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オープンキッチンと燃焼器具の相性について(1) [困った業者]

 記事の更新をさぼり続けていた間にもここに書き留めておきたい色々な出来事は当然あり、そのうちの一つである。

 その修理というか、依頼ごとはホシザキのサービスからあり、内容としては以下の通りだった。
ホシザキがレイアウトプランから関わった某居酒屋チェーンのうちの一店で、ガスフライヤーが不定期に途中失火し、周辺がガス臭くなる。従業員が事故を懸念しているのでこの事象の原因を調査し,解決策を提案してもらいたい。

 毎度ながら、俺のところに持ち込まれる依頼ごとというのはこういう類いのものが多い。何と言うか、その業者にとってはイレギュラーな事象であって解決能力に自信がないとかその業者の経験則にない出来事がだ。
 当然ながら、こういう状況での俺は使用者と直接コミットすべきでない。使用者のカウンターパートは必ず俺の依頼元でなければならないと俺は常々考えている。俺は黒子であり、裏方であり、表に出てはならない存在に徹する事にしているのだが、それが歯がゆい場面を生み出す事もままある。

 サービスチーフ殿と待ち合わせた件の居酒屋は繁華街の中心にある路面店で、一階がコンビニエンスストアでその店舗は二階にあった。階段室が風除室となっており、一階と二階にそれぞれ自動ドアがある。
 店舗内に入ってみて気付いたのはそこはオープンキッチンであり、店の入り口やホールから厨房までの間に間仕切り壁がないことだった。
 特に煙が発生する調理が多い店舗に於いてはオープンキッチンというのはしばしば空調上の問題を生む。厨房で発生した煙が上手く排気されずにホールに流れ出て滞留し、客から煙いという苦情が出る。ごり押し風に空調設備を強化して換気能力を上げた状態で運転すると今度は冬場などに客から店内が寒いという苦情が出る。帳尻合わせとして暖房を強化すると光熱費がかさむ、という悪循環がしばしば生まれるのがオープンキッチンだ。
 
 問題のガスフライヤーはコメットカトウの製品で、ガスコントローラーには定番というか、Robertshawの製品が使われている。型式名はGISTといい、色々な燃焼器具で使われている。

RobertshawのHP:http://www.robertshaw.com/Login.aspx
日本での輸入元は三幸株式会社であり,色々な燃焼器具メーカーに組み込み用として供給している。
GISTユニットのURL:http://www.sanko-controls.com/shouhin.htm#20

P05.014_5.jpg

燃焼器具を扱う同業諸兄でこれを見たことがないというサービスマンはいないはずだ。

 訪問時間は午後2時少し前くらいで、開店前の仕込みでキッチンは既に稼働していた。
GISTはガスコントローラーとして以下の機能を一体化させたものだ。
*圧電着火
ガスコック
*パイロットバーナーの点火保持(立ち消え時のガス遮断機能)
*温度調整(組み込み用途により設定範囲が異なる)
 点火保持はサーモカップル(熱電対)で行っており、製造元では具体的な数値を一般には公開していないがGISTの場合、俺の経験則でいえば12~18mVくらいの熱起電力が保持電圧としては適正範囲だと思う。これ以下だと遮断弁のプランジャーが誤動作を起こしやすく、これ以上だとプランジャーの保持動作は安定するがサーモカップル自体のエレメントの熱劣化が早まり耐久性が落ちる。

 現調に当たっては燃焼機器点検として以下の項目を行った。
1:ガス配管接続の漏れ箇所
2:サーモカップルの出力電圧測定
3:遮断動作の確認
4:パイロットおよびメインバーナーの燃焼状態の目視
5:燃焼排気中のCo(一酸化炭素)測定

 結果としては全て問題なく、依頼された不具合の再現もできなかった。
Co濃度は僅か10ppmで理想的な完全燃焼であり、異臭の原因は燃焼排気ではなく未燃焼の生ガスによる事を示している。また、サーモカップルの出力は28mVであり、俺の所見としては過剰に高い。

 ここで冒頭書いた依頼内容のうちの異臭について憶測してみると、根本的な原因はやはり不定期発生するバーナーの立ち消えに帰着しそうだ、と俺は考えた。
 つまり、サーモカップルによって点火保持し、遮断機能を働かせる形式のガスコントローラーは立ち消えの発生からガスの遮断動作までに不可避的にタイムラグが生じる事に関係する。
 イグニッション点火、フレーム電流による点火保持形式であれば電流の遮断とガスの遮断弁の動作は瞬時に、同時に行われるがサーモカップルは立ち消えが起こってから冷え始めて熱起電力が低下し、プランジャーの感動値(コイルが励磁して遮断弁の開閉動作に至るしきい値)以下まで達するタイムラグが必ず生まれ、この間未燃焼の生ガスはある量、必ず出続ける。
 点火保持の形式がいずれであれ、遮断作後には遮断弁以降の配管内部に溜まっていた生ガスが大なり小なり外部に流れ出るわけだがサーモカップルによる点火保持はフレームロッドに比べて流出量が多くなる傾向がある。
 勿論、それは秒単位での出来事なので事故が起きるような量では全くないのだが、ここで問題なのはサーモカップルの出力が高いほどこのタイムラグは大きくなる事で、今回のように適正範囲の倍近い出力値ともなると、フライヤーの近くにいる調理師の嗅覚がそれとわかる程度の量が出ているという事ではないのか、というのが俺の推測である。

 サーモカップルの出力電圧を適正範囲にまで落とすことで遮断弁動作時までの生ガス流出量を抑制する事は幾つかの方法で可能だがここでは詳述しない。それは枝葉の問題であって現象の根本的な解決にならないからだ。
 立ち消え消火時に多少ガス臭いのは決して好ましくはないが、少なくとも事故の可能性はないと言っていい。最も重要なのは立ち消えが起こりにくい状態を作り出す事であり、不定期発生する立ち消えがどういう条件下で起こるのかを突き止める事だ。

 ガスフライヤーそれ自体に問題点は見当たらない。それで立ち消えが不定期発生するのはいかなる条件に於いてであるか、営業前の居酒屋で俺は想像を膨らませてみた。頭の上では排気フードが勢い良く周辺の空気を吸い込んでいる。
 路面店、オープンキッチン、などなど色々考えていくうちに俺にはある仮定が閃いた。(以下続く)
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007

素人意見ですが、電気式フライヤーでは如何なんでしょうか?、。
by 007 (2014-12-01 18:51) 

HarryTuttle

007様,コメント有り難う御座います。
いえいえ、決して素人意見などではありません。実に仰る通りです。
by HarryTuttle (2014-12-04 09:44) 

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