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ある喪失感と危惧のこと [お仕事上のぼやき]

 今日は既に月末近くであり,年頭所感と言うには遅すぎるがこれは俺の怠慢な性分を良く表している。

 某輸入商社のサービスマンが今月一杯で退社するそうで,先日俺の携帯宛にお別れの挨拶があった。
再就職先は特に決めておらず,退社後は当面,どっか海外でブラブラする予定なのだそうだ。俺が10年前に開業して以来修繕のお仕事を回して頂いて随分ご厄介になっており,彼は優れた技術の持ち主であるし年齢的にはまだまだ第一線でバリバリやれるので俺はこのことを大変残念に思っている。

 これ迄何度か書いたように,厨房屋のサービスマンが中堅クラスに迄スキルアップした状態で退社する場合は業界に残らず異業種に転出するケースは大変多い。
 かく言うこの俺も30代の半ば頃,得意先の某製菓メーカーの工務課から声がかかり,正直なところ気持ちの上ではかなり傾いた。結果として俺はその選択肢をとらず現在に至っているわけだが、周囲の人達には『あの時転職していたら今頃おまえは・・・・』的な意見の持ち主はいまだに結構多い。

 昨今特にブラック企業という呼称があちこちで飛び交うが,業務用の厨房機材なんていうのはもう、業界全体がブラックなのであって企業単位どころの話ではないのだ。
 ブラック企業のレッテルが貼られたのは悪名高きワタミやゼンショーをはじめとして外食産業が槍玉に挙がることが多い。厨房屋の業界が全般的な体質としてブラックなのはそれと大いに関係があると俺は常々考えているのだが、その傾向は改善されるどころかこの先も悪化していく一方だろうという悲観論は変わらない。

 具体的な社名をあげるならば,この業界では日本調理機と中西製作所の2社以外は全て,大なり小なりブラックな泥沼に脚を突っ込むことを覚悟しておかなければならない。厨房屋の得意先である業種は多々あるが,学校給食は穏やかな仕事に従事できる最後の聖域と言っていい。

 厨房屋の業界内の不条理についてはあれこれ書き出すときりがないので,それは後々折りを見て取り上げていくとして,30代40代で他業界に転出する典型的なケースは家族の反対が原因であることが多い。
 そりゃそうだろう、会社が社員のプライバシーを得意先にベラベラと垂れ流し,携帯電話だの自宅の固定電話だのばらしまくっていたのではたまったものではない。日曜日だの帰宅後の深夜だのに遠慮も何もなく社員個人に修理の催促が来る生活など家族にしてみれば不条理としか言いようがない。
 しかもだ、この業界の殆ど全ての企業は社員のこうした私生活上の迷惑に対して何の救済措置も講じていないところが殆ど全てと言っていい。代休を与えるとか,翌日の出勤時間を遅らせるとか,これは違法だがそうした業務時間外の労務に対して時間外手当として金銭的な報酬を与えるとかいった措置にはいつまで経っても頬かむりをしたままだ。

 今でもそうなのかは不明だが,ホシザキという会社は毎日午後5時半になると修理の受付は留守番電話に切り替わり,翌日回しである。使用者の方々にはこの運営形態に不満を訴えるケースはあるが、修理屋の労務環境としてはそうでもしないと24時間臨戦態勢でいなければならなくなってこれは精神的肉体的に大きな負担であり,雇用している企業としては深夜の作業で事故でも起きれば労務管理上,問題でもあるからこういう制限を設けざるを得ないのであって,24時間365日,いつでも障害があった時に即刻対応してもらいたいのであればとどのつまり使用者はメーカーのサービス講習にでも参加して自ら修理を憶えるのが最良だろうと,これは決して暴論でも極論でもないと現在の俺は考えるようになった。

 俺の懸念する将来像を断片的に書き留めておきたい。
*中古機材が出回り続けることで得意先の設備は不安定さを増す。
*厨房設備の内容は複雑さ,高機能さを増す方向にのみ進み,後退しない。
*携帯電話の普及により,サービスマンの基礎的な思考力は鍛えられず,スキルレベルは低下する一方である。
*経験を積んだサービスマンは上に書いた事情により,ある時点で業界から抜けていく。

