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スチームコンベクションオーブンの動向 [修理屋から見た厨房機材]

 スチームコンベクションオーブン(以下スチコン)が世に出てからそろそろ20年と少々くらいにはなるだろうか。

 当初は使い道の不明な便利グッズ程度の見方で大して売れなかったが真空調理とかなんとかに使えるという事で普及し始めたのが18,9年くらい前だったように覚えている。
 今では真空調理を実務で導入しているという話もあまり聞かなくなったが色々と活用範囲の広い便利グッズである事は知れ渡ったので随分普及した。

 普及の原動力になったのはマルゼンが莫大な予算をかけて全国津々浦々行った調理講習会で,そのかいあって現在のマルゼンは国内のトップシェアである。

 発祥の地であるEU圏では元々ドイツ製が優勢で,おおかたコンボテルムとラショナルの2社がシェアの大半を分け合っていたと聞いている。これら2社のいいとこ取りで自社製を開発したのだと以前マルゼンの所長さんから聞いた事がある。
 但し最近は売れ行きに変化があったようで,目下EU圏で販売台数のトップはイタリア製(だったと思う)のUNOX(ウノックス)が取って代わったのだそうだ。国内ではエフ・エム・アイ(株)が輸入元である。

 機能や構造上最も大きな違いは蒸気発生の仕組みにあって,原初的な考えではボイラータンクにためた水を投げ込みヒーターで加熱する方式だったのが最近売り上げを伸ばしているインジェクション方式(と便宜的に呼んでみる)は庫内のホットエアー用ヒーターに水を吹き付ける事で蒸気を発生させる。

 加熱用のヒーターが一組で済むので製造コストが下がり、実売価格にも転嫁できる。投げ込みヒーターは常時水に浸っているので長期間使用での絶縁低下等の懸念があるがインジェクション方式ではこの点は回避できる。
 デメリットとしてはヒーター表面温度は水をかけられる事で不断に変動しているので秒単位での蒸気発生状況を考えると安定性に欠ける。結果としてはスチームジェネレーターを持つものに対してスチーミングの時間は少々かかる傾向があるらしい。
 もう一つのデメリットはヒーターにカルキ等の不純物が付着する事で,手入れの悪い状態で使い続けると効率が落ちてしまうことで、大変時間のかかるカルキの清掃よりもヒーター交換が実際の処置になる事が想像できる。このときの修理代は恐らく結構安くないものだ。
 最も水質に注意しなければならないのはジェネレーターを内蔵した形式であれインジェクション方式であれ一緒なのだからどこかの時点で高額修理が発生するのは不可避であって購入する人は事前にこの時の補修費が大体どれくらいなのかを押さえておくべきだ。

 俺はスチコンの構造なり動作はラショナルの製品で覚えた口で,会社員だった頃にはそれを販売してもいた。インジェクション方式はウノックスが始めてというわけではなく,それ以前から他社でも採用されていたがおしなべて安価であり,商売上競合の場面ではかなり苦戦した。
 それで当時はこの、目の上のたんこぶみたいな形式の一生懸命あら探しをしたのだが、修理の自営業として何でもいじるようになって接してみると案外,こちらの方が理にかなっているのではないだろうかと考えが変わり始めている。

 根拠については頭の中でうまく整理できていないが,機械屋の直感みたいなものでスチコンの加熱系統をホットエアーとスチームで独立させておく必然性は非常に乏しいのだ。大体,コンビスチーミングの運転モードであってもホットエアーとスチームは切り替え運転されているだけであって同時稼働しているわけではない。

 国内製ではまだ大半がジェネレーターを内蔵させた形式の製品を製造し続けていて,営業の場面ではインジェクション方式には否定的なコメントが多く聞かれると思う。しかし現場を見続けてきたものとしては,例えば朝から深夜迄稼働し続けるような生産工場でもない限り,恐らく過半数のユーザーにとっては安価なインジェクション方式で用は足りそうに思う。
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業務用厨房設計担当者(会社員)

すばらしいご見解と思います。
修理経験者のご意見とあっては大変説得力があり、
ぜひ参考にさせて頂きます。
最近 ホシザキがスチコン(1機種のみ)を発売しましたが、
加熱方式、蒸気発生方式共に新しい様ですが、
この件についてもご意見がありましたら、聞いてみたいと
思っております。
ありがとうございました。  09.03.27
by 業務用厨房設計担当者(会社員) (2009-03-27 17:37) 

HarryTuttle

業務用厨房設計担当者(会社員)様
コメント有り難うございます。また,レスが遅れて申し訳ありません。
ホシザキが参入する事でスチコンは更に普及していき,これ迄製氷機や食器洗浄機がそうであったように,どこのキッチンにも「あって当たり前」のアイテムとなっていくように私は予想しています。
 但し,こういった機器類のこれ迄の浸透の仕方がそうであったように『大きな利便性の導入は大きなリスクの発生でもある』という認識は伏せられたままで拡販がなされるとも予想しています。
 
IH加熱(電磁誘導)というのが売りの新製品のようで,機械を生業とする者にとっては興味深い内容ですのでいずれブログ上で私見を表明してみたいと考えておりますのでよろしくお願いいたします。
by HarryTuttle (2009-04-07 11:46) 

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