『外食産業の裏側』を読む [日記、雑感]
たまたまぶらっと立ち寄った書店で目についたので買ってみた。
俺のような立場の人間からすれば飲食店は外食産業の一分野であって全てではないがそれはさておき,ファミレス内幕暴露物語というわけだ。店名にはおよそ見当がつくがここでは書かない。言えば誰でも知っている有名なナショナルチェーンで、実は俺の元の勤務先の上得意でもあるがまあそれは余談だ。
内幕暴露,と書いたが格段目を剥くような出来事が書かれているわけではない。従業員の日常雑事一般であってどんな職業にあっても存在するリアルな実相の襞が連なっている。
著者は本文中でしばしばナショナルチェーンの無機的で硬直した業務形態と現場従業員のモラルの低さを嘆く。文中登場する「店長」とか「社員」というポジションの人たちとは硬直した官僚的思考パターンの経営陣とプロとしての自覚に欠けて責任感覚のないアルバイターやパートタイマーの板挟みとなって四苦八苦する人たちである。
確かにそれは心労の多い立ち位置ではあって、同情や共感がない事もない。
ここで何故、俺が「ない事もない」などという消極的な肯定にとどまっているかというと、俺のような出入り業者から見ると、ここでの著者もまた彼がジレンマを募らせるパートタイマーやアルバイターと同じ範疇でくくられる人種だからだ。
ファミレスのメニューは時給800円くらいのアルバイトによって調理されている。あれらを一次加工の済んでいない食材を用いて,きちんとした経験に根ざした調理師に作らせるととてもああいう価格設定にはならない。
では、何がそれを可能ならしめているのかといえば、ただ加熱しさえすれば立派な製品(「商品」とは書かないところに注意していただきたい)となるよう高度に加工された食材であり、ボタンやスイッチを押してさえいれば生焼けもオーバークックもないように自動化された厨房機材に負うところが大きいのは諸兄が既にご存知の通り。職務分担で言えばホールサービスについても同じようなことは言えるのではないか。
労務経費の低賃金化と大きな設備投資を行い製品の製造を自動化することで生産性を上げる。と書けば聞こえはいいがとどのつまりは580円のランチメニューで地元の自営業者を根こそぎぶっ潰せ,ということだ。
著者は文中で職場の様子を色々と嘆かわしそうに,或いはまた皮肉っぽく書き綴ってはいるが何のことはない,彼もまたその仕組みの中の一分子であり、意地の悪い見方をすれば地域の商圏を衰退させる勢力の一端を受け持っている。
ここ数日はドタバタしていてまだ読了していないのだが,思わず膝を叩きたくなる一節があったのでここに引用しておく。
(引用始め P172 ロストジェネレーション から)
P174 学生時代はアルバイトとして利用して,卒業後は社員として利用して,退職後はフリーターとして利用して,しかも,外食の顧客でもあるわけだから,外食産業がいかにロストジェネレーションをカスカスになるまで利用しているかがわかると思う。
(引用終わり)
冒頭書いたが,この著者にとっては『外食産業』=『ナショナルチェーンの飲食店』であるようなので,その前提に従えば実に的を得た指摘だと思う。
同じ料理とは言え作品から製品まで様々で,これらファミレスやファストフード、居酒屋チェーンというのは後者の底辺を担う存在と俺は見ている。
別の見方をするとそれは公私の区別で言えば多分に私的な食事の時間を提供する場所で,客であるところの喫食者は自宅で飯を食う感覚の延長線上でこういう場所に来ているので概ね野放図であり下品で厚かましい。俺なりに考えると,この本で呼称する外食産業というのは、1970年代中期までの地域ごとの個人経営が中心だった飲食業が幾らかなりとも持っていた日常的でない時間,ちょっとした贅沢感を木っ端みじんに叩き壊して,それまでは自宅の中だけで許されていた野放図な下品さ,低劣な振る舞いや身勝手さにどんどん迎合していく動きだったと捉えている。
根本的にはそれは例えば980円のステーキセットだとか,2時間で2500円の飲み放題宴会プランといったものが象徴している。貧乏人の浅ましさをどこまで刺激し,迎合し続けるか。外食産業の成長とか市場拡大というのはそういう流れを辿り続けている。
出入り業者としての印象で言うと,経営者が調理の現場にいて,客単価の高い店舗ほど紳士的だったり人情味があったりするように思う。この本でいう外食産業の対極にある営業店舗である。(この項続く)
俺のような立場の人間からすれば飲食店は外食産業の一分野であって全てではないがそれはさておき,ファミレス内幕暴露物語というわけだ。店名にはおよそ見当がつくがここでは書かない。言えば誰でも知っている有名なナショナルチェーンで、実は俺の元の勤務先の上得意でもあるがまあそれは余談だ。
内幕暴露,と書いたが格段目を剥くような出来事が書かれているわけではない。従業員の日常雑事一般であってどんな職業にあっても存在するリアルな実相の襞が連なっている。
著者は本文中でしばしばナショナルチェーンの無機的で硬直した業務形態と現場従業員のモラルの低さを嘆く。文中登場する「店長」とか「社員」というポジションの人たちとは硬直した官僚的思考パターンの経営陣とプロとしての自覚に欠けて責任感覚のないアルバイターやパートタイマーの板挟みとなって四苦八苦する人たちである。
確かにそれは心労の多い立ち位置ではあって、同情や共感がない事もない。
ここで何故、俺が「ない事もない」などという消極的な肯定にとどまっているかというと、俺のような出入り業者から見ると、ここでの著者もまた彼がジレンマを募らせるパートタイマーやアルバイターと同じ範疇でくくられる人種だからだ。
