SSブログ

第4コーナーを回る [日記、雑感]

 早いもので俺が世間様にデビューしてから30年以上が経った。
そのうち約20年は会社勤めをして過ごし、以後10年くらいは自分で修理屋を開業して今に至っている。

 あれよあれよという間に時間は経ち,そろそろ年金のことを考え始める年齢になった。会社員を続けていれば定年退職迄のカウントダウンが始まる年代とも言えそうだ。
 商売は決して順調とは言えないが,夜逃げや自己破産をしなければならないという程酷くもない。
夜中の作業だの休日の呼び出しにぶつくさ言いながらも、そういう日常によって生まれるお金のおかげで生活できているのだから仕方ない,まあ人生こんなもんだろう,こんな風にして死ぬ迄ダラダラと働き続けていくのだろう,そんな腹づもりでここ数年の日常を過ごしてきたわけだ,が。

 諸兄よ,人生どこにターニングポイントがあるかわからんものなのだ。
俺の住む田舎町の学校給食センターが移転新築することになり,俺はその施工の一部を受注したのが昨年の11月頃のこと。
 市内全ての小中学校の給食を一箇所で調理する、その数なんと1万4千食。
およそ厨房と名付けられる設備としては日本で二番目にでかいのだそうだ。そして,来年度から稼働するこの共同調理場の機器保全担当がこの俺になりそうな雲行きであることをここで諸兄に報告しておく。

 受注の主体は中西製作所で,炊飯セクションのみはアイホーであり、俺はそこからは外れている。炊飯関連機器以外の全ての機器保全を俺が担うことになる。
 この話は中西製作所の側からオファーされた。社内のサービスマンを現地営業所には配属させずに現地に協力会社を探してアフターメンテにあたらせる方針なのだそうで,職業人としての俺にはその程度の利用価値はあるらしいと,少々手前味噌だが俺もこの道30年なのだからそういう場所に辿り着いていたとしてもいいじゃねえか。これまで結構真面目にやってきたのだし。

 何というか,競馬になぞらえると俺の人生も第4コーナーを回っている途中のような心境でここ数日を過ごしている。つまり,色々思案した結果俺はこのオファーを受けた。
 これから年老いてくたばる迄今のような日常を持続することは出来ないと考えたからだ。
土日は休み、夜は働かない。そろそろそういう生活形態に落ち着きたい気がここしばらくし始めているのは事実だ。俺はもう若くない。

 共同調理場は何しろでかい。ホームページから施設のレイアウトがPDFでダウンロードできるのでURLを貼っておく。

http://www.city.obihiro.hokkaido.jp/gaxtukoukyouikubu/gakkoukyudyokukyoudoucyourijyou/a310501_100826chouribaseibi.html

 ライスボイラーは約40台,コンベアータイプの洗浄機が全部で12台,スチームコンベクションが13台でトロリーカートは26台、他にも色々,とにかくまあ,べらぼうな数の機材で,ここはかなり確信を持って予想できるが,ある時期からの俺はこの施設に年がら年中かかりっきりになって他の場所で仕事ができる時間が物凄く減る公算が高い。専任のような業務形態になる事さえ十分予想できる。つまり,現在の得意先のうちのある一定割合は俺の方からお別れを伝えなけれなならなくなるだろう。俺は社員を雇って自分の生業を拡大していこうという考えが全くないので、手に余る得意先は自分の方から後準備をして別の業者に引き継いでもらうことになり,それは元の勤務先にしておくのが順当だろうと考えている。

 これ迄お世話になった得意先を切り捨てるとはけしからん,何と身勝手な,と非難したい奴はしろ。
俺は幾つも転職を繰り返し,会社員を辞めて自営業者になった。そういう遍歴であるにも関わらず俺に見切りを付けることなしに目をかけて頂いた得意先の方々には大変感謝しており,それはこの先も変わるところはない。何といっても俺はその方々のおかげでこれ迄生活させてもらっていたのだし。
 しかし一方で,その生活でこれ迄の俺が随分色々なものを犠牲にしてきたのは事実だし,その生活が俺にもたらす不条理がこの先改善される見通しがちっともない。これもまた事実なんである。

 今ある心地よい日常がいつまでも続くなどという考えを持つべきではない。同時に今晒されている不条理がどうあがいても払拭されないと言うことはない。諸行無常,万物は流転していくのである。
 会社勤めをしていた頃から現在に至るまで、俺はいつも業務用の厨房機材や設備とはどうあるべきかを考え続けてきたし、色々な事を訴えかけてきたと思っているのだが、総じて俺の言葉は使用者に届かない。
 人の営為はおしなべてそうであるように、俺の携わる世界でもサービスマンという人材を使い潰して消費し続けながら企業や使用者が事なかれ的に時間をやり過ごしていく。そして俺にはそういう状況に不条理を感じながらもこれを変える力がない。目先の金のためにランダムに発生するイレギュラーな出来事を引き受けては処理する毎日は、言ってみれば痰壷みたいなもので、その出来事を解決するために俺は色々と本来的でない負担を負わなければならない。それは例えば市場でたった一台しか稼働していない機械を修繕するために新たに何かのハンドツールやら測定器を購入しなければならず、しかもそれらの出番はたった一度しかないという状況である。たかだか一介の自営業者が普通の作業単価でいつまでもそういう事を続けられるわけはないし、どこまでもそんな自己犠牲を期待されても困る。

