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無数にある失敗のうちの一つを晒す [困った業者]

カテゴリーにある「困った業者」とは、他でもないこの俺のことだ。

 これ迄このブログで俺は幾つか自分の修理記録のようなことを記事にしてきた。
それらを読まれた諸兄のうち幾人かはこの俺が立派な腕前を持つ修理屋だという印象を持たれているのかもしれない。しかしそれは大変な誤解であって現実の俺は年がら年中失敗だらけの,出来の悪い修理屋に過ぎない。

 あるいはこう考える方もおられるだろう,(こんな修理作業の記事をアップしているけど,こいつは本当はこの数倍,手こずったり失敗したりしていて,自分に都合の良い,うまくいった事例だけを取り上げているのではないのか?)その通り,あなたの見方は全く正しい。俺の仕事は年がら年中,いつまで経っても狼狽と憔悴の連続だ。
 誤った所見については枚挙にいとまがない。そして機械の修理は俺の仕事であって趣味ではない。とにかく壊れたものを機能させ,再び動かさなければ事態が前に進まない。どこ迄も正確で迅速な診断能力と作業手順であらゆる出来事を処理できればいいのだが現実にはいつまで経ってもそうなれずにいる。実にしばしば迷い,手こずり,経費で脚が出る。しかしそれでも依頼は日々舞い込み,俺は片付けなければならん。

 夏場に冷媒漏れの障害が出たエアコンの修理で、これは以前,記事にしたことがある現場だ。
(関連記事)
ハイエナ:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2014-04-26
ハイエナ行為がメーカーにバレた:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2014-05-02

 エアコンは日常俺が触れる機会がなく、機能や構造などはろくに頭に入っていない。
それでも色々事情があって引き受けることにした。理由を書き始めると長くなるのと本筋からそれるのでここでは割愛。
IMGP0215.jpg

 製造元は東芝で,このコンビニが開店以来ずっと動き続けてきた。20数年落ちの個体で、既に本部指定のサービス機関であるメーカー筋では匙を投げられた格好となったので俺のところに依頼が来たのが前回記事の時点でのこと。
 室外機の上部に銀色の筒のようなものが見られる。これは灯油を燃料とする燃焼筒で,暖房運転時に冷媒(正しくは暖房運転時には熱媒と呼ぶのだろうか)を加温するためのものだ。使用冷媒はR-22で、当時はこういう加温機能を設けないと満足な暖房性能を得られなかった。時代の反映と言うべきか。

 東芝から配管の系統図を貰い,にわか勉強に励んだ。
既に憶えていて自分の抽き出しになっているようなことを繰り返して食っていけるのならもっと楽なはずなのだが,とこのごろつくづく思う。 
 うろ覚えで頭に入ったには,この手のヒートポンプは暖房運転時にまずコンプレッサーが回ってポンプダウンを行い,続いて上部の燃焼筒で加温が始まるというものらしい。
 故障個体の挙動はポンプダウンの際にコンプレッサーが動作せず,燃焼筒内の冷媒が不足しているため過昇温というか空焚きのような状態を検知して保護停止がかかる。ということは機体内のどこかにあるマグネットスイッチが働いておらず,コンプレッサーが動かないわけで俺はあちこち外してその部品の在処を探しまわる。
IMGP0216.jpg

 付属の配線図は20数年屋外にあったその経時変化で既にボロボロになっており,まともに読めない。配線を辿りながら探しているととんでもなくややこしい場所にそれが着いていることが判明した。
 何らかの理由でサーマルトリップでもしているのかと俺はシャンク長が300mmくらいのドライバーでマグネットのプランジャーを強制的に押し込んでみるとコンプレッサーは普通に回る。
サーマルトリップの状態を確認したくてせせこましく配線の入り組んだ内部をかいくぐるようにして先のドライバーを差し込んでみたがどうも押した感触に確信が持てない。

当然ながら,マグネットスイッチは東芝製のものが使われている。そして,俺の住む土地に於いては東芝製のマグネットスイッチというのはあまり一般的なものではない。サーマルの復帰ボタンの感触は体感的にはわかっているつもりであり,製造元がどこであれ似たようなものではないかとも思うがやはり普段見慣れていないものだと確信が揺らぐ。
 そもそもこのサーマルは復帰方法が自動なのか手動なのか,マグネットスイッチは物凄く奥まったところについているし,埃まみれなので目視でそれを確認できず,手も入らない。
 常識的に考えれば,手の入りにくいところについているマグネットスイッチであればそれは自動復帰としておくべきだろう。しかし自動復帰というのは保護装置本来の責務を果たしているとは言えないやり方で,もしも付加の状態が良くなく,繰り返し過電流を流し続ければポンプレッサーを焼いてしまう。

