アドリブ [同級生の再起にまつわる話]
同級生の経営する居酒屋は昨年11月のオープン以来順調に売り上げを伸ばしているようだ。
今では晩飯を喰いに店に行っても主は忙しいので営業中に雑談する暇も段々なくなってきた。いいんだか悪いんだかわからんが。
商売が結構調子いいのだからそろそろ俺の工事代もちょっとは払ってくれよ！と、唸りたいところだがこれについては俺にもあまり強く言えない背景事情がある。
その事情はさておき，一昨日，この同級生の店に行ったところが週明けのせいなのだろうがたまたま席が空いていたのでグダグダと同級生同士で益体もない雑談に興じる機会があった。
俺は毎度毎度てきとうなオーダーをし、或いは何にもオーダーなどせずにてきとうにグダを巻き，彼は毎度毎度何かを見繕てこしらえる。俺はてきとうな客だが彼は決しててきとうな職人ではない。ただし会計は毎度てきとうで俺からの既に塩漬け気味の買い掛けが後ろ暗いのか，この男はいつも俺から千円以上の金を絶対に受け取ろうとしないのである。
お恥ずかしい話だが，俺はこの男と関わり合いになるまで鯛という魚のことを余り知らずにいた。今でも大して（オヤジギャグではないよ）詳しくはないが今よりもっと鯛のことをを知らなかった。
一昨日，俺が鯛を食わせて欲しいと頼むとなんと，金目鯛を煮魚にして出してきたのでこれはさすがに今日の会計は千円では済まないな，と覚悟したが奴さんは相変わらず頑として千円を崩そうとしない。
閉店してから暖簾を下げ，二人でグダグダと雑談しているうちに何故だか音楽の話題になった。
移転する前の店，接待の宴会中心の高い客単価で回していた頃，今ほど気軽には行けない業態（繰り返すが，オヤジギャグではない）だった頃，彼の料理はなかなかスリリングだった。
何しろ同じ献立が繰り返されることがない。毎度どこかが違っていて、それでいて正真正銘の和食である。創作料理みたいなデタラメなものでは全然ないのである。
名前のついていない料理がある。いついつのあれが旨かったからもう一回と言っても主はさっぱり覚えていない。その場の思いつきで作ったものだから思い出せねえんだ，と、その男はニヤニヤしながら言ってのけた。
「ま，料理なんていうのは一回きりのものでよ」が彼の口癖である。動物であれ植物であれ，生き物を扱うのだから毎度どこかが変わるもんだ，とのことだ。
それは音楽で言うとジャズみたいだな，と俺は素人なりに反応した。
簡単なテーマと，テンポとコードが設定されているだけであとは出たとこ勝負。何から何までスコアに著されてはいない。抽き出しの中にあるストックフレーズを臨機応変に持ち出してきてソロを組み立てていく過程とどこか共通するような気はする。
「そうそう，そうよ！」と同級生は言葉を強めた。「アドリブよ，そこが面白いんだ。丸暗記の繰り返しなんて退屈でよ，吉牛，マック，ファミレス，あと，チェーン店の居酒屋とかな，ケッ！」
こういう仕事の流儀は俺にも心得があるな。同級生だから肩入れするわけではないが，俺は自分が職人なのでこういう奴が結構好きだ。
アドリブと言えば音楽で言うなら何と言ったって俺の場合はジミヘンだ。
何万回聴いても飽きないw
ところで，この同級生の店の近くにはなんと，外壁のタイルでジミヘンのポートレイトが描かれている住宅がある。随分思い切ったことをやらかすなあ！と、俺は腹の底から感服するのだが，きっといい人が住んでるのじゃなかろうか。仲良くなりたいなあ。
無軌道と言うか我ながら脈絡のないグダグダなテキスト。俺にはアドリブの才覚はきっとあんまりない。
今では晩飯を喰いに店に行っても主は忙しいので営業中に雑談する暇も段々なくなってきた。いいんだか悪いんだかわからんが。
商売が結構調子いいのだからそろそろ俺の工事代もちょっとは払ってくれよ！と、唸りたいところだがこれについては俺にもあまり強く言えない背景事情がある。
その事情はさておき，一昨日，この同級生の店に行ったところが週明けのせいなのだろうがたまたま席が空いていたのでグダグダと同級生同士で益体もない雑談に興じる機会があった。
