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繁華街を徘徊して思い出したこと [日記、雑感]

 先週からこっち,夜は外食が多い。
俺は酒が殆ど飲めない体質だが場所は繁華街であることが多い。昨日はガキの頃からの友人と明け方近くまで騒いで過ごしたのだが,2件目に行ったスナックのある雑居ビルで思い出したことがあったので書き留めておくことにする。

 雑居ビルにもピンからキリまであって昨夜のその場所は俺の住む土地では結構家賃の高い,ということはちょっと小洒落た感じの店が多く入っている。(とは言っても田舎にしては,という程度なのだが)
 バブル時期には現在よりも賑やかで、金回りの良さそうなテナントが今よりも多かった。

 当時,俺の勤めていた職場にもその雑居ビルでも仕事は結構あったと覚えており,そのうちの一件にちょっとゴージャスな感じのラウンジ・バーがあった,というのがその始まり。
 夏のある日,俺はそのラウンジ・バーにビールサーバーを取付けることになった。瞬間冷却式の小型機だが本体の他に現場にはビールの樽一本と炭酸ガスのボンベなどを持ち込む。今でこそ5kgとか小型のボンベが普通に出回っているが当時はボンベの容量は10kgしか見かけることがなく、結構重い。

 豪勢な感じのラウンジバーは大体どこもそうなのだろうが,ホールの床には分厚い絨毯が敷き詰めてあり,歩くと足が少し沈み込むような感触がある。
 ホールの真ん中あたりに奇麗な仕上げの木製キャビネットがあり,それがビールサーバーの置き台らしいことは察しがついた。その置き台はこれまたピカピカ光る小ぶりで飴色のグランドピアノのわきにあった。
 俺はなんだかそのピアノが気になってしげしげと眺めると金色のややこしい字体で製造元の名前が記されており,それはベーゼンドルファーと読めた。

 俺は楽器の演奏が出来るわけではないが,それがただのピアノではないという程度のことは知っていた。
bosen185.jpg

画像は本文とは関係ありません


 今にして思えば20数年前というのは本当に活気のある時代だった。何せ,田舎町のラウンジバー経営者がオブジェだか実際に誰かが弾くんだか知らないがベーゼンドルファーのピアノだ。

URL:http://boesendorfer.jp/


 これはホラ話でもなんでもない。ヤマハとかKAWAIとかではないのだ。今になって調べてみるとヤマハあたりの高級品の倍くらいの値段がするそうで,個人が購入するよりもコンサートホールなどへの納入が中心らしい。なんでそんなもんが田舎町のナイトラウンジにあったのか、未だに説明がつかないがとにかくそうだったのだとしか言いようがない。

 当時,世の中全般は好景気に沸き返ってはいたが俺はといえば安月給のサラリーマンで仕事もクソ面白くなく,いつかこのクソ業界から抜け出してやろうと漠然と思いを燻らせる日々だったわけだが,何を生業として生きていくかはともかく,こういうラウンジで遊ぶような人生模様は自分には絶対実現できないのだろうなという確信はあり,とどのつまり,大してやる気も起きないままダラダラと取り付けの作業を進めていたわけだ。

 人生,至る所落とし穴だらけだ。いつ災難が降り掛かって来るかわからないのだ。それもちょっと気が回っていれば回避できるようなことが結構多い。
 先に書いたようにラウンジバーのホールは一面,もこもこした絨毯が敷き詰めてあった。炭酸ガスのボンベは細長く,座りがあまりよろしくない。それで多くの場合,転倒防止のために本体にはフックとチェーンが付属してくるわけだが俺はまだその作業に手を付けずにいた。
 俺はトンマなことに炭酸ガスのボンベを不安定な絨毯に立てたままにしながら作業していたのだった。何かの弾みに身体がちょっと触れただけでボンベは簡単にふらつき,ゆっくりと傾き,あああああーっと慌てて手を伸ばした俺を嘲笑うようにすり抜けて倒れ,霊験あらたかなるベーゼンドルファーのピアノを直撃したのだった。

 内部に張り巡らされた弦が僅かに共鳴音を立てた。それは不幸の音だ。絶望の音だ。
不謹慎な話だが,ピアノという楽器は鍵盤以外のところを叩いても音が出る楽器だということを俺はこのとき初めて知った。
本体下あたりの目立つ場所にはボンベのぶつかった打痕がありありと刻み込まれた。静まり返った店内で俺は凍り付き,頭の中で混沌が渦巻いた。出かける前に職場の所長殿から言われたことを思い出したからだ。

 そのラウンジ・バーは○○観光という地元のヤクザによって経営されており,ママさんは何かしらその組織の偉い人の愛人らしいというのがその内容だ。
 俺たちみたいな人種には一生縁のない場所だな,と,所長殿は笑っていたが無用の縁が出来てしまったのだ。胃に穴の開きそうな。
 おっかない人達が現れて弁償せいとか言って迫ってきたら俺の人生は間違いなく破滅だな,と途方に暮れながら俺はへたり込みそうになった。
(この項続く)
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