 起こりうるであろう典型的な状況は一例を挙げるとこんな感じだ。
使用歴10年程度の食器洗浄機が運転途中に停止する不具合が不定期的に発生し,そこに現れた厨房屋のサービスマンは作業着を着て軍手をはいており,一見,その筋の人らしくは見えるが実は偏差値40くらいの無名大学文系出身の男である。
 5分程度あちこち眺めての所見は・・・・・
(1)不具合箇所はコンピューター仕掛けの制御基盤であり,その価格は10万程度、修理費用は約12万くらいになる。
(2)不具合箇所はコンピューター仕掛けの制御基盤であり,現在補修パーツはないので修理不可。リプレースしてください,
 
 修理屋は技術者どころか職人でさえなく,使用者の前で臆面もなく携帯電話でSOSを求め,虎の巻を開き,エラーコードの説明文に従って関係ありそうなパーツを総取っ替えするだけの作業員(workman,worker)でしかなく、しかも,定着率が悪く毎度違った人物が現れてそのいずれもが30代前半以下のあんちゃんである。
 当然ながら彼はその修理個体の過去履歴など頭に入っているわけはなく,大体その機材は中古機をリサイクル屋から購入してきたものなので持ち主にも過去事情はさっぱりわからない。
 
 起死回生の秘密の抽き出し発動によって故障期待が仮処置を施されて急場をしのぐといったドラマチックな場面はこの先極端に減っていくだろうし,それ以前に満足に回路図も読めない、単なるネジ回し屋しか残らずにそれさえも次から次と入ってくる修理依頼にてんてこ舞いで即応性は低下する一方の状況は既にもう始まりつつあるように俺は見ている。
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007

個人的には昔若い頃、H社サービスマン時代に感じたことですが、、、

偶然居合わせた電気屋のおっさんに「H崎さん、絶縁はテスターでは測れないよ!」と言われ・・・実力付かないな、こんな会社では!と思いました・・・
・・・単なる”対応マニュアル頼りのパーツ交換作業員”ですから、、、
これが退社の主原因ですね、。

設備管理時代に、偶然聴いた噂話で「あの人は単なる設備管理要員、、、で電気主任ではない、、、」・・・腹立ちと悔しさが原資となり電検取得のキッカケに、。

まあ、テスターでも9V積層電池搭載機は、100V回路迄ならば、絶縁抵抗計の代わりに成りますし、絶縁状態がかなり悪い場合は、単なるテスターでも正確な抵抗値は出ますが、。

先人先輩方と現場で接していると、電検もまだまだ実力不足を感じています、。
by 007 (2015-01-24 05:34) 

くるみ

居酒屋さん等の飲食店は一般の人が関わるしマスコミにも取り上げられる事が多いので情報は入ってきますが…氷山の一角で その裏にはブラック企業が満載ですよね!? 家族の反対は理解できます。力のある方が離れてゆく…悲しいスパイラルですねm(__)m。
by くるみ (2015-01-25 01:42) 

HarryTuttle

007様、いつもコメント有り難うございます。
 近年の風潮や製品造りを見るにつけ、どうもこの業界は修理業務について技術者という存在は最早不要と考えているのではないかと思えます。
 私が希望を持てないのは機器の製造元ばかりではなく使用者の大半までもがそのように考えている風潮が強まりつつあるようにも思えています。
 とどのつまり、技術屋としてのスキルを高めていきたいと指向する方は身の置き場が段々なくなりつつあるように感じています。

 その意味では保安技師として一家を成した007様には先見の明があったのですね。小生などは難破船から逃げ遅れて一緒に海の藻くずとなるネズミの心境です。
by HarryTuttle (2015-01-25 01:44) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメントありがとうございます。
遅れましたが今年もよろしくお願いいたします。

 どの職業についても言えることなのでしょうが,修理屋もまた数々の不条理に晒されながら日々やっているわけです。
 最早終身雇用制度は崩壊し,労働三法の遵守も足蹴にされるご時世ですからスキルのある人が金銭的な意味だけでなく自分をより高く買ってくれる就職先にアプローチするのは全くの必然だと思います。
by HarryTuttle (2015-01-25 13:58) 

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