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空調業者の範疇かも [お仕事上のぼやき]

 大雑把に考えて,冷蔵機器は周辺温度が30℃を超えると所定の性能は低下する。
何故そうなのか,という説明は俺のようなチンピラ修理稼業の者があれこれ能書きをたれるまでもないことであり,長くなるのでここでは省略するがとにかくまあ,そういうものだ。
 30℃とはまた何とも低い。それではちょっと暑くなればすぐに盛大に電気代を食うようになったり冷えなくなったりするではないかと思われる方はおられるだろうが,そうなのだ。
 冷凍サイクルを用いた冷却方式というのはそういうものであって,液冷媒温度が40℃という基準で機器の設計がなされている以上これは何をどうやっても曲がるものではない。だからちょっと暑い日が続いたり室温が上がるようなことがあれば冷蔵庫は簡単に冷えなくなったりするがこれは決して機材の不具合ではなく、製造元の製作した製品カタログにちゃんと謳っている。末尾の仕様一覧のあたりにルーペがないと読めないような大きさの字でこっそりとだが。

 困るのは購買者や使用者のみならず,冷蔵機器を販売する側のうちにさえこの大原則がわかっていない大馬鹿者が少なからずいることで,例年夏の厨房屋は凝縮不良で冷えない冷蔵機器の対応に追われるのだが、この不具合を俺の経験則に照らし合わせると大体以下のように分類される。

1:コンデンサーファンモーターの不具合,焼損などによる。これは純然たる故障。
2:使用者の横着によってコンデンサーフィルターが清掃されていない。これについては感情論のような揉め事が以前良くあり閉口したものだ。
3:室内換気が不十分な設置スペースに無理矢理設置された場合,及びレイアウト上の欠陥により放熱スペースが取れていないため発生する凝縮不良。販売した側で深刻な社内の問題を引き起こすが割を食うのはいつも末端営業所の社員であり,設計や施工には何の関係もないサービスマンである。

 ここ数日は暑い日が続き,冷蔵機器の修理依頼が多い。いつの間にか身に付いた職業上の性で,厨房屋はここで夏の到来を実感するのである。
 昨日の訪問先は某レストランで,依頼内容は事務所兼バックヤードである一室に設置された冷凍庫が冷えないというものだった。その個体は一昨年コンデンサーの洗浄を済ませているものであり,フィルターの清掃は習慣として根付いている得意先でもあった。約20年落ちの老兵であり,昨年は霜取りヒーターが断線して修繕した。その際気づいたのは冷却器を交換した形跡があり,とどのつまり何があってもおかしくないような機体ではある。
 
 訪問時,ランチタイムを過ぎた午後二時頃にあって庫内温度は-13℃を示していた。直前のドア開閉がどうであったかはさておき物足りない温度であることは間違いない。
 脚立をかけて機械部分を眺めてみる。低圧配管の保温材の裂け目から覗くとコンプレッサーの直前まできれいに霜がついているので冷媒漏れとかいった障害でないことは判明した。圧力ゲージの指示値は低圧側がやや高く,オーバーチャージの可能性を疑ったが外気温の上昇に伴っての不具合なのでここはやはり凝縮不良かと判断した。
 その判断の根拠は,体感的に室温が30℃以上あるのではないかと思えたからだ。
全てを主観に頼るのは良くない。俺は近くで事務仕事をしていたお兄ちゃんにここは暑く感じないかと訊ねるとやはり同じように感じるらしい。

 ここで一つ思案。室温は30℃以上ありそうで,現在冷凍庫は凝縮不良を起こしている。そしていうまでもないことだが冷凍機のコンデンサーというのはそれ自体が発熱物である。そしてコンデンサーの状態は洗浄を必要津するほどではないにせよ汚れている。グレーゾーンな訳だ。
 問題なのはこういう状況で,室温上昇の原因が冷凍庫それ自体にあるのか,それとも他の要因によるものなのかを切り分ける修理屋の判断能力ということになる。

