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救えるときもある [含蓄まがいの無用な知識]

 このブログで何度か取り上げたことのある隣町の中国料理店からの修理依頼である。
オープン以来13年が経ち,さすがに機材にもくたびれ加減が目立ち始めており、今回は中華レンジを手がける。

 障害の内容はバーナーの混合管が折れたというものだ。
混合管はSSのメッキ管(白ガス管)で片ねじを切っており,バーナー本体にねじ込まれている。当然だが折損箇所は決まってねじ込み部分である。折れる理由は
(1)酸化、燃焼に伴うものと塩分の付着の両方
(2)混合気の流動摩擦により肉厚の減少

 混合管の折損はバーナーの交換がその対処法となる。汎用パーツとして販売されているバーナーに混合管は付属していないのでこのときは元の個体についていたのと同じ長さの短管を切り出すことになる。
 しかし場合によってはバーナーの交換を免れることが出来る。一般にバーナーの価格は2万かそこらくらいの請求額になるケースが多いので,ある種の使用者にとっては折れた短管の交換だけで済むかバーナーの交換まで行くかでは出費に結構な違いが出る。

 今回は結構見込みのある折れかただったし、長らくお世話になっている得意先でもあるので俺はせこい修理法で切り抜けることを試みた。
 バーナーのねじ込み部分に折れて残った短管は、当然ながらそのままでは新しい短管を取付けられないので取り除かなくてはならない。取り除く,と,言葉にすれば簡単だが現実には錆び付いたテーパーネジ部分だからバーナー本体とはほぼ一体化しているようなものでねじ込み部分を露出させるのは容易でない。どのようにして除去するかについては幾つかの方法があるが,それら全部についてここでは説明しない。
130430_2039~02.JPG

 画像に示す混合管接続箇所のうち手前側が折損箇所である。接続部に見える細長いひげ状のものは短管(混合管)のうちねじを切った部分であり,肉厚の減少した混合管が折れる際に生じたものだ。

 今回試みたのはこのひげ状の部分をねじ込み部分の内壁から剥離させていく作業だ。
ねじを切った部分は螺旋状に内壁に残っていることになり、噛み合わせ部分は錆びてバーナー本体に固着しているので、剥離を促進させるためにトーチで加熱し傍聴させる作業とシリコンスプレーを合わせ目に含浸させる作業を交互に行い,ひげ状の部分をプライヤーで掴んで引っ張りながらほどくようにして剥離させていく。
 ネジ山部分が根元からちぎれた時点で作業は終了となり,この時ネジ山が2山以上残っていれば新しく切り出した短管(混合管)は何とか取付けることが出来る。締め込み箇所はどうしても甘くなるのでそこはシール剤の工夫で切り抜ける。
 力加減を間違って一山程度のネジ山露出で終わってしまうと作業としてはNGであり,バーナー本体交換となる。また,テーパーねじであるからして剥離作業の最初は除去物は太く,強度があり,ほどき易いが進むに連れてだんだん細くなり切れ易くなる。
 ねじ込み部分の全てをこのやり方で除去できたことは俺の経験上ではまだ一度もない。今回の作業で言うと3山と半分程度のネジ山が露出する程度には剥離作業が進んだので、ひとまず旧来のバーナーは活かせることになった。
130430_2112~01.JPG

 下側のメッキされた短管が新しく切り出した混合管である。元々ついていた混合管と長さを揃えて切断し,ダンパーを取付けて作業は終了。

 救えるものは救う,と日頃俺は考えているのだが最近それは何だか馬鹿馬鹿しく思い始めるようになってきた。今回の件に限らず,修繕費を押さえるための努力と俺自身は心がけているがそれは果たして使用者の方々に一体どの程度理解されているのだろうか。
 バーナー丸ごと交換を要するからその到着までの間は仕様禁止,という所見を出したからといって同業者に後ろ指を指されることは全くない中で低い出費だとかワンストップで即日復旧させる努力がどの程度理解され,また評価されているのかが最近は疑問だ。

 今回の以来元は幸い俺の仕事に理解を示してくださる方だったのでこれには該当しないが,日常業務の場面で問題の発生した使用者の口から修理屋に対して『応急でもいいから何とか使えるようにしてくれ』などという要望が出ているうちは保全業務に従事する者の真価は全く理解を得られていないと受け止めざるを得ない。
 障害の復旧というのは応急処置こそが困難であり,高度な知識なり技量なりが求められると常々俺は考えているが使用者がこれを「でもいいから」という風に簡単に捉えているとすれば大変な誤解である。

 今回記事の作業については,実用上は問題がないものの混合管のねじ込みが浅いという点でこれは応急処置の域を出ないものであり本来的にはやはりバーナーの交換が望ましい。
 俺としては使用後13年を経過した機体でもあるので,あまり多額の補修費をかけることへの疑問もあり、今後の措置は使用者であるオーナー様に委ねることにした。
 同業諸兄の方々には重ねて伝えておきたいが,今回記事はあくまで応急的なレスキューの可能な一例を取り上げただけのことであって,この症状が発生した場合に於いてバーナー交換を要するという所見を否定するものでは全くない。
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コメント 4

ぴよんきち

これは凄い!いろいろ勉強になります。

後、よくある「応急修理」って温度なんかのセンサーが壊れた場合、
センサーを外して手動スイッチ追加で切り抜けることが多いと思うんですが、
そういう「応急」って、修理後の操作が作業マニュアルから逸脱するんで、
微妙に嫌がられますよね。
装置の原理が解る人ならすぐに納得するのですが。
by ぴよんきち (2013-05-02 15:03) 

ぶーやん

全くもって「応急処置」に対する評価に関しては同意見です。近頃は技術屋(修理屋)に対する世間様の低評価にうんざりです。物造り大国の復活を目指すなら技術屋、修理屋の腕前にもっと敬意を払ってほしいものです。修理する人が居なくなったらどうなるか考えてほしいもんですね。
by ぶーやん (2013-05-09 17:39) 

HarryTuttle

ぴよんきち様,いつもコメントありがとうございます。
業務用の厨房機材とはどういうものなのか,という定義付けはいまだに曖昧なままであり,何よりもサプライヤーの側がこの点について明確なカテゴライズを怠け続けている点には大きな問題があると常々私は考えています。
 仰るところの状況が『産業機械』として扱われるものであり,使用者の側にある程度の保全業務を職務範疇とする人がいる場合に於いては抵抗感なく受け入れられる措置だと思いますが,家電製品とか住設機器と同じ括りで捉えられている場合は修理屋としての対応はややこしいものになりがちですねえ。
by HarryTuttle (2013-05-11 13:51) 

HarryTuttle

ぶーやん様,はじめまして。コメントありがとうございます。
 料理人の側はここ20年くらいの間に巧の技だの何だのともてはやされているし,機材を製造する側はこれまたプロジェクトXなどというような番組まで製作してもらえるわけですが,修理屋という立場はほんとに日陰者だとつくづく実感しています。
 未来永劫トラブルフリーの機材などないのだし,不具合の復旧というのは人的な努力によってしかなされないということはもっと目を向けて頂きたいものです。
by HarryTuttle (2013-05-11 14:01) 

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