SSブログ

食器洗浄機 JMD-3Aが生産終了 [修理屋から見た厨房機材]

 今月の初め,IHIの系列会社であるところのIHI回転機械(株)の事業部長様ご一行と昼飯を食べる機会があった。予想通りというか,食器洗浄機の販売台数はここ数年今ひとつらしい。

 まあ,会社そのものは食器洗浄機どころか業務用厨房など全体割合から言えば微々たるものだからしていたって淡々とした話しっぷりではあったが,アンダーカウンタータイプのJMD-3Aがとうとう生産終了してしまったとの事で,俺は大変寂しい気分になった。会社員だった頃,俺が納めさせて頂いたアンダーカウンタータイプの食器洗浄機のうちでは一番力を入れていたのがこの機種だったからだ。
ishikawajima01.jpg

 JMD-3Aはいかにも元は軍需産業であったIHIだけあって頑固一徹な洗浄機だった。デビューはおよそ20年前だが当時納めた機体のうちの殆どが現在でも大崩れの故障もなくバリバリ稼働している。このサイズの食器洗浄機としてはかなり凄い事のはずだ。
 ラインナップの全てについて言えるが,IHIの食器洗浄機は価格面での競争力は恐ろしく低い,同一処理量の食器洗浄機について複数メーカーの見積を徴収してみれば歴然だがIHIは必ずダントツで高価だ。高価な事には根拠があるが殆ど全てのバイヤーは理解しようともしないし高価である理由を問おうともしない。JMD-3Aについては以下の通りだ。

1:ボックスタイプ(ドアタイプ)並みのポンプ能力,3φ200V,400W,吐出量は300ℓ/minに迫る。
当時,他社製の同一寸法の洗浄機は大体どれも1φ100V、250W程度のポンプで吐出量は200ℓ/min以下ばっかりだったので破格のスペックである。100V仕様の機体を作ればもっと売れるはずなのにと俺は進言した事があるがIHIは頑として首を縦に振らなかった。400Wのポンプで100V仕様では信頼度が心許ないというのがその言い分だ。

2:ブースターは別置きである。従って配管工事が余分に発生するし置き場所にも制約が多い。別置きの理由は二つあり,JMD-3Aはアンダーカウンタータイプでありながら消費水量が多かったのだ。(4ℓ/cycle)大きなポンプをマウントしたせいで機械室の空きスペースがない上に他社製品よりも大きなタンクが必要になるので何をどうやっても実装できないという。他社製品がその後のモデルチェンジでJMD-3Aと同一出力のポンプを搭載し,なおかつブースター(電気加熱)を内蔵するようになってからも頑として別置き仕様は変えなかった。この辺の言い分は多少入り組む。

2−1:熱交換器などにより80℃近辺での給湯が可能な施設の場合,内蔵されたブースター分は無駄な機能という事になる。この辺はボイラーメーカーとしての視点と俺は見た。

2−2:ブースターを無理矢理内蔵すればタンクの輻射熱によって電気系の劣化が早いうえに機械室内部は窮屈になるので修理時には手が入りづらく,整備性が損なわれる。

いずれも一面は正論だが能力や信頼度を幾ら訴えても多くのバイヤーには響かない,彼らはそこ迄物事を突き詰めて考える人種ではないのだという俺の意見は全く顧みられる事はなかった。最初の4、5年はハイスペックを売りに幾らかの実績は出来たが,他社が400Wのポンプを詰め込むようになってからはブランドに何か思い入れのある方か,例外的に信頼度を重視する一種の物好き以外には注目される事のない,機体の価格といい周辺工事費用といいむやみと高くつくカルトマシンの座に追いやられてしまった。その後の成り行きは冒頭記した通りである。

 世の中なんでもそうだが,いいから売れるとは限らないという話の典型がIHIの食器洗浄機だと俺はつくづく思う。格別大きな故障もなく,リプレースすることもなく一台の機体を20年にわたって稼働させられるのは間違いなく高い経済性であるはずだが世の中殆どの客というのはイニシャルコストが安く済む事だけに血道を上げ,律儀に保守契約に加入して減価償却期間の間に結構な金額のお布施を納めた上に7年目を過ぎると更新をせがむ営業の兄ちゃんの口車に乗せられて同じ初期投資をまた始める。こんなのは全然安い運用とは言えない。トータルコストという考えはいつまでたっても根付かない。

 悔し紛れの負け惜しみみたいな話はしたくないがどうしても書いておきたい事がある。
ある旅館では200食ほどにもなる朝食の食器をJMD-3A一台で片付けていた。機体はさすがにすすぎ系統のポリ管が参って一度取り替えたがその費用は3万円強である。他にかかった修繕費といえばノズルシートのような摩滅性のある消耗パーツだけだ。そんな風にして20年回り続けている。他のどのメーカーの製品もそこ迄のタフネスは断じてない。修理屋を25年以上やって来た俺が知る限り他社製品のどこもそこ迄の品質には至っていない。

 製造元の話では,在庫機がまだ幾らか残っているとの事だが通常仕切り価格での完売はなかなか難しいだろう。既にご使用されている方は安心して良い。何しろIHIは40年前の製品のパーツストックを頑固に継続しているほどの会社なのだ。他社製よりも高価である事をご承知の上で購入されたユーザーさんは十分に報われているはずだと思うぞ,俺は。 
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。