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奥の奥のそのまた奥 [お仕事上のぼやき]

 故障の所見は一度で確定すべきであって追加や修正が何度も出てくるのは修理屋の眼力が足りないからだ。
勿論俺も大した腕があるわけではなく,得意先に対してはやっぱりこうだっただとかこういう作業も追加で必要だとかいったエクスキューズは年がら年中出しまくりで恥の上塗りを重ねている。
 しかしここは苦しい弁解だが,嘘をついたり糊塗したりというよりも、自分の見落としを白状する方が職業人の姿勢としてはまだマシなのではないか。

 その電気フライヤーの修理以来が来たのは今月の初め頃だった。
とあるステーキレストランで、経営は農協のひもがついている。実はこのレストランは大体25年くらい前、あんちゃんだった俺が初めて新築施工の仕事を経験した現場でもあり、なかなか思いで深い。
 そのフライヤーは、オープン以来25年目にして初めて故障した。ヒーターが働かないというのがその状況だ。

 製造元がニチワ電機である事は機体のディティールを見ていて判別できたが何せ25年落ちだ。製造銘板はとうの昔に剥がれ落ちていているし何よりも既にニチワの製品ラインナップからはカタログ落ちしているらしく手がかりがないし同等仕様の後継機というのもカタログには見当たらない。3φ200V,6kwの卓上フライヤーというのはそんなに売れそうにない製品だろうか。

 故障した実機でまず目についたのは、過昇防止のハイリミットサーモが焼損しており、ヒーターのリード線が焼けて断線している事だった。
 ニチワ電機に問い合わせても古い製品なのでどうも回答が要領を得ない。俺の以前の勤務先も電気フライヤーは製造していたのでその補修パーツの転用を思いついた。ヒーター加熱の電気フライヤーは回路の構成も単純でどこのメーカーも全く同じと言っていいほど似通っている。問題の過昇防止サーモはパーツメーカー、型式、ともに全く同じものを使っており、その交換はいとも簡単に済んだ。

 それで試運転を行うと、分電盤の開閉器を投入したと同時にヒーターの通電が始まるので俺は慌てた。件の電気フライヤーには電源スイッチというものがない。油温のサーモには強制offのノッチがあり、使用後はサーモダイアルを0にする事のが使い方なのだが、開閉器の投入と同時に無条件で加熱が始まる。サーモを操作すると電磁接触器の動作音はするので接点が溶着しているという判断がここで成り立つ。
 しかしそのとき俺は過昇温防止サーモしか補修パーツを用意しておらず,既に油温もそこそこ上がっている。排油のためのバルブはついておらずヒーターを跳ね上げて油槽ごと取出す形式 なので本体内部を分解することはその時点で危険であり,店舗は既にディナータイムの準備にかかり始めたので事情を説明して翌日出直すことにした。 

 翌日,電材屋で見てもいない材料をヤマ勘で揃え再訪問となった。
さすがに電磁接触器は25年の間にモデルチェンジされており,外形寸法が変わっていたが物理的には何とか収まりがついたのでそれはいいとして,電源ケーブルの端子台が焼けて台の部分がバラバラになっていたのには焦った。電源ケーブルも被覆は焼けただれておよそ10cmくらいは芯線がむき出しになっており,これが空中でぶらぶらしているのだから短絡が起きなかったことはラッキーと言えるだろう。
 前日の作業に比べると,多少時間を食った理由は端子台や接触器といった計装パーツよりも焼損した電源ケーブルの始末に手を取られた。
 それで一通りの補修作業を終えたつもりになって試運転を行い,サーモの動作を確認しているうちに俺はあることに気づいた。
 油槽を眺めていると三本あるヒーターのうち一本からは加熱によって起こる油の対流が目視できないのだった。
 これは負荷であるヒーターはY結線されており,そのうち一本が断線していることを表している。(まだやることがあるのか)と俺は落胆した。サーモや電磁接触器のような類いならともかく,ヒーターとなるとカスタムパーツである可能性は高い。同一品をどうやって調達するかについて俺は悩んだ。

 そもそも,この状態を頭の中でざっと計算するに発熱量は定格の1/3以程度に落ちているので(Δ結線ならば大体67%くらいで済む)フライヤーは普通に使えない。再修理の上にこんな状況を使用者に告知しなければならないので気分が沈んだし,何よりもこれまでの経験則に頼るだけでヒーターの断線にまで症状が進行していることを疑わなかった自分のアホさ加減が頭に来た。
 一瞬,頭に浮かんだのはヒーターの結線を組み替えて単相運転を,ということだったがそれでは電磁接触器の接点容量が心配だ。俺は混乱しかかったが大変ばつの悪い思いでとにかく現状は告知し、先方はひとまず今日はその状態で使うとの回答だった。

 事態は翌日,意外な結論に落ち着いた。
断線したヒーター交換の作業は見送り,フライヤーは現状で使用を継続すると得意先は判断したのだった。ヒーターの調達をどうするかで一晩悩んでいた俺はびっくりして、改めて発熱量が低下していることを伝えると故障前と仕様感は変わらないと言う。
 そこで俺はまた混乱したのだが,話を聞き進めていくとどうも断線は今回の焼損の大分以前から発生していて単相運転の状態がノーマルなものとして刷り込まれてしまっているらしい。揚げ物の調理量は大変少なく,日に1,2度程度なので能力不足を感じないまま現在に至っているらしい。現に,昨日から今日の業務については何ら支障を来していないと言う。だから将来,揚げ物の調理量が増えたときに断線したヒーターの交換を行うことにして今回の修繕はここまでで一区切りとするというのが先方の結論だ、俺は拍子抜けした。

 所有者がここまででいいと言うのだからそれ以上とやかく意見する必要もないと言えばないのだが,ここで終わらせていいものかと気が咎めるのも事実である。商売として悪くはない金額で収まりはついたものの初見の段階で不良状態の全てを見通しことをしていなかったことはこれから先も職業人としてのしこりとなって残り続けるだろう。何というか,複雑な気分で俺は請求書を書いているのである。
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コメント 1

007

現場調査後に、疑問が湧いてきて、突っ込み不足を後悔する事があります、、、だから慌てず、あえてゆっくり現調するようにしていますが、、、。

また、外装表示シールは200V仕様でも、実際中身のインバータは100Vの場合があり、組み合わせにより電源ON後に部品がオシャカの可能性があります(^_^;)、、、思い込みを捨てるように自身に言い聞かせております。
by 007 (2013-05-30 03:58) 

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