俺は毎度毎度てきとうなオーダーをし、或いは何にもオーダーなどせずにてきとうにグダを巻き，彼は毎度毎度何かを見繕てこしらえる。俺はてきとうな客だが彼は決しててきとうな職人ではない。ただし会計は毎度てきとうで俺からの既に塩漬け気味の買い掛けが後ろ暗いのか，この男はいつも俺から千円以上の金を絶対に受け取ろうとしないのである。
お恥ずかしい話だが，俺はこの男と関わり合いになるまで鯛という魚のことを余り知らずにいた。今でも大して（オヤジギャグではないよ）詳しくはないが今よりもっと鯛のことをを知らなかった。
一昨日，俺が鯛を食わせて欲しいと頼むとなんと，金目鯛を煮魚にして出してきたのでこれはさすがに今日の会計は千円では済まないな，と覚悟したが奴さんは相変わらず頑として千円を崩そうとしない。
閉店してから暖簾を下げ，二人でグダグダと雑談しているうちに何故だか音楽の話題になった。
移転する前の店，接待の宴会中心の高い客単価で回していた頃，今ほど気軽には行けない業態（繰り返すが，オヤジギャグではない）だった頃，彼の料理はなかなかスリリングだった。
何しろ同じ献立が繰り返されることがない。毎度どこかが違っていて、それでいて正真正銘の和食である。創作料理みたいなデタラメなものでは全然ないのである。
名前のついていない料理がある。いついつのあれが旨かったからもう一回と言っても主はさっぱり覚えていない。その場の思いつきで作ったものだから思い出せねえんだ，と、その男はニヤニヤしながら言ってのけた。
「ま，料理なんていうのは一回きりのものでよ」が彼の口癖である。動物であれ植物であれ，生き物を扱うのだから毎度どこかが変わるもんだ，とのことだ。
それは音楽で言うとジャズみたいだな，と俺は素人なりに反応した。
簡単なテーマと，テンポとコードが設定されているだけであとは出たとこ勝負。何から何までスコアに著されてはいない。抽き出しの中にあるストックフレーズを臨機応変に持ち出してきてソロを組み立てていく過程とどこか共通するような気はする。
「そうそう，そうよ！」と同級生は言葉を強めた。「アドリブよ，そこが面白いんだ。丸暗記の繰り返しなんて退屈でよ，吉牛，マック，ファミレス，あと，チェーン店の居酒屋とかな，ケッ！」
こういう仕事の流儀は俺にも心得があるな。同級生だから肩入れするわけではないが，俺は自分が職人なのでこういう奴が結構好きだ。
アドリブと言えば音楽で言うなら何と言ったって俺の場合はジミヘンだ。
何万回聴いても飽きないw
ところで，この同級生の店の近くにはなんと，外壁のタイルでジミヘンのポートレイトが描かれている住宅がある。随分思い切ったことをやらかすなあ！と、俺は腹の底から感服するのだが，きっといい人が住んでるのじゃなかろうか。仲良くなりたいなあ。
無軌道と言うか我ながら脈絡のないグダグダなテキスト。俺にはアドリブの才覚はきっとあんまりない。
やはり職人さんは格好良いですね！一期一会…お料理も音楽も、おそらくHarryTuttleさんのお仕事も。生き物だからそのつど変わるというのは解ります。例えばびっくりしたのがトマトホール缶。その時期に採れたトマトにより味は変わるそうです!?ならばきっと秋刀魚や鯖缶なんかもそうなのでしょうね(^^)d アドリブの才覚、あると思います!!色んなテーマで毎回楽しく拝見しています(^o^ゞ 追伸…ジミヘン 渋くて格好良いですね♪原点とゆう感じがします。
by くるみ (2012-06-02 01:34)
くるみ様，コメントいつも有り難うございます。
私の場合でいうと相手が無機物であるにも拘らず状況は都度異なっております。
まあ、丸暗記した単純作業をのべつ繰り返すだけで自分が熟達の域に達したと勘違いして自己満足に浸る大馬鹿者がわんさといるのはどの業界も一緒のようですね。世の中段々そちらの方にシフトしつつあるこの20年くらいでしょうか。
by HarryTuttle (2012-06-05 06:54)