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昨年末に手こずった修理の備忘録 (続編) [お仕事上のぼやき]

前記事URL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2013-01-06

前回記事の補足
 サーマルの破損に伴い,ジャンパー線を挿入しての応急処置作業の際,コンタクターの端子を緩めようとして何の気なしにドライバーをあてがったところ派手にアークが飛んで俺は大いに焦ったのだった。分電盤内の開閉器は切ってあるはずなのにどうしたことかと狼狽えながら調べてみると,オーブンというステッカーの張ってあるその開閉器はどうやら別の機器に振り当てられているらしく,肝心のコンビオーブンの開閉器はずらずらと盤内に並ぶどれにも表記がない。機器の電気容量と名称不明な複数の開閉器それぞれの容量を見比べながらヤマ勘で当たりを付けて該当する開閉器を探し出すという余計な労務に手を取られたわけだがこういう適当な(いい加減な,という意味だ)工事は止めてくれ!と、声を大にして言いたい。

(ここから本文です)
 一旦は小康状態を取り戻したかに見えたコンビオーブンはその後どうにかクリスマス時期を乗り切った。断線しかかっているトランスがどのくらい持ちこたえてくれるのか俺は毎日心配だったがどうにかこうにかオーブンは12月26日まではノントラブルで持ちこたえたのだった。
三回目訪問 12月26日

 前日どうにか本国からトランスは届き,手配済みだったサーマルを携えて俺は結着を付けるべく件のスーパーに乗り込んだ。
 作業は事前のイメージ通りに進み,試運転を済ませた俺は意気揚々と撤収してその夜,久しぶりに熟睡したのだった,がしかし・・・・・
四回目訪問 12月29日

 この日の朝,俺は依頼元から暗い声の電話を受けた。例のオーブンがまた運転を停めてしまったという。電源を投入して少しの間はLEDの表示が出ていたのだがすぐに消灯し,以後電源が入らないという。
 俺は狼狽し,昨日の試運転に見落としがあったかもしれないことを詫びてその日の夕方四度そのスーパーに向かった。パートのおばさん達は困惑を通り越して俺を不憫がる。使用者に憐れみをかけられるようでは修理屋も終わっとるな、一体今まで何をやっていたのかと俺は自嘲した。
 落胆すると集中力も高まらないものらしい。これまでの作業中でどこか過失があったのかと最初からの作業を検証し直してみたがどこにも変な様子がない。こんな七面倒臭い状況にはまるのももう、いい加減に卒業したいもんだと俺は更に気落ちした。いっそのことどこかの誰かに丸投げして自分はどっかにトンズラしたい気分だったがあいにく誰にも心当たりがない。そうでなくても俺などはこの業界では半ば鼻つまみ者みたいなもんだ。自分で何とかしなければならないのだ、と,半ば諦めつつ気持ちを落ち着けて配線図を眺め,沢山ついているヒューズの溶断箇所がないかを探しているうちにある一本に行き当たった。ガラス管のミゼットヒューズはいかにもどこかがショートしました風に内部が真っ黒になっている。,再び配線図を眺めているうちにある考えが閃いた。
 溶断したヒューズの経路を辿っていくうちに前例のないイメージができあがりはじめたのだった。
 そのヒューズは幾つかの分岐をもっており,そのうちの一本にはブザーがぶら下がっている。オンボードリレーのb接点を潜ったそのブザーは基盤上のタイマーで設定された調理時間がタイムアップすると鳴動し,調理モード(ホットエアー及びスチーム)をキーをオフにするか電源を切らないと鳴り続ける。

 CCというモデルは操作系が全てタッチキーとなり,調理プログラム機能を備えた最初の機種であるが、最初なだけに機能的には未消化な面もあり,設定された庫内温度は記憶されるが調理時間は電源を切ると消去される。そして運転時、調理モードを選択した直後には00:00で起動するのがデフォルトでありこれを変更することは出来ない。

