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組織の性質 [日記、雑感]

  俺には時事問題について何か語れる程の見識は元々なく,せいぜい自分の日常や身の回りのことくらいしか書けないのだが世の中,ニュースを見たり聞いたりしていると自分の身の上に重なることもたまに見かけられる。

 ISISという集団に日本人ジャーナリストが捕縛され,日本国政府を相手に身代金の要求が行われ,交渉が不調となって人質は処刑された、そのニュースを俺は他人事のようにして聞き流していたのだがこれはよく考えてみると俺を取り巻く世の中そのものではないかとある時気づいた。

 これ迄漠然と、この組織の人質に関する報道を幾つか読み飛ばしていて気づいたのは,報道関係で人質になった日本人はフリージャーナリストという肩書きだということだ。二昔以上前にあったフィリピンでの誘拐事件での人質は三井物産の現地駐在社員ではなかっただろうか。

 誘拐とか人質とかいうのではないが,近くは東北の震災で事故を起こした福島の原発報道では近辺での放射線量を伝えたり,画像を送った入りしていたのはもっぱらフリージャーナリストや有志の一般市民のような人達だ。大新聞社の記者や全国ネットのテレビ局のリポーターからの発信は一つも記憶にない。

 こういう事実を幾つか並べてみると,あることに気づく。
 第一に,状況がホットである時,そこには混沌があり,そこに踏み込むのは大きなリスクが伴う。報道でいえば特ダネが拾える可能性のある場所だし,商売でいえばあまり知られていない上得意候補と会える可能性のある場所だ。
 第二に,大きな組織というのは定型業務だけで仕事を完結させたい。イレギュラーなことをやりたくない。そのくせ大きな組織というのは金にしても手柄話にしても,とにかく全部独り占めしたがるもんだ。

 大して知り合いはいないが,マスコミ関係,大手のメディアというのは大変な高給取りであり、社会の中にあって彼らは疑問の余地なくエリートだ。そして,エリートは危なっかしい出来事に手を染めたがらない一方で手柄は欲しい。そこら辺を要領よく捌ける能力があるからエリートはエリートたり得てもいるわけだが。汚れ役やトカゲの尻尾を見つけ出してきてうまく利用する能力とも言えそうだ。

 リターンは欲しいがリスクは避けたい。そのギャップを埋めるものは諸兄もご承知の通り金しかない。金のためなら何でもやったるぜ,という人種は社会に不可欠なのだな。
 だから原発の運転や事故の際の処理にはヤクザが絡んでくるし,紛争や災害のあった地域には大きな組織から金をもらったフリージャーナリストが向かう。きっとそういう構図なのだろう。

 翻って俺の日常にも似たような構図がある。
毎月つけている商売のネタ帳を見ていると,厨房屋としてはイレギュラーな仕事に属するものが多いことに気づく。
*一昔以上前に生産が終了しており,市場からなくなりつつある機材
*製造元が現在なく,修理受付の窓口がない機材
*製造元が零細で生産台数が少なく,出回り量が少ない機材
*メーカーのサービスマンが修繕を一度手がけたが失敗し,元に戻せなくなった個体
*表記がよくわからない輸入機械
*深夜や早朝,休日などの時間外業務,悪天候下での遠方への出張修理
 メーカーからの依頼にはこういう類いのものが大変多い。売り上げは欲しいが後々のややこしいことには関わりたくない。依頼元に対して自分たちにはその解決能力がないので承りかねるとは言いたくないが無能な奴だと思われたくない。そういう事情が例えば俺のような野良犬に声をかけさせるわけだ。
 売り上げのためにやりたくないことや出来もしないことを請け負って会社に持ち帰り,協力会社を汚れ役や尻拭いとして利用するのはメーカーとしての本来的な姿ではないと俺は思うが俺自身の実入りに反映されるのであればその辺のご都合主義のことを表立って嘲笑はしない。犯罪に該当するとか,人迷惑なことでさえなければ俺は金のために仕事をするのだから。

 これはある時期迄,俺自身が誤解していたことだがメーカーというのは高い解決能力があって障害があった際の最終回答が出て来るところ,という思い込みはないか?
 しかし俺の携わるこの業界に関して言えばそれは必ずしも正しくない。実際のメーカーというのはパターン化された定型業務の手順を丸暗記して時間あたりの繰り返し処理数を伸ばすことを主眼としている。効率の追求とはそういうことだ。
 しかし現実の世界には必ず何かしら危険性のあるイレギュラーな出来事があり,これに関わる汚れ役や鉄砲玉や始末屋の存在が不可欠である。光の射すところには影も生まれるもので、俺が社会に棲息を許されているのはそういう場所なのだろう。

 地雷を踏んだり誘拐に遭ったりするリスクを冒して取材活動をするのは大新聞社やテレビ局の人間ではなく,彼らは安全なところにいて特ダネを金で買うだけなのだろうな。そして現実にそのソースを拾ってきたフリージャーナリスト個人がテレビや新聞でクローズアップされることは全くと言っていい程ない。これは俺と同じ構図だ。
 心情的には依頼元に対する何かしら侮蔑的な屈折がある。(ほんとに身体を張ってるのは誰だと思ってるんだこの野郎)というのが正直なところだ。同時に不特定多数の使用者に対しても(貴様等なんかに何がわかるか)という色合いの視線がいつも出るようになった。フリーランサーとはそういう風になるもののようだ。

 考えてみると,初対面の人物に対して「どんなお仕事をされているのですか」ではなく「どこに勤めておられるのですか」と訊ねる人というのはかなり多いのではないか。また,勤め人,月給取りというのは職場が大きな企業であればある程自分の職務内容より先に企業名や団体名を言いたがる。俺が生きているのはそういう社会だとこの人質のニュースを読んでいてあらためて感じた。
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