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銅管を巡る困った施工例 [困った業者]

 某学校給食センターの保冷庫(冷蔵)が冷えなくなったのでという修理依頼がきたのは先月末頃のことだった。
 冷凍機は二階屋上にあり,冷媒管長は10メートルを超える。
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 症状としてはガス漏れであり,冷媒を補充して再運転しながら漏れ箇所を調べ始めたところ少ししてから雨が降り始めたのでその日の作業は中断せざるを得なかった。

 その時にはいずれゆっくり調べましょう,と,結構呑気に構えて退散したのだがそれから一週間ほどで件の保冷庫が再度冷えなくなったとの連絡がはいった。
 冷媒の封入量は大体4kgであり,これが一週間でなくなるというのはただ事ではない。前回は降雨のために中断せざるを得なかったが今回はきっちり決めてやろうではないかと俺は結構意気込んで出かけた。
 しかし結果は無惨なもので,漏れ箇所の特定がその日は出来ずに終わった。弁解めくが,自分で施工した現場であればもう少し勝手が違ったはずなのだが他人の施工した現場は色々とわからない箇所がある。

 既に冷媒は合計で8kgを持ち出しており、それが一週間で抜けてしまうとなると一端に請求書を書くわけにも行かない。そして、これが最も頭を痛める事なのだが、障害の原因がどこにあるの見当がつかないままである。
 俺は自分の力量に限界を感じ、外部に助力を求める事にした。
仕事仲間である冷凍機屋と二名で三度目のトライを行ったのが今月の初めである。
しかしそこでも漏れ箇所の特定は難航した。俺と相棒は大いに頭をひねった。脳天から煙が上がりそうなくらい悩んだ。

 通常、冷媒が漏れるのは幾つかのパターンがある。配管の継ぎ目から漏れるか、狭い箇所に密集した配管が機械振動でこすれて線状の穴があくかが殆どだがどちらにも該当していなさそうなのだ。
 冷媒管の漏れで厄介なのは、保温材で被覆されているので怪しいと思った箇所はその都度保温材を割いて内部を調べる事になる。調査箇所が複数にわたれば勿論作業の終了後はその全てを修復しなければならないわけでこの作業量がバカにならない。

 配管のうちの殆どは天井裏に隠蔽されており、都度都度脚立を移動し、点検口を開けて天井裏に上がり、天井を踏み抜かないように歩み板を持ち込み、腹這いになったり体を丸めたりしながら冷媒管の保温を割いて接続箇所を捜しては漏れを調べる事を繰り返す。
 給食センターはオープン以来職員が異動を繰り返す上に、途中改修工事が行われていたりもして建築図面を手がかりに配管ルートを調べる事に困難がある。仕方がないので出たとこ勝負で点検口をひとつひとつ開けては天井裏に上がって配管を調べる作業を余儀なくされるのだ。

 複数の箇所から、保温材にオイルが滲んでいる事が確認された。スローリークでない限り、オイルが漏れている箇所は冷媒が漏れている箇所である事と同義であると考えて良い。
 しかしこの現場である給食センターではこのセオリーが通用しなかった。
保温材はオイルを吸ってグジュグジュしていながら、その箇所の保温材を割いて冷媒管の状態を調べてみると漏れている形跡はない。しかも、保温材と同感の間に検知器のプローブを差し込んでみるとリークの反応は出るのだ。
 俺と相棒は全ての点検口を開けて至る所保温材を割き、溶接箇所を露出させてその漏れ状態を調べたがどこにも漏れがない。しかし確かに封入量4kgの冷媒は約一週間で抜けるのだ。どこで損傷が起きているのか?時間の経過とともに俺と相棒はどちらも苛立ち始めていた。

