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不本意ながら電工となる [同級生の再起にまつわる話]

まずは下の大変お粗末な絵をご覧頂きたい。
念のため書いておくが,お粗末なのは俺の写真の腕であって被写体ではない。
IMGP1756-1.jpg

 ここは俺の同級生が昨年11月に移転してオープンさせた居酒屋の小上がりで,画像に映っているのはその照明器具である。
 右側の古臭い角形の蛍光灯は元々ついていたもので左側の丸形の蛍光灯が俺が昨日取付けたものだ。

 左右が不揃いであるのは大変格好が悪い。格好悪いがある成り行きで必然的にこうなっている。ついでに,格好悪いがこの先両方揃って丸形の蛍光灯になる見通しもないのである。
 
 その発端は土曜日の夜だった,俺は同級生の店で晩飯を喰っており,その後ウダウダしているうちに看板近くになってきた。店内には俺と同級生,他の客が1名とホール担当のパート女性の合計4人がいた。
 小上がりにいた数名のお客さんが会計を済ませて帰り,パート女性が小上がりの片付けを済ませて小上がりの照明を消そうとして蛍光灯のヒモを引っ張ったそのとき,ガッターン!と大きな音がしてパートの女性はひぇええええーっ!と飛び退いた。
 何事かと思ってカウンターに貼付いていた残り三人が小上がりの方を見ると天井に取付けられた蛍光灯が落っこちて床上1メートルくらいの高さでぶらぶら揺れている。少しタイミングがずれていたらパート女性の頭を直撃しかねないところだった。

 焦るパート女性には退勤してもらい,残った三人がぶら下がった物体を検分した。
ひどい工事だな,というのが共通認識だった。
 配線接続は角形引っ掛けシーリングで行われている。これは割れ易いので現在使われることはあまりないのだが建物はおよそ20年前に造作されたものであり、当時こういう部材しかなかったのは仕方がないとしよう。
 問題なのは照明器具自体は天井面に固定されておらず,この引っかけシーリングのみによって支持されていることだ。更にシーリングを天井下地に固定している二本のビスは長さが25mmしかなく,垂木にささり込んでいる実質の深さは5mmくらいしかない。今まで落っこちなかったのが不思議なくらいだ。
item_8564.jpg


照明器具は照明器具で,ヒモを引っ張って操作するやり方だがヒモは器具の真ん中からではなくへりにあるローラーを介して端から垂れ下がっている。つまり,シーリングの引っかけだけでぶら下がっているところにテコの原理で力がかかるので操作するたんびに蛍光灯はぐらぐらと揺れて普段から大変不安定なのだ。

 ひどい施工だ,と俺たちは呆れた。こんな風にして落っこちるのも時間の問題だったわけだ。見方を変えると,前の店主が経営していた頃にこういうトラブルは起こったことがなかったのかという疑問も出てくる。照明器具を取付け直した形跡はなかったからきっとこういうことはなかったのだろう。つまり,少なくとも夜の売り上げはなかった,客単価の高い売り上げはなかった,売り上げは全体に低調だった,だから店を畳んだ,という見え方は成り立ちそうに思う。 

 何せ,VAケーブル一本で天井からぶら下がっている蛍光灯をそのまんまにしておくわけにはいかない。そして奴(現在の店主である俺の同級生)には俺同様金がない。となるとこの始末をつけるのが誰なのかは自ずとはっきりしてくる。若い頃に電気工事士の資格を取っておいたのがまさかこんな場面で役に立つとは思わなかった。
 俺はちょっとばかりの義侠心を出して翌日,その蛍光灯を取付け直す段取りをして同級生の店に向かった。脚立を立てて取付け直しに取りかかったが,落下のショックでシーリングの接触部分が歪んでおりうまく外れない。おまけに同級生はわけあって半身に障害がある。
 考えてみると,厨房屋が照明器具を取付ける場面はそう多くない。心当たりがあるのは病院や養護施設にある電撃殺虫機くらいか。有資格者とは言ったって普段は床を這いずり回ることの方が圧倒的に多いわけで天井造作をいじるのは不慣れなこと著しく,遅いわ汚いわで自分がイヤになる。

 たかが天井取り付けの蛍光灯一つに散々手こずり,ああでもないこうでもないと汗だくになって試行錯誤を繰り返しているうちに俺は手を滑らせて蛍光灯を落っことした。
 拾い上げてみるとスイッチに繋がるヒモが根元のあたりで微妙な長さでちぎれている。結び直して何とかならんものかと別の試行錯誤にはまり込み,色々やったが片方が短すぎてうまく結べない。ふと時計を見ると実に,一時間以上もドタバタやっていたことに気づいて俺は頭にきた。何よりもトンマな自分に頭にきた。せっかくの日曜日をあたら無駄にしているこの俺のもたつきぶりが頭にきた。

 俺は腹を決めて同級生である店主に少し時間が欲しいと申し出た。
俺の腹の中を察したらしく,彼は了解をくれて俺はいつもの電材屋に向かった。
腕の悪さを機材や材料のせいにするのは俺が未熟で腕がない証拠だ。
しかし時間がない。いつまでも小上がりをあんなぶざまな状態にはしておけない。
俺がぶっ壊した蛍光灯だから金の請求も出来ないなあ,これは俺の持ち出しになっちまうんだなあ,こんな調子だから俺はいつまで経っても貧乏なのだなあ,と,俺は自分のボンクラぶりを呪いながら電材屋の照明器具を物色し,一番安そうなやつを買い込んで居酒屋に引き返した。

 腹をくくって事情を説明した俺の顔つきは結構気色ばんでいたのだろうか,主は金のことはこっちで見るからとにかく頼むと答えてくれた。
 開店時間が迫りつつある状況下で俺にはブーストがかかった。
えい,やあっと新しい蛍光灯の取付け作業を始めた。シーリングに繋がるVAは活線(電圧がかかった状態)だったがショートの危険も何のそので工事はバリバリ進み,ものの十分かそこらでケリはついた。冒頭の画像はその出来上がりである。
 出来損ないで時代遅れの角形シーリングは思い切って辞めて今風の丸形に変えた。
00003719_photo1.jpg


 俺は自分が貧乏なので安い器具しか買えなかったことを彼に詫びた。外見が違うことはお互いの懐具合の都合上,ご勘弁いただいた。俺同様,やつも貧乏人だから安いに越したことはないだろう。Made in Chinaは貧乏人の味方だな、と、お互いにニヤニヤした。
 掃除が済んで撤収も済み,ねぐらに戻ってゴロゴロしようかと思案していたところ,彼は俺にタダ飯を喰っていけと仰る。これまで書いたように,ただ飯はしばしば俺の商魂を鈍らせる。加えて,請求書を書いたところでどうせあるとき払いの催促なしなのだから奴に手間を取らせるのも忍びないのでこの有り難い申し出は丁重に辞退した。何をやっているんだかわからんドタバタした日曜日の一幕ってわけだな。
(追記のような後日談)
左右で別で格好の良くない二つの蛍光灯なわけだが,主にとってはあながち悪いことばかりでもなさそうなのだ。元々ついていたものは20W蛍光管が3本で新しくついたものは丸形2灯で72Wと12Wの違いでしかないが,点けてみると大変明るいので古い方の蛍光灯を使わなくても小上がりの照度が確保できているのだそうだ。最近,電気代に神経を尖らす主にとっては思わぬ副産物といったところか。ひとえに日立の蛍光管の優秀さに依るところと思う。

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