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中華バーナーと燃料の相性について一考 [含蓄まがいの無用な知識]

 これ見よがしに休日中の俺に出動を迫るバカ客だの詐欺師まがいの悪徳店主だの,どうも仕事の本筋とは関係ないところで精神衛生上よからぬ輩によってこのブログが使われるのは本来好ましい話ではない。
 本日8月15日は,俺はのんびりと休日を満喫しているので7月1日に書きかけたテキストに加筆し,プロの端くれとしてもう少し諸兄にとって有益となるような問題提起をさせて頂きたい。大半の同業者の方にとっては何を今さらの内容だとは思うが俺自身の備忘録というか記憶の整理の意味もあって書いておく。

 先月度の仕事内容を振り返ってみると,俺にしては珍しく燃焼器具を扱うことが普段の月より多かったように思う。
 それらのうち,多くの割合は中華レンジのバーナーだった。
 和洋中と並べてみた場合,俺の経験則としては一番刺々しい態度で口うるさいのは和食の調理師だが調理の中心である火口については中華のバーナーが一番シビアな調整を求められるように思っている。これまた経験則だが和洋中と並べてみた場合,中華のコックさんには比較的人当たりの円満な方が多い。よって,大して燃焼状態の良くないバーナーではあるが何とか使いこなされているケースは結構多いのではないだろうか。

 俺は元々高級な脳味噌の持ち主ではないので,燃焼という物理現象に関して理論だった説明が出来ない。大体この糞ブログは俺の垂れ流しが目的であって同業者の実務指導になんか役に立つわけがないのでここから先は俺が勝手に書き飛ばす。

 俺の住む土地は田舎町なので都市ガスの供給範囲はあまり広くなく、ほぼ市街地限定と言ってよい。数年前に全面的に熱量変更が行われ,現在は13A(天然ガス)が供給されている。
 これは例えば,若い頃に大都市圏で仕事を教わってからUターンして来た調理師にとって朗報であるようだ。とは言え需要家の大半はLPG(プロパンガス)であり,特に中華の調理師にとっては帰郷後の仕事に於いてしばらくの間違和感を覚えるもののようだ。

 横浜帰りの中華のコックが「いやあ,ここはプロパンガスだからちょっと調子が狂っちゃって・・」と帰郷当初ぼやくのを俺は一度ならず聞いたことがあり,ある時期まではそれが何のことだかわからなかった。
 どのメーカーのカタログを見てもそうだが,燃焼器具は全てガスの種別に関係なく定まった発熱量である。だからガス種が何であれ使用感は変わらないはずだ,と、ある時までの俺は信じ込んでいた。それは調理師の錯覚に過ぎないのだとばかり思っていた。
 一つ不可解だったのは,燃料の種類と使い勝手に言及するのは決まって都市圏で勤務経験のある中華の調理師だったことだ。何故か和食や洋食の調理師らはそのことを聞いた記憶がない。

 ヒントというか暗示というか,手がかりらしきことを耳にしたのはそれから何年も後,勤務先の先輩と雑談の最終のことだった。
 燃焼器具の燃料の種別のことでああでもないこうでもないと話している最中,その先輩がこういうことを口にした。
 片方はLPG仕様,もう片方は種別はともかく何かの都市ガス,同じ機種のガステーブルで,同じ大きさの鍋に同じくらいの水をはり、ごとくにかけて火をつける。よーいどんで二台同時に沸き上がる時間を測ってみる。
 現実にそんな比較検証を行うことは出来ないと言っていいのだが,うろ覚えの記憶,体感的なものとして都市ガスの方が沸騰までの時間は早いように思える,そういう内容だったと覚えている。

 その話は何年も俺の頭の中の引き出しで眠っていた。検証する機会も日常業務ではあるわけなどなく,ダラダラと時間が過ぎた。
5年ほど前,俺の住む土地では都市ガスの転換が大々的に行われた。この時,地元のガス会社からは俺のような者のところにも幾らかの発注があり,幾らかの売り上げにはなった。
 それまでの燃料は4Cであったものが13Aとなり、単位堆積あたりの発熱量は約3倍となるためこれから後は敷設する配管径が1サイズダウンでも何とかなる場面は増える。これはいいことだ。

 4Cから13Aへの切り替え作業を行い,点火試験をしてみてはっきりわかるのは炎の大きさが明らかに異なることだ。体積あたり発熱量の小さい4Cは当然ながらそれを補う意味で炎は大きい。
 使用者の方に言わせると4Cの頃の方がほんの少し,お湯が沸くのは早かったような気がするそうで、これは複数の方から伺った話なのであながち個人の錯覚とも言い切れないだろう。

 そこで俺の中には何年も燻り続けていた疑問が持ち上がり,ある憶測が働いた。
燃料の種別によって燃焼温度に若干の差はあっても,それは大体ある範囲の中に収斂する類いのものだ。だとすると炎の最高温度である先端部分と火にかけた鍋底との距離によって沸き上がり時間に差が生じてくるのではないのか。言い方を変えると同じ発熱量のバーナーであった場合には火脚の長い(単位体積あたりの発熱量が低い)燃料で燃焼させた方が炎の大きさとその先端と鍋底との距離が近い分だけ加熱には有利に働くのではないのか。

 俺は無学な人間なので,この辺りの関係性を数式立てて説明できる能力がない。ただ,使用者の方に折りに触れてこの話題を投げかけるとある種の見識ある方々は確かに違いはあると仰る。
 このブログでこれまで何度か取り上げさせて頂いた俺の得意先である方とあるときこの話題でしばらく雑談すると,LPGと13Aでは鍋が加熱される面積が体感的には異なる感じがすると仰った。具体的には前者に比べて後者は広い気がするのだそうだ。
 LPGは都市ガスに比べて小さな火でも発熱量を稼げる,ということは鍋底を焦がし易い燃料でもあるわけで,この方に言わせると確かにそういう傾向はあるらしく,都市部で調理の仕事を覚えた中華のコックが地方に帰郷してLPGの燃焼器具で仕事をするにあたって違和感を覚えるのがそれなのだそうだ。

