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シーメンスのサービスマンを横目で見ながら [日記、雑感]

 土曜日は某総合病院のオペ室で修繕というスケジュールが続いている。
先週は保温庫の修理があり,お昼近くの現場乗り込みとなった。厨房の修理よりもギャラは良いのだがオペ室の仕事はテンションの上がらない土曜日が作業指定である事が多いので俺としては意識付けが難しい。

 ロッカールームで着替えを済ませてナースセンターに向かうと、当直の看護士から作業予定のオペ室は既に他の修繕で業者が入っているが問題ありませんかと聞かれたので邪魔にならないように気をつけますからと答えてその部屋に入って俺は大変卑屈な気分になった。

 そういえば業者用の駐車場にはシーメンスの車が停まっていた事を俺は思い出したのだ。
シーメンスと言えばどちらかというと電気畑の俺のような者にとっては燦然と輝く一大ブランドである。
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 諸兄にとってシーメンスと言えば馴染みのありそうな製品はせいぜい補聴器くらいという認識の方もおられるのだろうがとんでもない,日本で言えば日立製作所みたいなマンモス会社で,要するに総合電機メーカーと重工屋の合体した,従業員はなんと36万人,年商14兆円を超える化け物だ。

 サービスマンの社用車はドイツのナショナルカラーという意味なのだろうがシルバーボディのライトバンで横にでかでかと会社のロゴマークがレタリングされていてかっこいいがさすがにメルセデスやBMWではなく日本車である。
 件の某総合病院に於いては院内の天井を縦横無尽に走り回るカルテ搬送システムを納めているが、何せ世界で初めて電車を作った会社なのだからそれくらいはちょろいもんだろう。
 当然ながら医療機器もごっそり納入しているだろう。俺は素人なのでさっぱり訳が分からないが。

 オペ室に入るとシーメンスのサービスマンが二名で何かをいじくり回していた。
『何か』と書くのは俺にはなんだかわけの分からない機材でとにかく見るからにややこしそうな物体だったからだ。医療機器である事は勿論間違いないのだが何という名前で何に使うものなんだかからっきし見当がつかない。これに比べたら俺の仕事なんぞたかだか保温庫のファンモーターを一個交換するだけなのだから屁みたいなものだ。いや,屁以下だ。
 人相というのは不思議なもので,目しか見えていないのに知性や貫禄を感じる時はある。これは俺が卑屈な気分になって遠慮がちだったからばっかりではない。俺がおずおずとこれから保温庫の修理に取りかかりたいと告げると「あー保温庫の修理ですか。どーぞどーぞ」とその方向に向かって手を広げ、その何とも悠然とした様子に俺はこそこそと猫背気味になって彼らの脇をすり抜けた。
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画像は本文とは関係ありません

 俺にとっては給食室やらエアコンの取っ付いている場所が一種ホームであるように彼らにとってはここオペ室がホームなのだな,と俺はごく当たり前の事を察した。
 どうせ土曜日で他には特に予定もなく,貧乏自営業の俺なのでまるっきり異業種のサービスマンというのがどんな風なのかここは一つ観察してやりたくなり,わざとモタモタと作業を長引かせながら彼らの様子を窺ったが幾らも経たないうちにそれが無意味な事に気づいた。
 聞き耳を立てて彼ら二人の会話に注意していたがその内容が俺の脳味噌ではさっぱり理解できないのだ。
「こいつが●●●●を起こしているから●●●●を●●●●して●●●●と●●●●を●●●●に設定しておけば何とかなるんじゃない?」といった会話が交わされているのだが,●●●●というのはまるっきり不可解な専門用語だったり聞き覚えのない横文字らしい言葉で、俺のような者には外国人か宇宙人の会話にしか聞こえない。理解は出来ないがなんだか物凄く頭の良い人達だということは察しがついた。

 長居していても仕方がないので俺はとっとと撤収することにした。
それで帰り際,床に散乱している彼らの商売道具を見て俺はぶったまげた。レンチ類はスタビレー,ドライバーはWera、プライヤーなどの握りモノはクニペックス,一時工具オタク風だった俺などからしたら垂涎ものの高級ブランド製品が無造作にオペ室の床にうじゃうじゃ放り投げられているではないか。全部ドイツ製なのがいかにもだ。思わず脚を止めて床にまき散らされているブツをしげしげと見れば明らかにステンレス製やチタン合金製とわかる工具がそこら辺中に転がっている。レンチ数本で俺のツールバッグに入っている商売道具全部よりも高価なのだ。もしも彼らの方が先に作業が終わって撤収したときに忘れていたらこっそりネコババしたくなるくらいの高級品だ。