 自分で言うのもなんだが、学校を卒業して働き始めてから俺は結構真面目にやってきたと思っている。会社勤めをしていた頃は『会社のために』『お客さんのために』と思いながら頑張ってきたがあるときそこに無力感や不条理を感じて色々思案した挙げ句、10年前に修理屋の商売を始めた。
 開業してからは『会社のために』という考えは俺の中から消えた。それは精神衛生上好ましい事で、勤め人をしていた頃よりは自分のやりたい事ができるようになったとは思う。
 しかしそれを10年続けていると今度は『お客さんのために』という思いも何だか薄らぎつつある。俺はイレギュラーな出来事の始末屋として同業者からも使用者からもスポット的に利用され続けているだけの存在だし、それは色々な意味で報われていなさすぎるのではないかとある頃から思え始めてきた。

 だから俺はそろそろ『自分のために』を最優先に考える事にしたのだ。
俺には状況を変える力がない。俺の言葉は大半の同業者にも機器類の使用者にも届かない。俺自身も内なる何かを変えるつもりがない。だとすれば俺は今いるところから去っていくしかないのである。
 自慢するわけではないが国内有数の規模を誇る給食設備でほぼ専任として業務に当たる事をオファーされたこの事実は、俺自身の職業人としてのクォリティを何らかの形で証明している事にはなっていると思う。
 しかしそこはある種の特異点であって、色々な意味で世間とは隔絶されており、業務用の厨房設備に関わる一般的な動向が反映されたり交流が持てる場所ではない。俺の居場所というのはそういうところでしかなく、とどのつまり、俺はこの業界の異端児に過ぎなかったという事を今更ながら自覚している。俺の職務経歴というのは敗走の歴史だったとも言えそうだ。
 ここ数日は今後の自分の身の振り方をあれこれ思案し続け、正直なところ少々疲れた。ろくに身体を動かさずに考え事をしているだけでも人間、結構疲れるものらしい。
nice!(0)  コメント(7)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 0

コメント 7

63H

お俺も敗戦処理みたいな仕事から卒業死体な~

にしてもよかったですね!
by 63H (2015-02-03 20:58) 

くるみ

今までやってきた事の集大成ですね。犠牲にしてきた事も不条理な悔しい事も、辿り着く為の必要な要素だったのかもしれませんね。本当に良かったですね(^-^)!!!!。
by くるみ (2015-02-04 01:22) 

とうちゃん

凄い規模の施設ですね! おめでとうございます。
当方は、HarryTuttle の食器洗浄機の配管には耐熱をとのアドバイスに救われました。 専任になってしまわれると、なかなか今まで見たいな内容は難しいのかもしれませんが、今後もブログ楽しみしております。


by とうちゃん (2015-02-04 13:25) 

HarryTuttle

63H様,コメントありがとうございます。
私は長いこと道具箱を車に放り込んであちこち駆けずり回る毎日だったので一箇所に留まり続けるような業務に余り自信がないのです。というよりもそういうのが凄く苦手なのです。
 正直なところ,勤務時間の枠がきっちり決まっていること以外にはあまり魅力を感じていないのですが落ち着いた日常にはなりそうです。良くも悪くも。
by HarryTuttle (2015-02-05 11:00) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメントありがとうございます。
職業人としてはある意味,到達点と言えそうにも思いますが少々淋しい気もします。今でも現場で苦労しているもとの職場の後輩や,業界に失望して去っていったかつての同僚や仕事仲間達のことを考えると色々、複雑な思いです。
 まあ,これからのことを考えるとこれはこれで大変な局面に踏み入ったことにもなるのですが。
by HarryTuttle (2015-02-05 11:09) 

HarryTuttle

とうちゃん様,お久しぶりです。
洗浄機の件ではお役に立てて幸いです。
仰る通り凄い施設で,未知の機器類はありませんからその点での不安はあまりないのですが何しろこのボリュームなので手が回り切るかどうかに不安があります。

 専任のような業務形態を私は好まず、現在この点で依頼元とは協議中です。
ブログはやはりリアルタイムな出来事を書いていきたいと私は考えています。ご隠居の思い出話に明け暮れる程私はまだ老いてはいないはずだ,と思っているのですが・・・・
by HarryTuttle (2015-02-05 11:19) 

007


小生も、某大規模工場の保守改修の応援先で「毎日仕事があり、切れないけど、如何?」と聴かれた経緯も、一応お断りしてます・・・

・・・その心は≒先様都合で切られたら、、、あと安定収入との引き換えにサラリーマン的自営形態になる、事、この二点が問題にて、。

自由、っていうか、例えショボイ収入でも”自分の仕事”が出来るのが最大の利点で、それが自営ですから、難しいですね、色んな職業選択は、、、
でも基本的に良いお話ですね。。。
by 007 (2015-02-07 04:26) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。