 俺は頭の中を整理する。
 マグネットスイッチのサーマルに出力が現れない、マグネットコイルのプランジャーが働かない,その理由は・・・・・・
(1)サーマルリレーの破損,これは復帰方式を東芝に問い合わせ,手動復帰であることを確認したので問題なし。
(2)電磁接触器部分の接点焼損による不良,これは先に書いたようにプランジャーを強制的に押し込んでみると大体理屈通りの電流値でコンプレッサーが動くので問題なし。
(3)非常に稀だが,ヨーロッパ製の機器類で時たまある状態で,マグネットコイルが断線,乃至はレアショートを起こしており吸引力が生まれない,または不足する。

 俺はボロボロになった配線図を目を凝らして凝視し,マグネットコイルの接続経路を探した。それは制御基盤のある端子に接続されており,AC200Vで動作することがどうにか判読できた。
 薄暮時が迫ってくる屋外で俺はどうにかそのコネクターを見つけた。基盤からの出力があることを確認した上でマグネットコイル側の導通を測ると完全なオープン状態でここが断線していると俺は判断した。

 そんな手順で所見は出たが,何せ20数年前の機種であり,同一の補修パーツが既に東芝にはない。
代替品として供給されているマグネットスイッチを取り寄せてみると中身はなんと,電磁接触器の部分だけでサーマルがついていない。慌てて東芝に問い合わせをしてみると出荷は間違っていないという。サーマルは別に発注が必要なのかと質問を重ねるとサーマル単体での出荷はしていないという。じゃあ処置としてどうすればいいのかと問いつめると何とも不明瞭な回答で俺はいい加減頭に来て電話を切った。

 たかがマグネットスイッチくらいで一体何をそんなに勿体をつけなければならないか。これがどこか分けのわからない製造元ならいざ知らず,天下の東芝がこんな対応なのかとがっかり来た。
 そう,たかがマグネットスイッチなのだ。そんなものは俺の住んでいる田舎町の電材屋にいつでも在庫しているではないか。俺は代用品として富士電機製のサーマルを買い,既に東芝から取り寄せた電磁接触時と組み合わせて使うことにした。
 
 あらためて現場でエアコンの分解を始め,マグネットスイッチの取付け箇所に迄辿り着くのは結構難儀した。年がら年中いじっているのであればもう少し手際よく出来たのではないかと思う。
IMGP0213.jpg

 室外機右側の上部にある制御裏盤の真裏に横向きに取付けられている。日常こういうものを数理されている方はさぞかし大変だろう。

 取り外したマグネットスイッチを見て俺は驚いた。
古い形式のマグネットスイッチでは良くあるやり方だが,サーマルの復帰端子(b接点)と電磁接触器のコイル端子の片方がごく短いジャンパー線で結ばれている。取り外したマグネットスイッチはそのジャンパー線の末端,Y端子をカシメたあたりで断線しているではないか。

 基盤への接続端子側からコイルの導通を測ってオープンだった真相はそういうもので,取り外した現物をこうして調べてみるとコイル自体に断線はない。
 俺はジャンパーを作り直して,舌打ちしながら復旧を進めた。数千円とは言え,あわや交換しなくていいパーツを交換するところだった。仕入れたマグネットスイッチは問屋に返品がきくのだし,店舗のオーナーに対してはマグネットスイッチの分を差し引いて修理代を精算し直すことでご了解を頂いた。
 オーナー殿はせっかく仕入れたマグネットスイッチの返品は手続が面倒だろうし,そのエアコンはもう20年以上も動いているのだからこの際交換してくれと有り難いお言葉を頂いたが,既に屋外は真っ暗であり,更に交換作業を続けるのは手間がかかる。それに何といっても問題のマグネットスイッチは差し当たり不具合がない。俺は自分の横着と不見識さのペナルティとして,東芝から仕入れたマグネットスイッチの分はかぶることにした。補修パーツとしての購入なので電材屋からかうのに比べると割高ではあるが,いつかどこかで使うことにしよう。

 問題なのは依頼を受けてから復旧迄に要した時間で,結果論とは言え随分道草を食った。
駆け出しのあんちゃんだった頃から今に至る迄,俺にはいつもこういう感覚がついて回る。何故あれを見落としたのか,とか、何故こんなに手間取ったのか,といった後悔がいつものしかかっている。そしてこれはこの先もなくなることがない。生き続けている限りどこまで行っても俺には完成がない。 
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007

小生の分野ではありませんが、エアコンの修理の要は先ず電源の中継点である室外機のマグネットの動作を目視して、電圧や電流、絶縁測定などを行いますが(間違いならごめんなさい)、、、

仰る通り、どのメーカーでも取り付け位置はメンテナンスのやり難い所に何故か付いています、、、工場での生産性を重視した結果ですね、、、

雨ざらしで振動を伴う機器ですから条件は悪いわけですね、。
by 007 (2014-12-15 19:02) 

くるみ

修理する機械の 故障部位の見解や方法への導きは 素晴らしいですね。畑違いなので内容の理解は不十分なのですがf(^^;。最後のくだりがとても心に響くのです。~生き続けてる限り 完成はない~。私には良い言葉に聞こえます。
by くるみ (2014-12-18 02:54) 

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