 俺はここで燃料の種別に優劣をつけているわけではない。
同じカタログスペックの燃焼器具ではあっても燃料の種別と使用目的によっては伝熱のされかたに違い(差とは言わない)が生じ,ある種の調理師にとってそれは感知可能なものであることを言いたいのだ。
 
 某オーナー様のお話を続ける。
 横浜で10数年勤務して仕事を覚えて帰郷し,開業したときLPGでの調理に最初は軽い違和感を覚えたが火加減と鍋の扱い方を少し変えることでそれには適応した。
 一見何気ない話ではあるが、これをさらりと語るところにプロフェッショナリズムを感じない人はクラフツマンシップとは無縁の輩である。

 もう一つ,その方のお話を最後に書き残しておく。
LPGに比べると天然ガス(13A)のほうが柔らかい火に感じられる。

 俺はこれまで仕事で接した中で調理師から伺った火に関する言葉のうちでこれ以上に奥深さを感じたものはない。

 某店舗のURL:http://blogs.yahoo.co.jp/kamibi0125 
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コメント 7

007

和洋中のコックの気質は成る程納得です・・・首締めたい奴は・和・が多くいましたね、、、
ここにも人間力が発揮され・・・掃除の際にコンセントに平気でホースの水を掛けて、「コンセントに電気コン!」というアホがいました、、、

また、蒸し器三台あり、空炊きしてオシャカ!そして買い替えは安いタニコーだったか?、他の二台は3Qボイラーだから、多忙時に同じ蒸し物を上手く均一加熱できるかが怪しいのでアホ臭くなりました(笑止)・・・以前宴会料理で、茶碗蒸しに生が混在しクレームになった故、、、

同じ蒸し器でも蒸気が出て来る時間や蒸気量に差があり、バーナーの差もさることながら、本体のバラツキを感じました(メーカー違えば尚更)、、、管理として電気以外の分野もお粗末ながら我流で研究(良く壊すので色々な経験が出来た)したものです、。

小生の後任は、古参業者に合い見積を取らせ、新規業者に交渉し下げさせて、差額を上へ報告し「僕が交渉し経費を削減しました」方式のバカの一つ覚えで次第に点数を稼いで行きました、そこには技術は全く存在しません、、、「如何にズルイ事をして得をするか」が一大看板なのです・・・最近納得したのは、ズルさの蓄積がかなりの経費削減(利益)を成したので、新経営者も重宝してるらしく、未だに在社してると聞きます・・・パチンコ屋で昼間っから良く見かける、という情報もありますが・・・会社に貢献してるので何でもOK的(例え犯罪でも)と診ました!、、、

だから今は、凄く納得してます、あそこには絶対オレの居場所は無かった!のだ!!、と。
by 007 (2013-08-17 17:07) 

くるみ

興味深いお話でした(^-^ゞ 確かに中華料理だけは家庭では出来ないって言いますものね。その理由は家庭用と業務用のコンロ自体の違いのみと思ってましたが 業務用ではガスの種類も関係あるのですね。他のジャンルの料理形態では気付かない事かもしれませんね。
by くるみ (2013-08-21 23:53) 

HarryTuttle

007様,いつもコメントありがとうございます。

サンキュウボイラーをタニコー製のせいろ蒸し器にリプレースでは調理師さんが納得できないのではないかと私は経験則から心配しますが,「何でもかんでも安ければいい」という価値観の持ち主にとっては一つ教訓を得る機会ではあるな,とも思えます。皮肉ですけどw

 私の職域に限らず,遠くない未来に於いて日本の社会は保全要員の不足により深刻な状況に陥るという予測があります。
 都合の悪いことは他人に丸投げしておきながら手柄は独り占め,とか,何でもかんでもなりふり構わずとにかく安いものを、という発想がこういう限界を引き寄せてくるわけですが,その状況は私たちのような職分の復権に役に立ちはしないかという淡い機体があります。物凄く淡いですがw
by HarryTuttle (2013-08-23 12:05) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメントありがとうございます。
 ある得意先から伺う所によると,中国料理には火力の呼び名について十数種類の段階があるのだそうです。
 和洋中と並べてみると,中華のコックさんが最も火力に対する感受性が高いように私は日頃考えています。小さな過火力に限定すると洋食畑のコックさんが高い感受性を示しますね。
by HarryTuttle (2013-08-23 12:10) 

007

保全要員不足>職分の復権に役立つ・・・小生もそう思います、、、

年金が崩壊し死ぬまで働き続ける社会構造になりますから?、定年後(60歳超え)はビルメンに再就職を想定してます。
by 007 (2013-08-24 05:43) 

HarryTuttle

007様,いつもコメントありがとうございます。
今の私はいつの日か保全要員が復権する日を夢見ていますが,TPPの推進とともに工業レベルの向上した途上国から来た低賃金労働者の前にビジネスチャンスを失う局面もありそうな気もしています。
 なにかこう、希望の持てない未来の展望です。
by HarryTuttle (2013-09-09 11:31) 

007

まあ、体力低下したら理屈で勝負しかないでしょうね、、、

外国人労働者との競争は先ずパート・アルバイトから始まり、次第に正社員を喰うでしょう、、、
チャンスは個人自営業者にこそ存在すると診ます!
出来れば自営で一生を終えたいです。
by 007 (2013-09-09 16:45) 

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