 回答は意外なところにあった。
 作業を始めてから4時間近くが経過し、それでも漏れ箇所は見つからず、俺と相棒はそろそろ徒労感に苛まれる気分で湯沸かし室にいた。職員に出して頂いたお茶を啜りながら一体何が起きているのかと途方に暮れてお互いの見解を確かめ合い、しかしどちらにも確証は得られず、ため息をついた。
 「俺の安物感知器ではどうも調子が悪いなあ・・・」何の気なしに俺は感知器の電源を入れたそのとき、感知器が反応し始めた。
 「このザマだ」誤反応しているのだと思い込んだ俺が舌打ちして電源を切ろうとすると、不意に相棒が制して俺の手から感知器を取り上げた。
 「ちょっと待ってよ」相棒が手に持った感知器を差し上げると反応音が強まり、感知量のインジケーターが跳ね上がった。
 俺たちはどちらからともなく湯沸かし室の天井を見上げた。その天井裏には確かに冷媒管が通っており、湯沸かし室には点検口がない。つまり、湯沸かし室の天井裏配管はまだ調査できていない唯一の箇所なのだ。
 「ここ・・・・なのか?」「あり得るな」「そうだとしたら最悪だな」そんなやり取りがあった。
 天井裏を改めるためには点検口がないので天井一面に貼ってあるジプトンという建材をはがさなければならなかった。配管のルートから考えると一カ所、90°に曲がりの形成された部分があるはずだ。そこが怪しい。
 ジプトンをはがすためには天井面に取り付けられている照明器具や火災報知器の感知器を一旦外さなければならない。電気工事士の資格が実務で有効に生かされる数少ない場面だ。というか最早それは厨房屋の日常の作業とは全然かけ離れたものだ。
 すっかり汗だくになって天井裏の冷媒管を触ってみると明らかに保温材がオイルでグチョグチョになっていた。滴り落ちた冷凍機油でジプトンの裏面にシミができていた。
 「ここだな」見当をつけた箇所の保温材を割いてみると油でベタベタになっており、露出した冷媒管からはシューシューと冷媒の漏れる音がしていた。これだけひどければ一週間かそこらでカラッケツになるのが十分納得いくくらいの漏れ方で、石鹸液をかけてみるまでもない。直近で手をかざしただけでも皮膚感覚で漏れているのがわかる、そんな勢いだった。
「よりによってこんな所でよ・・・」相棒がため息をついた。他の配管やら配線やらが密集していて大変窮屈な、溶接のしづらい場所だったからだ。

 ため息をつきたくなる理由はもう一つあった。
 通常、冷媒管の漏れは配管接続箇所にピンホールやゆるみが発生しているか、配管がこすれて線状の漏れ箇所が発生しているかのどちらかだと先に書いた。
 しかしこのケースに於いてはそのどちらにも該当していない奇妙な漏れ方だった。保温材に収まった、ということはこすれがあるわけでもない配管途中箇所がある範囲にわたって腐食し、無数のピンホールが発生しているのだ。そんな漏れ方を見るのはこの稼業を始めて以来一度もない。

 処置としては腐食箇所の配管を切り取り、手持ちの銅管で溶接補修する。文字で書いてしまえばただこれだけの事で、実際の作業もさほどややこしいものではない。
 配管補修を終えて屋上に移動し、真空引きや冷媒のチャージを行い、保冷庫の試運転を始めて漏れのチェックを行い、と、作業は収束方向に向かった。保温材の補修や天井造作の復旧を終えると作業時間は実に7時間ほどになっていた。俺としては久しぶりのロングマッチだ。
(長くなり過ぎたのでこの項続く)
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007

小生も漏電探査では、意外な見落しで時間をロスした経験は何度もあり、・思い込み作業禁止・と何度も時分に言い聞かせています(^_^;)、、、

ガス漏れの探査の困難さは経験してますが、配管が長くて、隠ぺいされた場所だと苦労しますね。
by 007 (2013-06-21 05:41) 

くるみ

この前の記事に続き、機械の修理は その物とその周辺だけじゃなく広範囲…下手したら建物全てを見なきゃならないのですね!?やはりお医者さんみたいです(^-^)。資格は必ず役立つ時が来るのですね!! 費やした時間は請求額に反映されるのでしょうか(^^ゞ かなりの時間ですよねm(__)m。
by くるみ (2013-06-21 07:10) 

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