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専門家を前に緊張する [日記、雑感]

 本日終盤のメニューは某温泉旅館での修理。
仕事仲間の冷凍機屋さんからの依頼でプレハブ冷凍庫の修理に向かった。
その温泉旅館は以前の記事で取り上げた事がある。
記事名:その提案は果たして良いのか悪いのか
http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2012-10-12

 導入以来20年を超えるご老体だ。スクロールコンプレッサーの最初期と言えば諸兄には大体見当がつくのではなかろうか。
 既に何度も修理を繰り返してきた機体でコントロールボックスの内部はグダグダ状態である。あれこれ調べているうちに旅館の施設課長殿と選任の電気保安技師殿が現れた。
 故障の解析は俺が到着する以前にある程度済んでいて直接的にはボックス内のヒューズが切れているからだという。さすがに場数を踏んでいるだけはある。

 真冬の屋外で寒風にさらされながら,俺と保安技師殿は印刷の薄れた配線図を見ながら議論を始めた。
ヒューズは幹線に設けられていて大別すると以下の3系統がある。
(1)制御回路
(2)霜取り用のヒーター
(3)庫内ファンモーター

 保安技師殿はそこそこ年配の方で,施設課長殿も既に年金生活に突入している。既に日が落ちて真っ暗な屋外では人生の折り返しを過ぎて久しい俺の視力が頼りという何とも言えないメンツである。
 制御回路の短絡箇所をチェックし,ヒーターの抵抗値をあたり,ここまではシロだな,と確認したあたりで俺は絶縁を測ってみるかと申し出て、お二方はそれいこう、と同意した。
7203663.jpg


 俺は緊張しながら車に戻って絶縁計を持ってきた。
迂闊な事を口走ってしまったと後悔しながら現場に戻った。
主任技術者である保安技師殿の前でたかが厨房屋がメガチェックなのだから緊張しないわけはない。
しかし俺が言い出した事だし,繰り返すが老眼のお二人には酷な場面だ。俺のテンションは上がる。回路図を見ながら該当するコンタクターを探し出し,残り箇所の庫内ファンモーターの回路は果たして,フルスケールで針が振れるくらい絶縁が低下していた。恐らくモーターコイルは内部ショートを起こしている。手も顔も寒さで固まったようになってろくすっぽ口が動かない。
「ビンゴ!」
俺を含む3人はスコップを持ち出してきて保冷庫のドアを塞ぐ行きの山をかき分けて庫内に入った。
庫内のユニットクーラーには二つのファンモーターがコンタクター二次側から並列に接続されている。確率的には二つ同時に絶縁低下はほぼないので、差し当たり劣化した一個を回路から切り離しておけば風量は低下するが一応冷却運転は行われる。
 旅館の屋外冷凍庫というのは高価な食材が入っているのでそう簡単に修理をうっちゃるわけにはいかない待ったなしの場所だ。保安技師殿に手元を照らしてもらいながら俺は絶縁の低下した方のファンモーターを割り出し,端子台の配線をほどいて配線を切り離し仮処置を済ませた。メガチェックから配線の末端処理を行うテーピングまでを保安技師殿が注視しているので俺の緊張は緩む事がない。
 “大した事のない奴だなあ”とか”へたくそな奴だなあ”とか思われているのだろうな,と,恥ずかしい気分で作業を進める。

 果たして仮処置終了後,試運転のために電源を投入すると漏電しているため回路から切り離したファンモーターを除いて冷凍機は順調に回り出した。到着してからここまで,所要時間は一時間で俺としては結構悪くない仕事っぷりかな,とお二方の顔色をうかがう。
 庫内の温度が下がり始めたのを確認して施設課長殿はまあ事務所(ボイラー室)に寄って一服してけや,と声をかけて頂き三人は引き返した。
 インスタントコーヒーをすすりながらまあ何とかなって良かったわいとテンションが緩んだ。そして俺の中にはなるべく早く暇を告げた方が良いのではないかという心配が膨れ上がってきた。
 『いやあ,立派立派。さすがだね』と保安技師殿がニコニコする。俺の仕事っぷりは一応,専門家から及第点を貰える程度のものではあるらしく,勿論悪い気はしない。ところで・・・と技師殿が続けた。
 産業局にあげる申請書類の件はどうなったのかと技師殿が訊ねてきて俺は心配が的中した事に気づいた。この話題に触れられる事はずっと気がかりだったのだ。
 単結の図面もロクに読めないし自信がありませんと答えると制御回路図が読めて単結図が読めないなんて事はない,ちゃんと勉強していないんだとお叱りを受けた。
 それからしばらく,俺はお二方の間に挟まれて早く申請手続を始めろだのもっと勉強せいだのとやんややんや言われ,年内は旅館の配電系統や発電設備のことを勉強するために一日おきに通う事を約束させられてやっと放免となった。やぶ蛇みたいな話だ。

