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本日プレオープン [同級生の再起にまつわる話]

 ガキの頃からの幼馴染みの新店舗は本日プレオープンで,俺も一応はお招きに与る運びとなった。
何せ低予算の現場なので持ち出しだの手弁当だのでやりくりをつけなければならずここ一ヶ月半ばかりは日曜祝日の休みも返上な上に遠出のスケジュールが重なったり夜間工事が連発したりで正直なところ体力的には結構きつかった。施工そのものも宿題が残っているのだがひとまず業務はできるレベルにまではこぎ着けたのでオーナーには申し訳ないが見切り発車ってところだ。

 俺の事などここではどうでも良い。本題は同級生の事だ。
本人の承諾もなしに個人的な事情にどこまで踏み込んで良いのか心許ないが当たり障りのない範囲で書いておく。
 以前書いたように彼は板前で,俺個人の気分を抜きにしてもかなりの腕前だった。『だった』と過去形で書かなければならないのはある事情で彼は左半身に障害を持つ身の上になってしまったからだ。
 かつてその男は河豚を引かせたら俺の住む土地では右に出るものがいないほどの腕前だった。百合根を裏ごしして作る蒸し物は大した評判を取った。他にも色々,とにかく腕については文句なしの人物だった。俺の住む土地で和食の料理人の中では誰知らぬ者とていない立ち位置だ。

 機械頼みにできない手作業が多いだけに和食の場合は身体的な障害が与える影響は中華や洋食よりも大きい。
 リハビリ期間中は自分のお店は休業せざるを得なかったのだが,身体は以前と全く遜色なく機能するには至らず,営業を再開させるにあたってはかなりの葛藤があったように見えた。
 紆余曲折を経て再開の決心がつき,再び暖簾がかかるようになってから少しして俺は同じく同級生である知人と一緒にある晩彼の店を訪れた。

 再開後の店はやはり以前に比べると心なしか客足が落ちているように見えた。
その時期の諸般の事情については色々とデリケートな側面があるのでここでは書かない。世間の冷酷さを思い知る局面は俺にも過去に於いてあったがその時の彼も寒々しい風景に直面していたのだろうという察しはついたとだけここでは書いておく。

 その日,店内には主である件の同級生と俺と別の同級生との三人だけがいた。
最近どうよ,みたいな話から始まって色々無難な雑談に興じながら出てきた最初の料理は厚めに切った河豚を軽く湯びきしたものだった。
 もう,前みたいな仕事はできないけどこういう喰い方でも結構旨いんだ。あんまり見てくれは良くねえけどな。と,主は入り組んだ感情を仄めかせて苦笑いした。
 何度も書くように俺は特段食べ歩きが好きなわけではないし美食家でも何でもないが、その河豚料理には何かしら胸に響くものがあった。一緒にいた同級生も同じような印象を受けたのではないかと思う。

 業種は異なるが,同じ職人として俺はいずれ彼が新しい局面に踏み出すに違いない,今は身体的なハンディと折り合いをつけるために調理師として方向をやや変える必要があり,何かを模索してる時期なのではないかと思えた。
 同級生という身びいきを抜きにしても彼がこのまま萎んでいくとは考えられなかった。奴はいつか今とは違うやり方で復活するのだろうという大した根拠もない確信が俺にはあって、できればその過程を見届けておきたいという気になったのがその晩,丁度一年と少し前の話だ。

 備忘録としてこの辺の経緯はおいおい書き残しておこうと思う。何だかんだ言って,こういう一種浪花節がかった人生模様が俺は嫌いではない。

(追記)
 本日は日曜日で,俺は久しぶりにお休みな訳で,呑気な日曜日の午前中にこのテキストをダラダラと書きながら夕方のお招きに備えていたのだがそこに突然,某総合病院から緊急の修理依頼が飛び込んできた。蒸気配管のバルブがぶっ壊れてライスボイラーが送汽されっ放しなので大至急との事。
 たまの休みくらい感慨に耽りたいもんだぜ,ちっとは俺の安息ってやつにも配慮してもらいたいもんだっ!
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keiichiro0129

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by keiichiro0129 (2011-11-14 13:22) 

くるみ

とても素晴らしいお友達をお持ちですね。拠点は北海道と認識していましたが河豚料理もメジャーなのですか?以前河豚コースを食べに行った時に一品に河豚の湯引きがあり その様な料理かと。和食の料理人さんとの事でおそらく包丁を握るのは右ですよね。左が不都合との事なので不幸中の幸いかとm(__)m確かに和食は手作業必須ですものね。何気に食べる一口の裏にはたくさんの手間がかかっていますよね!?これからは外食時の一口を感謝しなければと改めて思いました^_^;

by くるみ (2011-11-15 05:54) 

HarryTuttle

くるみ様 いつもコメント有り難うございます。

>和食の料理人さんとの事でおそらく包丁を握るのは右ですよね。左が不都合との事なので不幸中の幸いかと

 ところがそうでもないのです。彼の場合でいえば材料を持つ方の手ですから致命的である事に変わりはないのです。
 私のような機械いじりを含めて,手仕事の職人は利き手でない方がどれくらい良く働くかがある意味,一流とそれ以下とを分ける厳格な一線だと思っています。
by HarryTuttle (2011-11-15 20:10) 

007

独立・自営のハードルの高さ、は想定外の大きさでした(^_^;)、、、

また、30数社の馴染み出入り業者も、退社の挨拶してケジメつけ、、、
その後暫らくして、心揺れながら旗揚げの挨拶したら、まともに聞いてくれた方は僅かで、「もう関係ない」と思わせる返事が殆どでさみしい思いでした、、、

今、4業者の方とお付き合いがあります、、、先輩曰く「世間なんてそんなものだ、一人でも付き合いあればまだ良いほうだ」と言われてしまい、人間関係のもろさと滑稽さを痛感したしだいです。

三年目のいま、なんとか薄い利益が出てきて、不整脈の心配もなく安堵しております。
by 007 (2012-08-03 05:28) 

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