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厨房屋的「不都合な真実」(3) [困った業者]

 厨房機器大手T社製の食器洗浄機の修理パーツは手に入った。
 実は先ほど、その修理が終わったところである。2時間作業で約2万円強の粗利は悪くない。修理主体の自営業の場合、週五日稼動と考えて一日の粗利が2万あれば大体その月は万全である。請負仕事ではこういう金額にはならない。せいぜい一万円と少しだろう。大違いだ。

 自営業者を下請けに使ったときの厨房屋のピンハネは別の話題として、修理は予想通り難航した。T社の食器洗浄機は普段あまり触る機会がないので不慣れということを割り引いても手こずった。ポンプのメカニカルシール交換というのは普段の俺の手順でいけば同時に行うベアリングの交換も含めて長くても1時間強で終了する作業だ。

 ここで少し後悔しているのだが、夕食下膳終了後の老人ホームが今日の現場だったのだから、いっそのことカメラでも持ち込んで内部の実装状態を写真に撮っておけば良かった。
 何故そんなことを思いついたかというと、とにかく出来が悪いのである。整備性など鼻くそほども考慮されていない。めったやたらといじりにくい機体なのである。噴飯ものとはこのことだ。
 通常、ドアタイプの食器洗浄機は一部を除いて筐体の中に洗浄用と濯ぎ用とでふたつのポンプを内蔵している。整備性を考慮して設計された機体はそれぞれのポンプを単独で取り外しできるような実装がなされているものだが今回のT社製は違っており機械スペースの手前に洗浄用ポンプ、奥に濯ぎ用ポンプがそれぞれ横向きにマウントされている。
 つまり、奥に置かれた濯ぎ用のポンプを取り外して整備しようとするとそれ以前に格別悪くもない手前側の洗浄用ポンプを一旦取り外さなければならない構造である。

 弁解めくが、作業時間が長引いたというのはそういうことでもあるのだ。余計な付帯作業が出る分だけでも一時間弱は時間を食っているはずだ。これはそのまま、作業費となって請求金額に反映されなければならないものだからして修理代金を支払う側の持ち主にしてみれば決して看過できる話ではないはずだ。
 安売り王で勇名を馳せる(というよりも悪名を轟かせると言ったほうがいいか)T社だが、こんな造作の機械を買わされたユーザーはまともに作られた食器洗浄機であれば2万円かそこらで済む修理代金にもう一万円近くを余計に払わなければならないことになってざまはない。何社からも見積を徴収して一番安い製品を買った時点では有頂天だったのだろうがそんな成り行きに限って後々落とし穴があるものだ。
 大体の場合に於いて、業務用厨房機器の購入者などというのは知識も見識もないしトータルコストに関して事前の吟味が出来る能力もない。ただ単に声のでかい業者の言いなりになって安い見積に飛びつくだけのバカ者が大半なので俺は今日のような場面にあってもこういう安物買いの銭失いに対して同情的な感情を持つことは一切ない。請求するものは遠慮なくさせて頂く。

 話を本題に戻すと、今日、この作業に取りかかる前に俺は依頼元の事務所を訪問し、ある真実を探り当てた。
打ち合わせがてらの営業訪問で本題を終えて雑談の最中、依頼元の担当者は本当に俺の提示額で修繕は完了するのかとやや訝しげだった。
 俺は今まで、安くて文句を言われたことはない。これでも技術屋の端くれだしぼったくり商売でも何でもない。積算にはしかるべき根拠をちゃんと持たせているのである。「僕は十分儲かりますよ」とまで断言した。
 すると担当者はそうかなあ、と、首をひねりながら一通見積書を取り出して俺に見せてくれた。K社で作成した食器洗浄機の見積書で、俺に声がかかる前に修理下見を済ませてから作成したものだった。
 その見積書を見せて貰って俺はひっくり返りそうになった。見積金額は何と7万円を超える。俺の提示額の2倍以上だ。明細を見ると濯ぎ用ポンプの交換とあった。
 メカニカルシールに損傷があるとK社はポンプを取り外して整備するのではなく、ポンプをそっくり交換するのが通例なのだろうか。いやこれには驚いた。そんな修理ばっかりだったら儲かって仕方がないだろうな。楽だし。うらやましいよ。
 設備保全の心得がある得意先にメカニカルシールが損傷したポンプの修理についてポンプ交換なんていう見積を出した日には怒鳴り倒されるのがオチだがこのケースでは客が無知なのでボロを出さずに済んだというわけだ。

 しかし何だ。今回依頼元は俺に声をかけることで約4万円ほどの修理代金を節約できることになったわけだが、いや、こういう書き方は正しくない。俺に声をかけることがなければ約4万円ほど余計な出費をするはずだったのだが、つまりこういう関係が厨房屋と購入者の真実なのである。
 安かろう悪かろうの粗悪な製品、知識も見識も技術もないハッタリだけのサービスマン、後先考えずに目先の小金に見境なく飛びついて感情で物事を決めたがる購入者、この構図にはどこにも救いがない。
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