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バーナー修理で悪あがき [含蓄まがいの無用な知識]

 更新をさぼり続けていると,再開するにも何だかバツが悪く,自分のブログページをブラウザで開くのが何だかおっかない。
  現実の世界でこのブログの読者とお会いすることもあり,『更新待ってますから』と言われることが時たまあるのだが仕事帰りの焼き鳥屋でグダを撒いているようなこんな糞ブログがそんなに値のあるものだとはいまだに思えないのだが,まあリップサービスということで有り難くそのお言葉は頂戴させて頂きます。

 13年前に俺がまだ会社員だった頃,それまでも長いことお世話になり続けていたある方のご紹介で横浜から帰省して開業される中国料理のレストランのオープンに関わらせて頂いた。

 今回の修理依頼は中華レンジのバーナーの不完全燃焼が収まらないというもので,エアーダンパーの開度を変えただけでは帳尻が合わないというのがオーナー殿から伺うところだ。
 このブログを読んでおられるご同業の諸兄にとっては,何を今更の内容だろうからこの先を読まれるのははっきり言って時間の無駄なのだが,使用者の方にとっては幾らかご参考になるかもしれないので一応,先を進めさせて頂く。

 ダンパーを調整しても不完全燃焼が収まらない,という症例の場合,俺の経験則から言うとかなり高い確率でバーナー自体が劣化しているのでこれを交換するのが定石である。
 鋳物バーナーは当然ながら長期の使用によって錆びてくる。燃焼によってバーナー自体の温度は上がるし,内部は燃料と空気の混合気体が流れ続けているので燃焼中はバーナーの内壁部分は水分に晒され続けることにもなる。これは決して誇張した表現ではない。

 バーナーが錆びることによって内壁部分は鉄粉だったりフレーク状の剥離物が溜まり,流路の抵抗となって混合気体の流速が低下する。そこで起こる不具合は,
(1)混合気体の流速<燃焼速度 となるので混合管内でのフラッシュバックやバックファイヤー
(2)一次空気,二次空気の不足による不完全燃焼
といったところか。

 燃焼器具メーカーのサービスマニュアルで、これまで俺が目にしたもののうちの殆どは不完全燃焼の対処法についてはダンパーの調整しか記述しておらず、バーナー本体や混合管の内壁面を点検した上での清掃を示唆するものは殆ど全くと言っていい程なく、技術資料としては全く不十分なものと言わざるを得ない。これは俺が会社員だった頃,この手の資料を作成する部署(俺の職場の場合は工場の製造管理部)に散々文句を言い続けたことのうちの一つでもあるのだが今に至るまで全く反映されることがない。

 いささか脱線めくが,どうしてこんな事を書くかというと,内壁面の錆によって不具合の発生したバーナーはコンディション次第では交換しなくても分解清掃によって個体の延命を図れる場合があるからで,それは技能職としての修理屋の見せ場にもなり得ると考えるからだ。
 技術職の中にあって修繕というのは低く見られがちな職種であり,単なるパーツ交換の作業員(Worker)としか見られない風潮に俺は異議を唱えたいのだ。

 とは言え,錆による剥離物が堆積したバーナーの分解というのはギャンブルがかった側面がどうしてもつきまとう。長期間使用したバーナーは先に書いたように剥離物が発生した分だけ内部は削れて肉厚が落ちている上に錆びによって塑性が変化しており,平たく言えば脆い。分解作業は余程慎重にやらないと混合管の接続箇所が折れてバーナーが使えなくなってしまうリスクは常にある。

 ガスレンジや中華レンジに使われる二重のトップバーナーで、外径が約200φくらいのものというとパーツとしての価格は混合管が付属した状態で大体¥15000から二万円強くらいだ。
 潔くバーナー交換に踏み切るか,分解清掃数千円で済むかもしれないが分解に失敗してバーナーをお陀仏にして数日間,火口一個を使えない不具合をかこつ憂き目に遭うかもしれないか,使用者としては考えどころだとは思う。

 今回俺は後者の,リスキーな方向で行くことにした。
実はこの中華レンジは別の火口の修繕で以前記事にしたことがある個体だ。

記事名:救えるときもある
記事URL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2013-05-01

 このときはバーナー本体にねじ込まれた混合管が折れてしまい,接続部分に折れ残った混合管のねじ切り部分を除去するところが作業上のポイントだった。
 
 製造元の考えとして,鋳物バーナーにねじ込まれた片ねじの短管(鋳鉄管)を取り外すという作業は想定していない。先に書いたマニュアルの手落ちと思われる一面はこういう,分解時の破損リスクを踏まえてのことではあるだろう。だからこれはどこの燃焼器具メーカーについても言える造作だが、混合管のねじ込み部分はシール剤による処理はされていない。つまり古くなったバーナー本体と混合管の接合部は錆びて固着しほぼ完全にといっていいくらい一体化しているので破損させずに分解できるかどうかは運次第。