 達成感も束の間,こんな歳になってもまだ勉強せい勉強せいと御大達にあんちゃん扱いされるのは何とも変な感じだ。成熟とか円熟という言葉は職業人の俺には一生無縁なのかもしれない。
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コメント 7

007

非常に恵まれているな!と感じます、、、

一度目指して諦めた国家資格、、、途端に仕事も遊びも人生も面白く無く成った経緯があり、、、ダメになって行く自分に奮起して再挑戦し合格したときは嬉しくて、誇りが持てて幸せ気分でした、、、

その後、選任技術者となり、トラブル対応で冷汗かいて(-_-;)天狗の鼻が折られました、、、良い経験しました、、、懐かしく過去を思い出しています、、、。
by 007 (2012-12-12 04:16) 

007

追伸、
今、シーケンス(有接点の方)を再度勉強中です、、、
先日、市水揚水ポンプの交互運転制御(薬注ポンプ連動)について相談を受けた時に即答出来ない事があり、解決しましたが、「まずいな!」との思いです、、、

しかしながら、歳取ると、なかなか理解に苦しみます(^_^;)、、、
まあコツコツと根を詰めないように?やっています。
by 007 (2012-12-12 05:12) 

くるみ

やはり良いお仕事しますね!流石です(^-^ゞ お勉強…。人生死ぬまで勉強、修行と言いますが、それは比喩であり。机に向かい教科書を広げ、しかも他人からの指示はちょっと億劫ですね(^^; 私もこれから1つ資格取得を目指そうかと。でも若い頃の絹ごし豆腐じゃなく、高野豆腐の脳ミソでは、ちょっと不安です(笑)
by くるみ (2012-12-12 10:03) 

HarryTuttle

007様,いつもコメントありがとうございます。
二つのコメントを一つで返す事をお許しください。

 電気保安協会の某支部長を務める私の同級生は電験2種+エネ管の強者ですが,二昔くらい前のある時,『シーケンスなんて簡単だ。四つしか覚える事がないじゃないか』と言い放ち,『今はシーケンサーくらい使いこなせないとダメなんだよ』とボンクラ頭の私を睥睨していたものです。
 『何を偉そうに,コンチクショー』と当時の私は悔しがりましたが技術者としての力量差は歴然で,以来彼が私の目標となっています。一生かかっても追いつけないことも歴然ですが私もまあ,コツコツやっていこうと思います。
 
by HarryTuttle (2012-12-12 23:23) 

HarryTuttle

くるみ様,コメントありがとうございます。
 世間様にデビュー以来およそ30年,絶えず目上の先達諸兄からご指導だのお説教だのばっかりが続いているわけです。
 一度くらいは私も若い衆を顎で使って御宣託を垂れるご身分になってみたいものですが,私には後進を育成する能力がなく,いつまで経っても肉弾戦でドタバタを繰り返すステージから卒業できないのです。いつまでこんな事を続けられるのか自信がありませんし,とても『生涯現役』などと胸を張る気にはなれません。
by HarryTuttle (2012-12-12 23:33) 

63H

自分は転職にかかわらず、今回の書き込みを読んでシーケンスを真剣に勉強したくて本を買いましたが、お勧めとかありますか?

ところで、昨日エアコンの修理に行った際、電ドラ使ったのですが、
マキタのインパクトを多用し始めたためトルクに物足り無さを感じました。
これから修理はマキタのインパクトで・・・と考えましたが、テレビの修理に
インパクトは使えないんですよね・・・・
設備の修理はマキタのインパクトでいけると思います。
あ、もうドライバーを持つような仕事とはおさらばなのかな・・・?
by 63H (2012-12-13 08:54) 

HarryTuttle

63H様,コメントありがとうございます。
私の場合,働き初めてから買った実務書が結構良書でした。
オーム社:絵解きシーケンス制御読本(入門編) 大浜庄司 著 です。
計装関係技術者だけでなく随分色々な方面の方々の本棚で見かけましたし,私が会社員だった頃には経費で一冊買って営業所に常備しておき,部下には必ず読ませていました。

 初学者ばかりでなく,経験を積んだ技術者にとっても現場でついた変な癖を時たまリセットする意味で有益だと思います。
 姉妹書で同一タイトルの実用編があり、そちらは回路例の紹介が中心ですが現実のメーカー製品はあまりお行儀が良くない回路が多いので直接実務に役立つかについては疑問です。何事も基礎が肝心というわけで。

 今日日は特に,シーケンス制御というとPLC(シーケンサー)が不可避で,後々ラダー図をパソコン上で作図する場面が増えてくると思いますからご自分で回路設計を行うときには縦書きで行う習慣をつけておくと良いと思います。私は長い間横書きの回路図ばっかりを読み書きし続けてきたため現在,物凄く苦労しています。
by HarryTuttle (2012-12-13 10:50) 

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