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本職に脱帽する [日記、雑感]

冷蔵機器に於いて,液冷媒を蒸発させるための方法としては大別して膨張弁とキャピラリーチューブの二通りのやり方があるのは諸兄も既にご承知と思う。
 前者はパーツとしては高価になるが流量が可変出来るため負荷変動の大きな冷却対象には向いている。言い換えると立ち上がりの特性に優れている。

 俺が駆け出しのあんちゃんだった頃,市場にはまだ町の冷凍機屋さんが造作した業務用冷蔵庫が沢山見受けられた。現在,冷凍冷蔵庫は冷蔵用と冷凍用が独立したコンプレッサーを持つ,いわゆる2コンが常識だが当時の特注冷凍冷蔵庫は一台のコンプレッサーで2つの冷却器を稼働させるやり方が主流だった。
 冷蔵側の運転はサーモと電磁弁で液管を開閉することで行い,冷凍側は冷凍機に組み込みの圧力スイッチ低圧側で行うというものだ。特注製作品なので使用パーツも汎用品ばかりとなり,この場合は膨張弁が冷凍と冷蔵で各一個ずつ用いられる。

 俺は今でも大した腕前の持ち主ではないが当時は今以上にダメな修理屋だったので,例えば膨張弁が詰まって交換した後の調整の場面では必ずグダグダにはまった。
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 膨張弁は工場出荷時に於いて調整済みであるという事になってはいるが現実には結構特性がばらついている事が多いので現地で運転しながら調整しなければならない事が殆どだ。

 調整の要領について書き始めると長文になってしまうのでここでは控えるがなんせ、一台のコンプレッサーで複数の冷却器を、それも異なる温度帯で動かすのは腕を要するというところはご理解いただきたい。

 そのような困った機器類はいつの間にか市場から姿を消し,俺程度でもボロが出ないで済むような冷蔵機器ばかりになってきたので仕事もし易くなってきたかと幾らか安心していたのだが意外なところに落とし穴が待ち受けていた。給食業務に使われる温冷配膳車だ。
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 松下電工のデリカートについては俺は大いに文句を言いたいのだがそれは別の機会に譲るとして,デリカートのあるグレードは1コンプレッサーで3個の冷却器を冷やすという物凄い離れ業で出来上がっている。
 全てのメーカーがそのようになっているかどうかは知らないが温冷配膳車は稼働時間は短いし断熱性にも乏しく,ドアの開閉動作も頻繁なので冷媒蒸発には膨張弁が使われるのが望ましいと俺は考えている。言い換えると,ここにキャピラリーを使うような製造元は原価をケチって手抜きをしている。

 それはさておき,ある依頼元で稼働しているデリカートはしばしば膨張弁が詰まって冷蔵室が冷えなくなり,交換作業がバンバン出た。俺は金になりさえすればいいのでこれまたバンバン修理した。
 それでどしどし修理しているうちに,ある機体で冷え方のばらつきが出た。一台の温冷配膳車に独立して3室,つまり3個の冷却器と膨張弁がついているのだが最も最近交換した膨張弁の調子がいまいちよろしくなく,その箇所の冷えが悪い。

 最初は溶接をしくじったのだろうかと俺は自分を疑い、ねちねちと漏れ箇所を調べてみたがどこをどう調べてもガスリークの気配がない。膨張弁は溶接タイプのものだったので(俺はこの手がちょっと苦手)溶接時の熱伝導でパーツを壊したかと心配になってフレア接続タイプに交換したりもしたがこれも不調で大変困った。
 あれこれ調べているうちに判明した事があった。
第一に冷凍機は凝縮不良を起こしかけていた。高圧液管表面温度を測ると大体37℃で内部液温が40℃を超えているのは間違いない。今回交換した膨張弁はこの個体中の3個目(最後)で前2カ所のときには冷媒の追加補充をしているのである。コンデンサーのつまり具合は影響があるともないとも言えそうな様子だし,第二にこの時点に至るまでに俺は何度か冷媒の追加補充をしている。冷えない原因はコンデンサーなのか,冷媒のオーバーチャージなのか,或いはその両方か,念のためコンデンサーを清掃すれば想定できる原因のうち一つは解消するのだが清掃用の機器の準備をしていない。俺は迷った。

 腹立ち紛れの脱線になるが,松下のデリカート,今回俺の修繕したタイプは冷媒の規定封入量が1400gとなっているが規定値をチャージしてもまともに冷えなかったので追加せざるを得なかったのがこれまでの修理履歴だ。問題なのは追加量を忘れている俺の間抜けさ加減なのだが冷媒をボンベに回収するにしても計量する方法がないのでヤマ勘でやらなければならない。

 まだハードルがある。それこそが問題なのだが冷媒のオーバーチャージが解決できたとしても冷え方のばらつきが解消できるわけではない。膨張弁の開度を調整して3カ所の流量と蒸発圧力を均等化しなければならない。かつて2カ所でさえ手こずっていたこの俺が,だ。
 ここに思い至って俺は自力での解決を諦めた。所詮,あれこれ手がけはするがどれも決め手になりそうな分野がない。
 ご登場願ったのは会社員だった頃からかれこれ十数年のお仕事仲間である冷凍機屋さんで泣く子も黙るスペシャリストでありエキスパートである(スクリューコンプレッサーまでいじり倒す)。
 
 それでそのお仕事ぶりだがいやはや専門家は凄い。
絶妙の勘で機体からボンベに冷媒を回収した後は三つの冷却器出口の配管表面温度と霜のつき具合を見ながらきっちりと特性を揃えていく。
 専門職曰く,俺のような奴が膨張弁の調整に手こずるのは開度を変更してから蒸発圧力がサチュレートするまでのタイムラグが把握できておらず,ベローズの挙動が落ち着かないうちにあれこれいじり回すから混乱してしまうのだそうだ。

 後日,この施設の温冷配膳車は全ての機体をコンデンサー清掃する事で得意先との話はまとまり,このようにして俺のドタバタは一応の決着を見た。
 しかしまあ,凝縮不良,オーバーチャージ、三つの冷却器の膨張弁を調整して特性を揃えて所定の冷却性能を出す,と,ここまで条件が重なった状態でクリアするだけの能力は俺にはないという事は今回思い知らされた。夜間作業でもあったのでお仕事仲間からのチャージはある程度覚悟しなければならないがこれも授業料だと思って今回の件については我慢。
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がんばるマン

私も温冷配膳車はよく修理出動します。今まで診たのはタニ社フジマ社エレクタ社が殆どですが、上記写真の形式ですと全社とも2冷却機で2圧縮機の配膳車なので、修理判定は比較的簡単です。でも古い機械はやはり冷却器からのガス漏れが多く、これがまた修理が大変なんですよねw
今現在、配膳車では冷却器交換が1台と、電磁弁+膨張弁交換が1台の合計2台見積もり提出したところです。

by がんばるマン (2010-03-28 22:03) 

NO NAME

更新されていないけど、何かあったんですか?
もしかして入院とか・・・。
by NO NAME (2010-04-11 21:19) 

HarryTuttle

がんばるマン様,NO NAME様,コメント有り難うございます。
4月初頭に住まいを引っ越し、目下電話回線の工事を待っている状態です。

 5月9日以降,ブログは正式に再開致しますのでよろしくお願いいたします。
by HarryTuttle (2010-04-28 20:18) 

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