SSブログ

インチキ中古厨房屋にはめられる [困った業者]

 俺が長年お世話になっている某中華レストランの冷凍庫が先日お役御免になった。およそ30年近く稼働したのではないだろうか。
 稼働年数30年弱のうち、俺は尻尾から数えて20年くらいをサポートしていたことになる。普通で言えば2回くらいは更新しているはずのところをよくもまあこれだけ引っ張ったものだと我ながらちょっと感心してささやかながら感慨に耽ったりもする。

 それはそれとしてレストランのお仕事は続く。冷凍庫をどこかから用意しなければならない。
オーナーは結構な年配の方で、実は中国に永住する夢を長年温め続けてもいる方だ。中国本土の厨司仲間たちからもラブコールが絶えない。
 買えるお金がないわけではないが今から新品を購入したところでこのまま店を続けるにせよ中国に渡るにせよそう長く使う予定があるわけでもないので、安価な中古品でも探そうかということになった。

 仕事仲間の知ったか坊主に話を持ちかけてみるとたちどころに候補を3つくらい拾い出してきた。ネタの数だけは潤沢だがタマの質に問題のある危なっかしい野郎だが何しろ急いでいるので背に腹は代えられない。冷凍庫の更新は毎度スケジュールがキツい。
 札幌の某業者がホシザキ製の冷凍庫を持っているという。4年落ちでコンディションは上々、動作確認も済ませたという。激安供出と聞いたので早速ツバを付けた。オーナーも上機嫌で気持ち悪いくらいうまく事が運んだ。金は知ったか坊主とオーナーとの間で直接やり取りしてもらうことにした。知ったか坊主が札幌の中古屋に半金送金する。俺は親方と搬入工事日を打ち合わせる。トントン拍子に事が運ぶ。

 それで搬入工事の当日だ。
知ったか坊主がトラックに乗せてきた冷凍庫を見て俺は思わず絶句した。4年落ちなど大嘘もいいところで間違いなく13、4年前に生産終了したホシザキ製、故障したときには厄介なことになるな、とか4年落ちの割にはくたびれているな、とか言われたらどうしようとかで気分が沈む。低圧冷媒配管の保温材にはよじれたビニールテープが汚く巻き付いている。これは何か、冷媒関係等の修理歴があったことを表している。俺だってプロの端くれだ。機械を眺めれば修理の履歴くらいはそこそこ推測できるのだ。
 気分が沈む。嫌な予感がした。

 その日はひとまず運転を始めた。そこそこ庫内温度は下がり始めたが気分が晴れない。嫌な予感が払拭できないまま寝付きの悪い夜を過ごした。
 その翌日は今日から数えて昨日だ。朝一で俺の予感は的中した、全く予感というのはどうして良くないことばかり的中するのだろうか。
 オーナーから冷凍庫の運転が止まって表示が消えているとの連絡が入って現場に急行した。冷凍庫の修理は待ったなしがお約束だ。現調すると分電盤のELBがトリップしている、漏電だ。絶縁不良箇所を一発で探り当てられるか、手探りの泥沼にはまり込むか、時間の読めない作業になる。バイアスが一段上がった。

 作業は難航した。霜取り運転中に漏電が発生することはすぐにわかったがどこをあたっても絶縁系の針が微動だにしない。配線を解きほぐしていくとへたくそな結節の跡を発見した。排水ホースヒーターの交換が行われていたようだ。配線の芯線がはみ出していてひげ上にのびている。冷凍機の振動によって配線が微妙に動き、結節されずにはみ出した芯線が箱に触る、俺はそう推察した。
 果たして手直しの後、冷凍庫は無事に起動した。全くとんでもないタマを掴まされたものだと俺は知ったか坊主や札幌の腐れ中古屋に内心毒づいた。絶対に請求書を上げなければならない。
 夕方様子を見に来るとオーナーに告げていったん失礼したがなんだか胸騒ぎがした。本当にこれで解決したのだという確信が持てないでいた。