 文字だけで説明することには困難を感じるが行きがかり上最後まで書いてしまおう。つまりこういう風だ。
例えば調理モードがホットエアーで温度は160℃,時間は20分としよう。
 電源を投入し,調理モードを選択すると(この場合はホットエアー)まず,設定温度の表示と同時にブザーが鳴動するのでこのときすかさずタイマー設定のアップダウンキーを操作してなにかしらの時間設定、又は連続運転(continue run)を行うことで初めてブザーは止まり,ヒーターと庫内ファンモーターの運転が始まる、というものだ。

 そしてこのブザーがどういうものかというと,ACソレノイドを励磁させて鉄片を振動させる式の旧態依然たる形式である。シートパネルにはでかでかとComputer Controlなどと大書していながら電子ブザーを使っているわけでもないのはご愛嬌というか何と言うかだが,俺はこういうことを憶測したのだった。
 *オンボードリレーでスイッチングされてはいるが、ブザーの定格電圧はAC200Vであり,溶断したヒューズを潜っている。
 *パートのおばさんからの聞き取りによれば,調理モードを選んだ直後に電源が落ちた,とある。
 *だとすれば,ブザーのコイルがレアショート(層間短絡)を起こしかけており,見かけ状のDCR(直流抵抗値)が下がったために過電流が流れ,ヒューズが溶断した可能性はないか。
 俺の経験則では,コンビオーブンについてブザーのショートという故障事例はない。がしかし,パートさんの話と配線図から読み取れる動作を突き合わせて検証してみるとどうしてもそのように考えないと出来事との整合性は取れないのだ。
 意識のアンテナが尖り始め,俺は配線図を睨みつけては唸り,表に出て脳味噌にニコチンを補給しながら推敲し始めた。
 
 やがて考えのまとまった俺は制御基盤からブザーのリード線を取り外してヒューズホルダーに新しいヒュースを入れ,クランプメーターを引っ掛けて電源を投入してみるとオーブンは正常に運転され,この枝路の電流値はヒューズの定格1.5Aに対して約0.6Aを示した。
 仮にここでブザーのDCRを測ったところで,抵抗値を比較できる良品の個体がなく,俺の頭の中にも正常値が入っていないので意味がなく,そうなるとは何本かのヒューズを潰すつもりで試すしかない。それで次に基盤の端子にブザーを繋いで同じように立ち上げてみるとブザーが低い音で唸ると同時にその分岐枝路は(定格1.5Aに対して)瞬間的に5Aくらいの表示を示した直後,操作パネルの表示は消えて機体は停止したのだった。問題のヒューズをホルダーから抜き出してみると案の定,派手にブローした形跡がありありだ。
『これだったのか!』
 歳末の駆け込みが多く,身体はヘトヘトだが俺は妙に興奮し,応急処置である配線の変更に取りかかったのである。
 ブザーの機能を切り離すことで全体の機能は保たれる旨を俺はスーパーの店長とパートのおばさんに伝え,修理が完了するまでの間は内部のタイマー設定と同時にキッチンタイマーを併用することで調理終了に注意して対応してほしいと念を押した。内蔵ブザーが鳴らないのは不便だがオーブンが全く使えないよりは余程マシなわけでこれは快く受け入れられた。

 試運転をしながら俺は依頼元に連絡を取り,内容を伝えた。新しい症例の発見で結構興奮気味だったかもしれない。依頼元にとっても初耳のぶっ壊れ方だったようで妙に感心され、俺は何か壁を一つ乗り越えたようなある種の達成感に浸りながらその日は帰宅してから修繕費を精算し、その労務経費にホクホクしながら修理見積りをこしらえて送信してからグデグデになって風呂に入り,爆睡したのだ。この日12月29日は得意先に対して仕事納めと伝えてあるその日である。

ところが,だ。
話はここで終わらない。ここで終われば結構な仕事納めで,俺の人生もそう捨てたものでもないのだが現実はそうではない。試練は更に続き,いい加減俺は頭にきて爆発しそうになるのである。(この項続く)
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