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高速オーブンについて [修理屋から見た厨房機材]

 俺の地元にある某製菓メーカーは俺の来歴に大変深い関わりがあるがここでは触れない。
俺の元の勤務先では,この,某製菓メーカーに対して高速オーブン12台の受注実績が最近できた。
直営の店舗内に併設された喫茶室バックヤードで稼働する事になる。
一昨日の夜,俺は元の勤務先である依頼元と一緒に一台目の搬入据え付け工事を終えたところだ。

 納めた機材はスーパージェットという商品名で、以前一度記事にした事がある。
元記事名:スーパージェットのメンテ講習のため遠征二日間
URL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2012-06-15

FESJ1502.jpg


製品紹介はこちら:http://www.fujimak.co.jp/contents/hp0088/list.php?CNo=88&ProCon=5

 現在、この手の機器は日本語での統一された呼称がない。多くの厨房機材がそうであるように原型は海外製品であり国内の厨房屋が独力で発想できるようなものではない。
 オリジネーターはTurbochef(ターボシェフ)という米国のメーカーである。

元祖のURLhttp://www.turbochef.com/
製品名はTornade、竜巻という勇ましいネーミングだ。2006年以来、スターバックスコーヒー各店で導入されていると聞く。


輸入元の製品紹介:http://www.dcservice.co.jp/machine_turbochef_c3.html

二通りの加熱源を持ち、
(1)高周波加熱
(2)抵抗加熱 + 強制対流
の重畳によって短時間での加熱調理を実現するものだ。1991年創業となっているからもう20年くらい前に商品化されたものという事になる。当然ながら加熱方法は特許によって保護されており、後発の日本製品は全て巧妙にライセンスの規制をすり抜けた猿真似製品という事になる。
ターボシェフ テクノロジーズ インコーポレイテッドにより出願された特許
http://www.ekouhou.net/disp-applicant-507182542.html

 国内で類似品を最初に開発したのは実は厨房機材メーカーではなくブラザー工業で、確か1992年か翌年あたりだったと記憶している。
 「確か」という接頭語をわざわざつけなければならない理由はブラザー工業はこれを商品化して幾らも経たないうちに売れ行きの悪さに嫌気がさしてさっさと手を引いてしまったからだ。製品化にあたってTurbochefの製品がどれくらい意識されていたのかが定かでなく性格付けの曖昧な製品で,俺の印象は大変薄い。
 製品のスペックもたいしたものではなく,対流方式が通常コンベクションオーブンに良くあるシロッコファンによる送風、高周波加熱用のマグネトロンは家電製品並みの出力で、ちょっと短時間で調理できるコンベクションオーブンの域を出ないものだった。
 販売元の北沢産業がバブル崩壊のあおりを食って低落傾向が始まりかけていた事が災いして、とにかくぱっとしなかった。時代背景も不遇で、現在ほど冷凍食品のバリエーションがなかったので活用範囲や需要が殆ど全くと言っていいほどなく、早すぎた製品だったわけだ。

 次に手がけたのは総合厨房のフジマックで、設備施工がらみばかりではなく単品販売に力を入れ始めた時期に符合する。コンベアーオーブンの国産化にあたってジェットインピンジメントによる加熱方式の国内ライセンスを取得していた事が幸いした。マグネトロンの出力も本家並みの工業用1.1Kwをおごっており、かなりいい線をいくスペックではある。
 厨房機材メーカーが加熱源としてマグネトロンを自社製品に組み込むのはおそらくこれが最初だったのではないだろうか。初期モデルは不慣れな製品作りで故障も多かったがそれでも対面販売のフードコートやカラオケボックスのバックヤードを中心として一定の納入実績を作った。1995年頃からの話だ。

 実は俺は在籍時に納入したことがあり,品温-15℃の冷凍ピザが4分強の調理時間で上がるそのスピードにはちょっとした驚きを覚えたものだ。しかしここから先は俺の想像だが、調理能力(ここでは調理時間の早さ)についてはターボシェフを超える類似品はおそらく一つもない。
 理由は元祖の機体内部に組み込まれているボトムヒーターで、上下から噴出される加熱空気のうち、下方向からの噴流はボトムヒーターを介する事で更に昇温されるからであり、詳しく調べていないがTurbochef社の取得した特許の勘所はここにあるのではないだろうか。
 似通った構造のフジマック製スーパージェットがこのヒーターを省いている理由はそれが特許に抵触するからではないだろうかと俺は考えている。

 機能面はさておき、意匠的な面に目を向けるとここ数年のフジマックはオープンキッチンとか対面販売用の機材については社内でのデザインをやめて工業デザイナーに委託する傾向がある。現在のスーパージェットは三代目の製品だが垢抜けしないややこしいユーザーインターフェイスの初代機に比べて確かにお洒落になったなあ、と実感する。

 某製菓メーカーの喫茶室に於いては、この手のオーブンとして採用されたのがタニコー製のビトルボという商品名の機種だ。こちらは熱源の一方がガスであるところに特徴がある。
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商品URL:http://eee.tokyo-gas.co.jp/saitekichubo/equipment/biturbo/

 考えてみるとこの商品名はマセラティの車にあった車種名と一緒だ。商標権とかの面でヤバいんではないのか。
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 それはさておき、某製菓メーカーの反応としてはビトルボは決して好意的な迎えられ方をしなかったようだ。プレヒートなしに調理可能という謳い文句には結構眉唾臭いものがあるらしい。
 俺は実機を見ていないし商品知識もないのでこれは想像だが、初代機のスペックを見る限りマグネトロンの出力が650Wという点は明らかに問題があると思う。これは家庭用の電子レンジの出力とまるっきり一緒だ。

東京ガスのHPに新旧2機種の比較表があり、初代機種は加熱源としてガスの燃焼にウェイトを置いた設計だがそれでは調理時間の短縮化は難しいことを示しているとも言える。
 第2世代機で高周波加熱の出力が1Kwに引き上げられているのは正常進化と言えるが,庫内の構造などを仔細に見ていると使い勝手を含めて完全にひと世代時代遅れであり,マシンスペックのみを評価基準とするなら魅力度は今イチではないのか。

 ここで俺なりの勘ぐりを開陳すると,熱源の中心をガスとした場合,導入時にはガス配管工事が発生するわけだが,比較的低出力のマグネトロンで済ませておけば電源の内線工事は省略できる可能性がある。設計上,そういう思惑がありはしなかったか。
 調理時間の短縮化のためにマグネトロンの出力を挙げれば必然的に内線工事の発生を余儀なくされる製品仕様となり、ガス配管の工事と合算すると付帯工事費用がかさむ。イニシャルコストについて考えてみると製品価格が多少安くなったとしても付帯工事費用は全て電気を熱源とする他社製品に比べて相対的に高上がりになるうえに燃焼排気処理のための空調工事も電気式に比べると大掛かりになる。これは日常,俺がタニコーという会社と決して良好な関係ではないという要因を除いて考えても少々疑問の残る製品なんである。

 雑感みたいなことをとりとめもなく書き綴ったが,外食産業の大衆迎合化が更に加速し,冷凍食材の利便性が進み、従事者の素人化と低賃金化が進み,というのが時代の流れのようなのでこの種のオーブンへの参入はこの先活発化しそうに思えている。
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