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書物には接するべし [日記、雑感]

 昨年暮れから今年にかけて,里帰りしていた兄弟の一家と顔を会わせていた。
来年受験を控えた甥の数学と物理の勉強についてちょっとだけ面倒を見た。俺の計算能力などすっかり錆び付いてしまっているが,見方とか考え方についてはまだ幾らか染み付いているものがあるようだ。甥は理系を志望してるようだが俺の手ほどきがどれだけ役に立ったのかについては大変心許ない。

 かなり以前には義理の甥の夏休みに仕事の合間を縫って微分と積分の手ほどきをしたことがある。
その後彼は東工大に現役合格できた。俺の指南ぶりも捨てたものじゃねえな、と結構悦に入っていたが家族や親戚連中に言わせればそれはあくまで彼の資質が優れていていたのであって俺の貢献など鼻糞以下ということだ。
 
 俺は低学歴で大学には行っていないので受験の数学とはどういうものなのかを知らない。出身校は工業系だったので数学と物理は散々やらされたが、在学中に知ったのは理学部数学科の数学と工学部の数学とはまるっきり違うということだった。
 前者がある種,哲学的というか論理学の一種としての記述体系を学ぶのに対して後者は徹頭徹尾現実の出来事を解析するための道具として教わる。

 働くようになって、ある程度の場数を踏んでから俺が後進に対して絶えず口やかましく言うのは経験則だけに頼るな,ということだ。こんな症状が出ているからこういう処置を施す,とかあのパーツを交換する,という思考というか場当たり的な丸暗記の習慣に若いうちから染まると必ずその後行き詰まる。
 若い人は出来るだけ抽象的なところかイメージを膨らませて現実に結びつけられるような思考を身につけて頂きたい。俺がそうだったのだから手本にせよなどとここで自慢するつもりはないが,現に俺はこうして現役を続けている。(金は儲かっていないがなw)
 広い意味で,機械いじりをしていて最終的に強いのは物理や数学をきっちり修めた人だというのが俺の見え方で恐らくこれから先も変わらない。

 見方や考え方を鍛えるための指南書として学生の頃買い込んだ本。職業人としての俺の基本的な思考は全てこれ一冊から出来上がっていると言っていい。
いかにして問題をとくか

いかにして問題をとくか

  • 作者: G. ポリア
  • 出版社/メーカー: 丸善
  • 発売日: 1975/04/01
  • メディア: 単行本

歴史的名著,古典と言っていいと思う。本書は俺が在学中、応用数学という科目の教官が副読本として学生に強く薦めていたもので元々は理学部数学科の学生や教員,研究者向けに書かれているのだが工学系や現場技術者にとっても大変意味のある内容であるばかりでなく,広範な意味で『問題』と向かい合ったときに解決のための閃きが起こり易い意識を構築するための手引書である。

問題と出くわしたら。
1.スタートとゴールを明確に把握する。
2.問題を取り巻く条件は何かを考える
3.似たようなケースに出会っていないか振り返る。
4.導き出した答えが果たして正しいか確認をする。

実のところ俺などは世間にデビューしてからほぼ30年,殆ど全てこれだけでやってきたようなものだw
今年もそうだったが,俺は数学や物理の手ほどきをした甥達にはこれまで必ずその最後に本書を一冊買い与えた。受験の役に立つかどうかは大変疑問だが。その都度買い直し,現在俺の手元にあるのは3冊目で今でも折りに触れて読み直すことがある。

 もう一つ,これも今まで甥達には必ず買い与えた本で、俺が学生の頃熱力学を掘り下げて考えるきっかけになった解説書。

新装版 マックスウェルの悪魔―確率から物理学へ (ブルーバックス)

新装版 マックスウェルの悪魔―確率から物理学へ (ブルーバックス)

  • 作者: 都筑 卓司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/09/20
  • メディア: 新書


 数式による解説は一切登場しない。
厨房屋という商売は当然,熱を扱う。調理という行為はある意味ソフトウェアなわけだがハード的な立場から調理やそれに関連する機材を解析する際に本書を読むことによって形成されるイメージは良質な地盤になると思う。
 顧みるに,若い頃に大学受験というルールに束縛されることなしに、好奇心の赴くままある程度好き勝手に独学できた経験は今になってみるとかえって有益だったのではないかという気もする。これは決して低学歴の負け惜しみではないぞw

(附記)
 甥は行列式の理解に引っかかりがあるようだったので、『それはこういうときに便利なんだぜ』と俺は連立方程式の解法で変数の置換と代入を繰り返すよりも行列式を使う方が手っ取り早く解を得られることを計算してみせることでどうにかこうにか年長者にして履修者の面目を保った。
 
(附記2)
 微分と積分については高校での教え方が良くない。最低だ。あんな教え方では学習意欲が湧くわけがない。大体教える順番がまるっきり逆だといつも俺は考えてきた。俺もそういう教わり方をしたがまず微分があり,次にその逆関数としての不定積分があり,そこから発展した手法としての定積分を教わるが本当はこれらは逆の順番で学んだ方がすっきり頭に入るし,イメージがわき易い。

 小僧を相手に臨時コーチをやるたびに思うが,やはり教師の数学と違って技術屋の数学は道具然としているというか荒っぽいことを自覚する。冷静になって考えてみるとやはり受験の役に立つ数学ではなさそうだ。
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くるみ

ご自分の片腕?となる本があるっていいですね。三代目とゆうのは、ボロボロになったからか、改訂されてるのか どちらでしょう?私も参考にする書籍がありますが、1つは改訂される度 買い替えなければなりません。食材も新顔が増えてゆくので買い足さないとなりません(^-^)b 追伸…私にもそんな頼りがいのある『先生』がいてくれたなら、数学を好きになれたかもしれません(^o^ゞ(今更の数学苦手の言い訳も入ってますが(笑))
by くるみ (2013-01-16 12:13) 

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高校生に数学を教えることができるなんて凄いじゃないですか・・・
私なぞは、数学の試験前だけど公式が全然出て来ない・・・
という夢を見て冷や汗を垂らす事がいまだにあるくらい数学で苦労しました。
勿論苦手です。
今回の書き込みは、自分でも肌で感じるほど当たっているだけに冷や汗もんでした。
本は2冊とも買いました。
返信は無用です。
by お名前(必須) (2013-01-16 23:55) 

63H

↑私の書き込みです。
by 63H (2013-01-16 23:59) 

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