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4トン車突撃 [日記、雑感]

 しばらくぶりに更新。
更新をさぼる言い訳みたいなことを繰り返すのは飽きた。俺は元々ずぼらなのだ。

 実は数日,俺は病の床に臥せっていた。
どうも俺は元々,扁桃腺があまり丈夫でないらしい。滅多にないがでっかい声を張り上げた後にはしばしば喉の奥が腫れたようになって頭部が熱っぽくなることはあった。
 周囲の人たちは俺がこう言ってもなかなか信用はしないで,それはタバコの吸い過ぎだからだとか,中には生まれつき頭が悪いので知恵熱でも出ているんじゃないかだとか失敬なことを抜かす奴もいる。

 何せ先週の中頃,夜間修理のあった翌日,一日中俺は喉が痛くて熱っぽかったのだ。
最初俺は,魚の骨かなにかが喉に引っかかっているせいではないのかと呑気に構えていた。ところがどうも,そういう感じでもなさそうなのだった。
 喉の奥の違和感がどうにも気になって喉ちんこに指を突っ込んでゲロゲロ吐いたりしても見たが一向に治まらない。
 
 翌日,気になって耳鼻科の病院にかかってみる頃には腫れが更にひどくなり、ろくすっぽ声も出せないような有様になっていた。おまけに体温を測ってみると38℃もあるしツバを飲み込んだだけでも頭のてっぺんから煙が上がりそうに痛い。
 医者は俺の口の中を覗き込んで「炎症ですな,こりゃ」と見立てを述べた。
魚の骨が引っかかっていたとすればカテーテルを突っ込まれてゲロゲロ状態の治療と相成るはずなのだろうがそうではないらしい。俺の下あごあたりを触診した医者は「扁桃腺っていうのは喉ちんこの隣だけじゃありませんでね」と続けた。「下の方も炎症を起こしていますね。こういう人っていうのは結構習慣性があるケースが多いんですよ。今まで結構些細なことで喉が痛くなることはありませんでしたか?」いわれてみれば確かに心当たりはあるのは冒頭書いた通りだ。

 診察は続き,風邪でないらしいことは分かった。風邪といえば半年前にインフルエンザでダウンしたことはあるが年に何度もそうそう風邪で寝込んでいたのではかなわん。
 炎症の具合は半端なく,腫れた扁桃腺は殆ど俺の食道を塞いでいるに近いほどらしかった。道理でツバを飲み込んだだけでもひどく痛いはずだと俺は得心がいった。
 こんなことではご飯を食べることもおぼつかないでしょう,ということで俺は処置室に転がり点滴治療を受けてから放免となった。ご自分の体質を考えて煙草はすぐにでもやめてください,と医者は俺を睨みつけたが俺は元来,断固たる信念の元に煙草を吸い続けており、できない約束は最初っからしない信条なので無言でこれに応えた。

 帰宅した俺はまだ夕方前だというのに寝床に潜り込んで悶々としていた。月初めの大事な日にこんな事をしていていいのだろうか,しかしこうして明るいうちから寝床に潜り込んでウダウダしているのは実は結構性に合っているのかもしれないなあ,などと考えているうちにぼんやりした睡眠が訪れかけた。

 ウトウトしかけた途端,表で女のでっかい悲鳴が上がったと同時にギャギャギャーッとかグシャグシャドッカーン!!と物凄い音がして俺の住処にドッカーン!とぶつかる音がした。
 炎症がひどくなって喉どころか頭や耳まで痛い俺は『人が寝込んでいるときに何だよ!』と頭に来て表に出てぶったまげた。