 俺は自分がこの個体に関わった修理履歴を反芻してみて機体以外のところに問題があると判断した。
室内の何だか淀んだ空気が俺にそういう判断をさせた。天井を見ていると冷凍庫の直上には吸気用の換気口があり、空調工事業者の配慮が行き届いた施設であることをそれは表している。では給気はどうか?
 天井を眺めていると別のギャラリが目についた。既に冷蔵庫屋の守備範囲からは逸脱しているな,とは思ったが、だからといって俺はもう関係ありませんと切り捨てるわけにも行かない。ギャラリの開け方は見てすぐに見当がついたので開いてみた。
130611_1502~01.JPG


 専門外なので名称はわからないがフィルターがついており,それは砂埃で詰まっているのが目視で明らかだ。
130611_1503~01.JPG

 給気用のフィルターが詰まったせいで室内の換気量が低下し,冷凍庫のコンデンサーからの発熱で室温が上昇する。あとは悪循環が続いてやがて冷凍庫それ自体の室温が上昇するという連鎖で今回の不具合は生まれた。それが証拠に,ギャラリからフィルターの収まった枠を外すと冷凍庫のディジタル温度計は徐々に低い温度を示し始める。あんちゃんに言わせると室温も心持ち涼しくなってきたようだとのことだった。

 洗浄可能なフィルターだったので,洗い終えて設置場所に戻ってくると温度計表示は-18℃を示していた。設定温度までは後一息で俺の初見は間違っていなかったことになる。
 冷凍庫それ自体の不具合という予断に拘泥していたら泥沼にはまり込むはずのところだが今回そうはならずに済んだ。俺もその程度には年季が入ってきたのだよ諸兄。しかし,守備範囲以外のところに原因を求めた場合、他業者との間で色々と摩擦が生まれる危険はあるわけで,余程確信が持てるような状況でない限りあまりいい加減な憶測を述べるべきではない。

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コメント 8

007

5℃も下がるとは驚きの効果ですね!
ビルメン出来ますよ(謝)!!
これも修理代に換算されるわけですから結果オーライですね、。
by 007 (2013-06-14 14:52) 

くるみ

機械そのものだけじゃなく、空気の流れ等、他に原因を見つけるなんて流石です!! 経験の賜物ですね(^^ゞ 人間のお医者さんに置き換えると その痛みの原因は意外な処に!?を、見いだした名医者みたいです(^^)d
by くるみ (2013-06-15 07:38) 

HarryTuttle

007様,いつもコメントありがとうございます。
いえいえ,私ごときにビルメンはとても務まりません。
たまたまそこに考えが及んでうまくいっただけの話です。
どういう請求金額にしようかと思案中です。
by HarryTuttle (2013-06-17 21:56) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメントありがとうございます。
 機械の修理屋は生き物を相手にしていないので医者とは言えませんが,意外なところに原因があるケースは結構あります。
 今回はたまたま,ですね。普段は手探りの五里霧中ばっかりです。
by HarryTuttle (2013-06-17 22:22) 

ernie_jp

初めまして

私は飲食店をやっていて 
大和冷機の業務用冷凍冷蔵庫を使っています
以前から 冷蔵庫上部の温度が気になり
どうにかならないものかと 検索していて
ここにたどり着き 少し記事を読ませていただいて
勉強になりました

私の店は カウンター割烹で厨房と客席の境もないし
吸気口というか風の流れを考えた作りにもなってなく
しかし 何とかならないかと
今回 冷蔵庫上部に 蓋をして
ダクトをつけて 排気を外にやったのですが
基盤のボックスなどが 暖まって少し熱くなっていたので
これは コンプレッサーにも悪影響があるかなと思い
また はずしています