 俺の様子が不審だったらしく,二人ともが俺を凝視していることに気づいて俺はばつが悪くなり退散した。
しかしまあ何と恵まれた会社であることか。きっと会社の支給品だろう。工具オタが道楽で購入している床の間工具(飾っているだけで使わない)ではないのだ。あんなバカ高い工具など厨房屋だったらバブルの時期でさえ購入決裁は下りなかったこと請け合いだ。

 これまで何度か書いたのだが,俺は常々病院で冷蔵庫をいじくり回していて給食用に使われるものと医療用とで何故こんなにかけ離れた作業単価がまかり通るのかが疑問だった。
 冷蔵庫についての比較はともかく,医療機器となるとこんな高価な道具がバンバン買えるくらいの収益を生む料金体系が成立しているのは間違いない。
 と,ここまで書いて俺は国内某医療機器メーカー勤務の同級生のことを思い出した。今考えるとその人物も随分と金回りの良い男だったように覚えているし,加えて俺のようなボンクラ頭よりは数段切れ味の良い脳味噌の持ち主でもあった。数年に一度くらい顔を会わせることあるのだが、今度晩飯を食うときには絶対に彼に会計を全部持ってもらおうと俺は心に誓った。
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コメント 6

ぴよんきち。

昔。ヨーロッパ製の装置を評価テスト用に入れたことが
あるんですが、オマケでハゼットのレンチセットが付いて来ました。
装置を捨てたせいで、レンチセットは僕の物になりました。
でも、僕、「ソケットのコマはコーケン。ハンドルはトネ」
と言う昔の格言もありかなあ、と思います。コマはコーケンが
圧倒的ですし、トネのハンドルは振り角が大きいながらタフです。


by ぴよんきち。 (2012-12-14 02:54) 

NO NAME

つか、海外製の製品を評価用に入れた事があるんですが
(開発もしてますから)。
オマケに付いてる付属工具は、流石にスナップオンは無いとしても、
海外の一流メーカーですね。
ところで、レンチ類は国内安売りメーカーがスナップオンの
パチモンを作ってるんですが、これが中々具合が良くて。
是非、カタログで確認して下さい。
by NO NAME (2012-12-14 02:58) 

ぴよんきち。

ハゼットのレンチは、精度は無茶苦茶に高いんですが、
線接触なんで、カッチリはめないとダメ、
つい気を使ってしまいます。


by ぴよんきち。 (2012-12-14 03:02) 

HarryTuttle

ぴよんきち。様 コメントありがとうございます。
三つのコメントを一つで返すことをお許しください。

 輸入工具をカタログで眺めるのは私にとって結構良い暇つぶしですが現実には資材問屋に常備している国内製品の在庫を買い込んでくることが大半です。
 元々大して金がない上にフィールドの仕事は紛失だの盗難だのが日常茶飯事であったり、修繕の仕事はしばしば工具が人柱になる場面がありますから、そこそこの品質で,安価で,いつも店頭に並んでいるものが実際のチョイスです。
 
by HarryTuttle (2012-12-15 19:01) 

HarryTuttle

ぴよんきち。様 追記です。
せっかくコメントを頂いた記事ですが,別記事にある通り非公開とさせて頂きました。
 リサーチの能力には敬服致しますが,別記事に書いた通り,その人物の特定が進んで匿名の方々による実害が彼に発生することを私は懸念しています。
 彼自身のこともそうですが,何分係争中の相手だけに私の側が営業妨害などの非難を浴びるリスクもそこにはあるわけです。
 以上の事情により上のような措置をとらせて頂きました。悪しからずご了承願います。

 またのコメントをお待ちしております。それでは。 
by HarryTuttle (2012-12-15 19:12) 

ぴよんきち。

いえ、了解です。これは正当な処置だと思います。
私が少々調子に乗り過ぎました。
本当に申し訳ありません。
以後、本当に気を付けますので、
ここに書かせて下さる事を許して貰えれば。


by ぴよんきち。 (2012-12-19 00:51) 

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