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オペ室の仕事は日延べ [お仕事上のぼやき]

 諸兄はご存知と思うがオペ室とは病院の手術室のことである。
厨房屋であるこの俺が一体全体何の因果で病院のオペ室に出没するかについては長くなるので別の機会に書いておくとして,本日俺は夕方、長らく出入りさせて頂いている某総合病院のオペ室にて冷凍庫を修理する予定だったがこれは日延べされ,後日再訪問となった。

 オペ室の機材の修理は一定確率でドタキャンが発生する。
理由は大別して二つあり,
(1)手術が長引いており,まだ空かない
(2)予定外の緊急オペがあり,使用中である
 オペ室の冷凍庫やら保温庫というのは全て壁に埋め込まれているので室外に持ち出すことが出来ない。勿論手術中に修理屋が入室することなどできない。だからいずれの理由であれ後日再訪問となる。修理屋としては無駄足を踏むわけで,修理完了後の精算に於いては食品用との冷蔵機器に比べると割高なチャージも事務方には容認されるのが不文律である。

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画像は本文とは関係ありません


 何せ人の命がかかっているのだからドタキャン再訪問の割り増し請求もやむなしということなのだろう。およそ金には厳しい某総合病院だがこの点についてはさすがに物わかりがいい。

 病院のオペ室というところは勿論誰もが来易く入れる場所ではなく,ナンバーロックされた厳重な鉄扉で閉ざされている。入室者は入り口のインターホンでNCに身分と訪問目的を告げ,内側から開けてもらうのを廊下で待つ。
 昨日病院と取ったアポでは午後から問題のオペ室は使用予定があり,5時頃訪問して状況を伺うとしていた。それで今日,俺はインターホン越しに目下手術中との告知を受けて出直すことにした次第だが帰宅の道すがらかねてからモヤモヤしていた考え事を頭の中で整理していた。
 近年特に言えることだが,故障診断の最中に横からしきりと『原因はわかったのか』だとか『あとどれくらいで終わるんだ』などと邪魔臭いことを抜かす無神経な客のことだ。
 その総合病院は手術科(オペ室)と同じフロアーにICU(集中治療室)があり,一角に控え室という部屋がある。手術中、身内の方が待機する部屋な訳だがテレビドラマにあるような、ジリジリ来た家族が控え室を飛び出して「うちの○○の手術はどうなっているんですか!?助かるんですか!」と病院職員に眦を決して詰め寄るような場面を俺は目撃した事がない。大体は黙りこくって手術の終了(必ずしも完了ではない)が告知されるまでひたすら待ち続けるものだ。

 こういう対比を挙げて俺が言いたいのはつまり、医者と厨房機材の修理屋という職業の社会的なステイタスの目も眩むような格差についてだ。
 勿論、一人の人間が医師免許を取得するまでの過程に比べれば厨房機材の修理屋なんぞ鼻糞以下のリソースで済む。極端な話、新聞だのハロワだのの求人状況を見て履歴書を一枚書けば厨房屋程度の職業は誰でもなれる程度のものでしかない。
 しかし広い意味では、何かしらの障害を取り除いて問題を解決するという意味では共通するとは言えないか。診る対象が尊厳を持った生命体かしょうもない出来損ないの機械かで、受ける待遇はこうまで違うのだ。

 修理という時間の予測の立たない仕事でありながら『今日の何時に来られるのか』などという約束を迫り,約束の時間通りに到着しても『今は使っているから待ってろ』などと手前勝手な都合で待ちぼうけをくわせた上にその後のスケジュールのずれ込みには頬被りを決め込む。作業に取りかかれば外装板を外して中を覗き込んだ途端に『原因は何なんだ』だの『何分くらいで終わるんだ』だのとこれまたテメエの都合だけの雑音を吐き散らかして修理屋の仕事を邪魔し,ほんの少しでも作業がずれ込むとまるで自分が物凄く甚大な被害を被ったような面付きで修理業者を面罵したりなじったりする。こういうバカ客は(俺はこの現象を最近,『消費者のヤクザ化』と適当に名付けて結構気に入っている)修理屋を自分のわがまま通りに動く召使いか何かだとでも見ており、そのくせ金のことになると途端にああでもないこうでもないと手前勝手な難癖を付け始めて全くもっチンピラよりも始末の悪いクズ共なのだが,こういう連中が例えば自分の健康上の問題で病院にでもかかったとしよう。俺は断言してもいいが,こいつらのうちの少なくとも95%くらいは外来の待ち時間が長いからといっていきり立つこともなくテメエの名前が呼ばれるまで辛抱強く待ち続け,医者の所見には毛ほどの疑問を持つこともなく,注射針の刺さる痛みを無言でこらえて処方される薬をそのまま受け取り,診療費は提示される金額を値切ろうとするような横紙破りには及ばない。どこまでも羊のように従順なはずなのだ。

 なんだか書いているうちに段々頭に来てしまって支離滅裂な流れではあるがここでの話題をまとめておきたい。要するに俺はここで二つのことを言いたい。

 まず一つ目,医療という行為はここに書いたような自分の施設に出入りする設備関係業者には横暴極まりないクソ客共をも言いなりにさせるほどの威力がある聖職であり,故に結構儲かる。
 それで二つ目,このことは結果として医療機関の裏方である諸々の修理屋のうち,ある種の業者に対してはそのチャージに対して結構鷹揚に対応してくれるようだ。いい意味でゆるいというか。

 実際出入りしていて俺は思うのだが,食品用であれ医療用であれ,冷蔵庫の使用パーツなどというのはまるっきりおんなじものでありながら同じ壊れ方をして同じ処置をしても一方では3万円くらいの修繕費を事務方に値切られながらもう一方では5万円くらいの修繕費が何のネゴもなくすんなり決裁される。その両方を行っている者としては何と言うか,複雑な気分なのだな,実に。
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コメント 2

くるみ

確かにモヤモヤするお話ですね。私も家族が手術した時に(結果、完治はしませんでしたが)感謝こそすれ文句など(^^; こっそり言うと…人間には治癒力もある訳で…物言わぬ機械相手に心の声?を聞き、直してしまう『厨房のお医者様』も尊敬するところですm(__)m このブログを拝見させて頂き始めてから、修理等の業者の方に対する自分の多少おごった考えを改善する事が出来ましたので 大変感謝しておりますm(__)m 追伸…オペ室に入れるなんて全人口で割合は低そうなので貴重な体験ですね!?ドラマは全てにおいてオーバーですね(笑)あのようなセリフはとても恥ずかしくて言えません(*^^*)
by くるみ (2012-11-12 08:32) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメントありがとうございます。
オペというのは余程ストレスのたまる仕事らしく,院外の一角にはいつも術井を来た外科医やら看護士やらがバカスカタバコを吸っています。
まあ,ドラマみたいにかっこいい現場ではありません。結構てきとうですよ。
by HarryTuttle (2012-11-15 10:55) 

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