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能書きの多いラーメン屋にはロクな奴がいない その2 [困った客]

 景気が悪い。
ガソリンをはじめとして身辺の何もかもが値上げで生活は大変だ。食材も例外ではない。ガソリンの節約は、私用でクルマを運転する状況については外出を控えたり自転車や公共交通機関を利用すれば何とか埋め合わせはつくのだろうが人間様の燃料である食事についてはそうもいかない。景気が良かろうが悪かろうが人は必ず一日三度は腹が減って飯を食うように出来ている。

 ある日近所のスーパーで、一袋5個入りのインスタントラーメンを198円で売り出していた。たちまち売り切れたがこれに群がる面々はそれこそウンコにたかるクソバエのごとくそれこそ死にものぐるいで恥も外聞もなくラーメンの袋をわしづかみにしては
買い物かごに放り込んでいた。欲目を出して何袋もかごに放り込み、会計のレジでパートのレジ打ちオバサンに「あのう、お一人様お一つになっているんですけど」とつっこみを入れられてばつの悪そうな憮然としたような顔つきをしていた客を何人か見かけた。
浅ましい姿には違いないがある種切実さも感じられる光景だ。

 ところでラーメンと言えばラーメン屋の凋落が目立つことは以前にも書いた。大体ラーメン、それも専門店のラーメンなどというのは脱サラだとか何だとか言った経歴の人物が見よう見まねの徒手空拳でひねり出したものが大半であって言ってみれば思いつきの産物であることが大変多い。その程度のものがテレビや雑誌で喧伝されるのはやはり不景気だからだろう。元々料理としては実に底の浅い代物でしかないラーメンをまるで一種芸術作品のように持ち上げまくったメディアやそれにつられたバカな一般大衆のラーメン騒ぎもそろそろ落ち着いてきたようにも見える。
 ついでに言うと俺個人の嗜好で言えばラーメンはやはり系統を踏んだ中華のコックさんが作る物が好きだ。専門店のラーメンにありがちなギトギトと脂ぎったあれを食うと半日ほどおなかにもたれて胸焼けがする。歳を取ったせいもあるのだろうが毎日食べてもいいとはとても言えないし、そういうものが外食のメニューとして長い命脈を保てるとも思えない。

 というわけで曲がり角を迎えたラーメン専門店だが諸物価値上がりの煽りを受けたせいもあって経営は厳しさを増しているところも少なくない。中国製毒入り餃子の問題とかチベットのこととかが追い打ちをかけてとかなんとか、日本国のメディアは足並みを揃えて中国のネガティブキャンペーンをがなり立てることに余念がない昨今なので中国を連想させるものは全て悪いものだという認識が日本国のバカな一般大衆には刷り込まれつつあるようだ。
 ラーメンなどという食い物は日本在住の中国人が発案した所謂折衷料理、創作料理であって厳密に言えば中国料理ではない。ではないが一般大衆にとってはそんな来歴はどうでもいいことであって餃子は食わないがラーメンは以前ほどではないにせよそこそこ食いに行く。行動様式として矛盾が見えるし愚かだとも思うが大衆というのはそういうものなのだろう。

 餃子の一件が余程気になるのか、俺の知る某ラーメン店は売り上げが低下したのであれこれと対策を講じている。
ある日俺は、大変失礼ながら旨いものを作っているから商売が繁盛するとは限らないと具申したことがあるが馬耳東風と聞き流された。店主は大変能書きの多い男で(その割に彼の作るラーメンを俺はさほど旨いとは思わないのだが)典型的な脱サラオーナーである。俺の見るところでは調理のプロでもないし経営のプロでもない。
 はっきり言っておくが旨いものを作り、旨いが故に商売繁盛するというのは余程ついている店主だ。かなりの幸運と言っていい。旨いものを作ってさえいれば商売は成立するはずだという考えは幼稚なアマチュアイズムだとも言える。

 そもそも、ラーメンというメニューの市場性自体が収縮しつつあるという現状を某店主は何としても受け入れたくないらしかった。叩き上げの料理人ではない彼にとってラーメン以外のメニューに手を出すことは飲食店経営者としてあり得ない選択肢なのだ。今更リーマンに戻れるわけはなく、だからといってラーメンを作る以外に調理師としての素地がない彼にとっては何がなんでもラーメンで食っていくしかなさそうなのだ。切実だよな。

 ここで格言を一つ思い出した。「賢い者は学びたがり、愚かな者は教えたがる」というものだ。
某店主は口角泡を飛ばしてまくし立てた。これまでいかに苦心惨憺して徒手空拳の手探りで究極のラーメンを追求してきたか、雑誌に取り上げられ、客に褒めそやされてきたか、あんな客も来た、こんな人も来てくれた、みんな俺のラーメンをほめてくれた・・・・正直、この手の愚にもつかない身の上話というか自慢話には辟易するのだが無下に打ち切れないのが俺の甘いところだ。

 身の上話のあまりの退屈さに視線をカウンターの方にそらすとメニューが目に入った。もったいぶった能書きが書いてある。それは概略こんな内容だった。
 『当店のスープは、最初は味が薄く感じられるかもしれませんが温度が下がっていくうちにちょうど良く感じられるように調合されています。そもそも人間の味覚というものは・・・・』以下だらだらと説明が続く。能書きの末尾には『作り手』とあった。
『作り手・・・・・』俺は心中絶句した。『作り手』ときたもんだ。店主でもなければ調理師でもない。『作り手』ですぜ、嗤っちゃうよ本当に。

 俺は瞬間、この店主はダメだと思った。こいつは絶対に商売を長続きさせられない。絶対に失敗する。以前、似たような能書きを店にでかでかと貼りだしていたラーメン屋は何軒か見かけたことがあるが例外なくどこも短命だった。この男も間違いなく同じ轍を踏むだろうと俺はかなりの確率で確信した。(以下続く)

 
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