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廃却品の行方 [困った業者]

 同業者,とも思いたくない業者から依頼が一件。

スチームコンベクションオーブンの中古品があり,運転時に異常音が出るのと操作方法や設定がわからないので試運転説明を兼ねて時間を取ってくれとのことだった。 現場は市街地にある某ファミレス。

 メーカーはラショナル製,モデル名はCE-6といい、庫内湿度コントロール機能を備えた最初の機種である。生産終了は確か12年くらい前だったと思う。
 当時は現在と違って,ラショナルのオーブンには機能ごとに三つのグレードがあり,CE-6は最上位機種だったが非常に高価で,会社員だった頃の俺の実績としてはなかなか売れない機種だった。良く売れたのは真ん中のグレードのCMというタイプだったか。

 機体の内部を見ているとあちこち水系統の配管に不具合があったりと経時劣化の形跡はあったのでちょこまかと手直しに勤しむ。異常音の原因はコントロールボックス冷却用のファンモーターの軸受け劣化であり,機能に直接甚大な悪影響をもたらすものではないので補修パーツが届くまでの間は一旦切り離して自然冷却状態での稼働となる。
 
 そんな風にしてあれこれ見ているうちに俺はなんだか訝しい気がし始めた。
その個体には幾つか修理の形跡がある。10年以上も前の機種なのだからそりゃ運用期間中に故障は何度か起きるだろう。問題なのはその修理跡に心当たりがあるのだ。
 内部配線の末端処理や結束処理,配管接続に使っているシール材,などなどなんだか俺のやり方に似ているなあと思えたのだ。そして記憶を辿るうちに12年前のことが思い出された。この個体は俺が会社員だった頃の12年前,地方の某町立病院が移転新築するときにレイアウトプランの中に落とし込まれて納入されたものだ。12年前に俺がある町立病院に納入した個体だったのだ。
 補修跡の箇所と俺の頭の中にある修理の履歴は確実に一致した。間違いない。

 しかし何故だ?何故この個体はここにあるのだ?
スチームコンベクションは実売価格から言って間違いなく固定資産として台帳に記録される物品だ。減価償却期間はとうに過ぎているとは言え,廃却処分されない限りは簿価ゼロの固定資産として台帳にとどまり続けるのだし,役所の固定資産ともなれば今日日必ずと言っていいほど廃却に伴ってマニフェスト伝票の提出が求められる。つまりこの個体は本来,というか法的に言えば産業廃棄物として始末されていなければならないはずの物体なのだ。何故それがこのファミレスに中古オーブンとして納められているのか?

 ここで俺はあることに思いあたった。
俺が会社を辞めて商売を開業指定から幾らかの間,その町立病院には出入りがあったがその後は幾つかの厨房メーカーがつまみ食い的に入り乱れるようにして取引を始めたらしい。取引業者としての俺はフェードアウトしていったわけだがその後の経緯は俺の元の勤務先の所長から断片的に聞かされることがあった。
 俺のサポートから離れて数年,このスチコンは複数の厨房屋が自分にわかりそうなところだけつまみ食いみたいにして修理対応していたらしいのだが10年稼働したのをきっかけに役場に対してリプレースの予算要求が出たらしい。
 それで市内の厨房屋数社から見積書の提出が行われ、結果某社が受注することとなった。残念ながら俺の元の勤務先は役場からのお声掛かりはあったものの失注した。後任の所長が作って頂いた実績を崩してしまって申し訳ないと凹んでいたのを俺は覚えている。

 ここから先は俺の憶測まじりの成り行きだ。
 俺に依頼して来た某同業者はこの某町立病院にてスチームコンベクションの受注が取れた某厨房屋の協力会社でもあるのだ。
 恐らく彼は,このスチームコンベクションオーブンをリプレースする搬入工事に手伝いとして立ち会って廃却品を引き上げて来た。
 理由はさておき,その役場は納入業者である某厨房屋にマニフェスト伝票の提出を求めていない。そして某同業者はそのことを知ってか知らずか、とにかくこの産廃物を売っぱらって金に換えることを思い立ったのだろう。とどのつまりこれは一種,町の固定資産の横流しではないのか。
 原価ゼロである産廃物を横流しすることで彼が一体どれだけの金を手にしたのかはさておき,納入して電気や配管の接続工事を済ませてみたものの、いざ動かしてみて不具合が出た。知識のない彼はそれで慌てて俺のところに電話をかけて寄越して来て尻拭いを図っている。そういうことではないのか。俺はこの憶測にかなりの確信があるのだ。

