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修理屋と視力のこと [お仕事上のぼやき]

 先週,俺が会社員だった頃に設計施工したラーメン店から餃子焼き機の修理依頼が来た。
オープン以来13年が経ち,色々老朽化した機材はあるものの今のところリプレースは一件も発生していないし年がら年中何かが故障しているというわけでもない。手前味噌だが最初の機器選定なり貼付いている修理屋というのは結構運用コストに影響を与えるものだということをここで改めて強調しておきたい。

 餃子焼き機はマルゼンの製品で,俺からの見え方としてはこれが業界標準だろう。
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画像は本文とは関係ありません

 自動注水機能やタイマーの機能はないが,正直なところそんなものはあってもなくてもいい。

 修理の依頼内容はパイロットバーナーからメインバーナーへの火移りが良くなく,ガスだまりが起きるとのことだった。
 原因自体は単純で,パイロットバーナーのノズルが詰まっており,炎が小さいのでメインへの引火性が落ちている。書いてしまえばただそれだけのことだが、では実際に修繕に取りかかるとなると担当する修理屋によっては自分がもう曲がり角にさしかかっていることを自覚しなければならないこともある。

 当然だがパイロットバーナーのノズル径というのは大変小さい。俺のその数字をきちんと頭の中に入れていないが,ガス種がLPG(プロパン)の場合は0.1mm以下かもしれない。
 ラーメン店などで発生する燃焼器具のノズル詰まりについては、具体的にはその閉塞物は脂分であることが殆どである。
 多くの場合に於いてこの業種は厨房内の換気がいい加減なので稼働中はオイルミストが絶えない。加えて言うとコストの点から燃料は都市ガスよりもLPGが好まれる傾向が俺の住む土地で言うと圧倒的に多い。LPGの燃焼器具は一般に,一次空気を取り込むためのダンパーは全開であるからその状況下で燃焼器具を使用すれば必然的に混合管は一次空気とともに厨房内に浮遊している油脂分を引き込むのでこれがボトルネックであるノズルに堆積することで燃焼器具はどこかの時点でノズルを詰まらせる。

 先に書いたようにガス種がLPGの場合,ノズル径は大変小さいので閉塞物というか堆積物であるこの油脂分がメインバーナーの輻射熱で炭化してしまった場合、俺はノズルの交換と判断することしているが、幾らか粘性をもってグリース状の感触があればノズルの清掃を試みることにしている。
 ノズルの清掃には専用の掃除針が販売されているが,小さいものなのですぐに紛失するので都度都度買うのが面倒臭く,俺の場合はより線のきれっぱしから芯線を一本引っこ抜いて使うことが多い。
 
 今回の修理はノズル掃除で解決できそうな目があったのでトライしてみた。
店舗は定休日だったので厨房内は照明を落としており薄暗かったのだがさすがにその状況では直径0.1mm以下の穴に掃除針を通せなくなってきた。視力が足りず,ノズルの穴がぼやけて見えるのでNGで蛍光灯をつけると何とか判読できたので作業としては無事終了となった。
 様子を間近で見ていたオーナー殿は何か感心したように俺の作業を眺めていた。
裸眼でパイロットノズルの掃除をしていることで俺は視力を褒められたのだった。俺は近年,視力の低下が進んできており昨年などは自動車の運転免許更新の際の視力検査に弾かれるほどになりつつあるのだがそれでも実務面ではまだ何とかなってはいる。

 若い頃,例えば20年くらい前だったら照明が消えていて薄暗い中でもこの作業は出来たように覚えている。今の俺は照明なしではパイロットノズルの掃除は出来ない、その程度に俺の視力は低下しているとも言える。この先ルーペを必要とするようになれば,そこでまた一段,身体能力はダウンしたことになるのだろう。
 LPGのパイロットノズルを裸眼で掃除できるかどうか,というのは厨房機材の修理屋にとって一つ,現役度合いの指標たり得るのではないかと結構以前から俺は漠然と考えていた。

 視力の低下は仕事に与える影響が甚大だ。
燃焼器具の修理のことだけを俺は言っているわけではない。ゲージの指示値を読み取る,機材の電気ボックスに貼付けられた配線図を読む,などなど視力の低下が修理屋の業務に影響を与える範囲は多岐にわたる。
 同年代の同業者は老眼の始まった人が多く,会社勤めをしていると営業職に軸足を移すケースが多かった。早い時期から視力の低下した同僚なり先輩は技術系で言えば修繕よりも現場施工に移っていった人も多い。修理屋で現役を続ける人は胸ポケットに老眼鏡を入れている様子を何度か見かけた。
 大体共通して言えることだが,配線図を読むのに難儀するようになると修理屋はモチベーションを保つのが大変困難になる。腰が痛いとか肘が痛いとかいうのとは異なり,精神的に凹むもののようだ。健常な視力というのは修理屋の生命線だとこのごろ強く思う。

 最近の機材は家電製品のように,殊更配線図を読めなくてもパネルに表示されるエラーコードに従って不具合の特定を行うものが増えてきた。加えてサービスマンという業務はなかなか若い人材が育ってこない分野でもある。しかしエラーコード頼みの故障診断が蔓延するのは決して視力の衰えて来たベテランのサービスマンに対する配慮ではないのは間違いないところだ。
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くるみ

ラーメン屋さんで餃子を提供するお店は 餃子焼き機は標準装備なのでしょうか? 視力…私も年齢の割りに早目に老眼になりました。若い頃、目が良い人は早くなるって聞きますが、確かに「目だけは良いね」とよく言われてましたf(^^; じっと本など文字を見てるだけならいいのですが、合間に他の物に目を移さなきゃならない場合は大変です。余談ですが 暗闇で本を読むと目が悪くなると言いますが ちょっと違い、近くで見るのが悪いのだそうです。 視力低下は生きてきた証だけど もう少し頑張って欲しいですね(^_^ゞ
by くるみ (2013-05-14 07:21) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメントありがとうございます。
 ラーメン店の場合,餃子をサイドメニューと考えるかラーメンに近いくらいの主力商品として考えるかで導入の判断が分かれます。後者の場合は設備設計段階でレイアウトプランに落とし込まれます。
 火口の数がミニマムの状態でオープンし,サイドメニューとして始めた餃子が好評で売り上げのウェイトが上がってきた,といった場合は既存設備を改修しての導入になります。

 私の設計施工歴でいうと,中国料理店の場合は餃子焼き機が最初からレイアウトに加えられていることは少なかったです。
 以前の記事で書いたことがありますが,元々焼き餃子は家庭料理であり,お客様に出すものではないという考えは中華のコックさんには根強いのでそもそもメニューに載らないケースも結構ありますからラーメン店に比べると導入されるケースは少なかったです。高い客単価を想定している店舗ほどその傾向は強かったです。
 
 一般論としては,餃子の調理は汎用性の高いガステーブルで行うのが無難だと私は考えています。
by HarryTuttle (2013-05-14 19:25) 

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