上がったり下がったりする(2) [お仕事上のぼやき]
前回記事:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2012-08-16
俺は依頼元に二通りの見積りを提出する提案をした。
(1)冷凍ユニットの交換
(2)コンデンサー洗浄,冷凍ユニットの脱着作業を含む
依頼元としては売上額が膨らむ前者が望ましい,加えて新品の冷凍機だから後々数年の安心感もある。一方の使用者から見れば修繕費が安くて済む後者で落ち着いて欲しい。処置を行う俺としては後者の方が工程が多い分作業経費の実入りはいいが冷凍機交換であればあったで時間単価としては悪くないので微妙なところ。それぞれの思惑は少しずつ食い違うわけだ。
技術論としては7年の運用でコンプレッサーが焼損した事例が既にあるわけで,表面的には凝縮不良ではあるがその奥に過熱運転によるコンプレッサーの不具合が発生してる可能性を否めない。
一通りの状況説明は必要だが最終的には使用者の決定に委ねられる。そして殆ど全てと言っていいほどこういうケースでは最も安価な提案内容がチョイスされる。
今回のケースもその例に漏れない。これは事前に俺としては充分予測できたことだ。そこで俺は依頼元の若い衆にこのような指示をしておいた。
コンデンサー洗浄の修理見積りには備考欄に,作業後に試運転段階で発生する不具合については別途扱いとし,追加作業の見積りを作成させて頂きます。という追記事項を設けておくこと,というのがそれだ。
しかし若い衆はこれを怠り、それは後々ややこしい事態に発展することになる。
複数提案された見積書のうち,使用者が選択したのは予想通り安価な提示内容だった。
これを受けて俺は一抹の危惧を抱きながらもコンデンサー清掃の段取りに取りかかった。作業費についてはこちらの方が儲かるのでうまくいけばめっけ物。
冷凍機を取り外して自宅の作業場に持ち帰ってコンデンサーを洗浄し,深夜のMD(ミスタードーナツ)に持ち帰って取付け,試運転をかけてみるとコンプレッサーの始動時に内蔵のOCR(Over Current Rellay:過電流継電器)が働き,俺は大いに慌てた。
『やはりコンプレッサーにはダメージがあったか』と渋い気分でいたら”かっこん”と音がしてOCRが復帰し,コンプレッサーが回り出した。
急いで運転電流を測ってみると6.3Aあった。芳しくない数字だ。コンプレッサーの定格出力は400Wだから歴然たる過電流だ。
俺はクランプメーターの表示をぼんやりと眺めながら善後策についてあれこれ思案した。今回の作業はなかったものとして冷凍ユニットの交換を提案すべきだろうが、そんな追加出費を使用者があっさり呑むとはとても思えない。差し当たりコンプレッサーは回り,冷却は始まっているがこの値には問題がある。どのようにこの状況を伝えるか,追加措置の必要性をどう切り出すか・・・大体俺には金について使用者と交渉する権限などないのだ。グレーゾーンでの運転状態の中,俺の決断も揺れる。
逡巡を続けているうちに電流値の表示が徐々に下がり始めた。
6Aを割って5A台となり,そこから更に下がり始めて4,5Aあたりでサチり始めた様子を見て俺はもしかしたらと甘い見通しを持ち始めた。定格電流値は4Aだからして、この辺の数値ならちょっと高めではあるがあり得ない話ではない。庫内温度は-10℃を割り,更に運転は続いている。
翌日,様子を見に行くとパスタフリーザーは設定温度の-15℃をさして冷凍機の運転が止まっていた。
俺は懸念を覚えながらではあるが,一週間程度経過を見て問題がなければ請求書を発行する旨を伝えて現場を後にした。
そんな風にして一段落ついたつもりになっていた半月ほど後,使用者から俺の携帯電話宛に直接,フリーザーの不調が伝えられた。現場に向かって調べてみるとコンプレッサーのケースがチンチンに熱くなりながら息絶えていた。正真正銘,混じりっけなしの起動不良だ。
『何てこった』と『やっぱり懸念が的中したか』という二つの思いが入り交じる。
コンデンサーの洗浄は手遅れだった。それが理屈であり結論だ。これは曲がらない。
俺は大変ばつの悪い思いで現況を店主に伝えた。発行されたコンデンサー洗浄の請求書は一旦破棄して,冷凍機の交換に対処法を切り替えさせて頂きたい、といった内容だ。
本来,こんな類いの交渉は俺の依頼元がするのが筋であって単に労務提供するだけでしかない俺の役どころではないはずなのだが,依頼元は諸般の事情によりこの役目を俺に押し付けたいらしいのだ。理不尽には思えるが金のためだ,仕方がない。
頭に来るのはこうした二度手間について正当な労務経費が精算されないことだ。依頼元の担当者である若い衆は最初のコンデンサー洗浄の作業経費は金の出所がないので貸しにしておいてくれと頼み込んできた。
これまた大変理不尽な気分に駆られるが何せ元の勤務先だからあまり杓子定規に強硬な主張をするのも後々角が立って気まずいだろうからどこかで色を付けてもらうことにして一旦俺は呑んだ。
そんな風にしてこの件での俺の稼ぎは当初の皮算用から約一万円くらい低いギャラで落ち着くかと思われた。(この項続く)