 当日,現場ではその同業者が居合わせたので俺はそれとなく、この機体には見覚えがあり,12年前に某病院に納めたものに思える,と伝えると彼の顔色は一変した。
 その後のやり取りについてはここでは書かない。

 それにしてもいい度胸だ。マニフェスト制度の違反に対しては排出業者に対して罰則規定があったはずなのだが覚悟の上でこういうことが行われているのだろうか。

 このテキストはもしかしたら何らかの波風を立てることになってしまうのだろうか,と思いながら俺は今文章を続けているのだ。
 某町立病院の給食室は色々な意味で思い出深い現場だ。レイアウトプランも機種選定も現場施工もその後の修繕も一貫して俺が携わって来た。
 非常に予算の厳しい現場だったが当時,何としてもこの際スチームコンベクションオーブンは導入したいという準備室の意向をくむために俺は工場と掛け合い,たまたまモデルチェンジのためにカタログ落ちしてしまった旧機種であるCE-6の工場在庫品を物凄く安い営業所仕切りで出してもらうことで予算内に収めた経緯がある。
 だからこのテキストにはどうしても心情的なものが入り込んでくるし,それは俺の職業意識の未熟さや青臭さなのだと一笑に付される性質のものなのかも知れないがやはり書かずにはいられない。

 何とも言えず入り組んだ気分だ。
取引先として段々疎遠になっていき,今は用なし業者となってしまった腹いせでこういうことを書いているわけではない。
 既に書いたように,ちょっとした経時劣化の処置をとればまだまだ使える機体なのだ。補修費用など一回か二回の飲み代程度でケリがつく。
 そんな程度の状態でしかないのに10年稼働したというだけの理由でリプレースを煽り立てる厨房屋の姿勢。また,製造元でもない上にロクに技術的なバックボーンがあるわけでもない三文業者の口車に簡単に乗せられて金を出す役場の姿勢,これに加えて固定資産の廃却にあたってマニフェスト伝票の提出も求めない資産管理の杜撰さ,ある意味これは税金の無駄遣いであり,町民に対する背任行為ではないのか。
 最後に,産廃物でしかない物体を中古品と称してあぶく銭をせしめる中古厨房機材業者の薄汚いハイエナ根性。しかも彼は自分でそのオーブンを修理するだけの知識も腕もないのだ。
 おまけだ。
 その同業者が余程の信頼を獲得しているのだろうから他人の俺が脇からとやかく言うべき筋合いのものではないがしかし,このスチコンが現在納まっているファミレスの経営元は,そういう出自の機体であるということを知ったらどう思うのだろうか。
 恐らく,俺には直接関係のないことなんだ,不法投棄されるよりはマシじゃねえか,とか言った程度のように思える。来歴なんかどうだっていいからとにかく安けりゃいいんだというバイヤーが業務用厨房機材の世界には物凄く多い。いつもあれこれ考えるのだがこの業界は循環論のようにして,それに関わる全ての段階の人たちがとにかく浅ましい。そういう輩が大変多い。

 ゴマメの歯ぎしりみたいな文句を垂れ流していてもこの業界の色合いが変わることはない。腐った世界だが俺はここで食い扶持を稼いでいかなければならない。
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くるみ

修理のやり方にも個性があるのですね!意外な所でわが子にあったような。それにしても、すごい話です。どんな世界にも、判らなければいいと言うような悪行が蔓延っているのですね…。負けないで下さい!!!色んな意味で。
by くるみ (2012-03-19 11:04) 

HarryTuttle

くるみ様 コメント有り難うございます。
返答が遅れたことをお許しください。

 本記事は掲載後今日で約半月が経過しました。管理者として閲覧数を調べてみると本日現在で65です。
 このブログは大変ニッチな存在で一般の方々の興味を引くような内容は全くありませんから元々閲覧数は多くありませんが、それにしても半月で65です。
 私の声は小さく,この犯罪まがいの行為は人々の関心を呼びません。
by HarryTuttle (2012-03-28 09:17) 

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