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10月度の損金計上(1) 蒸気用電磁弁2万5千円なり [日記、雑感]

 五十肩になってからの売り上げ推移を改めて眺めてみると明らかな落ち込みがある。考えてみると午前中一杯はロクに腕が動かずマッサージやらストレッチやらをしているうちに昼になってしまうことも多かった。こんなザマでは稼ぎなどあるはずがない。体が資本とはこのことだとつくづく思う。

 稼ぎがないのであればせめて出て行く金を抑制するのが経営者としての心得であることは頭ではわかっていても実際はなかなかうまくいかない。

 先月、某国立病院でのこと、食器洗浄室にあるポンプを修理することになった。補修費は約2万円強。そこそこ利益は確保できる内容である。
 作業時間について事務官とは少々打ち合わせが必要だった。通常、病院施設の場合、所要時間の読めない作業は夜間作業となる。今回のケースは過去に何度も行っており、自分の都合ながら夜になると五十肩の痛みが激しくなる事情もあって私は日中作業を希望した。所要時間は安全サイドを取って約2時間。

 対して病院は1時間以内で終了する目途が経たなければ夜間作業にして頂きたい旨の意向だった。日中、食器洗浄室は約2時間程度の休止時間があると私は踏んでいたのだがそんなにゆっくり出来る時間などないと消毒手(国立病院では食器洗いのおばさん達をこのように呼ぶ)の方々は仰る。
 幾分怒気をはらんだおばさん達の勢いに押されたせいもあって私は悩んだ。

 あらかじめ想定していた作業時間を少々オーバーしたとしても、ある程度は大目に見て貰える部分はある。
(そうでもなければこんな商売はやっていられない)ここはプラス。
 一方、現在の肉体的ハンディである五十肩による作業性の低下はマイナス。差引勘定してみてミニマムの作業時間はどれほどか、判断に迷うところである。

 試案の結果、私は日中の一時間作業に賭けた。記憶を辿れば試運転を含めて大体一時間20分がこれまでの私の作業レコードだったと思う。分のいいギャンブルではないが当たれば一時間で2万円強である。こんな無謀な試みにさえ駆り立てる金の力は偉大だ。

 修理作業の当日、私は五十肩が痛いことを除けば絶好のコンディションで臨んだ。ポンプを取り外して分解し、内部を清掃してメカニカルシールとインペラーを交換し・・・等々の作業が済んだところでちらっと時計を見ると約45分経過。試運転がうまくいけば自己最高記録も夢ではないほどの調子の良さだった。

 実はこのとき、ポンプの近辺にあった蒸気配管の電磁弁でトラブルがあったがそれを差し引いても結構この日の私は好調だった。
 この作業に於いて、毎度不確定なのは試運転の所要時間だ。ポンプの配管経路に混入した空気を抜く作業の長短は毎度まちまちである。
 不運なことにこの日は長い方に該当した。呼び水を入れても何をしても空転するだけで一向に吐水されない、私は焦り始めた。ここで約55分経過。

 こういうケースでの荒療治が一つある。モーターを一度ケーシングから取り外してシスターンからの水をブローさせてしまうのだ。辺り一面水浸しになってしまうが元々食器洗浄室の床はウェットだし何より時間が惜しい。私は意を決してポンプのモーターを固定するフランジボルトを外してモーターを引っこ抜いた。

 と、その時、私の左肩には激痛が走った。五十肩の痛みだ。思わず私は抱え上げたモーターを落っことし、腕を引っ込めて肩を押さえた。
 「うー畜生!これで一時間オーバーしちまったぜ!」と、唸りながら肩の痛みが引くのを待った。脳天が焼き付きそうに痛い。

 次に目に入ったものを目にして私は青ざめた。ポンプの近辺を走り回る蒸気配管の途中についている電磁弁のリード線がちぎれている。モーターを落っことしたときにはずみで引っ掛けたものらしい。
 配線途中の断線ならば、作業時間オーバーであってもエクスキューズを入れて補修は可能だが運の悪いことにコイルからの引き出し部分、根本の部分で断線している。どう考えてもアウトだ。
 しかも更についていないことに、官庁仕事のお約束として私の背後には作業中ずっと事務官が立っていて作業の一挙手一投足の一部始終を見ているのだった。

 弁解の余地はない。もとより誤魔化すつもりもないが体のハンディを顧みることもせずにバカなギャンブルを敢行した自分がひどく頭に来た。壊した電磁弁は当然、弁償しなければならない。助平根性が頭をよぎり、コイルだけを売って貰うことは出来るのだろうかと材料屋に問い合わせをしてみると鼻であしらわれた。どこまでもついていない。

 事務官にお詫びを入れて事情を説明し、壊した電磁弁は弁償させて貰う旨を伝えて一旦、得意先を出ることにした。皮肉にも、ここで2時間経過である。消毒手のおばさん達は休憩室でお茶を飲み、ワイドショーに見入っている最中であった。何が一時間しか休めないだよ!

 電磁弁のお値段はというと私の仕切で大体二万五千円だった。大赤字である。誰を恨んでも始まらない。無謀なギャンブルの代償である。焦って仕事をするとロクな事がない。




 
  
 

 


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