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IHI食器洗浄機 JWD-6Cの余生 (3) [修理屋から見た厨房機材]

IHIは既に食器洗浄機の事業から手を引いているので今更こんな記事を書いたところで死んだ子の歳を数えるようなもので全然建設的な行いではないのだが,優れたものが正当に評価されずに消え去っていく理不尽さから来るある種の怒りみたいなものが俺にこういうことをさせるのだろう。

 JWD-6のポンプ周りの画像を再掲する。
120621_1549~01.JPG


 今回,ケーシング内部の錆落とし作業を行うにあたって,当然ながらインペラを外さなければならなかったわけだが、これは結構難儀する作業だった。
 作業自体は単純だが立て付けがごついので腕力を必要とする。馬力勝負だ。以前,JWD-6のポンプを乗せ替えた事があるという方の話を伺ったことがあるが絶対に1人ではやらない方がいいとのこと。無茶苦茶に重いので二人でないと無理とのことだった。
 インペラを取り外せばメカシールが現れる。今回,この個所については損傷がないのでそのままにしておくが,これを交換したことがあるという同業者の方にも1人しか会ったことがない。大して売れた機種ではないにしてもこの稼業を30年近く続けていてたった1人だ。
 その方のことは以前一度記事にしたことがある。

記事名:(有)協洗サービス様を勝手に宣伝する
記事URL:http://tuttle.blog.so-net.ne.jp/2010-03-23
会社URL:http://www.kyousen-s.jp/index.html

 俺自身の履歴でいうと,IHIの食器洗浄機について洗浄ポンプのメカニカルシール交換は,三相電機製の安いポンプを乗せた一般大衆向けシリーズを別にするとこれまで一度だけ、某総合病院で稼働していた2タンクのアラウンドコンベアータイプで2馬力(1.5kw)のものを手がけたことがある。この先は恐らくなさそうに予想しているが、ここで何を言いたいかというと、IHIの食器洗浄機のメカニカルシール交換という場面は修理屋人生の中で2回くらいあるかないかの出来事であり,交通事故並みの発生確率な訳だ。他の国内メーカー製でそんなことは全くないと断言してもいい。

 話をワイン工場の件に戻す。
 この施設の給湯温度は実測で約65℃であり,結構高めである。グラスの洗浄となると通常の食器のように80℃以上のすすぎ湯温度となるとウォータースポットが発生するので低めに設定するのは同業者諸兄であれば既にご存知と思う。
 理想論としてはすすぎ湯温度は70℃近辺で給湯取り込みには純水化させるためのフィルタリングを施すが、現実にこんな事をしている施設は殆ど記憶にない。今回の状況としてはあくまで休眠していた機器をなるべくお金をかけずに再度活用するということらしいので,フィルターはなし,給湯はサバ読みをきかせて給湯配管の直圧で使用ということになっている。
 設備自体の給湯能力は高いので,水質のことはさておきすすぎ温度が若干低い分は量でカバーしようとの意図ですすぎ時間設定をのばしてみることにした。JWD-6の制御ボックス内部は以下の画像の通り。
120621_1551~01.JPG

 冗談みたいに呆気ない。基盤もカスタムパーツもない。組み込まれているパーツはその辺の電材屋で在庫しているものばっかりだが、障害が発生した時の適応性の高さから考えればむしろこういう構成である方が好ましい。プラグインタイプの汎用タイマーとは今時しびれるスペックではないかw壊れたターマーを引っこ抜いて電材屋迄走り,同じものを買ってきて突っ込むだけで済む。この間,工具だとか道具は一つも使わず所要時間など合計一分以下で済んでしまうのだ。
 画像の左上についているスナップスイッチ二個は洗浄,すすぎそれぞれの強制運転用でドアスイッチやタイマーに関係なくポンプや電磁弁を働かせるためのもので、最終的な緊急措置用として組み込まれているが、何故これが設けられているかについてちょっと能書きを。
 これはIHIが造船メーカーであることに少し関係があり,同社の食器洗浄機は海上保安庁の巡視艇など艦載用として納入されることが多かった。洋上で食器洗浄機がぶっ壊れたときに幾らなんでも修理屋が現場に駆けつけることは出来ないので,補修パーツとしてタイマーなりスイッチなりが船内にないときには次の寄港先までこのスナップスイッチを使って(時間はヤマ勘で)手動運転させながらしのぐのである。
 要するにIHIの食器洗浄機というのは,機関士が本業の合間にちょっと見ても理解でき,いじくり回せるように最初から考えられており,じつはこれは多機能性を持たせてややこしく作るよりもずっと難しい。

 市場に出回る三流製品の数々は,やれインバーターモーターで可変流量の何とか,だとかフルオートマチックの自動給湯やコンピューター温度管理とかなんとかのどうでもいいオカズ満載でありながらこういう緊急時の対応措置が講じられていないものが大半である。修理屋が来ないと問題が解決しない。そのくせ、たかがスナップスイッチを二つつければ済むような緊急時の措置が講じられていない。それが市場での価格競争力を維持するためにスイッチ二つ程度の製造コストもかけたくないという意図の元にされているのだとすれば全くもって噴飯ものというしかない。

 使用者は電源スイッチと操作パネルだけをいじっていればいいのであってそれ以外のことは全て製造元が関与しないと解決できないようなつくりというのは食器洗浄機に限らず,近年あらゆる食品機材で進行中の考えであるように俺には見えているが,信頼度とか整備性というのは一向に顧みられることがなく,修理屋は単なるパーツ交換作業員化していく一方というのが製造元と使用者の全体的な趨勢なのだろう。
 製造元から見れば高学歴だったり高い現場技術を持った修理屋は不要であり,使用者から見ればとにかく安くて高機能で横着でき,都合の悪い出来事があったときには電話一本で修理屋がすっ飛んできてくれさえすればいい,そういうことなのであってこの乖離に起因するしわ寄せは全て現場のサービスマンにのしかかってくる。この業界の人材の定着率の悪さはこういう構図の元にいつまで経っても改善されない。値段が安くて横着できさえすれば機器の信頼度なんていうのはどうでもいいという集合意識は結果として正論を排除し,圧殺していくのである。(この項終わり)
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