ファミレスのメニューは時給800円くらいのアルバイトによって調理されている。あれらを一次加工の済んでいない食材を用いて,きちんとした経験に根ざした調理師に作らせるととてもああいう価格設定にはならない。
では、何がそれを可能ならしめているのかといえば、ただ加熱しさえすれば立派な製品(「商品」とは書かないところに注意していただきたい)となるよう高度に加工された食材であり、ボタンやスイッチを押してさえいれば生焼けもオーバークックもないように自動化された厨房機材に負うところが大きいのは諸兄が既にご存知の通り。職務分担で言えばホールサービスについても同じようなことは言えるのではないか。
労務経費の低賃金化と大きな設備投資を行い製品の製造を自動化することで生産性を上げる。と書けば聞こえはいいがとどのつまりは580円のランチメニューで地元の自営業者を根こそぎぶっ潰せ,ということだ。
著者は文中で職場の様子を色々と嘆かわしそうに,或いはまた皮肉っぽく書き綴ってはいるが何のことはない,彼もまたその仕組みの中の一分子であり、意地の悪い見方をすれば地域の商圏を衰退させる勢力の一端を受け持っている。
ここ数日はドタバタしていてまだ読了していないのだが,思わず膝を叩きたくなる一節があったのでここに引用しておく。
(引用始め P172 ロストジェネレーション から)
P174 学生時代はアルバイトとして利用して,卒業後は社員として利用して,退職後はフリーターとして利用して,しかも,外食の顧客でもあるわけだから,外食産業がいかにロストジェネレーションをカスカスになるまで利用しているかがわかると思う。
(引用終わり)
冒頭書いたが,この著者にとっては『外食産業』=『ナショナルチェーンの飲食店』であるようなので,その前提に従えば実に的を得た指摘だと思う。
同じ料理とは言え作品から製品まで様々で,これらファミレスやファストフード、居酒屋チェーンというのは後者の底辺を担う存在と俺は見ている。
別の見方をするとそれは公私の区別で言えば多分に私的な食事の時間を提供する場所で,客であるところの喫食者は自宅で飯を食う感覚の延長線上でこういう場所に来ているので概ね野放図であり下品で厚かましい。俺なりに考えると,この本で呼称する外食産業というのは、1970年代中期までの地域ごとの個人経営が中心だった飲食業が幾らかなりとも持っていた日常的でない時間,ちょっとした贅沢感を木っ端みじんに叩き壊して,それまでは自宅の中だけで許されていた野放図な下品さ,低劣な振る舞いや身勝手さにどんどん迎合していく動きだったと捉えている。
根本的にはそれは例えば980円のステーキセットだとか,2時間で2500円の飲み放題宴会プランといったものが象徴している。貧乏人の浅ましさをどこまで刺激し,迎合し続けるか。外食産業の成長とか市場拡大というのはそういう流れを辿り続けている。
出入り業者としての印象で言うと,経営者が調理の現場にいて,客単価の高い店舗ほど紳士的だったり人情味があったりするように思う。この本でいう外食産業の対極にある営業店舗である。(この項続く)
自営になり時間の調整がサラリーマン時代より容易で、たまに自炊(主に夕食)しますが、、、例えば・牛丼・などをキッチリ造るとかなりの手間と材料費が掛かります、、、
で牛丼チェーンの激安価格はかなり無理があると思います、、、
最低品質の輸入肉を味付け加工で美味しく見せかけて、安い単価で働く人間に造らせる、故にジャンク品ですね、、、
行列までして有難く食すモノではありません、、、だから小生は、昼はコンビニ食で割り切ります。
by 007 (2012-10-20 20:31)
007様 いつもコメント有り難うございます。
吉牛のバックヤードに仕事で入ったことはありませんが、あの肉の薄っぺらさはもはや人間業とは思えません。
並みのスライサーではあの薄さは出ませんね。吉泉製作所あたりの製品でないと無理かもしれません。あれだけ薄ければどんな部位だろうが普通に食べられます。
それと007様,私と食生活が似ています。お互い身体が資本ですから健康を気遣っていきましょう。私のように人生の折り返しを過ぎると若い頃の無茶が結構効いてきます。
by HarryTuttle (2012-10-20 20:55)
小生も折り返し故、・金より健康・でやってます!、、、
健康管理も仕事と捉えて注意してます。
by 007 (2012-10-21 08:12)
いつも興味深い本を紹介いただきありがとうございます。確かに…子供の頃は外食は晴れの日のご褒美でした。今は知人とのコミュニケーションの場に利用しますが、夜遅くの居酒屋に小さな子供を連れて来てる若い親に驚きました(+_+)走り回る子供、注意しない親!! 居酒屋チェーンで働いた経験がありますが、確かにどんな原料、作り方したのか解らない冷凍食品ばかりで…。なのにメニューには『自家製』の文字の疑問。小規模のチェーン店ではソースのみハインツ等の出来合い、個人経営ではほとんど手作りに変わって行きますね。(ソースは缶詰めでも自分らしく手をかけてる様です。)
by くるみ (2012-10-22 10:39)
くるみ様,いつもコメント有り難うございます。
この本は元々,著者の運営するブログからの抜粋記事で出来上がっているようです。次回はURLを貼っておきます。
簡単に読了できる内容なのでわざわざ買って読むほどのものでもないような気がしています。
by HarryTuttle (2012-10-31 19:13)