 家の前は廃墟みたいになっていたのだ。
前半分が完全にぶっ潰れてラジェーターから湯気を上げている1ボックスの乗用車が一台,街路灯に突撃して運転席の凹んだ4トン車が一台,もう一つおまけに俺の家の壁に突撃してきたらしい黒い軽4はブッチャーみたいに額から血を流したネーチャンが膨らんだエアーバッグに寄っかかるようにして車内で脱力状態にある。道路は一面4トン車の積み荷がぶちまけられているうえに1ボックス車から漏れたオイルだのバッテリー液だのの匂いが立ちこめてひどいもんだ。合計3台の衝突事故で,4トン車のドライバーは憮然とした面付きでいる。
 近所からは野次馬風に人が集まってきて騒然としていた。軽4はクラクションが鳴りっぱなしで喧しい事この上ない。

 俺の現在のねぐらは築40年以上にもなるおんぼろ家屋で断熱も防音も施されていない倉庫みたいなもんだが、軽4はエンジンルームが完全にひしゃげているのに家の外壁はモルタルに少しひびが入った程度だった。古い普請の寒い家だが骨格だけはがっちりしているという事なのか,それとも軽4という自動車が大変ヤワに作られているのか。
 問題なのは4トン車が突撃してなぎ倒した街路灯が俺のねぐらに倒れかかってきて2階の窓のひさしをぶっ壊していることだ。おまけに4トン車は狙い済ましたように電気の引き込みあたりに突っ込んできていて積算電力計は配線がちぎれてぶら下がっている。、つまり,この時点で俺の住む家は停電の状態にある。

 警察だの消防だの何だのが後から後から湧いてきて家の前の道路は通行止めになった。迷惑な話だ。軽4の運転手である流血したネーチャンは近所の住人らしく,瓜二つの顔つきをした年かさで頭の赤いやけにさばけた身なりのオババが何か甲高い声で喚き散らしている。最初それは兄弟かと思ったが母親らしい。軽4の中を覗き込むとわけの分からんぬいぐるみだのモールだのが溢れ返っていて普段の頭の中のお花畑具合が見て取れた。この母さんにしてこの娘あり,って事なのだろうか。

 当事者の皆さんには御愁傷様と言う他ないが,その日の俺はとてもじゃないが他人様の不幸を手助けできる状態などではなかったのだ。
 電気の絶たれた薄暗い家で寝床に潜り込み,モゾモゾと体温を測るとやはり38℃くらいあった。こんな風にして何日かを過ごしていると請求書を書き忘れて来月は貧乏人生を送りそうだな,と,暗い空想に耽っていると玄関先でどっかの親父の野太い声がした。
 寝床を這い出して玄関に行くと警察官がいた。事情聴取ということらしい。
いつもそうだが俺はこの,警察の事情聴取とか職務質問とかいうのが大嫌いだ。いつも出し抜けに人様の氏名住所生年月日と身分を証明するものの提示を求めてくるあの高圧的な振る舞いが俺は大嫌いだ。
「ちょっと待てよ。人にものを尋ねるときにはまず自分から名乗りやがれ。警察手帳の1ページ目を相手に見せて『私は○○警察署の何の誰兵衛でございます』と最初に名乗るようにと服務規程にあるじゃねえか」といつも俺は釘を刺す事にしている。
 この日も同じように俺は臨み、これまで接した多くの警察官がそうであるようにこの日のオヤジもまた腹立たしそうに俺を睨みつけてきた。警察とはいったって所詮公務員のうちの一種に過ぎないのだし、おれは別段,反社会的行為に手を染めている犯罪者でもないのだから後ろ暗いところがあるわけでもない。対人関係のエチケットを弁えない奴は警察だろうが何だろうが断固叩く。
 バカ警官は俺の事が余程腹に据えかねたのだろう,慇懃な口調でネチネチと俺の職業の事だとか,俺とこの家屋の持ち主との関係だとかいった軒先での交通事故とは直接なんの関係もない,どうでもいいような事まで訊ねてくる。平常時ならまだ律儀に応えていたはずだがその日の俺は病人なのだ。かすれる声で懸命に答えているうちに俺はこの配慮のない警察官が段々不愉快になってきた。
 「いい加減にしてくれ!俺は扁桃腺の炎症で熱が出て寝込んでいる病人なんだぞ!この裏の新築された家がこの家の持ち主で俺の親だ。話はそっちで聞いてくれ!」と怒鳴り散らした。