俺は依頼元に二通りの見積りを提出する提案をした。
(1)冷凍ユニットの交換
(2)コンデンサー洗浄,冷凍ユニットの脱着作業を含む
依頼元としては売上額が膨らむ前者が望ましい,加えて新品の冷凍機だから後々数年の安心感もある。一方の使用者から見れば修繕費が安くて済む後者で落ち着いて欲しい。処置を行う俺としては後者の方が工程が多い分作業経費の実入りはいいが冷凍機交換であればあったで時間単価としては悪くないので微妙なところ。それぞれの思惑は少しずつ食い違うわけだ。
技術論としては7年の運用でコンプレッサーが焼損した事例が既にあるわけで,表面的には凝縮不良ではあるがその奥に過熱運転によるコンプレッサーの不具合が発生してる可能性を否めない。
一通りの状況説明は必要だが最終的には使用者の決定に委ねられる。そして殆ど全てと言っていいほどこういうケースでは最も安価な提案内容がチョイスされる。
今回のケースもその例に漏れない。これは事前に俺としては充分予測できたことだ。そこで俺は依頼元の若い衆にこのような指示をしておいた。
コンデンサー洗浄の修理見積りには備考欄に,作業後に試運転段階で発生する不具合については別途扱いとし,追加作業の見積りを作成させて頂きます。という追記事項を設けておくこと,というのがそれだ。
しかし若い衆はこれを怠り、それは後々ややこしい事態に発展することになる。
複数提案された見積書のうち,使用者が選択したのは予想通り安価な提示内容だった。
これを受けて俺は一抹の危惧を抱きながらもコンデンサー清掃の段取りに取りかかった。作業費についてはこちらの方が儲かるのでうまくいけばめっけ物。
冷凍機を取り外して自宅の作業場に持ち帰ってコンデンサーを洗浄し,深夜のMD(ミスタードーナツ)に持ち帰って取付け,試運転をかけてみるとコンプレッサーの始動時に内蔵のOCR(Over Current Rellay:過電流継電器)が働き,俺は大いに慌てた。
『やはりコンプレッサーにはダメージがあったか』と渋い気分でいたら”かっこん”と音がしてOCRが復帰し,コンプレッサーが回り出した。
急いで運転電流を測ってみると6.3Aあった。芳しくない数字だ。コンプレッサーの定格出力は400Wだから歴然たる過電流だ。
俺はクランプメーターの表示をぼんやりと眺めながら善後策についてあれこれ思案した。今回の作業はなかったものとして冷凍ユニットの交換を提案すべきだろうが、そんな追加出費を使用者があっさり呑むとはとても思えない。差し当たりコンプレッサーは回り,冷却は始まっているがこの値には問題がある。どのようにこの状況を伝えるか,追加措置の必要性をどう切り出すか・・・大体俺には金について使用者と交渉する権限などないのだ。グレーゾーンでの運転状態の中,俺の決断も揺れる。
逡巡を続けているうちに電流値の表示が徐々に下がり始めた。
6Aを割って5A台となり,そこから更に下がり始めて4,5Aあたりでサチり始めた様子を見て俺はもしかしたらと甘い見通しを持ち始めた。定格電流値は4Aだからして、この辺の数値ならちょっと高めではあるがあり得ない話ではない。庫内温度は-10℃を割り,更に運転は続いている。
翌日,様子を見に行くとパスタフリーザーは設定温度の-15℃をさして冷凍機の運転が止まっていた。
俺は懸念を覚えながらではあるが,一週間程度経過を見て問題がなければ請求書を発行する旨を伝えて現場を後にした。
そんな風にして一段落ついたつもりになっていた半月ほど後,使用者から俺の携帯電話宛に直接,フリーザーの不調が伝えられた。現場に向かって調べてみるとコンプレッサーのケースがチンチンに熱くなりながら息絶えていた。正真正銘,混じりっけなしの起動不良だ。
『何てこった』と『やっぱり懸念が的中したか』という二つの思いが入り交じる。
コンデンサーの洗浄は手遅れだった。それが理屈であり結論だ。これは曲がらない。
俺は大変ばつの悪い思いで現況を店主に伝えた。発行されたコンデンサー洗浄の請求書は一旦破棄して,冷凍機の交換に対処法を切り替えさせて頂きたい、といった内容だ。
本来,こんな類いの交渉は俺の依頼元がするのが筋であって単に労務提供するだけでしかない俺の役どころではないはずなのだが,依頼元は諸般の事情によりこの役目を俺に押し付けたいらしいのだ。理不尽には思えるが金のためだ,仕方がない。
頭に来るのはこうした二度手間について正当な労務経費が精算されないことだ。依頼元の担当者である若い衆は最初のコンデンサー洗浄の作業経費は金の出所がないので貸しにしておいてくれと頼み込んできた。
これまた大変理不尽な気分に駆られるが何せ元の勤務先だからあまり杓子定規に強硬な主張をするのも後々角が立って気まずいだろうからどこかで色を付けてもらうことにして一旦俺は呑んだ。
そんな風にしてこの件での俺の稼ぎは当初の皮算用から約一万円くらい低いギャラで落ち着くかと思われた。(この項続く)
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