もう少し ダクトを大きくしたりで
何とかならないものかと模索中です

しかし 大和冷機の営業さんがたまに回ってきて
”フィルターの掃除してますか? 保守点検に入ると…”と
いつも言ってきますが
それよりも 配線(結線)をまとめたものを
コンデンサーのまえに どっさり置いてあるのは
如何なものかと…
いい加減な作りだなぁと 思っていたときに
HarryTuttle様の記事に出会いました

勉強させていただきます 
by ernie_jp (2013-08-20 01:48) 

HarryTuttle

ernie_jp様はじめまして。コメント有り難うございます。

 付帯設備に色々とご苦労されているように読めたので、おせっかいなようですが幾つか書かせて頂きます。

(1)冷蔵庫の上部はオープンとし,ものは乗せない,塞がないのが大原則です。また,ご存知とは思いますが冷蔵庫を設置するにあたっては天井高は最低でも2200mmくらいが必要です。
 冷凍機の放熱と修繕の際に人が入れるのとで少なくとも300mmくらいの空きスペースは欲しいのです。


(2)ダクトを施設して冷凍機周辺の気温を下げる場合は,排気よりも給気を行う方が効果がある,というのが私の経験則です。
 一般に,独立店舗の場合は専業の空調業者が施工することがありません。設備業者が住宅主体だった場合特に陥り易いミスとして,排気設備は行うが給気設備に関心が行かない傾向があります。
 空気は流体であり粘性をもっていますから排気だけでは換気がうまくいきません。

 冷凍機周辺の空気を排出するのと逆に,外気を取り込んで冷凍機周辺に吹き出す方法を試みてみてください。排気ファンが通常の有圧扇である場合には羽根の向きを逆にして取付けると給気ファンとして機能します。

 給気がうまくいっていればダクト自体が不要になる場合もあり得ますが,何分文字だけのやり取りなのでうまく伝わり切らないところはあると思いますが、ひとまず返信とさせて頂きます。
by HarryTuttle (2013-08-23 11:54) 

ernie_jp

アドバイス 
ありがとうございます

なにせ 昭和30年代に建てられた
商店街の中の木造三軒長屋の中の
ウナギの寝床のような縦長の店舗で
カウンター割烹なので 調理場の前に
お客さんですから 色々と苦労しております
そんな建家ですので 給排気は考えて作ってはないです
換気をよくすれば 空調が効かずと 悪循環もあります

>(1)冷蔵庫の上部はオープンとし…

大和冷機さんのカタログ見ていて
前吸気 前排気というオプションがあったので
現物は見たことはありませんが 想像で
上部蓋して大丈夫だろうと思っておりました
壊れる前に助かりました

給気なんですね 
もう少し工夫して なんとか
やってみます
ありがとうございます

by ernie_jp (2013-08-25 03:21) 

HarryTuttle

ernie_jp様、コメント有り難うございます。

 前吸気、前排気という仕様は大和冷機の他にホシザキにもありました。
 天井高が低く、放熱スペースが取れない時の選定として有効さを謳っていましたが故障発生時にはメンテナンススペースがなくお手上げ状態となって大変困る代物でもあります。
 修理屋の視点から評価すると近視眼的な製品開発と無責任な営業活動の産物としか言いようがありません。

 どうしても放熱に問題があって屋内の造作で解決がつかない場合、私自身の過去事例としては高圧冷媒配管を延長してコンデンサーを屋外に出し、コンプレッサー直近に冷却用のファンモーターを取り付ける(何でも可)リモートコンデンサーという形式に改造した事があります。

 勿論、メーカーの保証はおろかサポートも受けられなくなりますが、お近くに腕のある冷凍機屋さんがいれば実現可能です。
 30年以上前には冷凍機の屋外設置はごく一般に見受けられる形式でした。室温の影響を受ける事が少なく、寒冷地でなければ冬期の誤動作も少ないと思います。自己責任で何でもありの場合には最終的な解決法ですが、一例として挙げさせて頂きました。
 
by HarryTuttle (2013-08-25 13:41) 

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