 これには少し訂正を加える必要がある。上で喚いた内容のうち後半部分は空気振動として警察官に認識されていない。何故かというと途中で扁桃腺の炎症が急に悪化して俺は声が出なくなったからだ。ツバを飲み込んだだけで首がちぎれそうに痛い。俺は思わず喉元を押さえて屈み込んだ。「どうしました!大丈夫ですか!」警官は焦って俺の肩を掴んだ。うるせえ,と俺は喚こうとしたが無声音にしかならなかった。
 俺は警察官を玄関から押し出して庭先まで連れ出して家の裏手を指差し,話はあそこで聞けと促した。扁桃腺の炎症のせいでたかだかこんなやり取りをしているだけでも汗だくになる。それでやれやれといった気分で家に戻ろうとすると玄関先には電力会社の関係会社やら消防やら何やら数人が待ち構えていた。ロクに声もでないのにこいつら相手にまた同じ話をしなければならんのかと俺は気が重くなった。
 たむろしている親父達のうちの一人が俺に声をかけようとするのを手で制し,一旦家に引っ込んだ。たまたま目についたダンボールに俺はマジックで殴り書きをした。それは大体こんな内容だ。

 私は喉を痛めていて今は声が出ません。交通事故に関係した話であればこの家の裏手、私の実家に親がいますのでそちらでお願いします。
 
 そしてもう一枚。
電気屋さんへ。配電の復旧時期を教えてください。

 これ2枚を持って俺は玄関先に出て行って掲げた。親父達は俺のヘタクソ極まりない殴り書きを懸命に読解し、一人を残して雁首揃えて裏手の実家へと向かった。その一人とは電気屋である。彼はやや緊張気味の短い沈黙の後,固まり気味に胸ポケットから手帳を取出して何か書き付けてから俺に見せた。
内容はこうだ。
電気は本日中に仮復旧ができます。


 俺に負けず劣らずの,ミミズののたくったようなヘタクソな字でそう書いてあった。
俺は彼の手帳を引き取りこう書いて返した。

 声は出ませんが耳は聞こえます。ご苦労様でした。よろしく御願いします。

そのようにしてなんだかわけの分からない一円の稼ぎにもならない割に慌ただしい一日が終わろうとしていた。段々暗がりが深まる中で明かりもつかず,やる事もないので表はまだ騒々しかったが俺はうがいをしてからとっとと寝た。

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  • 出版社/メーカー: 明治製薬
  • メディア: ヘルスケア&ケア用品



(追記)うがい薬の中では未だにイソジンが一番効き目がありそうに思うのは俺だけだろうか。ガキの頃から風邪をひいて熱を出し,病院にかかる度に扁桃腺に塗られていたのがこれだったなあ。

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くるみ

お久し振りの更新で、何だか道端で昔の友人に会えた気分です(おこがましいですが)。扁桃腺…私の知人も苦労してて手術で取るとか取らないとか言ってましたが、扁桃腺が頑張って体を守るとも聞きます。煙草も私の知人で喘息の薬飲みながら吸ってる人もいますよ(^-^)b お家の前の事故は壮絶ですね!?大変でしたが いつか天国に召される時に他人より走馬灯が一回り多く回るからラッキーと思えば(^_^ゞ とは言え今は大変ですね。早く回復なさるようm(__)m。
by くるみ (2011-09-08 09:02) 

HarryTuttle

くるみ様,いつもコメント有り難うございます。
交通事故も扁桃腺も困った出来事ではあるのですが,毎度不思議なのは何故こういう事は重なって発生し,私の困り具合には有り難くない相乗効果が出るのか,というところなのです。
by HarryTuttle (2011-09-21 14:15) 

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