだったからだ。

 野良犬稼業を開業して3年経った。言葉の文というか、一匹狼などというカッコイイものではまだ全くないので野良犬である。自分のえさは自分で稼ぐ。

 目下、おいしいえさは輸入機械をいじることだ。同業者の多くは横文字の表記に対して生理的に拒絶反応を起こすのが多い。私にとっては好都合だが機能や構造は似たり寄ったりなのに表記が英語だとどうしてイヤなのかはよくわからない。私は特に学のある人間ではないけど機械の表記が何を現しているのか位は何となく読み取れるけどね。きっとそれだけこの業界の修理屋にはたいしたことのない奴が多いということなのだろう。義務教育から始まる英語授業が以下に役立たずなものなのかを物語ってはいまいか。

 というわけで、輸入機械の障害については遠距離からの出張修理に依存しなければならなかったところを何とかかんとか現地で始末できる修理屋が現地にいるらしいという点が現在のところ小生のこの田舎町における存在価値のように勝手に思いこんでいるのだが、大別してヨーロッパ製とアメリカせいでは勝手が少々異なる。

 概して作業性からいうとアメリカ製は困りものだ。その最大の理由は何と言うこともなく、ねじである。
国産製品やヨーロッパ製品はミリねじで組み立てられているがアメリカ製は当然ながらインチねじが用いられる。たったそれだけと思う方はおられるだろうが、ねじ回し職人にとっては”たったそれだけ”が大違いなのだ。まず第一にインチサイズのスパナやレンチをひとそろい用意しておかなければならないので道具が煩雑になる。ある時製菓工場でミキサーの整備をするときに連れて行ったてこのオヤジ(注:「てこ」とは作業補助を指す北海道の方言と思ってください)は作業中にインチサイズとミリサイズのソケットレンチのコマをごちゃ混ぜに片づけて私に怒声をあげさせた。

 大体、インチねじなどというのはその辺の金物屋やホームセンターで売っているものではないので頭を潰したり紛失したり出来ないのが気苦労の種だ。外したボルトを排水側溝に落っことして30分くらい探し回ったことがある。バカにならない作業ロスであってミリねじならばあり得ない話だ。
 おまけに米国の工場労働者というのはおしなべて腕力が余程あるらしく、締め付けトルクが尋常ではない。黄色い東洋人である私などは頭を潰す覚悟で回さないと緩まないねじが多く、毎度冷や冷やものだ。更に言えばメッキされていない所謂生鉄(なまてつ)が多い。機器の多くは船便で運ばれてくるためか初期のうちからビスやボルトが錆びているケースも多く見受けられれる。これも困りものだ。

 そんなわけで米国製の機器類を修繕するときには作業費は少々割高に頂くことにしている。このくらいの割り増しでは罰は当たるまいと勝手に思いこんでいる。

 そして最後に、マイナスねじ。日本国に於いてはとうの昔に用いられなくなったこの形状が未だに米国製では大手を振ってまかり通っている。
 何が不便かというと、の先端にビスをつけた状態でドライバーを水平以下に構えることが出来ない。ビスを外すとドライバーにはくっつかずに床にぽろぽろと落ちる。この不便さはやった者でないとわかって頂けないかも知れないがとにかく苛立つ。プラスねじで出来上がった機械に比べると作業時間には明らかに2割以上余計にかかるし作業のストレスも多い。なにか腕が落ちたかのような錯覚に私はしばしば陥るのである。

 ここで殊勝な気持ちの持ち主であれば、自分の腕前はたいしたことがないのだから請求書の金額は控えめにしておこうかと思うのかも知れないが私はそうではない。余計なストレスはやはり請求書の金額に反映させないと自分が報われないではないかと考える口である。思考がこういう方向に傾く理由は瀬戸際自営業の緊張感から来るものなのかも知れない。


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