 夕方の俺は胃に穴の開きそうな気分に捕われていた。どうしようと言う言葉が頭の中で無数に渦巻く。
無情にも冷凍庫は再び止まっていて運転表示が消えていた。『販売責任があるわけでもないのになんで俺が』と頭に来ながらひたすらオーナーに頭を下げまくる。
 そこにいる当事者が俺だけである以上、俺が頭を下げて解決策を示さなければならないのは仕方がないがそれにしても頭にくる。大体件の中古品がまともに動作するのであればこんな目に遭わずに済んでいるはずなのだ。

 とにかく冷凍庫は動くようにしなければならない。それが本当にできるのかどうかの保証などどこにもないのだが何せ試みてみなければならない。結果の確約は出来ず、ことによっては出入り禁止のお払い箱になるかもしれないがとにかく姿勢だけでも見せなければ。
 相変わらず、霜取り運転中に内蔵のELBがトリップする。午前中の俺の措置は本当の解決に至らなかった、踏み込みが甘かったのだ、俺もまだまだだ、20年以上もこの仕事をしていながらなんてザマだ、と、自分を面罵する。どこをどうあたっても午前中同絶縁系の針は俺を嘲笑うように静止し続ける。苛立で頭から煙が上がりそうになる。

 冷却器を見るためにドレンカバーを取り外して中を覗き込むと奥歯が砕けそうになった。乱雑な修理跡が密集している。至る所、配線の結節のし直しがある。闇雲に手当たり次第パーツを交換した跡だらけだ。
 俺は想像した、おそらくこの症状はずっと以前からあって解決されないまま中古市場に出てきたのだ。
こうして盲滅法手を尽くしたが漏電遮断が止まらず、ホシザキのサービスが匙を投げたものがこの冷凍庫なのだ。そしてこれを買い取った中古屋も一通りの動作確認などせずにちょっと運転してみて中が冷えるのを確認しただけで売り物にしたに違いない。要するにこんなジャンクを履歴の確認もせずに売りさばいている、その程度の奴が一端の業界人を気取っているのだ。中古屋なんてみんなこんな具合で詐欺師まがいのインチキ野郎ばっかりだ!

 グダグダ言っても始まらない。勝手に直ってくれる機械はない。幾ら手を尽くしたからといって報われるとも限らないのだが。
 中華レストランのキッチンは暑い、季節外れにも俺は汗だくで冷凍庫の上にしゃがみ込んで配線図を穴があくほど睨みつける。
 数度目の再運転でELBがトリップし、何かがひらめいた俺はすぐさま霜取りヒーターのリード線がつながっているコネクターを制御箱から引っこ抜いて絶縁を計ってみた。絶縁系の針はキロオーダーを飛び越して殆ど振り切れている。『見つけたぞ!』
 再確認のために再度絶縁抵抗を計る。5キロ、20キロ、300キロ、見る見るうちに絶縁抵抗は回復していき、1分も経たないうちに霜取りヒーターは正常値の100メガ以上の値を取り戻す。

 要するにこういうことなのだ。霜取り運転が始まると同時に稼働するヒーターは徐々に絶縁が低下していく。そしてELBがトリップするとヒーターはそれ自体の蓄熱で乾燥が進み絶縁抵抗が回復してくるのである。しかしその間1分とは・・・・一分以内に見つからなければお手上げというわけだ。おそらくホシザキのサービスマンが修理を諦めたのもこのタイミングを捉えられなかったためだろう、無理もないが。

 問題はまだ解決していない、回路中から霜取りヒーターを切り離すことで遮断動作は回避できるものの
霜取りの働かない冷凍庫では使い物にならない。屋外に出て頭の熱を冷ますためにタバコを灰にしながら思案した。霜取りヒーターは二本、同時に漏電する確率は際経験上極めて低い。だから発熱量は半分になってしまうがひとまず運転は出来るかもしれない。しかしながら方肺で十分な霜取りは出来るものなのか・・・どこまで冷えるか・・・・・・・

 処置はひとまず成功した。本当のひとまずである。俺の仮処置で庫内温度は−12℃迄を記録した。残念ながら閉店時間になってしまったのでそれ以上の温度降下を確認することは出来なかった。このアクロバットがどれだけの効果を上げたかについては本日これから、定休日のお店でオーナーと待ち合わせの上確認することになる。どんなことになっているのやら。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:仕事

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。