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義侠心の発露みたいな事 [日記、雑感]

 毎日毎日頭に来る事が多すぎるのでこのブログも勢い罵倒系になってくるのだが,俺にだって温情らしい感情がない事もない。

 飲食店を経営しておられるその得意先はいまから10年くらい前,俺が会社員だった頃にお仕事を頂いた。その方は一度は自営を試みたがうまくいかずホテルに勤務しながら捲土重来を期していたのだった。個人的にはこういう構図と直面すると妙に張り切る傾向が俺にはあるようだ。勤め人だった俺は自分の裁量の範囲一杯一杯で安価に現場を収めた。

 果たして人生のリ・マッチとなったその店舗はものの見事に当たった。予約なしでは入れてもらえないくらいの盛況ぶりで他人事とは言え俺は素直に嬉しかった。余りにも儲かったのでこの勢いで姉妹店を出店しようかという構想まで出てきた。

 転落の萌芽が絶頂期に生まれているという事を今は結構冷静に捉えられるが,この方についても例外ではない。まずホールの仕事や経理を受け持ってくれていた奥様に先立たれてその方は仕事の負担が増えた。次に金目当てのハイエナみたいな連中がよってたかってくだらない商談を持ちかけては金をせしめていった。それから三食昼寝付き狙いの子連れ性悪女につけこまれて住宅に居座られるようになった。最後のだめ押しで借金の保証人になり債務者となってしまった。

 今年のはじめから春にかけて,偶然この俺も身辺整理を兼ねて家を引っ越したあたりで件のオーナー様からのコールがあった。性悪婆を追い出し,債務は返済の日々だがやはり精神的には結構キツい様子がうかがえた。要件としてはガスフライヤーの調子が悪いので修理して欲しいとの事だった。
 
 思い出してみるとこのオーナーとは俺が30歳かそこらだった頃に知り合い,俺が某ホテルにお仕事で出入りさせて頂いている間中,『いつか俺が店を再開するときには頼むね』と言われていたのだった。
 それからおよそ20年経った。お互いに色々あった。上がったり,下がったり。
フライヤーの修理が一段落してしばらくぶりにオーナー様と雑談していてお互いの近況をやり取りしながら,俺は何と言うか,翳りの生じた気分になっていた。
 設備機器は10年間,働きに働いてそろそろどれもガタが来始めている。お互いの身体もまた同様な上に金は厳しい,『この先一体,どれくらい頑張り続けられるんだろうか・・・』どちらからともなくそう漏らした。

 「食器洗浄機もそろそろかなあ,10年も使いまくったし」とオーナーが投げかけてきた。三洋電機製のアンダーカウンタータイプで5年くらいの周期で起こる操作パネルの不調が出始めてきたのだと言う。
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 「これで金回りが5年前くらいの状態だったら簡単に更新しているのになあ」と,オーナーがぼやいた。修繕して使えるものは使えばいい,買うとなれば決して安いものではないのだからと俺は彼をなだめすかした。いずれ何か,業務に問題が出るような大きな故障があったらそのとき考えればいい,そのとき何か安く復旧させる方法を考えましょう。それまでは使えるだけ使えばいい。その日行ったフライヤーの修理はたいして手のかかる作業ではなかったので俺は一旦請求を保留した。俺に出来る事と言えばせいぜいその程度でしかなかったが幾らかでも資金繰りが楽になるのであればそれでもいいと考えた。

 それから大体三ヶ月後のある晩,その食器洗浄機は急に電源が切れて運転できない旨のコールがそのオーナーからあった。操作パネルのタッチキーがまるっきりへたってしまっていた。基盤をほじくり出してみると湯気のせいで基盤は全体に湿気を帯びており,タッチキーを直接触ってみても確かに全然反応しない。
 諦め半分にオーナーがこぼした。「もうダメだな,下の方から水が漏れてくるようにもなったし。次を考えなきゃならないのかなあ」
言われて外装板を外してみるとすすぎポンプのケーシングから水が漏れている。メカニカルシールが参ってきている。
 幸いな事に床はタイル貼りのウェットフロアーであり多少の水漏れは数日ならば我慢してもらえそうなので対策を練る時間は稼げる。俺はほじくり出した操作基盤を乾かして何とか使える状態に作り替える事にした。いかれたタッチキーは基盤のパターン面にジャンパー線を取り付けてパスし,電源プラグの抜き差しでひとまず切り抜ける事にした。買えば大体八千円くらいの操作基盤だがたかだかタッチキーが一ヵ所へたったくらいの事でそんな金を払うのが俺は何故か面白くなかった。
 修繕に五万円以上かかるようだと今月は俺,ちょっと厳しくなるんだ,と,オーナーがこぼした。それはあり得る数字ではあった。操作基盤とすすぎのポンプをそっくり交換すればパーツ代だけでもそれくらいの金額になりかねない。ましてやブースターを内蔵したアンダーカウンタータイプの食器洗浄機だ。内部が入り組んでいるので作業は手間取るからポンプを交換するだけでも結構な時間を食うのはやる前から見えている。

 こういう場面で変な義侠心みたいなものが出てくるのは俺の悪い癖であって,こんな具合だからいつまで経っても貧乏自営業から脱出できないのだなあと思いながらも俺は三万円以内で片付けてやろうじゃないの,と,大風呂敷を広げていたのだった。こないだのフライヤー修理も含めて三万円以内,それでどうですか?「本当?それで全部終わるの?」オーナーの表情が緩んだ。
 おお,やったろうじゃないの、何とかしますよ。やせ我慢も大概にしておけばいいのに、もうスイッチは入っちまったんだ。
(この項続く)
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コメント 2

NO NAME

アンダーカウンタータイプの修理は大変そうですね。
個人的ですが、三洋電機の製品はかなり考えられたレイアウトのような気がします。
少し前(?)のT社製洗浄機だと、すすぎポンプが機械の奥にあったので
2人がかりで広い場所まで引き吊り出してやったことがあります。

場所も狭い所が多いし、どうやって修理されているのでしょう!?
by NO NAME (2010-06-02 19:47) 

HarryTuttle

NO NAME様 コメント有り難うございます。
機工設計といい組立精度といいT社製はどれもひどい造りで全くもって修理屋泣かせではありますね。私も散々泣かされました。
あそこのサービス社員がいつもムキになって同業者に自社製品を触らせまいと頑張るのは製品のお粗末さを部外者に知られたくないという歪んだ愛社精神の発露なのでしょう。

 三洋電機の製品はそれよりだいぶマシではありますが、何と言っても電機業界でのダントツ負け組ですからこの先一体どれくらいこの分野にウェイトを置いてくれるのか,最近の品質低下を考えると実は私はあまり期待を持っていません。

by HarryTuttle (2010-06-05 11:33) 

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