IMG_7722.1.jpg

 ギャンブルは当たりと出た。
前掲記事の作業と同様のコツだ。
(1)分解前にワーク(ここではバーナー本体)は十分に熱しておく。ワークが熱膨張する事で片ねじ短管との噛み合わせ部分に剥離部分ができたらしめたものだ。
(2)潤滑用のスプレーは惜しみなく接合箇所にぶっかける。剥離箇所に浸透するまでには結構な時間がかかるので吹きかけた後5分以上は放置しておくのが好ましい。日常持ち歩いているのはごく一般的なもので、今回使用したのもそれだ。
 
 用途として最適なのかどうかはわからないが,何がしかのご利益はありそうに思える。

 バーナーから短管を取り外す際にはパイプレンチを二丁がけしておくのは絶対条件で、ただでさえガチガチにねじ込まれている短管が錆びているのだからこれはもう回らずに脆くなった配管がねじ切れてもおかしくない話であって、何しろ取り外しには馬力を要する。
 しかし馬力一辺倒で解決するかというとそうでもなく、ある種のコツも要する。今回で言えばパイプレンチの片方、短管側にかけた方だが回す過程で配管が歪み、断面が楕円状に潰れた。短管もまた鋳物だからして劣化してくればすが生じたりもするのだろうか。同じ箇所にレンチをかけず、一度に大きな角度を回そうと欲張らず、レンチをかける位置をずらしながら10°位ずつジワジワと回す。少し回ったら潤滑スプレーをねじ込み部分にかけながらこれをねじ込み半回転分くらいの間くり返す。

 このようにして短管を取り外してバーナーの内壁面を覗き込んでみると、剥離した錆がフレーク状になり内部を塞いでいる。
 錆もパウダー状であれば取り外して叩けばこんな面倒臭い作業をせずに済むのだが今回はそうではなかった。
IMG_9009.1.jpg

 屋外の駐車場で作業を行ったため錆びた剥離物が同色で見づらいだろうが、今回のケースで言うと外径約200φのバーナー内部におよそ一掴みと半分くらいの錆が溜まっていた。これだけあれば内部の流体抵抗にもなろうというものだ。

 結果についてはわざわざ画像で示すまでもなく,正常な燃焼状態が回復できた。
しかしこれは決して問題の解決ではなく、バーナー交換が先延べされたに過ぎない。
第一に,これだけの量の剥離物が発生しているということは,その分バーナー内空の容積が増えたことになるので,未燃焼ガスが多く残る分だけ消火時のフラッシュバックが起こりやすくなる。中華用のバーナーとなれば尚更だ。
第二に,剥離物が発生した分だけバーナーの肉厚は減少しているのでいずれどこかの時点でバーナーには穴が空き,それは修理のしようがないので問答無用で交換となる。

 色々とリスキーな割に修理屋の自己満足でしかなさそうな気はする。バーナー交換に比べて明らかに安い金額でないと使用者にとっての割安感は得られないだろうから大した修理代を請求するわけにもいかない。
 しかしまあ何というか,最も安価なやり方で対症療法を施す,という目的は達成できていると思う。繰り返すが今回のような処置は冷徹に考えてみれば単に修理屋の自己満足に過ぎない。
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コメント 4

007

小生も以前の職場で、不完全燃焼のガスコンロのバーナー部位を取り外して清掃したことがありますが、劇的には改善されず、赤い炎は出ていました。
差込式でしたので容易に外れましたが、ねじ込み式では仰る通り手間と細心の注意が必要ですね。

錆びた異物が多く出た割には効果が薄くがっかりしたもんです、、、
遠い昔話ですけどね、。
by 007 (2014-03-09 12:29) 

くるみ

バーナー内での錆の様子や炎が逆流する様子…頭の中で想像して、まるでアクション映画を観てる気分でした( ̄▽ ̄)b。 愚問になりそうですが、その細やかな作業方法は、会社勤めに教わったのですか?それとも経験の中で身に付けた技術なのでしょうか? 本当に素晴らしいですね!!技術者とゆうあり方を改めて心に刻んだ次第です。
by くるみ (2014-03-10 00:27) 

HarryTuttle

007様、いつもコメント有り難うございます。
 長期間使用した鋳物のバーナーは錆の塊ですから分解は難儀である上に結果は運次第でもありますね。
 私もたまたまうまくいった例を今回、記事にしただけに過ぎず実際には不首尾どころかお客さんのバーナーをぶっ壊して平謝りの場面が多々あることを白状しておきます。
by HarryTuttle (2014-03-12 20:07) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメント有り難うございます。
ご質問の回答としては後者です。無数に失敗し,恥をかきまくり,頭を下げ続ける中で手探りでやっていることです。今でも失敗し続けています。
by HarryTuttle (2014-03-12 20:55) 

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